表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元おっさんの異世界転移生活  作者: たくさん。
第一章 勇者と魔王
72/161

元おっさん、王都へ向け、出発する

 揚げ皿パーティーを楽しみ、新たな出会いを得たセントは、ルー達と共に翌日再び温泉街へ戻ってきた。

 だが、どうもいつもの勇者パーティーの雰囲気とは違い、5人の様子がおかしい。


「……お前ら、絶対何かあったろ」


 ルーとミリアは、どことなく気恥ずかしそうな、例えるなら惚気けているような感じだ。


 レーネはいつもより精彩を欠いている印象。


 ネイとシルバは普段より仲良くなっているように見える。


「……セントさん」


 最初に口を開いたのは、意外にもミリアだった。

 その声に、レーネ、ネイ、シルバ、セントが驚く。


「「「「ミリア?!声が戻った?!」」」」


「はい、皆さん、ご迷惑をお掛けしました」


「昨日、ようやく戻ったんだ。ホントに良かったよ」


 事情を知っているように、ルーが補足する。


「良かった……ちゃんと声を出せるようになったのね」

「ホントだよ!もう心配しなくていいね!」

「ええ、そうね」


 シルバ、ネイ、レーネが安堵する。



「おしっ、ミリアもようやく戻ったようだし、そろそろ王都へ向かおうぜ」


「そうだね……っと、そうだ、セント。渡すのが遅れたけど、はい、これ」


 ルーはアイテムボックスから、チャージシープの羊毛とフライモスの繭を取り出し、ドサドサッとセントへ渡す。


「……っとと。そういや頼んでいたままだったな。サンキュ、ルー」


 まとめて収納をし、セントはルーに感謝する。


「それじゃ、改めて出発しようか」


 ルーの号令で、温泉街ジグロムの西門からフィズ街道を通って王都クラムトーラへ向けて移動を開始した。




 フィズ街道は、やはり安全だ。ほぼモンスターの襲撃が無いし、整備された道だから歩きやすい。

 しばらく山道や洞窟等の道が悪いところしか歩いてなかったから、ついそんな感想を抱いてしまう。


 ふと、セントに触れてくる手があった。


(セントさん)


(ミリア?どうした?もう声は出せるんだろ?)


 ミリアが、精神感応で接触してくる。


(いえ、ちょっと皆さんには言えない話なので……)


 恥ずかしそうに頬を染めるミリアを見て、何となく事情を察する。


(大体予想はついた。……やっと、自分からルーに告白できたんだな?)

(……はい。それだけじゃなくて、あの……ちょっと言い辛いのですが、その、流れで……)


 ますます赤くなるミリア。


(……ああ、わかった。皆まで言わなくていい。つまり、ルーとそういう関係になった、ということだな?)

(……はい。あの、このことは、皆さんには……)

(わかっている。言わないでおくよ)

(……すみません、いずれは、自分から伝えるつもりです。それまでは、秘密にしてください)

(ああ。了解した)


 セントは、ポンポン、と軽くミリアの頭を叩く。


(……さて、ルーとミリアについては問題ない。ネイとシルバが仲良くなっているのも良い。問題は、レーネか……)


 いつもより、浮かない顔をしているように見える。それどころか、たまに発見した下級モンスターを、一矢で仕留め損ねている。


『シルバ、ちょっといいか?』

『何かしら?』


 セントは【呼び出し(コール)】でシルバに話しかける。


『俺が離れていた約二週間で、レーネがどこか不調だったところがあったか?』

『そうね……一見すると、そんなに不調ってわけでもなかったみたいだけど。……あれ、そういえば……』


 何か心当たりがあったのか、シルバの言葉が止まる。


『気になることがあるのか?』

『ええ。以前と比べて、補助的な射撃が増えている気がするわ。本人は、仲間のレベル上げのために敢えてそうしている、って言ってたけど』

『そうか……ま、それならそれで構わないけどな』


 実際、スタンピードの際も一矢で仕留めていたところが多々あった。思い違いなら、それでいい。

 ただ、万が一セントが危惧するような状況に陥りつつあるのであれば、早急に対処しなければならない。


(レーネのプライドを傷つけてしまうかもしれないが……一度ちゃんと話しておかないとな)



