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とっさに動いた

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

彼女と出会ったあの日、風で揺れる艶やかな黒髪をかきあげる仕草。

またこの夢だ。《彼女》に恋をしてしまった日の夢。

どうもまだ僕は彼女を忘れられないらしい。

中学校を卒業して早1年半、別々の高校に進学し、忘れかけていた恋心。

今日、この夢を見てしまうまでは。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


朝5時半にセットした目覚ましの音に目が覚める。

しかしさっきの夢のせいで布団から出ることができない。

まさか1年半近く経っているのにこの恋を忘れることができないなんて誰が思うだろうか。

実際俺は昨日まで彼女を覚えてさえもいなかった。まあ、そう自分に暗示をかけていただけだったのかもしれないが。


「あぁ眠い、恥ずかしい」


この感情を消すために眠気に負けたい気持ちになるが、母さんの「真人起きなさい」という激励をいただくより自分で起きたほうが楽だ。

それに今布団から出なければ、部活の朝練に遅刻し、副主将の秋斗にため息と長い説教をかまされてしまう。

それだけは回避せねばと重い体を転がしなんとか布団から脱出する。

冬が近ずきつつあるのかもう肌ざぶい廊下をふらふらと歩いて行く。

リビングからは、もう味噌汁の匂いがしており、母さんが茶碗にご飯を入れたり、箸を用意していた。


「「おはよ」」


声が被りいつのまにか後ろにいた妹に少し驚く。

結構近くにいたのに気ずかなかったのはまだ寝ぼけているせいかもしれない。


「おはよう真人、理恵。朝ごはんの用意できたから、冷めないうちに食べちゃいなさい。」


そう促されるまま椅子に座る矢先の出来事だった。

理恵はまるで獣のようにテレビのリモコンを手に取り、4つの席の中で一番見やすい席に座ったのだ。

その間体感で2秒。神速の出来事だった…


って

「そうじゃない。普通じゃんけんだろ理恵!」


抗議の声を上げるが、理恵は、寝癖のついた勝ち誇った顔で口を開いた。


「お兄ちゃん、朝の席は戦争なんだよ?お父さんは出張中で今はいない。なら、この席が空くのは必然!そしてそれを先に考えていた理恵の戦略勝ちなのだぁ〜」


俺は口をあんぐり開けて、なんと言おうか考えたが、あまりに低レベルな戦いに呆れたのか母さんが、理恵からリモコンを取り上げテレビを消してしまった。

「あっ」と理恵が言い、母さんの持つリモコンに向けて、手を伸ばした状態で固まっている。


「朝ごはんくらい静かに食べなさい」


俺と理恵の言い争いにイライラしたのか、少し大きめの声で注意された。

俺は固まっている理恵を見て笑いをこらえながら席に着く。

テレビを見ることができないのは残念だが、妹のアホみたいな姿を見ることができたのでよしとしよう。


「いただきます」


妹のアホみたいな姿を尻目に朝食を一瞥する。

今日の朝食は豆腐の味噌汁にご飯と納豆みたいだ。

うん、普通だな。いつも通りだ。


「美味しい」


素直な感想を口にする。質素だが母の味、美味しい。

母さんは何も言わないが横顔が少し嬉しそうだった。聞こえてるのかな?


「真人、時間大丈夫?もう6時よ?」


少し弾んだような心配しているような声で時間を教えてくれる母さん。


「あ、やべ」


いつもならとうに出ている時間だ。以外と布団を出るまでが長かったらしい。残っている米粒を掻きこみ味噌汁を飲み干す。お皿を台所まで持って行く時間も惜しく理恵に頼んで運んでもらい、空いた時間を制服の着替えに使う。


「真人お弁当と水筒持った?」


母さんの確認の声が聞こえるが、返事をするまもなく鞄と袴を持って「行ってきます」といいドアを開けて階段を駆け下りる。

上から「行ってらっしゃい」と「いってらぁ〜」という声が聞こえた気がするが、後ろを振り返る時間はない。即座に1階まで降りて駐輪場まで行く。

2年ほど使っている我が相棒の籠の中に袴と鞄を入れ、軽めのペダルを漕ぎ始める。


「あぁだるいなぁっと」


なんてことない少し慌ただしいだけの変わらぬ日常。

けれど暖かく満足できる日常。お陰でいつの間にかあの夢の内容も薄れていっていた。





そう、だからもし普段なら家から10分ほどの交差点で《彼女》を見つけたとしても、少し心が弾む程度だっただろう。








じゃぁ、家から10分ほどの交差点で《彼女》がトラックに跳ねられそうなのは「ゲンジツナノカ?」




………何も考えず自転車を放り投げ飛び出していた。


トラックのブレーキの音が聞こえるが関係ない。


多分今なら陸上の世界記録にも乗れる気がする。


周りが遅く見える。


《彼女》はトラックをみており《彼女》の横顔は諦めのように見えた。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


声を振り絞りラストスパート、あと少しで、あと少しで届く!


ドンという音が2回響いた。


そこで俺の意識はなくなった。

目指せ書き続けること。

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