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元おっさんの異世界転移生活  作者: たくさん。
第一章 勇者と魔王
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元おっさん、スキルと魔法で工夫して戦う

『では、始めてください!』


 受付嬢の掛け声で、二人の戦いが始まる。


 先に動いたのは、ザンギだった。


「まずは一撃を見せてやろう」


ザンギは、背中に背負っていた巨大な斧を構え、横に薙ぎ払ってくる。


「《断撃》!」


 大斧から斬撃が放たれ、セントへ向かってくる。


「……!」


咄嗟に身を伏せてやり過ごすが、立ち上がる前にザンギの袈裟斬りの二撃目が放たれていた。


「うぉっ、危なっ!!」


セントはすぐ横に身を転がし、どうにか避ける。かわした斬撃は、床に亀裂を作って訓練ルームの壁にぶつかり、建物を揺らす。


「ハハハッ、無様だな!避けているだけでは、俺には勝てんぞ!」


ようやく立ち上がったセントに嘲笑を浴びせるザンギ。


「別に勝つつもりはないんだけどな……まぁ、あんたの一撃は大したものだ、ってことはよくわかったよ」


「わかったところでどうしようもないだろう!お前に出来ることは、潔く降参することだけだ!」


「そいつはまだ先だな。何せ、俺はまだ俺の力を見せてない」


「ふっ、面白いことを言うじゃねーか。なら、次はお前が来いよ。もっとも、そんな機会をやるつもりはねーけど……な!!」


ザンギは体を回転させ、遠心力を乗せて横薙ぎを放つ。


「《回転斬り》!!」


最初の一撃より重い斬撃が、セントに襲いかかった。辛うじて身を反らし、直撃を避けたが、右肩が深く斬り裂かれていた。


「………っ、痛ぇな!」


傷口からは出血が始まり、すぐには止まりそうにない。


「おらおらぁ、どうしたぁ!!そんなのはかすり傷だろぉ!」


次々と大斧から斬撃を放つザンギ。直撃こそしていないが、皮膚には少なくない傷が刻まれていく。


(くそっ、このままでは何も出来ずに10分が経っちまうな……)


 今は丸腰だが、武器はある。収納内にある、ルー達から借りたものを出せばいい。だが、ザンギの様子を見るに、そんな時間は与えてくれないだろう。


(どうにかその時間を作らないと……そうだ!)


ふと、脳裏に一つのアイディアが浮かぶ。


取り出しのためには、目的物を強くイメージしなければ発動しない。そのための時間がどうしても必要になってくる。


(即時発動できる魔法を使えば……!)


 魔法の発動には、強いイメージが必要不可欠。そのためのものが詠唱。シルバからは、そう聞いたことがあった。ある程度慣れてくれば、詠唱無しで発動できるが、詠唱することで効果を倍増することができる。

 だが、ここではそこまでの効果はいらない。ほんの一瞬だけでいい。取り出し出来る、その一瞬の間さえあれば。


 時折強めの斬撃を放ってくるザンギの攻撃をどうにか避け続け、そんなことを考えるセント。


(今の俺が出来ることは………)


 傷が増え、血を流しすぎたせいか、意識が少し遠くなってきている。そのため、直撃とまではいかなくても、かなりの深い傷を負ってきており、出血量も増えてきている。

 しかし、頭の中はいつも以上に冴えている。


 ルー達とは、知り合ってまだ間もない。だが、ヌル草原での戦闘を通して、一応は仲間として扱われつつある。何より、自分の命を救ってくれた恩人だ。その恩を返せずにパーティーを離れるのは、セント自身が自分を許せない。


(即時発動……簡単にイメージができるもの……)


 頭の中に、一つの光明が差す。


(鏡……!)


それは、シルバが最初に見せてくれた魔法。【幻影(ファントム)】。


シルバは詠唱無しで発動していたが、セントにはそんな技術はまだない。


「チッ、もう3分は掛かってるみたいだな……。ここまで持ちこたえるなんて、思ってなかったぜ。やるな、貧弱男」


 ザンギが若干苛立ったような口を叩く。それでも、攻撃の手を緩めず、セントとの距離を縮めてくる。


「……影よ、我が呼び声に答えよ。水よ、その姿を示せ」


ザンギの攻撃から逃れつつ、セントは詠唱を始める。


「ハッ、付け焼き刃の魔法でも使おうって魂胆か!甘い、甘すぎるぞ!俺の攻撃は、お前の詠唱を中断するぜ!!《円月斬》!!」


ザンギの大斧から、三日月状の斬撃が複数放たれる。その斬撃を、セントはサイドステップと合気道の前受け身で転がってかわす。


「……光よ、我を照らし影を広げよ。風よ、水を形作り、幻を産み出せ」


 セントの詠唱が続いていることに、ザンギは焦り始めた。


「何故だ……?何故詠唱を続けられるんだよ……?!」


 焦りが攻撃に現れ始め、徐々にセントに当たらなくなってきている。それが更なる焦りに繋がり、ますます当たらなくなる悪循環。ザンギはそのループに呑まれつつあった。


「影よ、幻よ、我が前に顕現せよ!【幻影鏡(ファントムミラー)】!!」


最後の詠唱が完了し、ザンギの周囲に、ザンギとセントの複数の姿が映し出されている巨大な鏡がいくつも出現する。


「な……なんなんだよ、この魔法は?!奴は……奴はどこに行った?!」


周囲を囲む、己と相手の姿が映し出された複数の鏡。その中に、本体があるはず。ならば、と思ったザンギは、片っ端から鏡を破壊していくことにする。


ガシャァァァン、ガシャァァァンと大斧で鏡を破壊していくザンギだが、セントを見つけようと躍起になっているせいか、破壊した際に自らの身に細かい破片が次々と刺さっていくことに気づかない。


