7-1 舞台裏の後片付けと追憶の整理(1)
本日から『その後』のお話です。
巫女姫視点なのですが、苦手の方はお引き取りください。
よろしくお願いいたします。
――スゥウ…。
呼吸音のような風の音が、吹き終えると…蜃気楼のように美しく、淡く儚げな幻想の舞台の幕は下ろされ…静かな夜に戻った。
私は、ホタル池での一件を静かに見守っていた。
すると『フワ…』と、一匹のゲンジボタルが私の元に来ると…静かに優しく光りだした。
「そう…無事に往きましたか…」
私の一言を言うと、返事をするように…また光る。
また二度三度と光り終えると…静かに飛び立ち、仲間の元へと帰っていった。
私に“報告”をしてくれたゲンジボタルを見送ると…私は「どうか、私を恨んでくださいね…蛍、いのり」と、言葉を発した。
――私の言葉に蛍といのりは、私の目の前で跪いた。
蛍は「とんでもございません、巫女姫様」と、返答をすると…いのりは「巫女姫様のお陰で…やっと、わたし達の悲願が叶いましたっ…感謝のお言葉しかございませんっ!」と、言い終えると…直ぐに二人から「ありがとうございました!」と、息を合わせて感謝の弁を述べた。
私は、蛍といのりの感謝を静かに受け取ると「長年の“約束事”は、本日もって完了とすることを現『巫女姫』が、宣言する――…異議のある“モノ”は、述べよ」と、発言をした。
私の“発言”を聞き入れた『モノ』達は、ほんの一瞬だけ騒いだ――…が、私が積み重ねた長年の実績と実施を目の当たりにしたので、シンと静まった。
私は、今も口元以外黒装束に身を包んでいる――…私なりの無月を含む土地神様を守るための“盾”であり『害』をなせば殺すための“剣”である。
矛盾していると捉えられるが、苦肉の策で編み出された“切り替えられる”最低限の攻防具だ。
要は――。
今の私は「反論した“モノ”は、有無を言わさず殺す」という目的を目の前で証言をしており“剣”と化しつつ、静まり返る『モノ』達に口元だけの冷笑を向けている…何せ、この『モノ』達のせいなのだから――…それくらい、許される。
――私から『モノ』達への“恨み”だ。
「異議なき“モノ”は、直ちに失せよ」
また私の発言を聞き入れると、蜘蛛の子散らすように『サササ…』と“モノ”達は、一目散に退散していった。
その様子に私は、思わず笑みを深めた…呆れの笑みを――。
しかし、直ぐに不快な笑みを取り除いた。
大事な日だからだ。
私は、またホタル池の方を向き直ると「(無月…もう放しては、駄目だからね?)」と、願いを捧げた。
私の願いを届けようとしているのか…優しく風が、私の頬を撫でた。
「――蛍、いのり」
「はい」
「何でしょうか、巫女姫様」
「…土地神様が、貴女達に授けた“印”を――…その顔は“取り除くな”かな…」
「「はい!」」
「そう…」
「巫女姫様のお心遣い、感謝いたします」
「しかしながら――…わたし達の『償い』は、終わっておりません」
「…土地神様の“役割”をするおつもりか?それはっ――」
「構いません、巫女姫様」
「あたし達の“意思”であり恩返しなのです」
「過去、冬霞を…助けられなかった『罰』を死ぬまで、全ういたします」
「蛍…いのり…」
「わたし達は、巫女姫様と土地神様に感謝しております…もう“尼”としてではなく、冬霞ちゃんの従姉妹として生を授けていただきました」
「あたしは、一時的とはいえ…孤児院で“姉”をしていました…でも、まさか…あたしの生き別れた姉が『紅染村』の尼していると聞いた時…驚きしかありません」
「もっと、驚く事があったものね…」
「うん…でも――…あたしが、駆けつけた時…冬霞は…」と、当時を思い出したのだろう…蛍は、悔しそうに胸元まで、運んだ両手を思いっきり握り拳を作った。