 温泉街ジグロムを出発してから、結構な時間が経ち、日が暮れた。王都クラムトーラまでは、徒歩でおよそ4日の距離だ。途中には2つの宿場町と1つの野営場があり、セント達はその野営場へ辿り着いていた。


「今日はここで野宿をしよう。それから、明日は宿場町リフへ、明後日は次の宿場町フワラを目的地としよう」


 ルーの号令で、それぞれが準備にあたる。


 この野営場は、簡易のキッチンが備え付けられており、近くの川から水を引いていて、魔道具によって浄化してある。

 その上には、これまた魔道具によって防腐処理された木の屋根が作られ、定期的に温泉街ジグロムからメンテナンスが入る、らしい。

 おまけに、四方に街灯のような魔道具の明かりが灯され、その明かりがモンスターを寄せ付けないそうだ。

 もはや、日本にあるキャンプ場のようだ。


 ただ、モンスターについては気にしなくてもよさそうだが、盗賊の類はやはり警戒する必要がある。


 見張りについては、以前と同じようにセントが立候補したが、ミリアに、


「無理はさせられません」


と言われてしまった。結局男女二人一組で交代して見張りをすることになったのである。



 夜も更け、現在の見張りはセントとレーネ。

 つい先程はシルバと組んでいたが、交代してレーネがやってきたのである。


「…………」

「…………」


 焚き火を挟んで、お互いに背を向けて話すことがなく、無言の時間が過ぎていく。


(……気まずい)


 セントは勇者パーティーのメンバーとはそれなりに仲がいいつもりだが、相手によっての距離感がやはり違う。

 ルーとは同性同士だから全く問題ない。むしろ親友だ。

 ネイは基本的に明るい性格なので、向こうから距離を縮めてくる。

 シルバとはほぼ【呼び出し(コール)】でやりとりをしているため、完全に友人関係だ。

 ミリアとは、あの事件以降、精神感応スキルで結構な話をしていたし、心にも触れた間柄なので、友人というよりは、セントからすれば可愛い後輩的な存在だ。妹のようだと言ってもいいかもしれない。

 だが、レーネに関しては、パーティー内でもっとも付き合いが無い。レードにいた時も、ルー達とは別に依頼で離れていたし、シルバやネイのように、共にダンジョンへ向かったこともない。最初の頃は、弓や小剣、細剣を教えてもらうような関係だったが、グラスウィードのハイエルフのカーンに教えてもらうようになってからは、そんな機会が全く無くなってしまった。


「……ねぇ」

「……うん?」


 突然レーネが話しかけてくる。


「セント、今どのくらいのレベルになったの?」

「レベル?今は……49、だな」

「そっか……三ヶ月弱でそこまで上げられるなんて、やっぱりセントは凄いのね」

「……へっ?」


 つい変な声で返事をしてしまうセント。


「……何?今のは」

「いや、レーネからそんなふうに言われるなんて、思ってもいなかったから」

「そう?」

「そうだよ。俺の記憶では、レーネに褒められたような記憶は一度くらいしかないからな」

「そうだったかしら?」


 どうやら、本人にはそんな記憶はないらしい。


「まぁいいか。一応、レーネにも俺の実力が認められているってことなんだな?」

「一応、って何よ?これでも、セントのことはちゃんと仲間として信頼してるんだから」


 不服そうな顔になるレーネに、すまない、と謝る。


「なんかさ、俺、レーネとの交流が薄いかな、なんて思ってたんだよ。ルーとは男同士だし、ネイはあんな性格だろ?シルバとは本気で喧嘩したし、ミリアとはしばらく意見を代弁していた関係だったろ。だけど、レーネとはそんなに話してなかったな、なんて思ってたわけ」


「それは……私も悪かったわ。元々、エルフは閉鎖社会なのよ。だから口数は少ないし、時には誤解されることもある。その代わり、相手の態度を見て徐々に人を信用していく。私は、これまでセントの行動をずっと見てきた。仲間を助けるために、必死で行動するあなたを。だから、私はあなたを信頼している。これは、私の中で確たるものとして存在しているの。だから、セントが別に気にしなくてもいいのよ?」


