6-5 二人の時間と前夜の準備をする(5)
2回目の投稿です。
よろしくお願いいたします。
おそらく、だが…。
自分の耳を触ったら熱いだろうと、またしても…変な現実逃避をしてしまう。
そんな下らない事を考えていると…。
彼は、まだ私の手に嬉しそうにキスをし続けていたが“何か”を思い出した後、名残惜しそうに私の手を改めて優しく包み握りながら…握られた私の手は、彼の胸元辺りに止まった。
そして、彼に「我にも…頼めるだろうか?」と、頬を淡く染めつつ言いながらリングボックスから同じオニキスの指輪だが、中央部分に大きな青い宝石『ベニトアイト』が、埋め込まれている一品を差し出された。
旦那様っ…!
その顔っ…反則です!
しかし…また宝石の名前を聞いて、硬直してしまった。
硬直してしまった手に鞭を打ち、恐る恐るだが…リングボックスから彼用の結婚指輪を取り出す――…が、緊張から強張ってしまった。
また『プルプル』と、小刻みに震えだす手を叱咤し、何とか…彼の左手の薬指に指輪を嵌める事が出来た。
――…一安心した。
思わず、軽く息を吐きそうになった瞬間――…何時の間にか私は、彼に抱き寄せられ…また彼の懐の中にすっぽり収まっていた。
私は、また混乱してしまった…嬉しいさよりも恥ずかしさが『ボンッ』と、効果音が…聞こえたんじゃないかと思うほど、顔から全身が一気に熱く火照っていった。
「この二つの指輪…巫女姫殿が、我達をイメージして作っていただいたんだ」
「え?私達を…」
「冬霞の嵌めている指輪が、我で…我の嵌めている指輪が、冬霞…我達の瞳の色に合わせたのだそうだ」
彼の言葉に驚いてしまった。
私達のためとはいえ、恐縮してしまう。
――以前、お会いした事があるが…彼の守るために頭から足先までの全身、黒色の巫女衣装に身を包まれていた。
彼は「巫女姫殿」と、私に紹介をしてくれた。
おそらく、だが…私と同い年だろうと思う…――旦那様もだが、旦那様と“似て”非なる独特な神秘性を感じた。
黒色布のベールから…白く、美しい肌と桜色の唇が『チラッ』と、見てとれた。
残念ながら『巫女姫』様の見え隠れする口元だけで…お顔は、見れなかった。
私の視線に気づいたのか、微笑んだように見えた――…私は、マジマジと見てしまった事を恥じ、直ぐに謝罪をしたのを憶えている。
巫女姫様は、私の突発的な謝罪を優しく汲み取り受け取っていただいた。
その後は、私に合わせて…流行りの話しや彼との出会いの話しをしてくれた。
やはり…旦那様は、過去の“私”を亡くした後…酷く荒れ狂ったそうだ。
その時の彼の状況を耳に入った巫女姫様が、駆けつけ『話し合い』をしたそうだった…が、その“話し合い”の部分が、気になったのを…私の顔に出ていたのか…巫女姫様と彼の威圧の交じった笑顔で「気になっては、駄目」と、あやふやにされました。
巫女姫様と彼にとって触れてはいけないそうなので、黙って頷きました。
巫女姫様は、お優しい方だった。
その優しさは、私の前世――…お世話になった孤児院にて、私の面倒と草笛を教えてくれた“お姉ちゃん”と私を引き取っていただいた尼様を思い出した。
あんなに大事にしてくれたのに…私は、死んで逃げてしまった…自分勝手な行いのせいだけれど「ありがとう」という、言葉を言い足りなかった。
そう思い返していると…巫女姫様は、私にハンカチを差し出してくれた。
気づかなかったが…ポロポロと、涙を流していた…彼は、巫女姫様からハンカチを受け取ると私の目元に優しく、ハンカチを拭ってくれた。
――その後、巫女姫様の急用が舞い込んでしまい…お開きになってしまった。
帰りに巫女姫様から「お土産です」と、淡いピンク色のローズマリーのミニブーケと可愛いドット柄の手提げ袋を頂いた。
帰って直ぐにローズマリーの花束を気に入ったジャムの空き瓶に水を入れて、飾った後…彼と一緒に手提げ袋の中身を取り出した。
綺麗な模様の書かれたA4サイズの箱をかけると…桜の馨りがするメレンゲと三種のベリー(ブルーベリー・ストロベリー・フランボワーズ)のマカロンだった。
【作者メモ帳】
作中に書かせていただいた。
ローズマリーの花ですが、私自身の一目惚れです。
見た目がラベンダーや吾亦紅のようで、可愛く素敵だったので書かせていただきました。
調べによりますと――…ヨーロッパでは、冠婚葬祭に扱われているそうです。
古代ギリシャ時代から神秘的な花としてお祝いや葬儀にローズマリーが使われてきました。
この風習にちなんで「あなたは私を蘇らせる」「変わらぬ愛」「追悼」「誠実」という花言葉が生まれたといわれているそうです。
「記憶」という花言葉は、ローズマリーを身につけると記憶力がよくなると考えられ、花冠が作られていたことが由来となっています。
作中に書かせていただいた、花の色も白・淡いブルー・ピンク・薄い紫がありまして可愛いですよ。




