元おっさん、情報を集める
魔王教会の情報を集めることは決まったが、セントはここでやっておきたいことがあった。
「ルー、このアジト、どこまで探索した?」
「飛ばされた先の部屋から、とりあえず左側の壁を伝ってきただけだから、そんなにできてないと思うよ?」
「そうか……んじゃ、ひとまずその部屋まで案内出来るか?」
「わかった。付いてきてくれ」
ルーを先頭にして、件の部屋へ連れていってもらうと、そこには気を失った術者と、ルーが倒したという術者の遺体の他に、調査へ来たのであろう者達の無惨な姿があった。その数、およそ12。
「こんなに犠牲者がいたとは……全く気が付かなかったよ」
ルーはギュッと拳を握りしめる。
セントはとりあえず、犠牲者の遺体を収納しておく。後で丁重に埋葬するためだ。
召喚体のモンスターは、おそらく術者の気絶により魔力が霧散し、自然と消えたのだろう。
気絶している術者は、縛って魔法で氷漬けにしておいた。
「それにしても……妙だな」
「セント、何か気になることでもあるのかしら?」
シルバの質問に、セントは考えるように答える。
「ちょっと、な。犠牲者の中に、女性が一人もいないんだよ」
「そこまで気にする必要はないと思うわよ?男性だけで構成されたパーティーは無いわけではないし、女性が別に拐われたところで、売られたりするのがよくあることだもの」
「そういうものか……?」
セントの中では、何か引っ掛かるものがあるが、今は置いておくことにした。
「なあ、ルー。ミリアを連れ去った奴等は、どうやってこの部屋から出たんだ?」
「おそらく、使い捨ての転移の魔道具によるものだと思う。何か小さなものを投げた後で光る魔法陣が現れ、そこに乗ると、一瞬で消えていったから」
「どの辺りだ?」
「確か、入り口から向かって左奥付近だったかな……」
言われた辺りへ向かっていく。
「この辺か?」
「もうちょっと奥……そう、その辺り」
ルーの指示にそって、セントが移動する。
「この辺りか」
何故そこに行ったかというと、何らかの手がかりになりそうなものが落ちてないか確認するためだ。
その場所を目を皿のようにして見るが、残念ながら何も無かった。それは大体想定していたので、次は解析鑑定を試みる。
すると、ウィンドウに結果が現れた。
(やはり、魔力の残滓が残っていたか)
結果は、魔王教会本部地下への転移の跡、と出た。しかし、その場所がどこにあるかまではわからない。
「何かわかった?」
「一応、どこへ行ったかはわかった」
「ホント?!ど、どこに?!」
物凄い剣幕で迫ってくるルー。
「落ち着け、ルー。場所がわかったところで、そこがどこにあるかまではわからないんだ。ミリアは、魔王教会本部地下へ連れて行かれた。そこがどこにあるかわかれば、ミリア救出に向かえる」
セントの言葉に、ルーは一気に気を落とす。
「そう言われても……現状ではわからないかな……」
「手がかりがあっただけでも、十分だ。明確な目的地がわかったのだから、次はそこの情報を仕入れればいい」
「……ポジティブだね、セントは」
ルーが羨ましそうな目を向けてくる。
「当たり前だろ。じゃなきゃ、異世界生活なんてやってられねーよ」
「……ふふっ、それもそうだね」
調子を取り戻しつつあるルーに、セントは一つ、提案する。
「ダメ元だが、盗賊団のボスを探して、口を割らせるか?」
「やってみる価値はあるかもね」
そう言って、三人はアジトの探索を再開する。
探索の途中で、セントは、そういえば、と言って、二人に自分の疑問をぶつけてみる。
「モズの村長は、どうして盗賊団のアジトが廃墟にあることを知っていたんだ?」
「……誰かが噂を流した、とか、盗賊の後をつけた、とかかしら?」
「いずれにしても、村長にも話を聞く必要があるかもしれんな……」
小一時間ほど探索すると、ほぼアジトの地図が完成する。残すは、三人の前にある部屋のみ。途中で遭遇した気絶している盗賊団員は、縛って氷漬けにしてきた。
部屋には、盗賊団のボスらしき、大柄の男が泡を吹いて気絶していた。
ひとまず縛って、顔以外を凍らせておく。そして、顔に【弱水】をぶっかけ、意識を取り戻させる。
「……ブハッ?!な、なんだ貴様らは?!」
男に、ルーが微笑みながら尋ねる。
「あなたが、盗賊団のボス、ということで良かったかな?」
「そ、そうだ」
男は自分が動けない状況にあることを理解し、警戒しながら答えてくる。
「なら、話は早い。……魔王教会の本部がどこにあるか、知らないかい?」
「フン、知らんな!例え知っていても、貴様らには教えるつもりはないな!」
