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想ヒ人 -指切-  作者: ツカサシキ
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3-15 “少女”の過去夢(7)

 どのくらい時間が経っただろうか…気づけば、辺りは暗く背の高い森林の中にいた。


 暫くする牛車は、静かに止まり牛車の扉を開くと二人の若い書生さんが立っており…その一人が「どうぞ」と、恐る恐るだったが…私に手を差し伸べた。

 私も「は、はい」と、恐る恐る書生さんの手を取り牛車から降りた。


 書生さんの手を引かれながら着いた先は、裏山の奥にある古い洞窟の入り口前だった。

 その前には、ロウソクが点った行灯と儀式用の座敷と床の一部を覆う敷物が引かれ足が、痛くならないように座布団が置かれていた。


 また書生さんに手を引かれ導かれるように、その敷かれている座敷に向かった。


 私は、その座敷にある座布団に静かに座るのを確認すると二人の書生さん達から一言二言を話し終えた。

 話しを終えると深々と…お辞儀をし頭を下げたまま、その場を静かに離れた。


・・・・・


 ――独り残されてしまった私は、待つしかなかった。


 村に着て、何年もしないが…唯一の身内である尼様と村長から「絶対に裏山には、入ってはいけない」と「裏山には、この村を護ってくれる『土地神様』が祀られている為、何の目的があっても入ってはいけない」と、常日頃から言い聞かされ続けてきた。


 改めて、周囲を見渡すと…境内の真ん中に儀式用の畳の上に赤い敷物を広げており、座布団が置かれていた。

 私は、何となくだが…一礼をし座布団に座った。


 ――不思議な『気持ち』と『感情』だった。


 何時だったか“知っている”から“憶えている”に変わっていたから…私は、用意されていた座布団に静かに座ると何気に夜空を見上げた。


 月のない新月の夜空だが、雲一つないが星も見当たらない真っ暗な闇夜。


 先程まで、音を立てていた篝火の明かりが弱まると同時に吹いていた夜風も何時の間にか止んでいた。


 ――私は、待った。

 必死に緊張を隠すが…徒労という言葉に行き着くのに時間は、掛からなかった。


 すると『ザアッ…』と、強い風が吹き込む思わず顔を上げ、目に入った。


 大きな――…蜘蛛の姿をした“土地神様”が、私の前に現れた。

 その姿は、黒く…まるで、新月の夜のような漆黒の体と足。

 赤い…いや、臙脂色が掛かった紅色の蜘蛛特有の無数の目。


 ――その姿に私は、普通なら嫌悪感を抱くだろうが…思わず「綺麗…」と、見惚れながら呟いていた。


 その呟きを聞こえたのか『土地神様』は、ズイッと私の前に顔を近づけた。

 私は、呟いてしまった事を知り慌てて顔を俯くが…止められた。

 何時の間にか『土地神様』の足が人の手に変え、私の右側の頬を触れていた。


 村の守り神である『土地神様』の姿に私は、また釘付けになった…私は、何時の間にか手を伸ばしていた。

 思い返しても理由なんか無かった、ただただ――。


 その後の事は、記憶があやふやになっているが…おそらく『土地神様』が正式に“花嫁”として、認めてもらった――…と、勝手に思っていた。


 私は、つい嬉しさと恥ずかしさの板挟みに葛藤していたが…あの二度目の一件が起こった。


 あの一件から裏山の様子が変わったのを知っている。

 まるで、また『汚毒』を受けたように…もがき苦しんでいるように見えたからだ。

 大事なものを護るようにも見て取れた。


 また、私は「(嫌かもしれない、けど…ほっとけない)」と、思い…草笛を吹いていた。

 こんな時に下手だけど、嬉しそうに聞き入ってくれていた“彼”には、申し訳なかったけど…吹かせてもらった。


 草笛の演奏を一曲~二曲を終えた頃…ふと、目を開けると“彼”が私の目の前に座り、曲を聞き入れていた。


 何時も両目に巻いてあるはずの包帯が無かったので、思わず見惚れてしまった。

 目は、瞑ったままだったが…整った眉毛とまつ毛が長く、女性と間違うくらいの美青年だった。

 演奏が終わったと気づくと、静かに目を開けた…そして、また私は、見惚れてしまった。


 私は「(やっぱり…貴方は…)」と、薄々気づいていたが…確信に変わっていた。

 何故なら“彼”の両目は、臙脂色が掛かった紅色だったから…。


「――ん?もう…終わってしまったか?」

「・・・・・」

「…どうした?そんなポカンとした顔をして…」

「え?あっ…」

「ん?一体、どうしたのだ?」

「いえ…あの…――ほ、包帯…」

「包帯?…あぁ…」と、言いながら何時も巻いていたはずの包帯が、無い事に気づいた。


 気づいたが、気にする必要がないのか、ジッ…と、私の方を見つめた。


「・・・・・」

「…怖いか?我の両目…」

「えっ!いえっ…すみません、綺麗だったので…思わず、見惚れて…」

「…そうか?我の目、本当に怖くないのか?」

「?どうして、怖いと…?」

「・・・・・」

「あの…?」

「――いや…やはり、我の考えていた通りだ」

「え?」

「ふぅー…ずっと我の側に居てくれよ?」


 そう言い残すと、また『スゥ…』と、消えてしまった。

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