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元おっさんの異世界転移生活  作者: たくさん。
第一章 勇者と魔王
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それぞれの目的

 王城へ向かったルーとミリアは、すぐに謁見の間へ通された。どうやら、王からルーと話したい事情があったらしい。


「ご無沙汰しております、クラン王」


 片膝をつこうとしたルーだが、


「よい、そのまま聞いてくれ」


と玉座のクラン王から言われたので、それに従う。


「お主らの活躍は耳にしておる。あの魔王教会を打ち砕いたそうではないか」

「恐れ入ります」


 港町サドーナでの出来事だろう。だが、あれはルーが積極的にやったわけではない。ただ、ミリアを救いたかった一心でやったことだ。


「それから、新たな仲間も得た、と聞いている。どのような者か、教えてはもらえないか?」

「それは……」


 一瞬、ルーは迷ってしまった。

 なぜなら、セントのことは非公式であり、本人もあまり有名になりたくない、と思っている節があったからだ。


「仲間、というよりは、協力者、と言ったほうが妥当かと。彼は、あまり目立ちたくないそうですし、魔王討伐までは一緒にはいられない、とのことでしたので」

「ふむ……ならば、そこは深く詮索しないでおこう。ただ、その者は本当に信用できるのか?」


 疑るような目を向けてくる王に、ルーはきっぱりと言い放つ。


「当然です。彼の力があったからこそ、僕らはさらに強くなれた。感謝こそすれ、疑うなどと、恩を仇で返すようなことは絶対にできません!」

「私も、勇者様と同じ想いです。彼はとても優しく、仲間想いで、私達を導いてくれた。いわば、勇者の導き手です!」


 ミリアもまた、ルーと共にセントに絶対の信頼を寄せている。


「あの【聖女】までもがそう申すか……」


 王城内では、勇者は勿論、【聖女】の二つ名もまた、高い発言力を持っている。なぜなら、ミリアの持つ【真実の眼】は、対象の悪意や野心すら見抜いてしまうからだ。この魔道具の前では、嘘や偽りは無に帰す。それをクラン王は知っている。


「ならば、その言葉を信じよう。せめて、名前だけでも教えてもらえないか?」

「知って、どうするつもりですか?」

「悪いようにはしない。ただ、ギルドのトップに伝えておけば、不都合は生じにくい、と思っただけだ」

「彼は僕と同じ冒険者。名前を出すのは、彼にとっては望まぬことでしょう。ですので、それは控えさせてもらいます」

「むぅ……」


 困ったように唸るクラン王。


「どうしても、というのでしたら、二つ名だけでもお伝えしましょう」

「ミリア?!」


 ルーが驚いたような声を出す。


「ふふっ、大丈夫です。これなら、彼の実力も申し分ない、と理解してもらえるはずですから」


 ミリアが得意気な顔で、クラン王を見る。


「彼は、【赤き帰還者(レッドリターナー)】、又は【氷獄の執行人】と呼ばれています。クラン王ともあろうお方が、この名を知らないはずが無いでしょう?」


 瞬間、クラン王の表情が、驚きのあまり固まる。


「……まさか……あの、【彼】なのか……?」


 実は、このクラン王。大の冒険者好きなのである。

 元々、クラン王国は、大昔に勇者パーティーの一人が、引退して冒険者の育成を目的としたクランを立ち上げたのが始まりだと言われている。

 その先祖の血を引いている現在の王は、まだ若い時に冒険者となり、いろいろあって玉座に就かざるを得なくなった。そんな理由もあって、冒険者ギルドの情報は特に多く得ているのである。

 そんな王には、当然、セントの情報も届いている。冒険者になって、最速でBランクへ上り詰めた男。

 ある時は、格上の冒険者に勝ち、またある時はゴブリンキングをソロで狩り、またある時は盗賊団を壊滅させた。他には非公式だが、未だに謎の多いモンスターのフェネキィを単独で追い払った、という話も聞いている。


