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元おっさんの異世界転移生活  作者: たくさん。
第一章 勇者と魔王
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元おっさん、スタンピードの後始末をする

 目の前で、一体何が起こったのか。


 シルバとネイが、それをやってのけた二人を見つめる。


 息を切らした二人の周囲には、ドラゴンイーター(黒)の細切れとなった肉片が散らばっている。


 パーティーの約半分が戦闘不能となった中、二人が中心となってSランクモンスターの変異種を討伐したのだ。いくら二人が規格外だからといって、そう簡単には理解が追いつかない。


 セントとルーが、ゆっくりと立ち上がる。どうやら呼吸が整ったらしい。


「僕らが……やったんだよね」

「……そうだな」


 二人の【比翼の鳥】の効果はもう切れている。


 自分達がやったことを、どこか夢だったのではないかと疑うが、身体の疲労、剣を持つ感覚から、そうではない、と理解する。


「セント、このディジェクター、魔法を纏うことができる能力もあったのかい?」


 自身が持つ幅広の剣を見せながら、セントに尋ねてきた。


「いや、出来る可能性があった、としか言えんな。ただ、原理は分かっている。おそらく、【リジェクト】の応用だな。受けた魔法の威力を魔力に変換するところまでは一緒だが、それを放出せずに、刀身に循環させる。そういうことだろうな」


「そっか……」


「……ルー」


「なんだい?」


 セントは、収納からディジェクターの鞘を取り出し、ルーに投げ渡す。ルーはそれをどうにか受け取り、軽く見回す。


「その鞘は、ディジェクターの所持者が持つことで、武器を盗難から守る効果がある。アイテムボックスの効果の一部を流用した特別製だ。当然、鞘自体の頑丈さもスミーのお墨付きだ」


「それはありがたいね。なんかダジャレっぽいけど」


「意図して言ったわけじゃないけどな。そいつもお前が持っていた方が良さそうだ」


「ありがたく使わせてもらうよ」


 ルーはディジェクターを鞘に納め、折れてしまった剣の代わりに腰に吊るす。


「あとは……これらか」


 セントはドラゴンイーター(黒)だった肉片を一つずつ鑑定し、収納していく。全て収納し終えると、なるほど、と呟いた。


「セント、何かわかったのかい?」


「ああ、そうだな」


 ルーの質問の答えになるであろう、ある一部分の肉片を取り出す。

 あまり好んで見たくはないが、ここを見てくれ、とセントが言うので、ルーはそれに従う。


「あれ……ここ、魔術的な何かがあったのかな?」


 セントが指差した箇所に、魔法陣の跡のようなものがあった。


「その通りだ。鑑定してわかったが、これはこの空間と奴の魔力によって特定の系統のモンスターを召喚し続ける役割があったらしい」


「なるほどね。つまり……」


ルーが言い終える前に、地震のような音と共に、周囲の景色が徐々に歪んでいく。


「マズいっ……ネイ!シルバ!」

「わかっているわ!!」

「うん!」


 セントが何を言いたいかを瞬時に理解し、二人は気絶しているミリアとレーネを連れて駆け寄ってくる。

 全員が自身に触れていることを確認し、セントは転移でその場を離脱した。



「あ、危なかったね……」

「あぁ……全くだ」


 転移先は、ボルカノ火山の麓、南側の入り口だ。まだアクス達はモンスターの対処で戻ってきていない。この場にいるのは、勇者パーティーのみ。


「……で、どういうことか説明してもらえるのかしら?」


 シルバはそんな疑問をセントとルーにぶつけてくる。


「そうだな……」

「つまり、このスタンピードは、あのドラゴンイーター(黒)の体内に仕込まれていた魔法陣と、奴と戦ったあの異空間によって引き起こされていた……ってことで合ってるかい?」


 ルーの答えに頷くセント。


「そういうことだ。付け加えると、怪鳥竜が中心になっていたのは、ドラゴンイーター(黒)が自分達を襲い、そこから逃げ出してきたから、ということになる。さらに、逃げるために邪魔になりそうな他のモンスターや俺達がいたから、攻撃を仕掛けてきていた、と考えられるな」


「それが、今回のスタンピードの全容、ってわけね」


 なるほど、といった顔のシルバ。

 しかし、ルーは他にも気になっていることがあった。


「……セント、僕は君にもう少し聞きたいことがある」


 真剣な顔になってセントに問いかけてくるルー。セントは彼が何を聞きたいかを既にわかっていた。


「分かってる……あの紫のローブの男についてだよな」

「他にもあるけど……今はそれについてだ」


 他については、おそらく新たにセントが得た力だろうが、後回しにしておく。


「ああ。あの紫ローブの男。奴はある組織……というか、集まりに属している。それが【パープルシャドウ】だ」


「それは、どんな連中なんだい?」


「簡単に言うと、この世界に転生してきた異世界人の集まり、といったところだな。特徴としては、全員紫のローブを身に着けている」


「ただ集まっているだけ……ってわけじゃないよね?」


「当然だ。奴らの目的は、世界征服。それに尽きる」


「そんなふざけた組織なんて、到底信じられないけど……セントがそう言うなら、そうなんだろうね。ただ……それはどうやって手に入れた情報なんだい?」


 目を細めるルー。まるで、セントを試しているようだ。


「そうだな……話してもいいが、その前提として、確認しておきたいことがある」


「確認?」


「ルー、お前は、神を信じているか?」


「もちろんだ。何せ、僕の職業である勇者は、その神様から与えられたものなんだから」


 その神は、職業神なのか、この世界の神なのか。厳密に言うと、それぞれ別の存在なんだが、それはルーにとっては重要ではないのだろう。


「ならいい。俺は、その神から教えてもらったんだ。神託のようなもの、と思ってもらっても構わない」


「そんなことが……いや、でもセントはそんな嘘をつくメリットが無さそうだし、信じるよ」


 ふっ、と笑みを浮かべるルー。セントはそれを確認して、話を続ける。


「それで、だ。ルー、レーゼの森で出会った変異種を覚えているか?」


「うん。あの赤いジャイアントラパンだろう?よく覚えているよ」


「あれは、【パープルシャドウ】の一人の、あの男がやったものと見て良さそうだ。奴の言葉を思い出してみろ。奴は俺を見て、あの時のド素人の、と言っていただろ?ルーと一緒に行動していた中で、そう言われてもおかしくない期間は、あのジャイアントラパン(赤)の時くらいしかない」


