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想ヒ人 -指切-  作者: ツカサシキ
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5-17 小話・少女の見る“悪夢”を忘却する

よろしくお願いします。

「――えっと、封筒のシールは…コレにしようかな…」


 私は、幼馴染で親友・知美ちゃん、あやなちゃんと理緒ちゃんに送る手紙を書き終えて…一つずつに宛て先を書いた封筒に2~3枚の便箋を入れた。

 そして、封筒に貼るシールを悩んでいた。


「(好きなのを持っているから…それにしようかな?)」


 知美ちゃん宛ての封書は、淡いオレンジとヒマワリの模様。

 あやなちゃん宛ての封書は、水色と金魚の模様。

 理緒ちゃん宛ての封書は、濃い青色と花火の模様。


 決まったとばかりに私は、知美ちゃん達の好きな推しキャラクターのシールを一枚ずつ貼った。

 シールを貼り終えた封筒を一つずつ、確認しながら…完全に封をした事に私は「(最後…)」と、軽く撫でた。


 私は、思わず…左の薬指にチラッと見た――…美しい漆黒が、目に入る。

 天然石のオニキスの指輪…その中央に赤い宝石が、一つ埋め込まれている。


 ――結婚指輪だ。

 本来であれば、婚約指輪なのだが…私達の結婚式は、極めて『特殊』のため“特例”として、結婚指輪になっている。


 まだ先とはいえ、間もなく――…一日一日が、近づく…。

 そう思うと…緊張してくる。


 愛しく…くすぐったい…幸せな時間。


 前の“私”は、馬鹿な事をしてしまった。

 とても幸せだったのに…彼の側から離れてしまった。


 村長さん達から「村の広場にて、週に一度の露店市場が開かれる」と、聞いていた。

 当時では、珍しい果物や野菜だけでなく…おしゃれな着物や髪飾りとか種類豊富なお酒等が、売られる村一番の大イベント。

 当時の…村長さんや尼様から聞いていたから楽しみだった。


 ――しかし…彼の説得が、大変だった。


 思えば、前兆を感じたんだろう――…ちゃんと、聞いていれば…。

 でも露店市場の興味、勝ってしまい…行ってしまった。


 その結果が…今、思い出しても嫌悪と憎悪に襲われる。


 今すぐにでも消し去りたい、不愉快な記憶――…でも彼に対しての“罪滅ぼし”でもある。

 その事は、彼に話してある。


 彼は、直ぐに能力(ちから)で消し去ろうとしたけど…私が、止めた。

 理由を聞かれたから私は「私は…あの時、貴方の注意を聞かなかった…貴方を傷つけてしまった、私の“罰”なの…だから…」と、言葉の先を続けようとした時に…何時の間にか抱き締められていた。


 突然だったので、思わず固まっていると…彼は「分かった――…冬霞の心が、決まったらで良い…」と、私の耳元には…優しいが、彼からの“忘れてほしい”という気持ちが、静かに優しく浸透していった。


・・・・・


 ――私、愚かにも自分に酔っている…。

 私が、彼に対する『優しさ』と『甘え』が“原因”だから…うぬぼれている私に一番に効く“お仕置き薬”だ。


 ただ…その『悪夢』に魘される度、彼に心配をさせてしまっている。

 しかし、私の心の中では“まだまだ足りない”という、理不尽な葛藤に右往左往に激しく揺れる。

 いくら自分で決めた事だといっても…馬鹿でありアホだ。


 彼からの愛想が尽かれたらと、思うと――…うん。

 いい機会…と、言ったら変だが…いい加減、決着(?)をしようと奮闘した。


 よく『恋愛を試す者は、ウザがられて嫌われる』と、何かのバラエティー番組の特集で、視聴者さんが体験した恋愛に関するドン引きエピソードを…蛍ちゃんといのりちゃんと一緒に食い入るように見てしまいました。


 割愛しますが、凄い内容でしたよ…はい。


 体験をした視聴者さんの皆さんは、口々に「今は、笑い話です」と、苦笑いだったが「似た経験をした方は、早く忘れた方がいいです」と――…以前にも嫌な過去を持った方々の体験談の解決策…いや、苦肉の策として“早く忘れる”事だと…何の拷問だろうか。


