元おっさん、単独で強敵に挑む
「……やる気だな。そうこなくては」
セントは左手に盾、右手に剣を装備し、念のため【大気壁】も展開しておく。
ゴブリンキングは踏み込みから大剣を振り抜く。セントとの距離は、およそ10メートル。斬撃でも飛ばしてくるのかと警戒したが、そうではなかった。
セントが全く予想してなかった攻撃。大剣の刀身が伸びてきたのである。
「……何だと?!」
大剣の攻撃は、【大気壁】を破り、盾すら切り裂いて見せた。さらに、装備していた胸当てまでも斬り、衝撃でセントは吹き飛ばされる。
「……ぐぁっ………」
壁に叩きつけられ、思わず呻き声を発してしまう。同時に、口から吐血。斬られた胸からは赤い線が延び、流血を生じていた。
セントの様子に、ゴブリンキングの口許が邪悪に上がる。
「……やるじゃ……ねぇか………」
追撃をしようと、ゴブリンキングはセントに近づいてくる。距離が5メートルほどに縮まったあたりで、再度大剣を上から振り下ろす。
「【鏡の盾】」
直後、セントはジャイアントラパン(赤)戦で使った魔法を発動。ゴブリンキングの攻撃は阻まれる。
「【回復の水】」
セントはミリアから教わった治癒魔法で自身を回復し、剣を杖代わりにして立ち上がる。ただ、この魔法では、軽傷と体力くらいしか回復できない。セントはそれ以上の治癒魔法をまだ使えないのだ。
「……ったく。ルーに買ってもらった防具が台無しじゃねーか。こりゃ、後で怒られるな……」
ゴブリンキングは、どうにかして前の障害物を破壊しようとして、何度も【鏡の盾】を攻撃する。その結果、周囲には、攻撃によって削られた鏡の破片がいくつも飛び散っている。
「【破壊の応酬】」
ゴブリンキングに、無数の破片が勢いよく襲いかかる。予想していなかったのか、その身に破片を受け、全身の至る箇所から出血する。ただ、それだけでは倒れない。
ゴブリンキングは思わぬ反撃を受けたことで怒り狂い、滅茶苦茶に大剣を振り回す。部屋中に切り傷が生まれ、一部は崩落する。
セントは転移で既に逃れていたので、直接のダメージはないが、落下してきた大小の岩が左肩に当たり、痛めてしまう。
(ちっ……上に【大気壁】展開しとくべきだったな……)
これでは、しばらく左は使えないだろうな、と反省しつつ、ゴブリンキングの様子を見る。奴とは30メートルほど離れているが、あの刀身が伸びる大剣の攻撃範囲がまだわからないので、油断はできない。最悪、転移で逃げることも考えておく。
(さて……使える右だけで、どうやったら勝てるか……)
まずは、厄介なあの大剣をどうにかするべきだろう。相手は大剣を両手で扱っているので、もしかしたら片手を斬り飛ばすだけで攻撃を封じられるかもしれない。
そう思い、大剣を注意深く観察していく。すると、これまで見たことのないウインドウが現れた。
(『ゴブリン王の大剣』……?魔力を込めることで、その刀身を自在に伸ばすことができる……?これ、解析鑑定スキルの結果か!)
