4-7 小話・姉の決断
古城秋名の後日談(?)を書かせていただきました。
読みにくかったら申し訳ありません。
――どこで、間違ったんだろう。
間違えた…間違えた…間違えたっ…。
そう思いながら…無意識に噛み締めたり、カバンの取っ手に力が入る。
しかし、そうしても空しくなるだけだった。
今までに感じたことのない哀しさと空しさに加え、不愉快感が容赦なく…まるで――大きな布で、心身を覆いかぶさるように絡みつき続ける。
――嫌だ。
嫌だ…嫌だ…嫌だっ!!放してっ…放してよ!
そう願っても無意味だ。
恐怖心――なのだろうか…考えることでさえ、無駄だと言われている気分。
私は…母の“言いなり”だった。
母の言う事を聞いていれば『何もかも』問題ないと、信じて疑わなかった…のに『ガラガラ』と、音を立てながら築き上げた“モノ”が崩れていった。
母も私も“アレ”が、嫌いだ――…なのに…貴女は、違った。
同じだと思っていたのにっ…!
何故…?
何でなの…冬霞…?
私達は、姉妹なんだよ…姉妹なのに…。
――違う。
姉妹だから“同じ”になるわけがない…当たり前な事を忘れるなんて…どれだけ都合のいい『姉』だったのだろう…最低だ。
私は、母と一緒になって…勝手に貴女の事を『不幸』だと決め付けていた…でも違った。
――偶然…再会した、お祖父さまから受け取った貴女の手紙でも書かれていたね。
冬霞…貴女は、自分の“意思”で“今”があるんだね。
手紙と一緒に貴女の写真が…入っていた。
写っていたのは、貴女の晴れ姿――…土地神様の花嫁衣装に身を包んで、照れて微笑んでいる貴女の写真を見た時「違うの…?」と、変な小言を零してしまった。
私は、貴女を助けようと“努力”をしてきた…つもりだった。
――でも…無駄だった。
子供の頃から私は、貴女から逃げていたんだね。
貴女は、私も母と同じ考えだと『勝手』に決め付けて…家族という名を利用して間違った“恩”を押し付けて…縛り付けた。
いわば『悪人』と言うのか…それとも『毒姉』が、正しいだろうか。
その結果――…残念人間だ。
私は「妹のため!」と、自分に酔っていたのかもしれない。
馬鹿だ。
愚かだ。
根拠なんて、無いのに『悲劇』ぶって…恥ずかしい。
オマケに…子供の頃からピアノで、お世話になっている藤野先輩や先輩の紹介で、知り合った辻本さんや他の方々にまで、心配をさせてしまった。
これは、私の『罰』だ。
冬霞の言葉…母もだけど、私も聞かなかった。
いや、聞きたくもなかった。
もし…今日、お祖父さまに会わなかったら…貴女の手紙、受け取る事が出来なかったな。
また思わず…カバンの取っ手に力が、入った。
しかし、そんな事をしても『何も解決しない』のに…縋りつきたかった。
・・・・・
どうやって帰ったのか…何時の間にか、家の玄関前に着いていた。
まるで、夢遊病だ。
ちょっと、考え事をしていた――…そう思っていたのに…違った。
また考え事をしていると『コトン』と、いう音がした。
何となく、音のした方を向くと…冬霞の幼馴染の鶴野知美さんの姿が見えた。
鶴野さんの他に二人…泉崎あやねさんと小米花理緒さんと一緒だった。
鶴野さんが、自宅の郵便物を回収する音だったようだ。
鶴野さんは、ダイレクトメール等の郵便物をチェックしていた。
すると、鶴野さんの表情が変わった。
とても嬉しそうだった。
誰かからの手紙が、届いたのだろう。
今にもジャンプをしそうな勢い…だったが、私の視線に気づいてしまった。
私の姿に気づいてしまった鶴野さんは、きょとんと立ち尽くしていた。
一方、私は「(最低だ…微笑ましいと思っていても…あんなにジロジロ見るなんて、何してるの?私…)」と、罪悪感に突発的に襲われ…逃げるように家の中に入った。
家に入ると…ドアを背もたれにして、ズルズルと崩れるように座り込んでしまった。
