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元おっさんの異世界転移生活  作者: たくさん。
第一章 勇者と魔王
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元おっさん、仲間と戦う

「……本気、なのか?」


「ええ。当然よ」


「……わかった」


「ちょっと?!二人とも、落ち着きなよ?」


ネイが止めようとするが、セントはそれを手で制する。


「ネイ、お前が俺たちの戦いを見届けてくれ。大丈夫だ、お互いに死なない程度の加減はできる」


「でも……!仲間同士で戦う理由なんて、全然ないじゃん!!」


「……ネイ、私にはこいつと戦う理由があるの。それこそ、私の、ルーのパーティーでの存在意義をかけて!」


言うと、シルバは【炎玉(ファイヤーボール)】を放つ。セントはその軌道を読み、ステップでかわす。


「【氷槍(アイスジャベリン)】!」

「【炎槍(フレイムジャベリン)】!」


シルバの手からは氷の槍が。

セントの手からは炎の槍が放たれる。


お互いの魔法は二人の中間地点で衝突し、大きな爆発が起こる。


爆発から離れた位置へ移動していたシルバは、次の魔法を放つ。


「【風刃(エアカッター)】!」


風の刃がセントへ向かっていく。


「【土壁(アースウォール)】!」


すぐさま土の壁で防ぐセント。風の刃は土の壁に当たり、セントには届かない。


「【光の矢(シャイニングアロー)】!」

「【闇の盾(ダークシールド)】!」


続けてシルバは光の矢を放つが、セントは闇の盾で防ぐ。


「……ほんっとに気にくわないわ!何なの?あんたのその対応力は!!あんたなんか、大っっっっ嫌い!!!」


苛立ったようなシルバに、セントは表情を変えない。


「そんなこと、とっくの昔に知ってたさ。ま、俺はお前が嫌いじゃないけどな」


「ふん!勝手に言ってなさい!【水槌(ウォーターハンマー)】!」


「【雷の衣(サンダーカーテン)】!」


シルバの水の槌は、セントの雷のマントに阻まれる。


「これならどう?!【石礫(ロックブラスト)】!」

「【鋭氷(アイスランス)】!」


 シルバの石礫に、セントは氷の刃で対抗する。氷の刃は石礫を砕き、セントへ向かってくる数を減らしていく。ただ、全てを砕くことは出来ず、一部がセントの肌を掠めた。

 同じように、シルバもまた、石礫を抜けてきた氷の刃が白い肌を傷つけられる。それが、シルバの怒りをさらに高めた。


「やってくれるわね……少し本気を出すわ!【炎渦(フレイムストーム)】!」

「そっちがその気なら!【水の柱(ウォーターレイ)】!」


シルバの炎の渦は、セントの水の柱によって相殺される。


「ふん、中級魔法程度じゃ、あんたには通用しなさそうね………それなら!【氷嵐(ダイヤモンドダスト)】!!」


 氷の嵐が吹き荒れ、セントに襲いかかる。


「……!!上級かよ?!なら!【鏡の盾(ミラーシールド)】!!」


 セントは投影魔法で対抗する。


「あ、が、れぇぇぇぇぇぇ!!」


氷の嵐を鏡の盾で受け止め、天井方向へ押し上げる。押し上げられた氷の嵐は、フロアの天井付近で舞い踊り、破壊しながら霧散していく。


「………!上級まで防ぐなんて!!」


シルバは、素直に驚いた。まさか、上級魔法まで防がれるとは思わなかったのである。


「………なんなのよ………!あんたは………!!私がここまで来るのに、どれだけ努力したと思ってるの……?!それを、ぽっと出のあんたなんかに………!!」


 シルバの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。



 シルバは元々、魔法の才能があるわけではなかった。魔法使いを育成する施設で、常に他者よりも一歩も二歩も魔法を覚えるのが遅く、下に見られていた。

 ただ、容姿はずば抜けて良かったので、魔法を教える、というのを口実に、多くの男から言い寄られていた。最初はただの厚意からだと思っていたが、いざ二人きりになると、豹変して襲われ、貞操の危機に陥ったことがあった。