そう言うと、男は三人を睨み付けるような視線を向けてくる。
「それより貴様ら、俺に手を出すと、どうなるかわかってんのか?雇い主の魔王教会の暗殺者が、お前らの命を奪いにくるぞ?」
脅しのように言ってくるが、三人は平然としている。
「へぇ……向こうから来てくれるなら、大歓迎だ。返り討ちにして、本部の場所を吐かせるだけだし」
「調子に乗っているのも、今のうちだ。このアジトには、複数の死霊術師がいる。もうすぐここに来るはずだ」
強がるような表情の男。
「ああ、それなら期待できないよ?何せ、このアジトは既に制圧したから。術者も、今は縛った上で氷漬けにしておいたよ?」
「な……なんだと……」
愕然とする男に、ルーが再度尋ねる。
「もう一度聞くよ?魔王教会本部は、どこにあるのかなぁ?」
笑みを浮かべるルーに、男は底知れぬ恐怖を抱く。
「し、知らない!知らないんだ!」
「……それは本当かしら?」
シルバが【氷槍】を魔法変化で球状にして、男に近づけてくる。
目の前に出された球状の魔法から、尋常ではない魔力を本能で感じ、男の顔が青ざめていく。
「ほ、本当だ!信じてくれ!」
命乞いをするような声色で叫ぶ男。
その様子を、セントはじっと観察し、男の言葉の鑑定をしていく。
(心拍数は、この状況から高くなっているのは当然か……脳波は……異常とまではいかないようだ。もう少し様子をみてみるか……)
「シルバ、ルー。一応は信用してみよう」
「いいの、セントは?」
「一応、と条件をつけているだろ。こいつにもう一つ聞きたいことがある」
「は、話す!何でも話す!だから、この魔法を離してくれ!」
「シルバ」
「わかったわ」
シルバに一度退くように言うと、表面上従ってくれるが、【呼び出し】でセントに真意を尋ねてきた。
『セント、何か考えがあるんでしょ?』
『当然だ。こいつが嘘をついているかを確認してみる』
『そう。それじゃ、任せるわ』
魔法を解除し、シルバが男から離れる。
「た、助かった」
男はホッとしたような表情になる。
「じゃあ、聞くぞ。お前はモズの村長に、盗賊団のアジトが廃墟にあることを、わざと伝えたか?」
男はドキッとしたように、心拍数が一瞬で上がる。
「そ、そんなことは……」
視線をさ迷わせた男の様子に、これが嘘だとわかる。
「……シルバ、魔法を」
「ええ」
再びシルバが、男に球状にした魔法を近づける。すぐさま男は訂正する。
「わ、悪かった!モズの村長にここを伝えたのは、確かに俺だ!雇い主に、そうするように言われたんだよ!!」
鑑定結果、これは本当のことらしい、と確信したセント。
『シルバ、今のはどうやらホントらしい』
『そう。わかった』
またしても魔法を解除するシルバ。
以降は、男は諦めたとばかりに、ベラベラと喋り出す。
「……俺たちは、魔王教会の奴等から取引をもちかけられたんだ。このアジトに人をおびき寄せるだけで、一人につき3000Gの報酬を与える、と。そのために、魔王教会の術者を貸し出す、と。それから、モズの村長には、わざとこの場所を教えて、調査を依頼するように仕向けるように、と言われたんだ」
(なるほど……モズの村長は、こいつらにいいように使われただけか。となると、村長に話を聞いたところで、この男の言っていることの裏が取れるだけ、だな)
「おびき寄せた人は、どうして殺したのかしら?」
「俺たちはただ、おびき寄せただけだ!殺してない!やったのは、魔王教会の連中だ!」
この言葉も、どうやらホントらしい。
(どうやら、これ以上は有力な手がかりは得られなそうだな……)
盗賊団は、どうやら魔王教会の駒に過ぎなかった。しかも、かなり下っ端待遇で。
(ならば、氷漬けにしていた術者の方がよっぽど情報をもっていそうだな。まぁ、ここに派遣されてきたのなら、奴等も相当下っ端だろうけど)
それに、魔王教会の信者は、自分の命も簡単に捨ててしまうような連中だ。下手に情報を得ようとして、自爆でもされたらたまったものじゃない。
「ちゃんと本当の事を話してくれたようだな。感謝するぞ」
セントは男の頬をペタペタと触る。
「じゃ、じゃあ、俺を解放してくれるんだな?さぁ、早くやってくれ!」
期待するような目を向けてくる男に、セントは真顔でその希望を打ち砕く。
「はぁ?何言ってんだ?一応信用はするが、それ以上のことは俺は何も言ってないぞ。お前は、これから然るべき所へ引き渡し、これまでの罪を償ってもらう。それに、直接ではないにしろ、お前は俺の仲間に手を出した。それは決して許さない……」
セントの右手に、魔法変化で球状にした【鋭氷】が冷気を放ち始める。
