元おっさん、剣姫との第2ラウンドを繰り広げる
(しかし、とんでもない魔剣だな……)
これまで使った魔剣の能力。
【鉄鉱石】は単純に大型剣となって威力を増す。
【玉鋼】は視認不可の複数の剣。先ほどは防御に使っていたが、おそらく攻撃にも使えるだろう。そして、何らかの方法でリーゼンガルドは全てを扱えると考えた方がいい。
【紅玉石】は炎属性を纏った刀。だが、通常の炎属性よりもさらに扱える温度が高い。
【金剛石】は名前の通り、ダイヤモンド製の大剣。防御性能としては、おそらく魔剣の中でも最硬だろう。その分、かなりの重量があるだろうが、彼女ならば軽々と扱えるはずだ。攻撃としてもかなりの性能があるに違いない。
(これらのことから、他にありそうなのは、金や銀、ミスリル、宝石系のサファイア、アクアマリン、トパーズ、オパール、エメラルド、アメジスト等か。宝石系なら色からおよその予測は立ちそうだが……意外な効果があったとしても、おかしくはないな……)
「最初はこれからいきましょうか。【水宝玉】」
魔剣の刀身が、水がそのまま剣の姿になったようなものへと変化する。
「見たところ、水属性だな。ならば!【雷の衣】!」
セントの周囲に、雷が常時展開される領域が完成する。
「ただの水だと思っていたら、大間違いよ?【水蛇】」
リーゼンガルドが、初めてスキルらしき名前を放つと、魔剣から水の蛇が複数セントへ襲いかかる。
その一匹一匹が、雷の渦巻く領域を苦もなく進んで、セントへと噛みついてきた!
「何だと?!」
容赦なくセントに食らいつく水蛇達。その攻撃は、本物の蛇に噛まれた時よりも強い痛みを与えてくる。
「くっ、【癒しの光雨】!【鋭氷】!」
慌てて継続回復魔法でダメージを回復し、水蛇を凍らせて引き離す。
「チッ、なぜ【雷の衣】を突破された?」
「あら、気付かなかったの?水は雷を通すイメージだけど、完全なる真水の場合、一切通さないのよ?」
「……そういうことか」
リーゼンガルドに言われ、納得するセント。
(しっかし、守りに傾きすぎると、今回のように失敗しそうだな……。迎え撃つ方がいいかもしれん)
そんなことを考えつつ、相手の出方をうかがう。
「これは【水宝玉】の能力の一割にも満たないわ。ただ、これ以上の力を出すと、ここの鉱山は崩壊してしまいそうね……次にいきましょうか。【緑柱石】」
魔剣が今度は曲刀へと変わっていく。その刀身は、薄い緑色の光を放っている。
(風属性……?いや、属性を気にするのはもう無駄だな。あらゆる手で防いでみせる!)
「セント、貴方に捌ききれるかしら?【風の刀舞】」
リーゼンガルドの姿がブレる。
気付いた時には、肩口に強い痛みを覚えていた。
「……?!一瞬で斬られた、だと!!」
継続回復のお陰ですぐに傷口は塞がったものの、次は脇腹に痛みを覚える。
(マズい……このままでは一方的にやられるだけだ!)
「【大気壁】!【大地の要塞】!【鏡の盾】!」
「同じ手は食らわないわ!【淡白石】」
リーゼンガルドが新たな名を唱えると、セントの前に新たな大剣が召喚されてくる。
浮遊する虹色の刀身。
長さ3メートルほど。
それがセントに斬りかかってくる!
「同時にもう一本だと?!」
「魔剣が一本だけとは言ってないわよ?」
バリィィィィィィン、という音と共に、セントの魔法が破られる!
「なっ……?!魔法を消し去る能力か!!」
「正解。さぁ、どうするのか見せてみなさい、セント!」
不敵に笑うリーゼンガルドの声だけが聞こえてくる。
リーゼンガルドの姿は相変わらず目で捉えることができず、魔力感知と気配察知だけが頼りだが、動きが速すぎて、ほとんど意味を為さない。
【淡白石】の能力により、継続回復すら破られ、セントの負う傷が徐々に増えていく。
(ヤバい……マジでヤバい!まずは【淡白石】の魔剣をどうにかしないと……!!)
回復を【癒しの光雨】から【回復の水】へと変え、ダメージを負う毎に回復するように変える。
(オパールは……確か、水に浸けると色が変わるんだったな……やってみるか!)