「……そうか。【彼】なら、信頼に値する存在だ。二人には不快な思いをさせてしまい、すまんな」

「わかって頂けたなら、幸いです」


 コホン、と咳払いをすると、クラン王は、ルー達に話しておきたい本題を伝える。


「……余談をしすぎたな。実は、お主達に調べてもらいたい事項がある」

「それは、指名依頼、ということでよろしいですか?」

「そうだ」


 少し間を置き、具体的な内容を説明する。


「我が国ではまだないが、他国で怪しい紫のローブの男が複数目撃されている。その者が去った後、何故か妙な事件が起きるらしいのだ。依頼はその男の調査と対処。何か分かったことがあれば、すぐにギルドに報告してほしい」


「わかりました」


「それと、ゴド神国の東に、最近新しいダンジョンが発見されたそうだ。もしかすると、聖武具の眠るダンジョンかもしれん。詳細は、そちらで聞くといい」


「ゴド神国の東、ですか……」


 思わぬところで、有用な手がかりを得られた。


「他には、不確かな情報だが、イレフ王国の北の海に、時々魔力を帯びた島が出現するらしい」


「……魔王ダンジョンかもしれない、ということですか?」


「そこまではわからない。だが、何かしらの前兆かもしれぬ。こちらもイレフ王国と協力して、調査をしておく」


「お願いします」


 こうしてルー達は王城をあとにした。






 シルバは魔法使いギルドの二階で調べものをしていた。ギルド内で、資料が最も豊富なのが、この王都の二階なのである。

 調べているのは、魔力を貯めておけるような杖や素材。シルバは他人よりも魔力がある方だが、スタンピードの際は、テンダー山脈全体まで効果が及ぶ合成魔法を使っただけで、ほぼガス欠のような状態になってしまったからだ。

 セントがいる間なら、【昔日の守り手】でセントから莫大な魔力を借りられるが、いつもそうとは限らない。それに、セントはいずれパーティーを離れることも知っている。

 

 そして、様々な資料を見ていくうちに、気になる記載があった。


「【賢人石(セージストーン)】……?」


 ダンジョン産の珍しい鉱石で、『傲慢系』と『強欲系』のダンジョンからのみ、稀に手に入る、らしい。

 らしい、というのは、実際に手に入れた者が少なすぎるからだ。現在、公式で【賢人石(セージストーン)】を持っているのは、レードの魔法使いギルドのギルマスであるマギーザと、イレフ王国の宮邸魔道士で、竜人族の戦士達のまとめ役をしているリダのみ。

 いずれも、まだ若い時に別々のダンジョンでたまたま手に入れたらしいが、そのダンジョンからは、以降【賢人石(セージストーン)】の発見報告は上がっていないそうだ。

 その効果は、主に魔力を貯め続けられることと、魔法の威力を増大させること。

 ただし、【賢人石(セージストーン)】を素材にした武具を作るとなると、通常の職人では不可能とされている。なぜなら、高レベルの鍛冶スキルと錬金スキルが必要とされるからだ。


「まさに理想の素材だけど……発見するのも扱いも難しい、ってことね」


 だが、シルバの中では、扱いに関しては全く心配していなかった。


 そう。


 セントであれば、おそらくできるだろう、という確信があった。


 ならば、あとは探すだけ。


 そう思い、今度は未攻略のダンジョンについて調べ出すのだった。





 ネイは久しぶりの王都の獣人ギルドに顔を出していた。

 そこで、声を掛けられる。


「久しぶりだな、ネイ」

「ギルマス……どうして……」


 声の主は、王都クラムトーラの獣人ギルドのギルドマスター。獅子の獣人で、鬣と相まって迫力が凄い。当然、実力も飛び抜けている。

 そんなギルマス――――レオンに出迎えられ、ネイは驚きと共に萎縮してしまう。


「お前の両親から伝言を預かっていてな。王都に来たとの情報があったから、いずれ来るだろうと思って待っていたところだ」


 実を言うと、レオンはネイの親戚だ。ネイの父方の祖父の弟の息子がレオンなのである。


「……どうせ帰ってこい、とかいう内容でしょ……」

「半分正解だ」

「半分……?どういうこと?」


ネイが聞き返すと、レオンは言った。


「もしも今のパーティーで実力不足を感じているのなら、帰ってくるか、能力を【開放】できるように努力しろ、とのことだ」

「開……放……?」


 獣人には、人間には無い固有の能力が存在している。しかも、系列ごとに別々の能力が備わっているのだ。それが、【開放】。例えば、狼の獣人であるフエンは、瞬間スピードを上げることができる。