「ま、待ってくれ!それだけは……」
セントに何をされるかを察した男は、青ざめた顔で懇願してくる。
「そう言ってきた者達を、お前らは見逃してきたのか?そんなことはないだろう?これは、因果応報。お前らは、しばらく氷の中で反省してろ!!」
セントの右手から、【鋭氷】が放たれ、唯一氷漬けから逃れていた男の顔も、ついに氷漬けにされる。
「セントはこれで良かったの?もう少し情報を得られたんじゃない?」
ルーの問い掛けに、セントは首を振る。
「いや、こいつはこれ以上、知っている情報は無さそうだ。魔王教会の下っ端の下っ端の駒だ。魔王教会とはただ取引をしただけの薄い関係らしいな」
「そっか……」
ルーは残念そうな顔になる。
「当初の予定通り、それぞれが魔王教会本部に関する情報を探していこう。まずは、ここからモズの村まで転移するぞ」
「……わかった」
「ええ」
突然モズの村まで戻ってきた三人を見て、村長のモーリが驚いた。
「なんと?!転移魔法とは……さすが勇者パーティーですな!……おや?勇者様と共におられた聖女様の姿が見えませんが……」
「実は……」
理由を話そうとするルーに、セントが待ったをかける。
「ルー、俺が話す」
「セント……わかった、任せるよ」
何かの意図があると察し、ルーはセントの後ろへ下がる。
「ミリアは別行動をしていてな。それより、調査に向かった者達を見つけた。……残念ながら、もう亡くなっていたよ」
「……そうでしたか。では、調査を依頼した我々にも責任はあるでしょう。村の外れにある墓地へ埋葬させていただきます。盗賊団がいなくなったあたりに、遺体の回収に向かいます」
無念そうに俯くモーリ。
「その必要はない。盗賊団のアジトは制圧したし、奴等も捕縛した。遺体も回収済みだ」
「……ありがとうございます。では、早速墓地へ向かいましょう」
モーリに連れられて、村の共同墓地へ案内される三人。移動の途中で、セントはモーリに気になっていることを質問する。
「村長、あんたは盗賊団のアジトの場所を、ボスの男から聞いていたそうだな?」
「はい。奪われたものを取り返したくば、アジトのある西の廃墟へ来てみるがいい、と。ですが、我々のような、戦う力のない者にとっては、容易なことではありません。そうなると、冒険者のような者達に頼むしかないのです」
「調査を依頼した者達の中に、女性はいたか?」
「女性?ええ、確か、3人くらいはいたと思います。それが何か?」
「……いや、いい。確認したかっただけだ」
モーリの話を聞き、セントはある予測を立てる。シルバの言う通り、既に売られてしまったか、或いは、魔王教会の連中に、ミリアと同じように拐われたか。
「着きました。ここです」
辿り着いたところは、村の入り口から400メートルほど離れた、小高い丘。その上に、いくつか積み上げられた石があった。おそらく、墓石の代わりだろう。
「皆さん、少し離れてください。魔道具を使います」
言われた通り、モーリから2メートルほど離れると、モーリは懐から、トパーズのようなオレンジ色の宝石らしき魔道具を取り出す。
「死者へ、安らかな眠りを」
そう唱え、地面に放り投げると、直径2メートル、深さ10メートルほどの穴が口を開ける。
「お待たせしました。この穴に、遺体を入れてください」
セントがそこに、収納した遺体を出していく。
「これでアジトにあった遺体は全てだ」
「わかりました。では……」
セントが穴から離れたのを確認すると、モーリは、
「死者よ、安らかに眠りたまえ」
と唱え、穴が塞がれる。
「これで、埋葬は終わりです。ありがとうございました」
「いや、構わない。あとは……コボルトだな」
丘から北を見下ろすと、遥か遠くに、森のような場所が見えた。
「なあ、村長。北に小さく見える木々が生い茂っているところが、コボルトの巣か?」
「ええ。ここからなら、奴らの動きがわかりますから。ここは埋葬の他に、よく見張りに使っております」
「墓地を見張り台の代わりに?この下には、複数の遺体が眠っているんだろ?何か思うことはないのか?」
セントの感覚からすれば、墓地なんて長時間いたくない場所の一つだ。
「そう仰る方ももちろんいるでしょう。ですが、あの魔道具には、死者のアンデッド化を防ぐと共に、モンスターを寄せ付けない結界も張ってくれるのです。モンスター以外の存在には一切影響はありませんので、万が一村がモンスターに襲われるようなことがあれば、ここが最も安全な場所になるのですよ」
「なるほどな……」
コボルトの巣を眺めながら、セントは次の行動を考えるのだった。




