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想ヒ人 -指切-  作者: ツカサシキ
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6-7 願いが叶った時、ホタルの祈りと『祝福』を共に捧げる

本日二回目の立て続け投稿ですが、今回で『本編』を完結させていただきます。

よろしくお願いいたします。

 ドライミストのような薄い白い霧が、オーロラのようにユラユラとなびかせながら…夜の黒さの幻想的な風景に――…今宵は、満月から()()()()()()()()()()()()()と思ったのに…淡い月明かりが『スッ』と、差し込んだ。


 月明かりの差し込んだ先が、まるで…ドアの形に切り抜いたような筒状の“空洞”が、私達の目の前に現れた。


 現れた“空洞”以外の周りは、まだ白い霧が『ユラ…ユラ…』と、煙のように立ち込めているのに対し…ドアのような空洞の先は、真っ暗な闇が広がっていた。


 そして、何時の間にか…私は、目を瞑っており…目を開くと夜のホタル池でも先程の幻想的な風景ではなく、私達が往こうとしていた場所であり“償い”場所に居た。


 その“場所”は…何も無く、星が一つも無い夜空のような漆黒の世界『虚無』と呼ばれる亜空間――…この場所で、共に『一生』を終える。


 あっという間の出来事に目を丸くするが…私は、思わず…辺りを確認した。


 目の前には、私の手を握ってくれている夫の姿――…しかし、不思議な事が一つ…明かりの無い、真っ暗な闇の空間だというのに…私達の姿が、色彩のまま見えるからだ。


 私は、恐る恐るになりながら…ルイに質問したところ「この空間の能力(ちから)だよ」と、教えてくれた。

 そして、この空間から私達への“温情”とも…教えてくれた。


 ――そう。

 この『虚無』という“空間”は、意思を持っていた。

 長く遠い年月により“心”を持ち合わせたそうだ。


 しかし…心が、あっても()()()()()()()()()()()喋る事が出来ないらしかった。

 その代わりに“何”を伝えたい事は『テレパシー』といえば、いいのだろうか…伝えたい言葉が、心身に浸透するように伝わる。


 有から無に返す――…それだけの空間(そんざい)だと、ルイから聞いた時は、驚いた。

 不思議な空間なのに…とても温かい“感触”と“感覚”が、包み込んでくれる。


 例えるなら…丁度いい温度に設定した、お風呂に浸かっているような居心地の良い不思議な錯覚だ。


 しかし…驚く事のは、これからだった。

 身重だったはずなのに軽く感じて、お腹に手を運んだら…身篭ったはずなのに…私達の赤ちゃんが、居なかったからだ。


 私達の『初めの罰』だった――。

 償いとはいえ…私達のショックを隠せず、泣きじゃくってしまった。


 ――でも…現実と事実を受け止めるしか、私達になかった。

 途方に暮れている…私達に『虚無』は、提案をした。


 私が、身篭った“命”は…別の『形』として、誕生をさせてくれるという条件だった――…その『形』のところは、職務違反に入るそうなので…教えてくれなかったが…私とルイは「生きていってくれるのであれば、従います」と、答えた。


 私達の言葉を聞いて『虚無』は、直ぐに実行をしてくれた。

 単純だが…私達夫妻の“一つ目の関門”を通ったようだった。


 子供は、残念であったが――…罪は罪なのだ。

 罪があれば…償わないといけないのが、当たり前だ。


 しかし、また不安に駆られていた私は、情けないと思いつつも…私を大事に抱きかかえてくれている夫に頼るように抱き返してしまった。

 そんな私の不安を感じ取ったのか…夫は「大丈夫、我がいるからな」と、言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。


 夫の『当たり前』になっている行為のお陰で、直ぐに落ち着くと、私は「ルイ…ううん、もうこの名前じゃない――…これからよろしくね、()(つき)」と、小指を差し出すと夫は、私の言葉と“本名”を久しぶりに呼ばれたことに嬉しかったのか「うんっ!一生、頼むな?冬霞」と、言いながら指切りをした。


 私は、夫の事を『ルイ』と、呼んでいたが…本当の名前じゃない。

 私からの夫への“隠し名”を与えた。


 指切りをし終えると…また何時の間にか、無月の懐に居た。

 無月からの温もりと仄かな桜の香り、腕の強み――…私は、また夫に抱き締められ…自然と不安を取り除かれた。


 ――過去から今日まで、夫が“してきた事”は、知っている。


 母から何度も…しつこく聞かされ続けていたが…事実無根が、多かった。

 それに加え、私には“もう一人の私”が居るため、交互する『記憶』と『想い』が、他の誰よりも知っているし、夫自身から事前に話してくれていたため…驚かなかった。


 でも今日で、終わった事に安堵からか「おやすみなさい。また明日――」と、どちらかが先に言葉にしたのか曖昧だが…私達『夫婦』は、静かに深い眠りについた。


 眠りつく初々しい夫婦の片割れには…どちらかの衣服に付いていたのであろう季節外れな一輪の桜の花が、微笑ましく応援していた。




   第6章 -完-

※次回から『その後』と『後日談』を投稿いたします。

注意書きにも書かせていただいておりますが、苦手な方は無理をしないようにお願いいたします。

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