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想ヒ人 -指切-  作者: ツカサシキ
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4-5 妹からの望まぬ『拒絶(こころ)』のため、依頼を打ち切る

 秋名の言葉に祖父は「秋名も知っているだろう?過去の事を…我々、子々孫々は『土地神様』に怒りを買ってしまった“償い”をしないといけないのだ」と、言いながら「やっと、やっと…償う事が出来るんだ…ようやく、長く縛られ続けた呪いの鎖が断ち切れるというのに嬉しくないのか?」と、秋名に聞き返した。


 その言葉に火が付いたのか…秋名は「だからって…赦してもらう変わりに“妹を奉納”するって、どういうつもりなのっ!冗談じゃないっ…私の妹なんだよ?お祖父ちゃんの孫娘なんだよ、冬霞はっ!」と、まくし立てると祖父は「…やはり、()()()()()()だったんだな?秋名…」と、哀しげな顔をしながら問うと秋名は「それが?何が悪いの?当然だよ!」と、力説すると祖父は「そうか…――まさか、会えると思っていなかったが…今、此処で渡させてもらうよ」と、言いながらカバンから可愛い封書を取り出し、秋名に差し出された。


 無意識だったが…祖父から手渡された手紙を受け取ると「!この字っ…!」と、驚きながら祖父を見た。


 祖父は「冬霞から預かってきた、秋名宛の手紙だ」と、ポツリと言いながら食後のホットコーヒーを啜った。

 しんみりとした祖父の態度を気にせず…秋名は、直ぐに封書を開封し手紙の内容を見た。


 秋名は、食いつくように妹からの手紙を読み進めていった。

 しかし、読めば読むほど顔色が変わっていき…先程の威勢が沈静した。


 ――何故なら冬霞が書いたのは、秋名への“お別れの手紙”だったからだ。


 うな垂れる秋名の様子に祖父は「秋名…お前だけじゃないよ」と、呟くように言うと秋名は「え…?」と、顔を上げた。


 そして、そのまま祖父は「春菜と夏彦君…そして、わしや里見と蛍といのりも書いてくれた…その手紙を渡してくれた時の冬霞の顔は、桜のように優しく儚げな笑顔だった…」と、哀しげに「もう後戻りなど出来んのだ…今は、分からなくても良い…しかし、受け止めないといけないのだ」と、言い終えると静かに会計伝票を手に取り椅子から立ち上がった。


 その様子に気づいていないのか…秋名は、貝のように固まっていると祖父は「申し訳ないが、もう失礼するよ」と、言いながら荷物を持つと「秋名、冬霞からの()()を叶えてくれよ」と、未だ硬直中の秋名に言い終えると辻本さんに一礼し、会計場に向かった。


 その席に一人残された秋名を辻本さんは「とりあえず…一緒に出ましょう?」と、言われた秋名は、硬直から放心に変わりフラフラながら立ち上がろうとするも…直ぐに立つ気力が切れるのか何度もへたり込みかけたところを店員さんが慌てて「大丈夫ですか?お客様っ?」と、駆けつけた。


 すると、辻本さんが「大丈夫ですよ、お騒がせしてしまって申し訳ないです」と、駆けつけた店員さんに謝っていた…秋名は、情けない気持ちで一杯だった。


 一度ならず二度、三度と藤野先輩だけでなく…辻本さんと来店して数十分後に店員さん達にも迷惑を掛けてしまう自分自身に自己嫌悪を抱くも妹からの手紙の内容を見てしまった瞬間…急激に何もかもの必要な気力が階段から転げ落ちるように感覚に襲われていた。


 何度か辻本さんと店員さんからの心配する声掛けに「大丈夫です」と、言いたいのに声が出ない。

 思わず、厭きれて笑いそうになるが…出来ない。


 秋名は、もう自分の力で、立つ事と歩く事が出来ないほど凹んでいたため…自分と秋名のカバンを持った辻本さんに肩を借りてフリースペースに運んでくれた。


 何とか、ヘロヘロの状態だったが落ち着きを取り戻し「すみません…辻本さん、私っ…」と、言いかけたところに辻本さんは「大丈夫ですよ、古城さんのカバンは此処に置いておきますね」と、言われて始めて自分のカバンを持っていなかった事に気づき、慌てて「すみませんっ…!」と、再び謝っていると「蓬?」と、聞き覚えのある女性の声がした。


 ――無患子さんだ。


 無患子さんの登場すると辻本さんは「菜種?あれ?用事は?」と、聞くと無患子さんは「案外、早く終わったよー…いーやいや、()()()()()()わ」と、言いながら前髪をクシャッと、握りながら『何か』に気づいたのか…秋名の手元を見ていた。


 秋名は、無患子さんの目線に釣られ手元を見ると「あっ…」と、間抜けな声を出した。

 気づかなかったが、妹からの手紙が読み進めていくうちにクシャクシャになっていた。


 慌ててクシャクシャになった手紙を広げ伸ばしながら直しても衣服とは、違い…紙は、一度付いたシワは、取り除けない。


 秋名は、また自分に厭きれかえった。


 あの日に母が…母方の祖父と叔母親子との絶縁を断言して以降、妹の笑顔が消え去った。

 当時、母と秋名も冬霞を村の“土地神様”から助け出した英雄気取りだった。


 ――でも違った。

 妹・冬霞と土地神様が愛し合っている恋人だという事を改めて手紙に書いてあった。


 手紙の内容を改めて読み進めていくと、まだ読んでいなかった文面を見つけた。

 その内容を読んだ秋名は「辻本さん…」と、掠れた声で辻本さんを呼んだ。


 辻本さんは、直ぐに「どうしましたか?古城さん」と、聞いてきてくれた。


 冬霞からの手紙の最後に掛かれた文を見た秋名は「私…村に行く事を辞退します」と、伝えた。

 その言葉を聞いた辻本さんは「…そうですか」と、言いながら「僕だけ様子を――」と、言いかけたところに『バシッ』と、無患子さんが辻本さんの頭を軽く引っぱたいていた。


 直ぐに辻本さんは、無患子さんに抗議すると「あのレストランで、私の言葉を忘れたか?蓬君?」と、言うと辻本さんは「!申し訳ございません!」と、無患子さんの威圧に負け謝罪していた。


 秋名は、辻本さんと無患子さんのやり取りに微笑ましく見つめながら…くしゃくしゃになってしまったが、妹からの手紙を優しく抱いた。




 4章 -完-

今回で、4章を終了いたします。

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