「だけど、どうして僕らを狙うんだ?」


「言ってただろ、魔王討伐の旅を止めてほしい、と。奴らにとって、魔王を倒す可能性が高い勇者パーティーは邪魔なんだよ」


「僕らの敵は、魔王だけじゃない、ってことか……」


 ぐっ、と拳を握りしめるルー。


「気を付けろよ?奴ら、まだ能力の一部しか披露していない。変異種モンスターを召喚する者の他に、俺のように異世界人を召喚する者もいる。何人いるのかも不明なんだ」


「異世界人を召喚?そんな能力を持っている奴もいるのか……」


 驚いた声を出すが、ふとルーは、なぜセントかそんなことまで知っているのか疑問に思った。


「セント……」


「言いたいことはわかってる。おそらく、お前の考えている通りだ」


「じゃあ……」


「ああ、俺は、召喚された異世界人と戦ったんだ。あいつは……おそらくルー、お前を軽く超えている。それだけじゃない。魔王すら、あっさりと倒せるほどの力を持っていた」


「その人は、今どこに?」


「元の世界に帰っていったよ。お前の聞きたいことのもう一つの答えが、それに関係している。俺は、その異世界人の帰還に少し手を貸しただけだが、その礼として、力の一部を俺にわけてくれた。それが、俺が新たに得た、あの力だ」


「そっか……」


 ルーはどこか納得し、それでいて残念そうな顔になる。

 おそらく、まだこの世界にいるのなら、力を借りようとでも思ったのだろう。

 そんなルーに、セントは声をかける。


「……ルー、お前が思ったことは理解できる。だが、この世界はお前の世界だ。そして、お前はこの世界の勇者だ。厳しいことを言うかもしれないが、最後はお前が決めるんだ。仲間を頼りにするのは悪くはない。だが、時には自分が先頭に立って、人々を導くのが、勇者じゃないのか?」


「セント……うん、そうだよね」


 ルーは、改めて自分の立場を思い直す。


「僕が、この世界の人々の希望なんだ……!」

「その意気だ!」






 原因を取り除いた後は、ただの作業だった。

 残ったモンスター達をひたすら蹴散らすのみ。


 セントはルー達を先に転移で宿屋へ送り、アクス達と合流する。ルーも残ろうとしたが、ミリアとレーネのことがあり、遠慮してもらったのだ。


「そうか……Sランクモンスターの変異種……そりゃあ、勇者パーティーじゃないと倒せねぇな」


「あの剣もついに日の目をみることになったか。ふふっ、結構結構!」


 セント、ゼロード、スミー、アクス、フエン、カーンが粗方の討伐を終えて焚き火を囲い、談笑を交えながら今回のスタンピードについての報告をしている。


「それにしても……【パープルシャドウ】。なかなかの曲者が揃っていそうだな」


「ああ。おそらく、今後も何かしらのちょっかいを掛けてきそうだ。万が一、世界の各所で同時に暴れられたりした場合、勇者パーティーだけでは太刀打ちできない。そのときは……」


「わかっている。俺達グラスウィードも全力でサポートするさ」


「助かるよ」


 セントが礼を言うと、アクスが豪快に笑う。


「ハハッ、おめぇも一端の勇者パーティーになったな!ま、いい傾向だと思うぜ?ただ……これからおめぇはどうするつもりだ?」


 アクス達は、セントがいずれ勇者パーティーを離れる予定だと知っている。それを確認するような問いかけだった。


「それは……変わらないな。ただ、いつ離れるかの目処は立った、ってところだ」


「そうか……おめぇが決めたことだ。俺からは何も言わねぇよ。それに、ルー達との繋がりは続けるって言ってたよな?なら、立ち位置としては、俺らと同じってわけだ」


「ああ。今後も宜しく頼むよ?」


「言われるまでもねぇ」


 皆で笑い合うと、ここからが本題、とでも言うように、アクスがセントにある質問をする。


「なぁ、セント……今回は、俺達グラスウィードだけで戦ったわけじゃねえ。勇者パーティー、竜人族、ドワーフ族……いろんな連中の力があったからこその結果だ。そいつらに報いることは、当然のことじゃねぇか?」


「当たり前だ。だから、あいつを連れてきている」


 セントの言葉に応えるように、ある男の声が聞こえてきた。


「済まないね、ちょっと準備に時間がかかってしまって」


「「「?!」」」


 男は、コック姿で柔和な笑みを浮かべている。


「待っていたぜ、グーメル」


 セントが呼んだ男とは、レードで店を開いている、ハーフエルフのグーメルだった。


「グーメルがいる、ってことは……」


「ああ、あの料理をこの戦いに参加してくれた皆に振る舞おうと思って、頼んだんだ」


「まさか……」


 誰かの喉が、ゴクリ、と鳴る。


「特大の怪鳥竜の揚げ皿パーティーをやるぞ!!」


「「「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

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