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想ヒ人 -指切-  作者: ツカサシキ
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7-9 舞台裏の後片付けと追憶の整理(9)

立て続け投稿です。

よろしくお願いいたします。

 紙芝居屋さんが、帰って直ぐに午後の作業をした。


 その日も読み書き、数字の書き方と計算の仕方、裁縫の仕方――…まだ慣れていない子供達が、いるため最低でも1週間は、同じ作業の繰り返しを行っていた。


 中には、新しい作業を強請る子供も少なくなかった…が、内職の手伝い――と、いっても…初めは見学をさせ、次の日に『見よう見真似作業』をさせて…慣れてきたら本格的に“お手伝い”というシステムを導入していた。


 導入当初、発案をした養母と同業者である院長に対し「怪我をしたら!」と、抗議があったが…子供達は、好奇心の塊である事と大人に隠れて憶えた作業を勝手に行う子供は、少なくない――…ならば『大人と一緒に作業をしよう』と、思い至った事を話し、説得をした。


 ――すると、どうだろう。

 思惑が、当たったのだ。


 導入すると直ぐに子供達は、イキイキとした表情を見せたり、オリジナルの作品を作って見せたりと…嬉々として、手を動かす。


 習性といえば、聞こえが悪いだろうが…興味を持った子供は『才能と呼ばれる宝石』を突発的に発動をするのだ。


 ――その日も子供達と一緒に夕食作り等の家事を終わらせた“いのり(姉)”は、養母の手伝いをしながら『大人と一緒に作業』を導入した理由を聞いていた。


 その話しを聞いた“いのり(姉)”は、まだ戦争が起こる前に“蛍(妹)”も出始めたばかりで目新しいクッキーとか作っていた事を思い出した。


 ふと、懐かしい思い出に“いのり(姉)”に蛍(妹)が「(大きくなったらお菓子屋さんをやる!って、言ってたな…)」と、思い返していた。


 その日の一日を終えると、次の日も同じ作業を繰り返し――…あっという間に体験の終了日になった。


 そして“いのり(姉)”は、待ち望んでいた日でもあった…が、緊張していた。

 落ち着きたくとも…抵抗するかのように緊張が『ブワッ』と、湧き水のように湧き上がるかのように感じた――…落ち着くために“いのり(姉)”は、冷たい水の一杯を一気に飲み干した。


 そして“いのり(姉)”の『最後』の授業という事もあって、何時もより子供達は真面目に取り組んでいた。


 授業を無事に終えた“いのり(姉)”は、子供達一人一人の名前を呼んで、昨夜まで夜なべして作った手製のお守りを手渡しながら「今日まで、ありがとう…元気でね」と、声を掛けながら頭を撫でたりした――…すっかり、仲良くなったというのに子供達は「お別れなんだ…」とか「行っちゃヤダ~!」と、言ってくれた。


 お別れに駄々捏ねていたが…シスターに宥められて、最後は「尼様、元気でね」と、涙を一杯溜めつつも元気に笑顔で、言ってくれた。


 そして、冬霞殿の番になった。

 授業が始まる前に押さえつけていたはずの緊張の度合いが、急上昇していく“いのり(姉)”にとって、何の拷問だっただろう。


 例えるのなら――…初めての面接に近かった。


 心臓の音が、周りに聞こえるんじゃないかと錯覚していると…冬霞殿が“いのり(姉)”の目の前にやって来た。


 そして、意を決した“いのり(姉)”より先に冬霞殿が「尼様、ありがとうございました」と、言いながら空色の無地に鈴蘭の刺繍の入ったハンカチを差し出した。


 思わぬ出来事に目を丸くした“いのり(姉)”は「ま…あ…」と、間抜け声を出しながら差し出されたハンカチを恐る恐る受け取った――…受け取った事を確認した冬霞殿は「ありがとうございました、尼様」と、笑顔…だが、涙を溜めながら言葉を発した。


 もう…冬霞殿の中では“いのり(姉)”は『去ってしまう』人――…冬霞殿は、昨夜までに“お別れの練習”をし続けたのだろう…笑顔で見送ろうとしてくれていた。


 先手を打たれてしまった“いのり(姉)”は、冬霞殿の目線に合うようにしゃがみこみ「素敵なハンカチ、ありがとう――…ちょっと、お話しがあるの…これから休み時間に…ついて来てもらえるかな?」と、言った。


 思わぬ“いのり(姉)”の言葉に冬霞殿は「は、はぃ」と、返事をしてくれた。

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