 しかし、現在のネイは、その能力にまだ目覚めていない。


「どちらを選ぶのも、お前次第だ。だが、力を求めるのであれば、俺は喜んで力を貸そう。ギルマスとしてではなく、大切な従兄弟の一人として、な」


「……少し、考えさせて」


「勿論だ」


 レオンはネイの事情をよく知っている。当然、ネイの姉のことも。

 両親に何も言わずに飛び出してきたネイがギルドに所属できたことも、レオンの肩書があったおかげだ。それだけ、レオンはネイのことをよく見てきたのである。


 ギルドを出ていくネイを見送りながら、レオンは一人呟く。


「……どんな選択をするにしても、後悔だけはするんじゃねーぞ……」






 セントとレーネは、レードにあるカーンの診療所を訪れていた。カーンには、クランメッセージを予め送っておいたので、急用でもなければ居るはずだ。


「カーン、いるか?」


 セントの掛け声で、奥から物音がしてくる。


「セントか?ちょっと待っててくれ。今資料を整理しているところでな」


「ああ、わかった」


 以前聞いた話だが、カーンは様々な素材を研究し、魔法と掛け合わせることであらゆる治療を可能にしたいらしい。そのために、同じグラスウィードの錬金術師、ダークエルフのスタンと協力して日々研究を重ねているそうだ。

 片や人々を救うための研究、片や人々の役に立つための研究。

 そんな二人だから、気が合うのかもしれない。


 20分ほど経ち、ようやくカーンと話ができるようになる。


「待たせたな」

「構わんさ」


 軽い挨拶を済まし、カーンはセントの横にいるレーネに気付く。


「君がレーネだね」

「え、ええ。宜しく」


 二人は握手を交わす。それだけで、カーンはレーネの状況を理解したようだ。


「セント。聞きたいことって、彼女のことなんじゃないか?」

「ああ、その通りだ」

「どうしてわかったのかしら?」


 レーネの疑問に、カーンは答える。


「握手の際、彼女の精霊力が弱まっているのがわかったからね。おそらく、もう一年以上森に帰ってないんじゃないか?」

「そ、そうだけど……」


 言い当てられ、驚きを隠せないレーネ。


「そもそも、エルフは精霊に愛されやすい種族だ。森に棲むエルフは、ほぼ風の精霊に愛される。それにより、強力な力を得られるんだ」

「つまり、エルフはその精霊力によって、能力が強化されている種族というわけか」

「そういうことだ。そして、風の精霊は、森の奥のエルフの里に祀られている世界樹の眷属とされていて、そこから離れると、徐々に寿命が削られていき、いずれは消滅してしまう」

「風の精霊の寿命が削られると、その恩恵にあるエルフは、得られる力を失っていく。それが、弱体化のカラクリというわけか……」


 カーンの説明に、なるほど、と頷くセント。


「じゃあ、一度消滅してしまった精霊の代わりに、別の精霊の力を借りることはできないのか?」

「それは無理だろう」


 カーンは即答する。


「エルフは、精霊に愛されやすいといっても、一人のエルフを愛する精霊は一体のみ。一度ある精霊に愛されると、他の精霊はその者を愛さなくなるのだよ」

「要は、縄張りのようなものか」

「そういうこと」


 エルフと精霊に関する話はよくわかった。

 では、ここからが本題だ。


「精霊の弱体化についてはわかった。なら、カーンはどうして森から長期間離れていても大丈夫なんだ?」

「それは、私を愛する精霊が、世界樹との関係を断ったからなんだ」

「関係を……断つ?」

「より詳しく説明すると、世界樹の眷属という立場を捨て、私の精霊、という、例えるなら種族進化とでもいう変化を精霊が遂げることで、寿命の進行を失くすんだ」


 聞きたいことの核心に迫ってきている。そんな気がした。


「なら……そのためには、どうすればいい?」


「セント、君ならもうわかっているんじゃないか?」


 確信があるように、カーンはセントに目を向ける。


「……それが、心の拠り所、というわけか」


「その通りだ」


 結局、振り出しに戻ってしまった。


「精霊は、愛した者が愛するものに興味を示すようになる。例えば、ある精霊が愛した、一人のエルフがいるとする。そのエルフに、生涯を愛する、と決めた相手が出来た場合、精霊もその相手を大切に思うようになる。その結果、精霊は世界樹の眷属というしがらみを捨て、ただ、自分が愛したエルフのために、その相手にも幸せになってもらえるような存在へと自己進化するんだ」