新たな発見があったものの、状況は変わっていない。寧ろ、魔力によって無制限に刀身を伸ばせることがわかり、攻撃範囲がそれに合わせて広がっていくことから、悪化さえしているかもしれない。しかしながら、刀身が伸びれば、その分重量も増し、取り回しも難しくなってくるはず。そう考えれば、片手を潰すのはそれなりに効果があるかもしれない。
(この位置からなら……斬り飛ばせないな。となると、貫いてやるしかないか……)
弓矢が使えればいいのだが、残念ながら左が使えない以上、両手を使う武器は使えない。したがって、魔法でどうにかするしかない。
(大気の圧縮解放よりも、より速さがあるもの……そうだ、光。【光の矢】なら……いや、それだけではダメだ)
より強く。より鋭く。そんなものを想像しながら、【光の矢】を魔法変化で変えていく。そうしてできたのが、元の矢より倍以上長く、先端がさらに鋭角的になった、槍のような形。
ゴブリンキングは、ようやく暴れるのを止め、セントを探す。
セントを発見し、目が合った瞬間。大剣を横に構えて突進さながらの勢いでセントへ向かってくる。
「これで……どうだぁぁぁぁっ!【雷光の飛槍】!!」
放たれた光速の槍は、セントの狙い通り、ゴブリンキングの右手首を貫き、さらにはその一直線上にあった左手首まで吹き飛ばした。当然武器は地面に落ちるが、ゴブリンキングは何が起こったのかわかっていないようだった。
ようやく、己の腕から先が飛ばされ、それがセントによる攻撃だとわかった頃には、セントは既に次の攻撃をするべく転移を始めていた。
「【拘束】!【疾風斬り】!【多段斬り】!【断撃】!【閃光突き】!【高速突き】!【返し突き】!【拳打】!【二爪撃】!【強打】ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シルバから教わった補助魔法【拘束】で数秒の動きを封じ、武器を変えながら弓術以外の戦闘スキルの覚えた技を、転移を繰り返してゴブリンキングへ繰り出す。
【拘束】の効果時間が切れたところで、ゴブリンキングは受けた技により全身から血を吹き出して倒れ込んだ。かなりのダメージで動けない様だが、まだ絶命には至ってない。
「……ったく、かなりタフだなぁ、お前」
そういって、セントは落ちていた『ゴブリン王の大剣』を拾う。予想通り、片手で持つには厳しい重量があった。
「うわっ、やっぱ重いな……まぁ、使い様によっては、この重さが役立ちそうだ。【大気壁】」
倒れたゴブリンキングを、大気の壁で上から地面に押し付け、身動きができないようにする。さらに、首の左右に木材のように魔法変化させた【大気壁】を展開し、その上に刃を下に向けた『ゴブリン王の大剣』を乗せる。
そう、これはまさしく、セント流断頭台。
セントは『ゴブリン王の大剣』に魔力を注いでいく。その刀身はどんどん伸びていき、ついに部屋の壁を突き破りながらさらに伸びる。100メートルほどまで伸びたところで、支えていた【大気壁】が耐えきれなくなり、ゴブリンキングの首へ落下。見事斬首を果たし、3メートルほど下にめり込んだあたりで止まった。
「おぉ……すげぇ切れ味だな……」
刀身を戻したゴブリン王の大剣を収納し、ゴブリンキングを観察するが、どう見ても完全に死んでいるようだ。
一応収納してみると、無事にできたので間違いないだろう。旅魔法の鞄効果には、生物だと収納できない、という制限があるからだ。
「ふぅ……さっさとこんなスプラッター現場から去りたいが……」
この部屋には、そこら中にゴブリン種の身体の一部が散乱していたり、血の海が広がっている。
ただ、ダルの村長の話にあった、さらわれた村の若い娘達はまだ見つかってない。
セントは部屋全体を氷魔法で凍らせ、死体の腐敗を一時的に抑え、部屋をくまなく調べていく。すると、岩で隠された通路を見つけた。
隠し通路を進んだ先で、ゴブリン種の体液の臭いが漂ってくる。
嫌な予感がし、さらに進むと、やや広めの空間に出る。そこには、連れ去られたであろう娘達の姿があった。
娘達の衣服は薄汚れ、目には光を宿していない。中には、既にゴブリン種の慰みものにされた者もあった。
「……お前達、ダルの村の者か?」
セントは憤りを抑え、尋ねる。
すると、セントに気づいた比較的症状が軽い一人がゆっくりと頷く。そして、他の者もセントを見るなり、ポロポロと涙を流し始めた。