鶴野さんとは…妹経由で、知り合った。
でも…私は、ピアノの習い事があったので、あまり交流がなかった――…のに…3年前の一件で、ガラリと変わってしまった私を心配してくれた。
嬉しかった…嬉しかった、けど…怖くなってしまった。
冬霞が、居なくなってから…寂しさを理由に鶴野さんを『妹』の代わりにしようとしている私自身が居たからだ…何を考えているんだろう…本当に…どうしようもない。
そんな事を考えていると『ピンポーン♪』と、チャイムが鳴った…まだ玄関に居た私は、よろよろと立ち上がり…ドアを開けた。
――鶴野さんだった。
今の私は、顔色が悪くなっているのだろう…鶴野さんに心配そうな顔をさせてしまった。
鶴野さんの後ろには、泉崎さんと小米花さんも一緒で…鶴野さんと同じ心配をさせてしまっている顔が私の目に映った。
私は「…さっきは、ごめんなさい」と、何とか絞った声を発した。
すると、鶴野さんは「ううん!お姉さんも帰ってたんですね、おかえりなさい!」と、元気いっぱいに私に挨拶をしてくれた。
もう二度と“会えない”妹…――妹と同い年の子に「おかえり」と、言ってもらえた事に…私は、抑えていた感情と涙が溢れていた。
どうしてだろう…どうして、この子達は『空っぽ』になってしまった私に優しいのだろう…。
理由なんてない――…その言葉を言ってしまえば、簡単だ…。
でも…私は『裏』があるんじゃないかと、嫌な思考が回る――…違うと、分かっているのにも関わらず…。
妹の冬霞も優しかった。
妹に対して、大事だったから…間違った愛し方であり『愛の虐待』を私と母との“閉じ込め”を起こしてしまった…。
愚か者なのに…自虐していた。
その後は…騒がせてしまったので、詫びになるか迷ったが…招いた。
――リビングに通し、三人を待たせている間にお茶菓子の準備をした。
お茶菓子の準備をしていると鶴野さん達に「手伝いますー」と、来てくれたが…市販のミルクティーとかだったので、断ると…鶴野さんに「コンビニで、お菓子を買ったので用意してますね」と、三人で食べるつもりだったのに…テーブルにポッキーやチョコパイとかを用意してくれていた。
私は、用意したミルクティーを持って行きながら…鶴野さん達にお礼を言うと「いえいえ」と、返してくれた。
その後は、いっぱい話しをした。
――夏休み中に行う予定の『お出かけ計画』や宿題の進め方と部活に文化祭…そして、来年の高校受験。
私も大学の受験だが…既に切符を手にしている。
ピアノを極めるために外国に行く――…のだが、保留にしていた。
――妹の事だ。
でも…妹は、お見通しだったのだ。
手紙で、叱られてしまった。
そして、妹・冬霞の話しになった――。
鶴野さん達の知る、私の知らない“妹”の話し…初めは「嫌われている」と、思っていたが…私の事を『しっかり』見てくれていた事に驚いた。
想ってくれていた。
好きでいてくれた。
また涙腺が緩むのを感じたが…必死に堪えた。
鶴野さん達に心配させたくない――…のもあるが、この子達は『妹』に似ている…勝手に決め付けているが『姉』の“我儘”を押し通す事ができた。
妹からの手紙でだが、私は『背中を押してくれた』から…決意を固めたことを冬霞の幼馴染さん達に宣言した。
すると「やっぱり、カッコイイです!」と、絶賛してくれたが…途中、小米花さんに「お姉さんの涙を見た時…ウチの大馬鹿従兄が、弄ってるのかと思いました」と、言われてしまった。
小米花さんの言葉に鶴野さんと泉崎さんに「弄っていたら締めるのよ?」と、物騒な言葉が聞こえたが…聞こえなかったふりをさせてもらった。
午後3時半頃にお開きになったが…嬉しくて、楽しかった。
約束するよ、冬霞。
お姉ちゃんは、頑張るからね。
お母さん達の事は、心配しなくて大丈夫だから安心してね。