 それを聞いて、セントはようやく、レーネに対する誤解が解けた。


「そうだったのか……いや、言ってくれて助かったよ。俺が勝手に勘違いしていたみたいだな」

「そうね。でも、ちょっと考えればわかることじゃない?信頼してない相手となんて、こんなに長期間一緒にいるわけないじゃない」

「それもそうか。ほんと、すまないな」

「もう、この話は終わりにしない?」

「そうだな」


 一度話を区切り、セントは別の話題を振る。

 誤解が解けてから、次々と話題が浮かんでくるのだ。


「……レーネ、こんなこと聞くのも野暮だとは思うが、一つ確認したい」

「何かしら?」

「レーネは、ルーのこと、どう思う?」

「えっ……?それはどういう意味かしら?」

「仲間として、パーティーメンバーとして信頼しているのは理解している。俺が聞きたいのは、ルーを恋愛対象として見ているか、ということだ」


 レーネは一瞬、驚いたように目を見開く。


「……どうかしら。まだはっきりしてないけど……少なくとも、好意は持ってる、としか言えないわ」

「……そうか」

「それを聞いてどうするの?まさか、キューピッドにでもなるつもりなの?」

「それは、レーネ次第、だな」

「……セント、何を言いたいの?」


 セントは、レーネを見る。


「心の拠り所……」


 その言葉に反応し、レーネはセントに振り向く。


「エルフは、森から離れて一人では生きていけないんだろ?外の世界で生きていくためには、森に代わる、心の拠り所となる、唯一無二の存在が必要なんだろ?」


「どう、して……それを……」


 唖然とするレーネ。


「俺の新たに得たスキル、世界書庫は、この世界のあらゆる知識が納められている。そこから得た知識だよ」


 本当は、あの夢での出来事を覚えていただけだが、それは言わないでおく。


「……ふふっ、もう、そんなとんでもないスキルを得たのね」


 レーネは諦めたように笑い、自分から語りだす。


「このままルー達と旅をしていけば、間違いなく私は足手まといになるでしょうね。現に、私の力は弱体化していっているようだから」


「生きていけないってことは、そういうことだったのか……」


「ええ。だから、近いうちに私は森へ帰らなければならない。森へ帰れば、弱体化は収まるから」


「衰えた力は、森へ帰れば戻るのか?」


「いいえ。多少は戻るかもしれないけど、最初に森を出た時以上には戻らないわ」


「そんな?!じゃあ、ルー達と旅をして得た力は、失ったままになるのかよ?!」


「そうね。それが、エルフの里の掟。森から出さないための呪いといっても過言ではないわ」


「どんだけ閉鎖主義なんだよ……」


 まずい。

 非常にマズいことになった。

 勇者パーティーには、レーネもまた必要な人材だ。遠距離物理攻撃は、今の勇者パーティーではセントを除いて出来る者がいない。それに、後衛のミリアやシルバを守るのも、レーネの役割だ。


 これは、一刻も早く、心の拠り所を探してやらなければならない。唯一無二の存在、と言われて思いつくのが、やはり最も大切にしたい、と思う異性だろう。


 だからこそ、セントは真っ先にルーを思い浮かべた。


 レーネにとって、一番ルーがその存在になり得るからだ。


 問題は、ルー。


 既にミリアとそういう関係になっていることを、セントは知っている。

 それでも尚、レーネを求めるのか?

 おそらく、否、だろう。

 ルーは性格からして、一途だろう。

 であれば、レーネが入る隙きは無いかもしれない。

 ただ、仲間を大切に思っているのは確かだ。

 レーネにチャンスがあるとすれば、そこだけかもしれない。


――――セー君、ここはやっぱり、勇者さんに一服盛って……

(心姉、それは無しの方向で)

――――むぅ……セー君に否定されたぁ……

(むくれるなよ、心姉。他の方向なら、考えなくもないから。ただ、薬だけはやめてくれ。おそらく、本人達が一番後悔するだろうから)

――――それもそうね。セー君優しすぎ。大好き。

(はいはい、俺も心姉が大好きだよ)


 急に心音がろくでもないことを言い出すが、セントはさらっとかわして惚気に収めた。


 と、ここで一つ気になったことがあった。


(心姉、この世界って、重婚はオッケーなんだっけ?)