「【降雨】」
ただ雨を降らすだけの、威力が皆無の初級魔法の発展型。それを【淡白石】の魔剣へ放つ。
「何をするつもりか知らないけど、そんな魔法は無意味よ?」
リーゼンガルドの声が聞こえてくるが、セントは構わず雨を降らす。すると、徐々に魔剣が色褪せていく。
完全に色が落ちたところで、試しに魔法を放つ。
「【炎玉】」
「無駄よ」
炎の玉は、【淡白石】の魔剣に当たる。
だが、これまでと違い、消えることなく弾かれた。
「…………?!魔法が消えない…………!!どうして!?」
今までそんなことが無かったのか、リーゼンガルドは思わず立ち止まり、かなり驚いていた。
「どうやら賭けに勝ったようだな」
「セント、何をしたのかしら?」
「単純に、オパールの特性を利用しただけさ。オパールは水に浸けると透明に変わるものがある。魔剣はオパール全ての特性を持っていると仮定し、色が変われば能力も変わるかもしれない、と思ってやってみただけだ」
「それが今の現象の説明なのね……なるほど、少し学ばせてもらったわ」
リーゼンガルドは能力が弱体化した【淡白石】の魔剣を消す。
「貴方の対応力を甘く見ていたようだわ。正直、貴方は予想を遥かに上回る振る舞いをしてくれたことに感謝している。約束の残りはあと5つ。これからその5つを一斉に繰り出す。最後まで立っていられたなら、今回は負けを認めてあげるわ。覚悟はいいかしら?」
リーゼンガルドの口許が嬉しそうにつり上がっている。セントとの戦いがかなり楽しいらしい。
「まとめてくるなら、都合がいいな。来い、リーゼンガルド!」
セントはミミックブレイカーを両手で構え、攻撃に備える。
「いいでしょう!【黄玉】【紫水晶】【月長石】【蒼玉】【黒曜石】」
リーゼンガルドの周りに黄色、紫、白、蒼、黒の5本の魔剣が新たに召喚される。そのうち、【黒曜石】と思われる漆黒の大剣を掴み、残りの4本が彼女を守るように周囲を回り始めた。
「【大地破壊】【幻影戦士】【反射結界】【範囲凍結】【陰影破斬】」
セントの立っている地面が揺れ、気圧が急激に下がってせり上がってくる氷柱が動きを阻害する。
さらにリーゼンガルドの姿が二人になり、輝く光を纏う。
その二人がセントを挟み、両方から同時に漆黒の軌跡が魔剣から放たれる。
「やられてたまるかよ!心姉!頼む!」
――――任せて、セー君!
「目には目を!歯には歯を!属性には属性を!大剣には大剣を!!」
ミミックブレイカーを大剣に変え、心音の協力の下で風属性、光属性、闇属性、火属性と【解除】を付与。
さらに、性能強化と事象変化、限界突破まで使い、渾身の技を繰り出す!
「【払車斬】!!」
揺れる地面などお構い無しに、氷柱を破壊し、荒れ狂う暴風の如く、魔剣の軌跡を弾いていく!
「なんですって?!」
焦ったような声を出すリーゼンガルド。
セントの技はそれだけに止まらず、リーゼンガルドの幻影すら切り裂いていき、最後にはガキィィィィィィィィィン、という甲高い音と共に、ミミックブレイカーが【金剛石】の魔剣と鍔迫り合いをする状態になっていた。
「……手加減していたとはいえ、ここまで追い詰められたのは久しぶりだわ。……いいでしょう。今回は私の負けよ」
「【金剛石】か。いちいち名前を言わなくても変えられるんだな」
リーゼンガルドが魔剣を元の一振りの剣に戻すのを確認すると、セントはミミックブレイカーを収納へ戻し、彼女から距離を置く。
「ええ、そうよ」
そう言うと、彼女は一瞬で魔剣を消す。
「収納魔法……なのか?」
「いいえ、違うわ」
セントの質問に、即否定するリーゼンガルド。
再び魔剣を出してみせると、説明をしてくれた。
「この魔剣は、私の魔力によって生み出された存在。そのため、私以外には使えない。私の世界には、これと同じことができる者が他に6人いる。それが、《剣姫》という存在よ」
「《剣姫》か……。俺が勝ったことになっているなら、リーゼンガルドのことを他にもちゃんと教えてくれるんだよな?」
「当然よ。約束は必ず守る。それが私の《剣姫》としての矜持なんだから。これから話すことは、全て真実。しっかりと聞きなさい」
「わかった」
リーゼンガルドは、そう前置きをしてから、ここまでのことを話し始めた。




