元おっさん、仲間と情報を整理する
冒険者ギルドに来たはいいが、どうやら新たな情報や魔王教会に関係しそうな依頼は無かった。
「やっぱ、ハズレか……」
気を落とすルー。
「気にするな。ある程度予想は出来ていた状況だ。町の人々からも話を聞いてみようぜ?何か突破口になるものがあるかもしれない」
セントはそう言ったものの、結局夕方まで町中を動き回っても、有力な情報は得られなかった。
休憩がてら、町の広場の噴水前で座る。
「……これほど話を聞き回っても、これといったものがないとはな……」
セントとルーは、話を聞くべく、町の様々な場所を訪ね歩き、時には簡単な頼まれ事もこなしてきた。それでもこの様だったのだ。
「仕方ないね……今日はもう宿に戻ろうか」
「だな」
二人が立ち上がったところで、突然声をかけられた。
「あんたら、ちょっといいか?」
声のした方を向くと、先ほどまで誰もいなかったところに、いつの間にか全身黒ずくめの男が立っていた。
「僕達に、何か?」
ルーが警戒するように答える。手は、いつでも剣を抜けるように準備してある。
「そう警戒しないでくれ。あんたら、町中で色んな話やちょっとした仕事をしていたようじゃないか。良かったら、俺の頼む仕事をしないかい?ちょっとヤバい仕事なんだが、報酬は弾ませてもらう」
男の話を聞き、セントはおそらく裏の仕事らしいと当たりをつける。
「内容によっては、聞いてやらんでもない。殺しや盗みはやらんぞ?」
セントの言葉に、男は頷く。
「安心しろ。俺が頼む仕事というのは、ある場所を探し出して欲しい、というものだ」
「ある場所?」
「そうだ。知っているかもしれないが、ここ、港町サドーナは、クラン王国の貿易拠点の一つで、王国からもある程度の自治が認められている。基本的に町長がまとめて事務を執行しているのだが、温厚な性格であること以外は、あまり有能とはいえない。それを補佐しているのが、副町長と出納役なんだ。副町長は、町長の幼馴染みの女性で、かなり有能だ。その夫である出納役も有能ではあるが、悪い噂も絶えない。その中に、妻には内緒で、気に入った少女を囲っている、というものがある。その少女達の居場所を探ってもらいたい」
要は、不貞現場を押さえてほしい、とこの男は副町長に依頼されたのだろう。
「仮に、その噂がデマだった場合はどうなる?」
セントが尋ねると、男は即答する。
「問題なく、報酬は払わせてもらう。尤も、証拠もある程度揃っているから、そんなことはないと思うが」
「そうか。ならば引き受けよう」
セントの了承に、男は安堵する。
「ありがたい。出納役は、地下水路入り口の近くに拠点をもっている奴隷商人と繋がっているようだ。そこで何らかの手段で呼び寄せた少女達を品定めしているらしい。俺は奴等に知られているようで、近づけないんだ。頼んだぞ?」
男は影に沈むように姿を消す。
「さて……ルー。引き受けた以上、あいつらにも話をしておかないとな」
「……そうだね」
ルーはセントの考えを察し、浮かない顔で相槌を打った。
宿に戻り、ルーは伝令の羽ペンでパーティー全員に情報交換をする旨伝えておく。
相変わらずミリアからは連絡がないが、それが普通のようになってきていることに、ルーは項垂れる。
宿の会議室で5人が集まり、円卓を囲む。
最初に口を開いたのは、ネイだった。
「こっちは、魔王教会に関係あるかわからないけど、ギルドに家出の子を探してほしいって依頼が出されていたよ。それも、複数。家出の理由は、些細な喧嘩だったらしいけど」
「魔法使いギルドでは、何人かの新人魔法使いが依頼を受けたまま行方不明になっているっていう話を聞いたわ。ルー達が受けた少女失踪調査と違って、こちらは男女問わず、だけど」
シルバも被せるように伝えてくる。
「エルフギルドでは、そういった話は聞いてないわ。ただ、何人かの少女が、自分からある建物に入っていくのを見たっていう情報があったわ。少女の一部はその建物から出てきてないみたいよ?」
レーネの言葉に、ルーとセントは自分達が引き受けた依頼と繋がりそうだと気付く。
「レーネ、その建物って、もしかして地下水路入り口の近くにあるのかい?」
「え?えぇ、そう聞いているわ」
ルーの質問に、レーネは少し驚きつつ答える。
「実は、俺たちはある男から依頼を新たに受けた。この町の出納役が、地下水路入り口近くに拠点を持っている奴隷商人と繋がっているようでな。そこで何人かの少女を呼び寄せ、品定めをして、気に入った者をどこかに囲っているらしい。その場所を探して欲しい、というのが内容だ」
セントの話に、考えを察したのはシルバ。
「なるほど。セントが私達にそれを話したってことは、私達の誰かを囮にして、場所を明らかにしたい、ってことね」
「……僕としては、本心では反対だ。仲間をそんな場所に送り込むなんてできないよ」
ルーがギュッと拳を握りしめる。
「……アタシが行こうか?」
そんな中、ネイが自ら名乗り出る。
「アタシだったら、シーフのスキルで、牢に入れられたとしても、抜け出せる自信があるよ?」
「……ネイが行くなら、私も一緒に行こうかしら。私はネイのようなスキルは無いけど、いつでもセントを介して状況を伝えられる。いい作戦だと思うけど?」
シルバも続いて立候補すると、ルーが止めようとした。
「二人の意思はありがたいけど、やっぱり心配だよ……何かあったら、って思うと……」
すると、セントはルーを落ち着かせるように言い聞かせる。
「ルー、ネイとシルバの実力は認めているんだろ?だったら、思いきって二人を信じてやれ。まさか、奴隷商人程度に二人が負けるとは思ってないだろ?」
「それは……そうだけど……」
セントには、ルーの心配が手に取るようにわかった。
ミリアの件で、かなりナーバスになっていて、すぐ近くにいる者達をいつでも守れるように、側に置きたいのだろう。
「それに、詳細はまだ明かせないが、万が一のための保険も掛けてある。お前はただ、信じてやれ。場所がわかったら、すぐに乗り込めるように準備もしておけよ?」
「保険……?つまり、セントには、何かできる用意があるってこと?」
「そういうことだ。だから、安心しろ。お前は勇者だ。決して、希望の灯を絶やすんじゃないぞ!」
セントの言葉で、ようやくルーにも踏ん切りがついた。
「……よし、じゃあ、二人に任せる!頼んだよ、ネイ!シルバ!」
「「任せて!!」」
こうして、ネイとシルバによる囮作戦が始まったのだった。