――――む、そんなことを聞いてくるなんて……まさか、私の他に好きな娘が?!

(なわけねーだろ。俺は心姉一筋なんだし。第一、四六時中一緒にいて、そんなこと欠片も無かったろ?)

――――そうでしたー。はい、御馳走様。

(……ワザと俺に言わせようとしたんだな?)

――――てへっ。

(はぁ……で、話を戻すが、重婚はいいのか?)

――――セー君は駄目だけど、特定の地位にいる人、例えば王族や大商人や、社会的に影響力がある人なら、認められているはずよ?

(なら、ルーはそのルールに従えば、重婚もオッケー、ということだな?)

――――さらっとボケをかわされた?!まあ、そうね。勇者さんほど影響力がある人なら、認められるわね。


「……セント、なんかさっきから表情がコロコロ変わってるけど、何を考えているの?」


 レーネが訝しげな目を向けてくる。

 そういえば、心音のことは、ルーとミリアにしか話してなかった、と思い出す。


「いや、ちょっと、な。レーネの心の拠り所に、ルーがなれないかな、なんて思っていたんだ。参考になるかわからんが、俺自身の話をすると、俺にとっては、向こうの世界で俺の心の支えとなってくれていた女性がいたんだ。だから、大切な異性が、そんな存在になれるんじゃないか、なんて思った」


「へぇ……セントにも、そんな人がいたのね」


 レーネは多少興味を持ったように返してくる。


「その人は、向こうで何をしているの?」


「何も。もう20年ほど前に亡くなっているからな」


 レーネがしまった、といったような表情になる。


「……ご、ごめん。なんか辛いことを思い出させて」


「構わないさ。そんな彼女は、死んだ後でも俺の心の支えになってくれている。彼女がいたからこそ、こうやって生き長らえている。だから、いいんだ」


――――実際は、こうやってすぐ傍にいるのでしたー、なんちゃって。

(心姉、雰囲気台無しにしないでほしいんだけど……)

――――ごめんねー。セー君に愛されているなー、なんて思っちゃうと、ちょっと調子に乗りたくなっちゃうんだー。ふふっ、セー君、大好き。

(はいはい、俺も大好きだよ、心姉)


 どうも、心音のキャラが崩壊してきている気がする、なんてセントは思い始める。


「レーネ、弱体化しているとはいっても、それよりも強くなれれば、プラスマイナスゼロで現状維持とかにはならないのか?」


「それは……正直、わからない。これまで、そんな前例がなかったから。弱体化したエルフは、森へ戻るか、心の拠り所を見つけて生活していくかの二択しか無かったのよ」


「なるほど……うん、ちょっと待てよ……」


 ふと、ハイエルフのカーンの存在が頭に浮かぶ。

 確か、カーンは独り身だったはずだ。それでもあれほどの力を持っていた。とても弱体化しているとは思えない。

 エルフとハイエルフの違いはあるが、何か理由があるのだろうか?


「レーネ、カーンを覚えているか?スタンピード鎮圧の際に一緒にいたハイエルフの。グラスウィードに所属しているんだが」


「えっ、ああ、あの人ね。私はあんな人、初めて会ったわ。エルフギルドに所属していないし、そもそもハイエルフなんて種族、今まで会ったことなかったから」


「そうか……」


 もしかしたら、カーンなら何か力になってくれるかもしれない。


「よし、レーネ。王都に到着したら、もう一度レードに向かおう。カーンは、そこで治療院を開いているんだ」


「……そうね。何かヒントを得られるかもしれないわ」


 今後の方針が決まった。


 まずは王都クラムトーラへ向かい、それから城塞貿易街レードへ戻る。

 そこで、レーネと共にカーンに話を聞きに行く。


「レーネ、お前は勇者パーティーに必要不可欠な存在だ。魔王討伐まで、パーティーから離れるんじゃねーぞ……」


「な、何よ、急に……。でも、頼りにはさせてもらうわよ、セント?」


「ああ、もちろんだ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