元おっさん、仲間と今後について話し合う
パーティー全員の承諾の返事が届いたので、ルーとセントは21時に会議室へ向かうことにする。
ここで、セントは一つ気になっていたことを尋ねた。
「ルー、転移装置の行き先って、複数設定できるのか?」
「うん、そうだよ?」
あっさりと肯定するルー。
「一体、どんな仕組みになってるんだよ、あの装置は?」
性能からすると、某漫画の、どこにでも行けるドアを思い浮かべた。
「詳しくはわからない、としか言えないかな。ただ、ここの転移装置は、鍵で行き先を操作することができるんだ。もちろん、勝手に他人の部屋なんかにはいけないように、制限を掛けられているけど」
そう言って、わかる範囲でルーはセントに説明する。
「まず、受付を済ますと、ロビーと自分の部屋との移動ができるようになる。その後、鍵を操作して、施設利用の予約をすることにより、その施設への移動ができるようになる。移動可能になる時間は、予約した時間の15分前から。予約した終了時間になると施設内にアラームが鳴る。その後15分以内に時間延長の予約をするか、施設を出るかする必要があるんだ。でないと、違約金が発生するだけでなく、宿から強制退出させられてしまうんだ。それから、施設利用予約は身分や地位に関係なく先着順で、延長予約もそこに当てはまるため、仮に延長予約しようとしても、既に次の予約者がいる場合はできない。そこは、施設利用予約一覧表を鍵で確認しておかないといけないけどね」
「ほぅ……ちゃんと客を公平に扱っているんだな」
ルーが時間を確認すると、そろそろ21時だ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
二人は転移装置に乗り、会議室へ移動する。
会議室は窓がなく、明かりも魔道具でとられていた。おそらく、地下なのだろう。室内の中央には円卓があり、椅子は隅に重ねて置かれてある。
椅子を人数分用意しつつ、セントは会議室にある備品や機械っぽい魔道具をチェックしていく。
どうやらプロジェクターのような機能のある魔道具もあるらしいが、使い方がわからないので、とりあえず触れないでおくことにする。
準備を終えたところで、仲間たちが集まってくる。
「あら、もう準備ができているのね……さすがルーだわ」
始めに入ってきたのはシルバ。ただ、いつもの帽子にローブ姿とは違って、リラックスできそうなガウン姿だった。しかも、その一枚しか纏ってないようで、時折胸の谷間が見え隠れしている。
そんな姿に、セントはつい突っ込んでしまう。
「……シルバ、宿での話し合いの時は、いつもそんな格好なのか?」
「…セント、私のどこを見て言っているのかしら?」
冷笑を浮かべ、セントに軽蔑するような視線を向けてくるシルバ。
(……こいつ、絶対確信犯だよな?)
その証拠に、ルーが僅かに顔を赤くして顔をシルバから逸らしているのを見て、シルバは満足そうな表情をしていた。
「お待たせしました」
「お疲れー!」
「私で最後みたいね」
ミリア、ネイ、と順に入ってきて、最後はレーネだった。
三人もまた、普段よりは緩めの服装だった。
ミリアはアンダーウェアにバスローブ、ネイはタンクトップにスパッツ、レーネは七分丈っぽいシャツに膝上裾のジーンズっぽいパンツ姿。そして、三人とも胸元を微妙に開けている。
セントには、この三人もまた、ルーへのアピールなのか、と思えてきた。
(まあ、こんな服装をさせられては、ルーも大変だよな……主に自分の理性と本能との戦いで)
ルーは目のやり場に困っているようで、周囲を見回し。
セントと目が合った。どうやら、セントに助けを求めているようだ。
セントは、仕方ない、と一つため息をつく。
「お前ら、まずは席に着こうぜ?でないと、ルーが話を始められないだろ」
セントの掛け声で、ひとまず全員が着席する。席順としては、転移装置から遠い位置から、時計回りにルー、ミリア、シルバ、レーネ、ネイ、セント。
それを確認して、ようやくルーが今回の話し合いの目的を話し始める。