「……なるほどな」


 セントが考えていたことも、あながち間違っていなかったようだ。


「じゃあ、カーンの場合はどうなんだ?」


「私の場合、人々をどうにかして助けたい、という一心で、治療と研究を続けていたからね。その結果、精霊が自己進化してくれた、っていうわけさ」


 つまりカーンは、そこまで治療と研究を愛していたのだろう、ということになる。


「うーん……参考になるのかならないのか……」


「深く考える必要はないさ。愛するものは、人でも、物でも、理想でも、なんでも構わない。大事なのは、どれだけ愛することができるのか。その一点だけなんだよ」


「そう言われてもな……イマイチピンと来ないんだよな」


 セントだけでなく、レーネもまた悩んでいるようだ。


「……それなら、私から提案なんだが」


 カーンは、そこで一拍置く。


「提案……?」


「サウザン帝国の北西に、水晶の丘というダンジョンがある。普段はどこにでもある丘なんだが、特定の条件を満たすと、『色欲系』のダンジョンへ変貌する。その最奥には、【真実の鏡】という魔道具があり、自身も知らなかった心を体現してくれる効果があるらしい。ただ、そこから帰還した者は数えるほどしかなく、中には廃人となって戻ってきた者もいる。逆に、かなり精神的に成長して戻ってきた者もいる。……ハイリスクハイリターンのダンジョンだが、行ってみるかい?」


 カーンは暗に、レーネは一度自身の心と向き合え、と言っているのだろう。だから、こんな話を持ち出したのだ。


「……行きます」

「レーネ、いいのか?もしかしたら、命の危険もあるかもしれないんだぞ?」


 セントはレーネを気遣う言葉をかけるが、レーネの目に迷いは無かった。


「このまま何もしなければ、いずれ私は足手まといになる。そんなのは嫌よ。だから、何かヒントになるのなら、藁にもすがる想いでいろんなことに挑戦したい。だって、せっかくいい仲間に出会えたんですもの……私は最後まで、皆と一緒に旅をしたい!」


「レーネ……」


 ここまで自分の意志をはっきりと口に出すレーネは、今まで見たことがない。


「なら、俺もついていくかな」


 セントがそう言うと、レーネは不安と期待が混じった表情を浮かべる。


「……どうして、セントは来てくれるの?セントには、何もメリットが無いじゃない」


「そうだな。確かにほとんどメリットは無いだろうな。ま、ちょっとしたレベル上げにはなりそうだけど」


「なら、無理しなくていいのに」


「俺が無理しているとでも……?」


 はぁ、とため息をつくセント。


「……あのな、レーネ。俺はお前を仲間として大切に思ってるし、信頼している。お前だって、俺を信頼してくれているんだろ?そんな相手に、手を貸したいって思うのは間違いなのか?」


「そ、それは……間違ってない……と思う。でも、死ぬかもしれないのよ?怖くないの?」


「それはお前も同じだろ。俺だって死にたくはないし、お前にも死んでほしくない。だから一緒に行くんだ。お前が死にそうなら、俺はお前を助ける。俺が死にそうになったら、お前が助けてくれるんだろ?」


「……そうよね。ええ、そうだわ!なら、頼りにさせてもらうわよ、セント!」


 レーネに笑顔が戻る。

 その眩しさに、一瞬ドキッとなったのは言わないでおく。


「こっちこそ!頼りにしてるぜ、レーネ!」


「任せて!」


 こうして、二人は水晶の丘へ向かうことにしたのだった。

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[気になる点] レオンは、父方の祖父の弟の息子なら、従兄弟ではなく、従兄弟叔父ではないですか? 従兄弟は、親の兄弟の子供なので、従兄弟設定なら、父方の弟の息子になるはず。
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