3-16 『今』を生きる少女の交差する思いと想い
主人公の『前世』編、終了いたします。
長文を書いてしまい申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
その後の事、何時の間にか「裏山に別荘!」と、騒いでいた依頼者である富豪に次々と不幸続き、気づけば借金だらけになっており…別荘の工事は、白紙になった事を工事関係者の方々が、口揃えて私と尼様に報告を逸早く知らせてくれた。
その事を聞いた、私は「この事を土地神様に報告して宜しいですか?」と、聞くと尼様は「是非、そうしてください」と、言うや否や早速と言わんばかりに尼様と客人にお辞儀をし終えると私は、供物を持って裏山に向かった。
尼寺から出ると巫女は、直ぐに裏山の方を見た。
今でも前のように…前よりも濃霧が、立ち込めていた。
――まるで、威嚇をするように…。
直ぐに巫女は、供物の入った篭を持ち裏山に足を運んだ。
そして、裏山の供え台に着いて早々に篭から供物を取り出し供え終えると「今日は、ご報告があります」と、拝みながら聞いたばかりだが…先ほどの一件を報告をした。
報告をし終えると…ザアッ…と、強い風が吹いた。
まるで、裏山が『本当か?』と、聞いてきたようだったため巫女は「はい、本当です」と、答えるとザワッ…と、また強い風を吹くと同時に巫女の耳元で「本当に本当?」と、若い男の声が囁いた。
巫女は、その囁きに驚き振り向くと巫女と同い年か二十代前半の黒髪で両目を包帯で隠した青年が立っていた。
よく尼寺に来てくれている青年だった。
青年の問いかけに巫女は「はい、本当です…」と、答えると青年に『カバッ』と、急に巫女を抱き締めた。
突然の青年の行動に巫女は「えっ?」と、思わず間抜け声を出した。
そして、また巫女の耳元に「嬉しい…また我は、お前の側に居られる」と、囁き終えると『フワッ』と、優しい風が吹くと同時に青年が消えていた。
突然の出来事に巫女は、その場にへたり込んでしまったが「急すぎますよ…」と、ポツリと口にしていた。
そして、作業がしやすいように明日の準備をし裏山を後にした。
尼寺に帰宅して早々、直ぐに業務を開始し終えた。
尼様の手伝いを含め一仕事を終え、風呂から上がり自室に向かっていると部屋の前に愛らしい山桜の一小枝がひっそりと置かれていた。
巫女は「(まただ)」と、不思議に思っていたが…山桜にお辞儀をして部屋に持ち帰り、前に村に着ていた食器売りから買った使っていない自分の湯飲みを一輪挿し代わりにし床の間に飾った。
布団を敷き終え、明日の予定を改めて確認し、床に着く前に床の間に飾った桜に「おやすみなさい」と、挨拶をし就寝した。
ほんのりと優しい桜の馨りに巫女は、安心し静かに寝息を立てた。
・・・・・
――夢見は、ここで終わってしまった…が、その夢見のお陰で、全て解った。
私は、彼の“愛しい”恋人であった『巫女』の代わりであり、そのために生まれたのを知った。
彼と初めて会った時から“始めまして”ではなく“憶えてる”感覚があったからだ。
――…あの時の“私”が、どうして『亡くなってしまった』出来事も含めて…しかし、一気に思い出してしまったため…頭の整理が追いつかなかったが、少しずつ馴染むように落ち着いていった。
今も子供だが…ずっと、変わらなかった『気持ち』だ。
本当に“彼”と、また会えた事が何より嬉しかった。
今でも“彼”は、私――…母方の先祖に当たる曽祖父の父達のせいで、彼等の幸せだった日々を引き裂き、破壊し何もかも狂わせた。
今でも憎み続けているのを知っている。
そのために巡り巡って、ようやく生まれ変わった『巫女』を待っていたから…。
「今度こそ、は…絶対に…」と、私は心から改めて誓った。
・・・・・
あの日――…母からの“愛情”という名の…言いすぎかもしれないが、虐待から解放され…自分独りで『土地神様』である“彼”の待つ村に行けるようになった頃に思い切って、彼に“あの夢見”の事と“記憶”の事を引かれるのを覚悟で、話した。
――私の話しに彼は、驚いていた。
そして、真っ直ぐに見つめ…静かに私の話しを聞き続けてくれていた――…話の途中に泣きそうになってしまったが、この言葉を伝えたかった。
何度も涙が、出そうなのを拭いながら…私が「――今の姿は、昔と違うし小さいけど…!貴方の事が…!」と、言い掛けた時だった。
座っていたはずの彼に私は、何時の間にか…抱き締められていた。
優しく…優しく…――彼からの抱き締めている腕の強さ。
行き来する互いの体温と感触――…彼から馨る桜の馨りが、私を優しく包まれる。
そして、私の頭を優しく撫でながら彼は「すまぬな、言いたい言葉を急に止めてしまって…とても勇気を振り絞っていたのは、分かるし知っている…――でも、我に言わせてもらえないか?いや、言わせて欲しい」と、何時の間にか彼の口が私の耳元で優しく囁いていた。
彼の囁きに思わず、硬直してしまうが…構わず彼は、そのまま私の耳元で「…確かに我の術で、彼女の本来の輪廻を早め…待ちに待って、お前が生まれてくれた」と、真情を吐露した。
私は、彼が話す“事実”に黙って耳を傾けた。
決心…していたつもりだったが、私の心の整理と決心を改めて固めさせてもらっていた。
そして、抱き締めていた彼の手は、優しく私の両頬を包むように置いた。
「――冬霞…お前は、彼女であり彼女ではない…彼女を失ってしまった悲しみと寂しさを慰めるためだけに生ませた事を謝る…けど――…冬霞が、恋しく愛しい気持ちに嘘偽りなどない」と、静かに口にし、口付けをした。
今から5年前の出来事を…彼から話してくれた事実と告白だった。
・・・・・
そう思い返していると、寝ぼけていたが…彼が、起きるや否や抱き締められた。
「――おかえり」
「ただいま…」
「んー…帰ってきたんなら起こしてよ、冬霞」
「気持ちよく寝てたから…起こせなないよ」
「むぅー…」
「そんなにむくれないで…今日、暑いから最中アイスを買ってきたから一緒に食べよ?」
「…うんっ」
私がそう言うと、自室にあるミニ冷蔵庫から最中アイスのバニラ&クッキーと三種のミックスベリーを取り出していると彼に「冬霞、何か忘れてる」と、言われ…私は「え?」と、間抜けな返答をしながら振り向くと、何時の間にか抱き締められたと思ったら…そのまま口付けされた。
――彼からの『おかえりのキス』だった。
また私は、ただただ彼の唇に甘えるしかなかった。
時々、離れたと思ったら優しく見つめ…我が子がいる私のお腹を優しく撫でた後、再びキスをしながら額と頬にも舐めるように唇を滑らす彼が満足するまで、待つしかなかった。
3章 -完-
今回で、3章を終了いたします。




