5-9 ある“青年”の昔話(9)
読みにくかったら申し訳ありません。
よろしくお願いします。
初めは、緊張しながら始めての住み込みのメイドとして四苦八苦していたが、先に働いていた先輩達の援助と助言を糧に何とか働き始めながら実家に匿名で、仕送り続ける事が出来た。
何度も失敗して落ち込んでも雇い主である富豪一家と先輩達から「誰にだって、一つや二つの失敗があるんだから負けちゃ駄目」とか「疲れたなら明日の仕事、交代するから気分転換に出かけておいで」と、慰めてもらうが逆に恐縮し申し訳なく何度も挫けそうになり辞めようと考えても思いとどまりから何とか、先輩達に根気よく育ててくれた事と雇い主である富豪一家の温かい応援のお陰で働き続ける事が出来たようだ。
何とか先輩達のように使用人として動けるようになった頃、雇い主の親戚との見合いを勧められた。
娘は、身分を理由に直ぐに断っていたが…雇い主の「会うだけでも」と、言い諦めてくれず…様子が気になり心配してくれた先輩達に相談すると賛否両論だったが、引き受ける事にしたそうだ。
相談に乗ってくれた先輩達からは「一度会ってみて、嫌だったら断ればいいよ」と、言われた事を隠しつつも雇い主である富豪一家にも同じ事を言われ、また恐縮しつつも見合いをすると話が進んだ。
着々と見合いの準備と日取りが近づくに連れ、不安がる娘に宥める日々だったが…あっという間に終わりを告げた。
見合い当日、その前日に部屋に来るよう言われており婦人の部屋に尋ねた娘に待っていたのは、3着の衣紋掛けに掛けられた美しい小紋金紗の振袖と帯…珊瑚の帯止め等が、用意されていた。
あまりの美しく愛らしい着物に娘は、慌てて「こんな素晴らしいの着れませんっ!」と、拒否反応のように断るが…婦人は、優しく娘に微笑みながら宥められ刻々と迫っている事もあり恐る恐る着物を袖を通した。
途中、用意した帯を換えたり結び方を変えたりを繰り返したり、髪型を換えたり大変だったらしいのは、説明を減らす。
無事に娘の衣装や髪型が、決まると同時に迎えの車が到着し仲人である婦人と共に向かった。
見合いの場所は、富豪家が贔屓にしている老舗の割烹料理店。
娘は、緊張しながらも婦人に勇気付けられながら簡単に見合い相手の説明を受けていたが…頭に入っていかなかったようだが、終わりを告げる。
仲居の「お連れ様がご到着いたしました」の一言に恐る恐る見合い相手を見て早々の二人は、驚いた。
何故なら…嘗ての幼馴染だったからだ。
当然、土地神である我も知っていた。
青年は、幼児期の頃に酷い喘息を患ってしまい、まだ合併する前の村だった時に父方の叔父か住んでいる親戚に一時預けられていたが…酷な選択だった。
自然が好きだった青年は、初め喜んでいたが…日に日に元気が無くなっていった。
何故なら少年(青年)が、都会育ちという事で、同い年の村の女児達から憧れの的であり“高嶺の花”のような存在に扱われたり、逆に男児からは、分かりやすい嫉妬の対象だった。
そんな嫌な緊張と心労の板挟みのせいで、喘息が悪化しそうだった矢先に娘と知り合い仲良くなり、よく二人で一緒に我の元に訪ねては、お参りしてくれていた。
我も二人が、来るのを楽しみで嬉しかった…が、長く続かない。
――別れの時が、必ずあるからだ。
少年(青年)の酷かった喘息が、嘘のように治り…両親が、居る都会に帰る事になってしまった。
青年は、帰りたくなく親戚を困らせていたが、娘の説得もあり帰る事を承知し村を後にした。
娘は、見送った後にその足で、その事を報告してくれた。
泣くのを堪えながら我に「治してくれて、ありがとうございました」と、礼を言われた。
切ない気持ちで一杯になったが、ある事を思い出し、娘の目の前に小箱を置いた。
娘は、目を丸くした。
突然、目の前に現れた小箱に驚いていたが、恐る恐る手を伸ばし小箱の蓋を開けた。
小箱の中身は――…少年(青年)が、以前見せてくれた宝物の一つと手紙が入っていた。
折りたたまれた手紙を広げ読むと『いつか会おうね』と、約束事が書かれていた。
和気藹々と子供の頃の思い出話しを談笑を続ける娘と青年に目を丸くし、驚いている仲人の婦人と青年の母親に気づいた娘と青年は、幼馴染である事を含め話した。
そして、娘は「ここで会えると思っていなかったけど…」と、言いながらハンドバックから可愛いレースのハンカチに包まれた『あるもの』を取り出し、青年に手渡した。
青年は、その包まれたハンカチを広げると「まだ…持っててくれたんだ…!」と、感激のあまり娘に何度も「ありがとう!ありがとう…!」と、娘の手を握りながら泣きながら礼を言い続けた。
その『あるもの』は、青年が村に滞在中に娘に見せた青年の宝物の一つで、一番のお気に入りだという亡き曽祖父の懐中時計。
今は、壊れてしまっているが…何時か時計技師になって修理したいと、子供の頃の夢を話していた事を仲人の二人に話した。
仲良く息ピッタリに話し合う娘と青年に仲人の婦人と青年の母親は「(これは、結婚しかない!)」と、結婚に向けてとんとん拍子に話が進んだが…当然、娘から申し訳なさそうに自分の実家が借金を抱えている事を話していると婦人から「その事なんだけどね」と、間に入り借金が無事に返済した事を話した。
婦人から告げられた突然の思わぬ告白に娘は「え?えっ…?」と、素っ頓狂な変な声を上げていたが、ようやく事実を飲み込めたのか…婦人に「ほ、本当ですか…?」と、再確認するように聞くと婦人は「本当よ、主人から聞いた話なんだけどね」と、婦人の夫から聞いた話しを娘に話した。
婦人の夫も婦人に負けず劣らず娘を使用人として扱わず、他の使用人達にも我が子のように可愛がってもらっていた。
そんな中、娘の実家が借金があると聞くや否や直ぐに返済する金額を探偵を雇い調査をし弁護士を雇い立会いの元、銭貸しに契約書と違反書を準備している時に調査依頼をした探偵が戻り、調査報告書を読み驚いたそうだ。
短期間で、借金が全額返済していたからだった。




