6-2 二人の時間と前夜の準備をする(2)
二つ目の投稿です。
よろしくお願いいたします。
――言葉通りに私は、夫の胸の中で何時の間にか眠ってしまっていた。
初夏の都会と違い、暑苦しい風ではなく…涼しい微風が、頬を優しく撫でる。
時折、夫から…私のお腹を優しく撫でたり、私の頭と頬を優しく撫でてくれていた。
前世の時も幸せであったが…今世の幸せな時間と日々が、静かに流れている。
どのくらいの時間が経ったのか…。
寝付いていた私が、目を覚めたのは…まだ夫の懐に居て、もう外の空が、夕陽に染まっていた。
私は、慌てて起き上がると「ごめん!ルイっ…すっかり…寝入っちゃって…重かったよね」と、あべこべに謝ると夫は、きょとんとしながら「どうして、謝る?冬霞が、謝るところなど、一つも無いよ?」と、言われた。
それでも謝り続けると夫に抱き寄せられ、また優しく頭を撫でられた。
この夫の行動は“気にし過ぎ”とか“気にしていない”という意味なので、何も言えなくなってしまう…私は、思わず夫の胸にうずくまるしかない。
・・・・・
その後は、夕食の支度を手伝うため台所に向かおうと戸を開けると…蛍ちゃんといのりちゃんが、私の迎えに来てくれた。
二人に付き添われ居間に向かうと、もう叔母さんが出来上がった夕食を運び終えていた。
私は、直ぐに謝ると…里見叔母さんに「前から言っているけど、無茶しちゃいけない身体なんだから!いいのよ」と、逆に叱られてしまった。
私は、また恐縮していると…蛍ちゃんといのりちゃんに付き添われながら座椅子に座らせてくれた。
食卓に着くと、いそいそテレビを点けた蛍ちゃんは「ぅあ~…ウッソでしょ?特番で、遅れるの?」と、手馴れた動きでテレビのリモコンの機能操作で見る予定だったサスペンスドラマが遅れる事にショックを受けていた。
すると、いのりちゃんは「アニメの方は?」と、聞くと蛍ちゃんは「残念なお知らせ」と、一言を言うと察したように「全滅、ですか?」と、恐る恐る聞くと蛍ちゃんは「なーんかのお知らせで、潰れてるわ」と、言うといのりちゃんは「ぅわ~…最悪~…」と、ショックを受けていた。
蛍ちゃんといのりちゃんは、話し合いをしながらテレビ欄を睨めっこしている間に私と里見叔母さんは、人数分の椎茸と獅子唐の揚げ浸しの入った小鉢を並べていた。
そして、並べ終える頃に見るテレビが決まった。
テレビの内容は、夏休み前にオススメ・スポットの特集だった。
この特集が終わると待ちに待ったドラマが始まるため、ウキウキしながらテレビを見ていると忘れていたが、もう少しで夏休み。
私は、もう中学校と高校の卒業資格を持ってするので学校に行く事は…二度とない。
夏休みまで、目と鼻の先の事を友達や従姉妹の蛍ちゃんといのりちゃんは、首を長くして今か今かと待っている。
今でも夏の風物詩にて定番の話題の一つだが…もう私には“関係のない”話だ。
今でも友達と文通しあっているが、それも…今年の夏休みに入ったら終わる。
何故なら私は、夫と共に『ある場所』に遠くに往くからだ。
この事は、祖父と里見叔母さんと蛍ちゃんといのりちゃんは、知っている。
まだ知らないのは、両親と秋名姉さんと父方の祖父母と伯父夫婦。
友達には、まだ書いている途中だが…手紙とメールが送れなくなる事を事前にメールで報告しているので、知っている。
友達の何人から「手紙だけでも続けて欲しい」と、言ってくれる子が居たが…他の友達が、宥めてくれたそうだ。
――そして、今から一週間前の事。
両親と秋名姉さんと父方の祖父母と伯父夫婦宛に…書き終わった手紙を投函に行く前に祖父が「用事があるから」と、変わりに出してくれる事になった。
何でも足袋が、ボロボロに擦り切れてしまい…買い直すために都会に行く事になったそうだ。
実は、蛍ちゃんが祖父にネット注文を提案して調べたそうなんだが、お店側のホームページがアクシデントのため、ネット注文が出来ないと判明して、都会に出向く事を決めたそうだ。
私は、お言葉に甘えて祖父に“家族”宛てに手紙を託した。
既に私からの手紙を受け取り、内容を読んだ祖父からしたら酷なんだろうが…私の気持ちを尊重してくれた。
――ありがたかった。
里見叔母さんからも祖父とは、違う形で私の気持ちを受け取ってくれた。
従姉妹の蛍ちゃんといのりちゃんは、泣きじゃくられたが…何とか、宥めながら説得し分かってくれた。
その間は、何時ものと変わらないように接してもらっている。
しかし――…両親と姉、父方の祖父母と伯父夫婦は“分かってくれない”だろう。
あの時から正式に『祖父の子供』となった初めの頃は…何度も母から接触が、あったらしいが…里見叔母さんの一言で、下がったらしい。
何を伝えたかは、教えてもらえなかったが…その日以降、音沙汰が無いそうだ。
父とは、今も携帯のメールのやり取りをしているが…近いうちに私が『遠く』に往く事を知らない。
勿論、父方の祖父母と伯父夫婦も知らない…良くしてもらったが、少なからず“村”の掟を知っているので…薄情だが、事後報告させてもらう事にした。
母のように頑なに「行くな!」と、声を荒げられるかもしれない――…だが、書いた手紙で…あの時のように私の“心”を分かってもらうしかない。
幼稚園児の時に友達が貸してくれた手紙の書き方の本に『手書きは、今の自分の心を表す鏡』と、読んだ事があった。
文字の書き方が楽しかったからか小学校入学当初から私は、卒業する前までに友達と手紙の手渡しや交換日記をしてきたのだが、当然のように男子生徒達の標的になりかけるたびに一日足らずで『ピタリ』と、私達に怯えながら避け始めたのをおぼろげだが憶えている。
今も友達との文通しあっているが…やはり、家族宛の手紙を書くのは、難しい。
何とか…精一杯、一つ一つの言葉を記していくのに不思議な感覚に襲われる。
手紙を書き進めるたび、もう何度も「(分かってくれるはずないのに…)」と、自分の心の中では『分かってほしい』という気持ちが高まり、ごちゃごちゃな文字列になってしまい何度も書きなおした。
素直に自分の気持ちを伝えるのに言葉でも文字を書くのは、やはり難しい。