 私も…その一人だからだ。


 そう思いながらも『フワッ』と、私の背後を優しく抱き締められた。

 彼から感じる体温と…強まる腕の感触、優しい桜の香りが、私の張り詰めていた心を解きほぐした。


「おかえりなさい」

「ただいま、冬霞…――大丈夫か?少し、顔色が…」

「大丈夫――…やっと、決心したの」

「決心…?まさか…」

「…過去の私が、貴方から離れる切っ掛けになった…あの“悪夢(ゆめ)”を忘れたい」

「!冬霞…」

「今まで、ごめんなさい…厭きれられちゃったよね?私…貴方の心配をかけてくれるが、嬉しくて…甘えまくって…馬鹿だね――」

「…冬霞」

「でも違うって、分かった…あの“悪夢”を見続ければ、貴方への謝罪になるかもなんて…馬鹿を考えてた…!貴方の迷惑を掛けてるとも知らないなんて、本当に馬鹿だよね、私…」


 ――彼に…私は、今までの自分の“心”と彼に対する『優しさ』に『甘え』過ぎた事を話した。

 彼は、話しの途中に「違う…違う…」と、言いながら抱き締められていた腕が強まったが…私の心境を汲み取ってくれた。

 私の背中から…彼からの体温と心臓の音が『ドクンッ…ドクンッ…』と、高い鼓動が伝わる。


 そして、私は「私の“お願い”を聞いてくれる…?」と、聞くと…彼は「冬霞…我も謝らぬばならない…」と、言われた。


「どうして、貴方が謝るの…」

「我も、な…冬霞に甘えていた」

「え…」

「不快を与える事を許せよ、冬霞…」

「…内容によるけど…」

「そうだな――…我も…冬霞に甘えておったのだ」

「え?」

「冬霞、我の愛しき妻…お前と出会えた事を恋しくて、愛しくて…我を喜びに包んでくれた」

「そんな…」

「冬霞も知っておるだろう?我は、昔から感情が乏しかった…いや、薄いの間違いかな…」

「・・・・・」

「嬉しかったのだ、我にも“心”がある事を知ったから…」

「そんな…貴方は、初めから…」

「先程も言ったが…子供の頃から感情を表すというのが、苦手でな…よく聞くだろう?喜怒哀楽という言葉を…」

「う、うん…私も乏しいほうだよ」

「ふふ…そのような事ないぞ、冬霞…」

「そ、そう…」

「…冬霞」

「?」

「我の“心”を作ってくれて…いや、与えてくれて…ありがとう」

「!!だ、旦那様っ…(そのっ…反則ですっ…!)」

「どうした?」

「な、何でもありませんっ…」

「…ふむ、頬が赤くなっているように見えるが…」

「き、気のせいです…」

「そうか…気のせい、か…」

「・・・・・」

「――しかし…惜しい、な」

「え?」

「皮肉だが、その…悪夢を見終えた後の冬霞は“必ず”我に抱きついてくれるから…楽しみにしておったのだがな…」

「え゛」

「すまぬ、すまぬ…そのような顔は、不要だ」

「・・・・・」

「あああ…冬霞…」

「もう…一緒に寝ませんっ」

「駄目」

「拒否権ありません」

「我の『命令権』を発動するから無効だぞ」

「!ず、ズルイっ…!」


 ――その後…私達の夫婦喧嘩(?)は、彼の『命令権』によって終止符。


 そして…彼は、私に“悪夢”を追い出す術を掛けてくれた――…と、言っても…大事ではない。

 私は、彼に「目を閉じてほしい」と、言われ従った。


 目を閉じた私に…彼は、静かに…そして、優しく…私の前髪を上げて…温かく、柔らかい“何か”私の額に優しく、触れ置いた。


 ――私の額に彼は、キスをした。


 彼に…キスされた事が、分かると…顔が熱くなった。

 正直に言うと…慣れません。

 嬉しいけど、恥ずかしい――…変な顔になってなければいいけど…。


「――もう良いぞ、冬霞」

「う、うん…」


 ――彼に言われ、恐る恐る…目を開けた。


 私は、目を開けると――…人形と見間違えるほどの彼の整った美しい顔が、目に入った。

 また思わず、目を瞑ると…彼に「冬霞…」と、言いながら…彼の両手が、私の両頬に優しく包むように置いた。


「大丈夫か?強かったか?」

「い、え…大丈夫です…」

「そうか…?顔色が、赤いが…」

「ほ、本当に大丈夫です…」

「冬霞…」


 その後、彼に白状しました。

 私の白状に…彼の目は、丸くなっていました…私は「厭きられた」と、また思わず目を瞑った。


 ――すると『フワッ』と、優しく温かいのを感じた…彼に抱き締められた。

 私は…また彼に“甘える”という選択肢しかなかった。

※サブタイトルを変更いたしました。

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