「今日の目的は、セントが入った今後の目的地を決めることだ。この間、ネイの提案で、一度クラン王国の王都へ戻ることにしたのは決めたけど、どのルートを通っていくかをまだ決めていなかっただろう?それをここで決めていきたい」
話を聞くと、ルー達は、ここレードからヌル草原に入り、ネイの生まれ故郷であるビスト王国へ向かう途中だったという。そこでたまたま倒れたセントに出会ったのだ。
「まずは北西に向かわない?アン坑道を通って、その先のドワーフの集落を目指すのはどう?」
シルバが最初に提案する。
「ドワーフの集落か…私としてはあまり行きたくないけど。南西のツブ林道を抜けて港町にいくのは?」
反論したのはレーネ。
「レーネはどうしてドワーフの集落に行きたくないんだ?」
セントの質問に、レーネが若干嫌そうな顔になって答える。
「あそこ、前に初めて寄った時、エルフを嫌う昔ながらのドワーフがいてね……全てのドワーフがそういうわけじゃないけど、そいつから散々嫌味を言われたから、あんまりいいイメージは持ってないのよ……」
「そういうことか……」
最初に嫌なイメージを持たされると、誰だって払拭するのには時間がかかる。
「で、どう?港町行きルートは?」
「悪くはないけど……ただ、ツブ林道は、ヌル草原より2ランク高いモンスターが出てくるだろう?僕らはいいけど、セントには少し厳しいかもしれないよ?」
ヌル草原のモンスターは、FランクとGランクがメインだ。その2ランク上となると、Dランク、Eランク。Eランクならセントの冒険者ランクと同じだから、理論上ではセント単独で討伐可能だが、Dランクではセント一人では無理がある。パーティー全員でかかれば倒せるだろうが、そもそもセントは冒険者成り立てで、経験も浅い。特別措置でEランクとされているが、本来のEランク冒険者と比べると、その実力は不安が残る。
ちなみに、アン坑道に出現するモンスターは、Fランクがほとんどで、たまにEランクが出てくるくらいだ。セントにとっては、こちらの方が安全である。
「そっか、ツブ林道だと、戦闘に参加しづらいセントだと、レベルも上げづらいね……」
そうなのである。モンスターを倒すと経験値は得られるが、戦闘中の行動によって、増減が発生するのだ。何もしなければ、最悪経験値が入らないこともあるのである。セントはこれまでの戦闘でそれを実感していた。
具体的にまとめると、経験値の大きい順に、
・相手を倒す
・相手にダメージを与える(多くダメージを与えれば、より多く得られる)
・相手の動きを制限する
・味方を援護する(援護の量が増えれば、より多く得られる)
といったところだ。これは、パーティーメンバーのレベルに現れている。
最もレベルが高いレーネは、索敵からの一射で敵を倒すことや遊撃で味方を援護することが多かったからだろうし、最もミリアがレベルが低いのは、敵を倒すことより味方を援護することの方が多かったからだろう。
そして、現在のセントには、確実に経験値を得る手段が、相手を倒すかダメージを与えるかしかない。しかも、メンバーよりレベルが低いため、必然的に与えるダメージも少なくなってしまう。旅魔法による転移が味方の援護になるかは、まだやったことがないため、不明確である。
ネイの心配に、セントが答えた。
「ルー、まずはレーネの提案した通り、ツブ林道から港町へ向かうルートにしないか?」
「セントがそれでいいなら構わないけど……結構大変になるよ?」
「今のままでは、な。だから、少し時間をくれないか?とりあえず、一ヶ月……いや、三週間。それまでに、俺は自分のランクにふさわしい力をつけてみせる。それまでレードに留まらせてくれないか?」
セントの意見に、ルーは仕方ない、と思って従うことにした。
「わかった。仮に、そこまで行かなかった場合、ルートを変更して、アン坑道からドワーフの集落へ向かうことにする。みんなも、それでいいかい?」
「ルーがそう言うなら、仕方ないわね」
「リーダーの決めたことだし……いいわ」
「わかりました」
「了解ー!」
こうして、今後についての最初の話し合いは終わった。
これから三週間。セントは必ず力を身に付けてみせる、と決めたのだった。




