5-15 ある“青年”の昔話(15)
その“輪廻”を思いついて直ぐに行ったのは、妻の亡骸を『ある場所』に願いを籠めながら沈めた後の事――。
我が…行った輪廻は、極めて簡単にした。
何の事はない、妻が産み落とし急成長させた赤子に“妻を生まれ変わらせる呪い”を掛けただけだ。
――我の自己満足なのは、重々承知。
その赤子を連れ村の元に出向くと…村の様子は、分厚い曇天の雰囲気。
お構いなしに村長の屋敷を訪ねると広間には、村長を中心に村の者達や我の怒りを買っていた村の家族連れの若者達が集まっており、土地神を鎮めるための会合を行っていた。
突然の我の登場に村の者達は、瞬時に顔面蒼白になり阿鼻叫喚だった。
我は、お構いなしに赤子を村長に手渡して直ぐに村の者達に向けて「我の怒りを静めたければ、亡き妻を産み、我に返せ」と、村全体に呪いを掛け終えた後、帰宅した。
我の『お願い』を聞くや否や村の者達は、てんやわんやだったが…知った事ではない。
元は、馬鹿男に妻を差し出した愚か者の“罰”だ。
――しかし、我への“罰”でもある。
妻に出会うまで、嫌な事続きだった…土地神の力を手に入れると直ぐに継母を殺し、一度目の土地強奪を行おうとしていた貴族だったか忘れたが、その一家を殺し…――妻と出会ってから変わる事ができた。
もう既に血塗れの手と体だというのに妻は、我を愛してくれた。
二度目の土地強奪の時は、一度目の一家の主のように血祭りに上げようと考える事が出来なくなっていた。
変わりに“不幸与え”という方法にしたが…やはり、殺生をした代償だろう。
愛する『妻』が代価なら…我が行ってきた昔の代償が今になって、相応という名の“代価”として、返ってきたんだろう。
その結果が――…下劣に妻を奪われ、弄ばれ、孕ませられた。
そして、その下劣共を一人残らず始末した。
雇われていた使用人達は、殺さなかった。
村の出身者が多く、我の存在を知っていた事が大きいが…休憩時間や休みのたびに妻の現状報告をしてくれていたので、大目に見た。
――待った。
とてつもなく、待ち続けた。
我が愛しい妻・冬霞が“新たな命”として生まれ変わる事を首を長くしながら待ち続けた。
我自身『何をしているのか?』と、疑問に持った事もあったが「妻に逢いたい」一心が、勝っていたため壊れていたのかもしれない。
・・・・・
気づけば、大正だった世が『昭和』の時代に入っていた。
妻から生み落とされた赤子は、村長の養子として順調に育ち続け、立派な青年になっていた。
文武両道で、せっせっと自ら手伝いを買って出る好青年だった。
――勿論、我の事を知っている。
自分が養子である事と両親が亡くなっている事、自分の父親のせいで母親が亡くなっている事、その母親が我の妻である事と怒っている事、我が掛けた“呪い”の事を知っている。
反抗期があったが、諦めたのだろう。
我の呪いを解こうと動いていた。
その一つ、本来なら十一月十五日に行う行事の『七五三』を村での『七五三』を一部だけ急遽変更した。
土地神に対する“怒り”を静めるための『花嫁返し』という“謝罪”をするための詫び行事になり、行う時期と衣装が違う。
村での『七五三』が行う日取りは、男児だけが本来通りに十一月十五日に行うが女児は、三月三日に行う事となった。
他所なら雛祭りだけだが、村では昼まで『雛祭り』を行い、夕方から夜まで『七五三』の行事になっていった。
七五三の衣装は、振袖が多いが“村”では、白無垢のような振袖を着せられる。
衣装を着替え終えたら一度、広場に集まり大人の立会いを条件に我の住む社の前に一人一人に“契約”を交わせた。
この『七五三』の行事を滞らずに執り行えば、参加した礼として無病息災の他に多種多様の“ご利益”を授けていた。
そのせいか、どこから聞きつけたのか…参加する者の中には、必ず“ご利益”目当てに余所者が目立ち増え始めた。
勿論、戒厳令として厳重規制を敷く事となった。
だが、当然のように待っているのは、反発運動が起こったが…少し“力”で捩じ伏せた事は、説明を減らす。
当然、反発者の中には「今のご時世に土地神様なんて!」と、馬鹿にする者が多かったので実体験をさせたら案の定、ガタガタと怯え震えながら素直に村からの戒厳令を聞き入れていった。
その後、戒厳令のお陰か…数十年間は、余所者からの反発運動がなかったが中には、どうしても参加したい者がいるため特別に『土地神様にキチンと挨拶をする』という条件を与えたら文字通りにマナーを守っていた。
・・・・・
そして、更に数十年の歳月が流れた。
何度か、その『七五三』の行事に立ち会ってきたが…妻に似ているが空似が続いたが…ついに面影のある女子に会ったのだが、始めて会って早々に我を邪険していた。
その女子は、妻が生み落とした子の子孫の一人だった。
女子の名は、古城春菜。
その子は、高校を卒業をすると同時に都会に行った――…いや、我から逃げたかったんだろう。
無理もない――…村の者からと実の両親からにも村の土地神である我の“花嫁”候補として幼少の頃から祭り上げられ言われ続けられて嫌な気分にならないはずがない。
詫びを言いたかったが、確実に嫌がり聞き入れないだろう。
それに――…当時の我は、まだまだ執着という『取り付かれている』感が抜けていない者に聞き入れてくれる訳ない。
その子からの音沙汰は、静かに沈黙を守っていた。