 その際、自分の身を守るべく無意識に放った下級魔法が、他の魔法使いのものとは比較にならないほどの威力だった。

 その時に気づいた。自分の魔法は、他人が使う魔法の数段上をいくものだということを。


 それから、シルバはひたすら使える魔法を徹底的に使いこなせるような努力を重ねた。少しずつだが、魔法の種類も増えていった。そうして、ついに最上級魔法まで使えるに至ったのである。


「……このままだと、いずれあんたは私を上回る……!そうなったら………私は……!私は………!!」


 大粒の涙を流し、ありったけの声で、叫んだ。


「ただの………劣化魔法使いになっちゃうじゃない………!!そんなの、耐えられない!ルーの側にいられなくなっちゃうじゃない………!!!嫌よ!!せっかく………せっかく私を認めてくれた人に出会えたのに…………!!!!」


 まだ仲間が揃ってなかった当時。ルーはミリアと共に、魔法使いギルドを訪れた。

 自分こそは、と思った者は、必死に二人にアピールしていく中。シルバは一人、訓練所でずっと魔法の技術を磨いていた。その姿を見たルーが、


「僕たちと一緒に来てくれないか?」


と誘ったのである。

 誘った理由を尋ねると、純粋にシルバの魔法が凄いものだと思ったからだ、と答えた。


 シルバにとって、自分の魔法が初めて他人に認められた瞬間だった。それが、何より嬉しかった。


 そして、ルー達と旅を始めると、その嬉しさがいつしかルーへの恋心へと変わっていったのだ。


「あんたなんかに………あんたなんかにルーは渡さないんだから!【灼熱の獄炎(クリムゾンフレア)】!!!」


最上級火魔法、【灼熱の獄炎(クリムゾンフレア)】。シルバが使える、最強の魔法のひとつ。相手を火球に閉じ込め、消滅するまで延々と全身を焼いていく魔法だ。火球の直径は約5メートル。逃れようにも、炎が纏わりついて、体を動かすことすらできなくなる。


「最上級魔法?!これがシルバの本気か!!なら、お前の心の叫びと共に、この身に受けてやる!【水の羽衣(ウォーターベール)】!【氷の鎧(アイスアーマー)】!【火壁(ファイアウォール)】!【風の守り(ウインドガード)】!【土の盾(アースシールド)】!【癒しの光雨(ヒールレイン)】!【闇の結界(ダークバリア)】!」


 セントは自分の考えうる最大の防御魔法を何重にもかけ、少しでもダメージを減らそうとするが、シルバの魔法はそれらを上回る勢いでセントへ迫ってくる。

 しかし、セントは諦めずに何度も魔法をかけ続け、どうにか威力を減衰させていく。


「どうして……どうして受けるのよ………?あんたなら、かわすことだって出来たはずよ………?」


涙でグシャグシャになった顔のまま、シルバはセントに問う。


「………確かにな………。だけど……それじゃダメなんだ………。俺はお前の苦しみがわからない……。だからこそ……お前の魔法を受けることで………魔法に込められた思いを感じ取らなければならない……!分かろうとしなければならない!!」


 セントは歯を食いしばり、近づいてくる灼熱に肌を焼きながら、尚も防御魔法を展開していく。

 身体中の水分は、もうかなり蒸発していることだろう。

 頭がクラクラしてくる。

 吐き気までしてきた。

 そう、熱中症の症状にかなり似ている状態だ。

 だが、ここで倒れるわけにはいかない。

 ちゃんと、最後までシルバの思いを汲み取ってやらなければならない。


「……俺は……!シルバ………お前を………!心から………尊敬している………!!お前こそ………世界最高の………魔法使いになれると………信じているからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 セントは最後の力を振り絞り、思いっきり叫ぶ。