「【回復の水】【浄化】」
セントは魔法で全員を回復させると、ようやく一人が口を開く。
「……あ、ありがとう……ございます………。あな…た…は?」
「ギルドの依頼を受けた者だ。村長が出した、ゴブリンの巣の調査と駆除。それでここまで来た」
「他の……方は……?」
「俺だけだ」
「どう……やって……ここ……まで………?」
「入り口から普通に探索してきた。さあ、とっとと村へ帰るぞ」
セントの言葉に、娘は俯く。
「そんな……無理、です……。ここには……ゴブリン……キングが……」
「問題ない。俺には転移がある。それに、奴は俺が倒した」
「本当……ですか……?」
「証拠を見せようか?……ほれ」
疑う娘に、セントはゴブリンキングの頭を取り出し、娘の前に転がす。
「……ひぃっ?!」
「な?」
そう言って、セントは再び収納する。
「そういうことだ。さて、お前ら。ここから一気にダルの村まで転移するぞ。全員俺に触れろ」
娘達が次々とセントへ触れる。中にはひしっと掴まる者もいたが、気にしないことにした。
全員触れているのを確認し、セントはダルの村の村長の家の前に一瞬で転移していく。
「……!!セント殿?!」
村長の家の前に着くなり、村長が驚きの声を上げる。
「村長、戻ったぞ。依頼を終えてきた。さらわれた村娘達は、これで全員か?」
村長は娘達を見回し、頷く。
「……うむ、確かに全員だ。良かった……本当に良かった……」
村長の目から熱い涙がホロリと流れる。
「んじゃ、これで依頼達成だな。……お前ら、いつまで俺に触れているつもりだ?」
セントの突っ込みの通り、娘達は一向にセントから離れようとしない。
「……運命の人……」
「離れたく……ない……」
「私の……旦那様……」
などとのたまう娘達。
「はぁっ、お前ら………!さっさと家族が待つ家に帰れ!!」
「はっはっは。セント殿、この際、娘達を嫁にもらってやってくれないか?その方がこの子らも救われるだろう!」
「……勘弁してくれ。俺にはまだ、やることが残ってるんだ。それに、こいつらもまだ若い。この先、いろんな出会いが待っているはずだ。それこそ、俺なんかより相応しい相手が現れないとも限らない」
よくよく彼女達を見ていくと、皆それほど悪くはない容姿だ。ただ、精神年齢が35歳のセントからしたら、15、6の娘達は若すぎるのである。
「ならば、今のところは破棄可能な婚約ということでいいかな?」
「わかった、わかったから。とりあえず、それでいいから。だから、今は離れてくれ」
「……約束……よ……?」
「また……ね?」
「婚約……婚約……ふふっ……」
ようやく離れてくれたので、セントは村長に挨拶をする。
「じゃあな、村長。村の人々にもよろしく伝えてくれ。それと、娘達も早めに医者に診せるのを推奨する。まだ怪我とかあるかもしれないからな」
それだけ言うと、セントは依頼達成報告のためレードの冒険者ギルドまで転移していったのだった。
セント・トキワ レベル28
旅人レベル15
冒険者ランク E
所属クラン グラスウィード
ブレイドパーティー所属
体術レベル8 武器操術レベル10(棍棒術レベル16 剣術レベル12 斧術レベル15 短刀剣術レベル14 小手術レベル15 爪術レベル14 槍術レベル12 細剣術レベル10 小剣術レベル10 弓術レベル12 投擲術レベル13) 盾術レベル17 手心レベル8 回避術レベル10 詠唱強化レベルmax 思考加速レベル25 空間把握レベル25 解体術レベル8 解析鑑定レベル7 詠唱短縮レベルmax 詠唱破棄レベルmax 魔法変化レベル17 魔法合成レベル23 修復レベル9 錬金レベル6 鍛冶レベル5
旅魔法レベルmax 治癒魔法レベル10 投影魔法レベル27 補助魔法レベル18 火魔法レベル21 水魔法レベル24 雷魔法レベル20 氷魔法レベル20 土魔法レベル23 風魔法レベル20 光魔法レベル25 闇魔法レベル22
耐久力 SSS+
魔力 S4+
筋力 SS+
体力 SS+
器用さ SSS
知力 S4+
精神力 S6-
素早さ SSS+
称号 異世界転移者 世界を学ぶ者 武芸者 術戦士 マジッククリエイター 鍛冶士の弟子 錬金術師の卵 ゴブリンスレイヤー 大物喰らい 赤き駆逐者




