元おっさん、ついに王都へ到着する
翌日以降、野営場を出発してから宿場町へ向かう。リフでは特に何もなかったが、その次のフワラでは、皆が寝静まった後にセントに接触してくる者がいた。
「……お久しぶりです、セントの旦那」
「その声は……」
闇に紛れるように、声の主はすぐそこに佇んでいた。
月明かりに照らされて現れたのは。
「ジン……?」
港町サドーナで出会った、【灰色団】頭領、ジンだった。
「相変わらず、凄いことをやり遂げたらしいじゃないか。スタンピード鎮圧なんて、早々に出来るもんじゃねぇ」
「相変わらず、情報を集めるのが早いな……ま、元気そうで良かったよ」
「お陰様で。メンバーもやっと2桁まで復帰したよ」
「順調みたいで何よりだ。で、ここに来たってことは、何か新しい情報が入ったのか?」
「ああ、そうだ」
ここからが本題、とでもいうように、ジンは声を抑えて真剣な表情になる。
「……一週間前くらいに、サウザン帝国領内の辺境の村、ブリーで紫色のローブを纏った、怪しい男が目撃されたらしい」
「一週間前……?」
ちょうどスタンピード鎮圧に当たっていた時期だ。ドラゴンイーター(黒)を召喚した者とは別の【パープルシャドウ】のメンバーだろう。
「何をやっていたかはわからないか?」
「近くのダンジョンで何かの儀式の準備をしているようだったそうだ」
「ダンジョンで……?気になるな……」
「何を企んでいるのかわからねぇが……くれぐれも気をつけてくれ」
「ああ、そうだな」
ジンの姿が、周囲に溶けるように消えていく。
さすが隠密、といったところだろう。
「サウザン帝国の辺境、ブリー村、か。一応気に留めておくことにするか……」
その翌日の昼過ぎくらいに、ついにクラン王国の王都、クラムトーラへ到着した。
「何、このデカさは……?」
到着してまず驚いたのが、巨大な門。
さすがに《冥王》の守っている転生の門ほど巨大ではないが、それでも30メートルはありそうな高さを誇る。
そして、道の広さ、建物の大きさなど、あのレードを凌ぐほどのものだった。
おまけに、人の多さ。日本の首都圏に迫る勢いの数だ。
「ふふっ、凄いだろう?セントの驚いた顔を見れるなんて、来た甲斐があったよ」
得意気なルーに、茶目っ気を感じる。
「まったくだ……レードも凄かったが、王都はもっと凄いんだな」
「……で、これからどうするの、ルー?」
シルバがルーに問いかける。
「そうだね……ちょっと情報収集をしようかと思う」
「情報収集?今更何の情報を得ようとしてるんだ?」
セントの質問に、ルーが指を三本立てる。
「まずは、魔王に関連する情報。配下のモンスターの動きから、どの程度まで力を持っているか。それと、どの辺りに出現するかの情報を集めようと思う。2つ目は、指名依頼の確認。僕らを指名する依頼は、高い確率で世界の危機や魔王関連のものだ。それの確認をする。とりあえず、僕は王城へ向かうよ。そして、3つ目は、聖武具の情報。勇者には、世界のどこかのダンジョンの最奥に納められている専用の聖武具が用意されているんだ。それの情報が欲しいところだ」
「聖武具ってことは、聖剣の他に、防具も存在する、ってことなのか?」
「うん。歴代の勇者が使っていたとされているんだ。聖剣の他には、聖鎧又は聖盾もしくは聖衣、そして指輪又は首飾り。防具や装飾品については、その代の勇者によって変化するらしいよ?ちなみに、武器もまた変化するそうだよ。ある代の勇者には、聖杖が与えられた、なんて記載もあるし。僕は剣をメインにしているから間違いなく聖剣だろうけどね」
「へぇ……」
さすがは神から与えられた職業の勇者、といったところだろう。
「じゃあ、その専用装備かどうかは、どうやって判別するんだ?」
「それは、私が持つ魔道具、【真実の眼】で判断するんですよ」
話に入ってきたのはミリア。
「私が持つ【真実の眼】は、対象の真実を見抜く能力があります。ですから、聖武具と思われるものには何かしらの反応があるんです」
「そんな効果が……」
あれ、とセントは首を傾げる。
(確か、【真実の眼】は、対象の悪意や野心を見抜く、ってルーが前に言っていたような……それとは別の効果もある、ってことなのか……?)
反応といっても、色が変わったり、震えたり、といったものであるならば、変化の仕方によっては別の効果があってもおかしくない。
(ま、考えてもわからねぇか。そういうものだと受け入れておくか)
「で、ルー達の旅の目的は、魔王を倒すための力を得るため、だったよな。レベル上げの他に、その聖武具を得る、ってのも目的に入っている、という認識で合っているんだよな?」
「うん。魔王は、聖武具が持つ特殊な力でなければ、討伐はできないんだ。そのうちの一つが、ビスト王国のダンジョンにある、という情報を得て、ヌル草原を移動していたときに、セントと出会った、っていうことだよ」
「そうだったのか……なんか悪いな、俺のせいで遠回りさせちまったようで。仮にそのダンジョンが他の者に先に攻略されちまったらどうするんだ?」
「それはないわ」
セントの意見に、すぐに否定してきたのはシルバ。
「シルバ……どうして、そう言い切れるんだ?」
「攻略は、勇者の職業を持つ者でないとできないのよ。もっと詳しく言うと、そのダンジョンの最奥の部屋の前には、勇者でないと開かない扉があるの。さらに、万が一勇者が扉を開いた直後に死亡するようなことがあれば、すぐに扉は封印され、同行者は強制的に外へ転移させられてしまう。そういう仕組みになってるのよ」
「なるほどな……だから、勇者にしか攻略できない、ってことか」
あの神様、よく考えてそんなシステムを創ったよな、なんて心の中で感心する。
「とりあえず、僕とミリアは王城へ向かうとして、シルバ達はどうする?特に予定がなければ、僕らと一緒に王城へ行くかい?」
「私はひとまずギルドへ行くわ。王城はかなり苦手だし、私なりに調べたいものもあるから」
「アタシもギルドかな。簡単な依頼があれば、受けようと思うし、久々の王都だから、買い物もしたいし」
ルーとミリアは王城、シルバは魔法使いギルド、ネイは獣人ギルド、といったところだ。
「ルー、何日か王都に留まる予定なのか?」
「そうだね。とりあえず、一週間、ってところかな。宿泊先は、『英雄の止まり木』本店で」
「そうか……なら、都合がいいな」
「都合……?セントは何かするつもりなのかい?」
「まぁな。なら、ちょっとレーネを借りてもいいか?」
「それは構わないけど……どうしてレーネを?」
ルーの疑問に、レーネが答えた。
「セントと少し調べたいことがあるのよ。それには、エルフである私がどうしても必要なの」
「レーネがそう言うなら……」
ルーの了承を得られたようだ。
「助かる。一応、遅くとも一週間後には、『英雄の止まり木』本店前に合流するよ。何かあれば、お前の『伝令の羽ペン』で呼び出してくれ」
「わかったよ」
「んじゃ、また後でな……レーネ」
「ええ」
セントとレーネは、転移でレードへ戻るのだった。