 同時に、ついにシルバの魔法が霧散した。


「……はぁ……はぁ………シルバ………お前は………ルーのパーティーに………必要な存在なんだよ………!!」


「………!」


そこまで言って、バタリと倒れ込むセント。その姿は既にボロボロだ。

こんな状態にしたのが自分だと自覚すると、シルバは自分がしてしまった事態に呆れてしまった。


「はは………はははっ………私………何やってんだろ………」


 シルバはペタッとその場に座り込んでしまう。

 ただ、その表情は、何か吹っ切れたように清々しかった。


「セ、セント、大丈夫!?」


二人の戦いを見守っていたネイが、セントへ駆け寄る。


「……大丈夫なわけ、ねーよ………。さっすが、世界最高の魔法使いになれる女……やっぱ強ぇわ……」


「もう、無茶しすぎ!なんでここまでボロボロになってまで戦うのさ……?」


口を尖らせて文句を言うネイ。その目元は、若干潤んでいる。どうやら、かなり心配させたらしい。


「……本気で喧嘩しなきゃ、わからないことだってあるんだよ………」


「ただのバカじゃん……アタシにはわからないよ……」


 ネイはプイッと頬を膨らませ、シルバの方を見る。すると、ちょうどシルバが立ち上がってこちらに歩いてくるところだった。


 シルバはセントの前にくると、しゃがんでセントの顔を両手で抱える。


「……セント、あんたって、ほんとバカよね。私と魔法で本気の喧嘩なんて、誰もやろうとしないわ。もう少し利口になれないの?」


「……うるせぇ。俺は利口のままボッチで過ごすよりは、バカになって仲間と過ごす方が好きなんだよ!」


 セントはそっぽを向こうとするが、シルバにがっちりと顔をホールドされているので、失敗する。


「「やーい、バーカ!バーカ!!」」


 茶化すように、バカを連呼するシルバとネイ。そして、お互いにクスクスと笑い合う。


 一頻り笑い終わると、シルバはようやくセントのホールドを解き、立ち上がる。そしてセントに背を向けると、セントの予想外の言葉を放った。


「……バカだけど……でも、あの時、あんたのことが少しわかった気がする。あんたは、他人のほんの些細なことでも認め、伝えるような度量がある。あんたもまた、私を認めてくれた人の一人だ、ってことが伝わってきた。………ありがと、セント」


 シルバのその時の表情は、セントとネイには窺い知れない。ただ、前向きなものだったに違いない。




 突如、天井付近に、黒い靄のようなものが集まり出した。

 その靄は、徐々に姿を変えていく。


「な、なんだ、あれは……」


 黒い靄は、全長30メートルはありそうな、羽を持った蛇の姿に変化していた。同時に、階下への階段の入り口が塞がれる。


「まさか……このダンジョンのボス………?!」


 ダンジョンのボス部屋は、ボスが現れるとその部屋からの移動が不可能になる。出るためには、ボスを倒すか、全滅するかしなければならない。

 仮にボス部屋で全滅すると、ダンジョン内で手に入れたものは失われ、強制的にダンジョン入り口まで転移させられるのである。


「……ったく……。よりによってこのタイミングかよ………」


セントは立ち上がり、ボスを見上げる。


「シルバ、まだ行けそうか?」


「……ええ、どうにかね。ただ、かなり魔力を消耗したから、上級なら4発、最上級なら2発が限界かな」


「アタシはいつでも行けるよ!」


シルバは少し厳しそうだが、ネイはほぼ万全そうだ。


「よし、やるか。【回復の水(キュアウォーター)】」


「助かるわ」


 セントは自身とシルバを回復し、いつでも動けるように準備しておく。


 ボスを観察していくと、鑑定結果がウィンドウに表示される。


「レヴィアタンの使徒……?物理無効能力と魔法無効能力を持っている、だと………?!」


「なに、それ?!どうやって戦えばいいっての?!」


 ネイが少し焦った声を出す。


 セントは冷静に、相手を見ていく。すると、微妙に体の色が変化していることに気づいた。


「……もしかしたら、能力発動には、何か条件があるのかもしれないな。色が赤くなったり、青くなったりしている。どちらかがおそらく無効能力を発動しているかもな……」


「それがわかっただけでも十分よ。なら、あとは挑むだけ!やるわよ、セント!ネイ!」


「「了解!!」」


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