 全ての鏡を破壊したところで、ようやくザンギはセントを見つける。セントは既に、収納から得物を取り出していた。


「小癪なマネをしてくれたな、小僧!!俺を本気にさせたこと、後悔させてやる!!」


 セントの呼び方が小僧に変わっていたが、セントは全く突っ込まず、逆に憐れむような目をザンギに向けていた。


「……そんな傷を負っているのに、か?」


「何だと……?」


言われて、ザンギはようやく自分の身体の状態に気づいた。全身に、割れた鏡の破片が大小突き刺さっていて、出血をしていたのである。


「こっ………小僧がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「この時点で俺があんたに一撃与えたって判断してもらっても良かったんだがな……。あの受付嬢、まだ認めてくれないようだ。よっぽど俺が気にくわないんだろうな」


時間はあと3分ほど。さすがに血を流しすぎたので、セントもそろそろ辛くなってきていた。


「……なら、今の俺が出来る最高のパフォーマンスをするしかないか」


 様々な武器を使っていく中で、セントは一つの戦術を考えていた。

 それはおそらく、セントにしか出来ないもの。

 まだレベルは低いため、そんなにダメージは見込めないだろう。

 しかし、一撃を入れるだけでいいこの勝負なら、試すのに十分な場だ。


 怒りに身を任せているザンギは、猪の如く、自らの力を誇示するように、真っ直ぐセントに突っ込んでくる。その目には、殺意が浮かんでいる。


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」


 得物を振りかざし、セントへ刃を下ろす。

 だが、既にそこにセントの姿はなかった。


「大振りすぎだろ、それ」


「………?!いつの間に……?!」


いつの間にかザンギの背後に立っていたセントの手には、弓があった。右手には5本の矢がつがえられ、弦は既に引き絞られている。


「まずは一発」


5本の矢が同時に放たれるが、そのうち4本は明後日の方向へ飛んでいく。まともにザンギに向かったのは1本のみ。

ザンギは大斧を軽く振り、矢を叩き落とす。


「下手くそがぁぁぁ!!そんな矢など当たらんわ!!」


改めてセントの距離を縮めてくるザンギだが、またしてもセントの姿が消える。


「二発目」


ザンギのすぐ左側から声がすると、そこには槍を振りかぶっているセントが。


「……っ?転移だとぉぉぉ?!」


槍の一撃を弾くが、再びセントの姿が消える。


次に声がしたのは、足元からだった。


「三発目」


セントが小剣を突き上げてきたところ、どうにかバックステップでかわすと、今度は短刀と短剣を振りかぶったセントが頭上から現れる。


「四、五発」


大斧で受け流すと、次は左脇腹のあたりの死角から細剣の突きが放たれてきた。


「六発」


反射的に突きの反対方向へ飛び退くと、すぐ目の前にセントが現れ、既に剣の切り上げを放ち始めていた。


「七発」


「な、めんなぁぁぁぁ!」


ザンギは得物で受けるが、またしても姿を消すセント。


「八撃」


「………?!」


声はザンギの右上からだった。すぐさま得物での受けを選択するが、セントはあろうことか、手にした斧を投げ下ろしてきた。


ガキィィィィィン、と金属のぶつかる音が室内に響き渡り、セントから放たれた斧は床に刺さる。すると、すぐさま斧の姿が消え、セントの姿も共に消える。


「今度はどこだ……?!」


「……ここだよ。九撃目」


声は真下。セントの左手には爪、右手には小手が装着されていた。ザンギは体勢を崩しながら、向かってきた爪を受けるが、それだけではセントの突き上げる勢いは殺しきれない。

 そのままザンギの下顎に小手の一撃が刺さる。


「10発目」


「ガハッ…………」


急所を突かれ、脳震盪を起こすザンギに、セントは最後の一撃を与える。


「ラストワン!」


ザンギの頭上から、『まどろみの棍棒』を振りかぶり、頭頂に振り下ろす。


ガンッッッ!!


という鈍い音と共に、「フギャッ」という間抜けな悲鳴を上げ、ザンギは崩れ落ちた。


『………10分経過しました。これにて勝負を終了します……』


どこか、信じられないといったような声色の受付嬢のアナウンスで、終了が宣言される。


 そのすぐ後。

 しばらく二人の戦いを黙ってじっと見ていた人々から、ワアァァァァァッ、という大きな歓声が起こったのだった。














セント・トキワ レベル14


旅人レベル4


ブレイドパーティー所属


体術レベル4 武器操術レベル1(棍棒術レベル3 剣術レベル1 斧術レベル1 短刀剣術レベル1 小手術レベル1 爪術レベル1 槍術レベル1 細剣術レベル1 小剣術レベル1 弓術レベル1 投擲術レベル1) 盾術レベル1 手心レベル1 回避術レベル1 詠唱強化レベル1 思考加速レベル1 空間把握レベル2


旅魔法レベル5 治癒魔法レベル0 投影魔法レベル1


耐久力 SS


魔力 SS


筋力 C+


体力 C+


器用さ S-


知力 SS


精神力 SS


素早さ C+


称号 異世界転移者 世界を学ぶ者 武芸者 術戦士

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[気になる点] 最初から斬撃を転移で避けなかった理由 最初は避けるのがギリギリで肩を深く斬られた斬撃をなぜ詠唱し始めたら悠々と避けられるようになったのか? 時間をかけて弓矢をイメージして取り出した後、…
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