4-3 姉、祖父との昼食
そして、祖父から「元気そうで安心したよ」と、優しい言葉をかけてくれた。
思わず、ひっくり返りそうな間抜けな声が出そうになったが何とか堪えながら秋名は「うん…」と、しか答えられなかった。
メニュー表を眺めながら祖父は「どれにしようかな~?オススメのランチメニューがあるんだな~、ランチメニューにしようか」と、楽しそうに選んでいた。
ぎこちなく秋名もメニュー表を広げながら選び終えると祖父は「決まったか?秋名」と、聞かれ「うん…」と、答えると祖父は「じゃ、呼び鈴を鳴らすよ」と、言いながら呼び鈴を押した。
――呼び鈴が、鳴って数十秒後。
店員さんが、駆け寄り「お待たせいたしました」と、言いながら電子端末型注文表を取り出し「ご注文をどうぞ」と、言うと祖父は「わしは、この…ランチメニューのトマトとアサリのペペロンチーノをください」と、答えると店員さんは「はい――…ランチメニューのスープが、選べますが…」と、聞かれると祖父は「そうですね…コンソメスープは、まだありますか?」と、聞くと店員さんは「少々、お待ちください」と、電子端末をパパッと操作をし終え確認すると「お待たせいたしました、ございます」と、言うと祖父は「では、コンソメスープをください」と、言うと店員さんは「畏まりました」と、またパッと電子端末を操作をした。
そして、祖父は「秋名は?何にするんだい」と、聞かれた。
突然の問いかけに秋名「えっ…?あっ…えっと、この…カボチャのクリームスープパスタ…」と、ぎこちなく答えると店員さんは「畏まりました、ご注文は以上でしょうか?」と、聞かれると祖父は「はい」と、答えた。
祖父の返事に店員さんは「畏まりました。少々、お待ちください」と、一礼をすると他のお客さんのオーダーが入ったため直ぐに向かった。
先程まで、店員さんが居たから何とか…秋名の心を落ち着かせる事が出来た。
しかし、会話が出てこない。
母方の祖父と思いもよらぬ再会でもあるが、久しぶり過ぎると会話の第一声の引き出しが開かず…思わず、挙動不審になってしまう。
すると、祖父は「どうだ?春菜と夏彦君は、元気にしているか?」と、以前のように優しく聞かれた。
懐かしい祖父の一言二言に思わず泣きそうになるが秋名は「うん…元気、だよ…お祖父ちゃんは?里見叔母さんや蛍ちゃん、いのりちゃんは?」と、冬霞の事は…あえて、触れずに従妹達の事が、気になっていたため…変な掠れ声になっているが何とか聞き返した。
秋名の問いかけに祖父は「勿論!わしや里見も蛍もいのりも元気にしているよ」と、答えながら「夏彦君のご両親…ご祖父母様も元気にしているか?」と、立て続けに質問を繰り返す。
秋名の事、両親の事、父方の祖父母の事――…普通の会話をした。
そして、今年のピアノのコンクールを楽しみにしてくれている事も話してくれた。
あの時と変わらない祖父の優しい問いかけに何度も泣きそうになったが、また何とか堪える事が出来た。
そして、秋名は「お祖父ちゃんは…どうして、此処に…?」と、まだぎこちないが質問した。
秋名の質問に祖父は「足袋を受け取りにな」と、答えた。
秋名は「たび?」と、聞き返すと祖父は「和服の時に防寒や礼装用にはく、つま先が二つに分かれた袋形の布の事だよ――…以前まで頼んでいた足袋の職人が、引退してしまってね…その職人さんのお弟子さんが此処のショッピングモールと契約している事を教えてもらってね、紹介してもらって依頼をしたんだよ」と、淡々と答えた。
祖父の答えに秋名は「そうだったんだ」と、答えていると…躊躇して聞けなかった“妹”の事を聞こうとしたところに出来立ての料理を乗せたワゴンをガラガラと引きながら店員さんが、持ってきてくれた。
到着するとワゴンが、動かないようにロックを掛けてから「お待たせいたしました、ランチメニューAセットのトマトとアサリのペペロンチーノです」と、言いながら頼んだ料理を次々と丁寧に置いていった。
祖父が、頼んだセットメニューのペペロンチーノ特有の香ばしいニンニクの香りと唐辛子特有の香りやコンソメスープの香り、シーザーサラダの緑豊かな色合いが食欲を刺激させる。
――秋名が、頼んだ『カボチャのクリームスープパスタ』も負けていない。
見た目は、カボチャ色のカルボナーラと言えば分かりやすいだろう。
きめ細かく裏ごししたカボチャと生クリームの混ざった優しい色合いのポタージュソースに絡んだパスタの上にカリカリのクルトンとクルトンと同じ大きさにカットし素揚げしたカボチャ、同じくクルトンとカボチャと大きさにカットし焼いたベーコンが中心に乗せられており、その上に細かくみじん切りしたパセリが散りばめられていた。
注文した品々を置き終ると店員さんは、また一礼をし「ごゆっくり、どうぞ」と、一言を残し持ち場に戻っていった。
祖父は「美味しそうだ…では、いただきます」と、合掌し終えるとカトラリーボックスから箸とスプーンを取り出した。
秋名もつられて合掌をし終えてからカトラリーボックスからフォークとスプーンを取り出し、自分のカボチャのクリームスープパスタにフォークとスプーンを使い掻き混ぜた。
すると、パスタのソースからほんのりと生クリームの優しい香りと螺旋を描くようにほかほかと湯気に乗せて、食欲を刺激し…食べやすいようにパスタを巻いた後に口の中に頬張った。
初めて食べる優しい味わいに思わず頬を蕩け「んん~♪」と、口にしていた。
秋名の様子に祖父は、ニコニコと微笑みながら蕎麦を食べるようにペペロンチーノを頬張ったり、コンソメスープを飲んだり、シーザーサラダをシャキシャキと良い歯ごたえの音を立てながら「美味しいね」と、言いながら食べ進めていた。
――食べ終わった頃に聞き覚えのある声を耳にした。
秋名は、思わずキョロキョロと見渡すと同じピアノ教室に通っていた先輩でありピアニストである今は、大学生である藤野さんと同じ大学に通っている「(辻本さんだ…誰かと一緒?)」と、思っていると「どうした?秋名」と、不意に祖父の呼びかけに我に返り「ううん、何でもない」と、変に誤魔化してしまった。




