3-13 “少女”の過去夢(5)
――そんなやり取りをしながら…私は、彼のリクエスト通りに草笛を吹いた。
何となくだが、昨日と少し違い上手く演奏が出来た…ような気がしながらも何曲か、演奏し終えた。
彼は、演奏し終えても…静かに耳を澄ませていた。
演奏が終わると彼は「もう終わってしまったか…――む?もう夕暮れか…早いな」と、残念がっていると私は「明日も良ければ…」と、言うと『カバッ』と、また彼に抱き締められ「楽しみにしている」と、また子供のように無邪気に微笑んだ。
――すると…何時の間にか帰ってきた尼様の私を呼ぶ声が、聞こえた。
尼様の声に答えようとすると彼に一瞬だけ止められ「約束」と、私の目の前で小指を立てて差し出した。
「約束、指きり」
「え?あ、は、はい…」
私は、また恐る恐るだが彼と指切りを済ませると彼は「また、明日」と、また何時の間にか私の耳元で悪戯っぽく囁いた。
囁き終えると『スゥ…』と、隙間風のように消えていた。
先程の彼の思わぬ囁きにペタリと、腰を抜かしてしまったが…直ぐに尼様の呼ぶ声に気づきヘロヘロだったが、何とか部屋から出て窯元に向かった。
・・・・・
何とか、窯元に着くと…私のヘロヘロした姿に尼様は「ど、どうしました?」と、驚きながら駆け寄ると私は「い、いえ…ちょっと読書をしていましたら…足が痺れてしまいまして…」と、苦しい言い訳を言うと尼様は「まぁ…それは、いけません…大丈夫ですか?」と、私の足に恐る恐る手を伸ばしてくれたが私は「は、はい…勿論です」と、答えると尼様は「そうですか…――もう夕餉の下準備をしてくれていたのですね」と、言うと私は「あ、はい」と、答えた。
「ありがとうございます、助かります…――そうだ、忘れてしまうところでした…」
「どうかしましたか?尼様?」
「はい…実は、先程まで村長の御宅にお邪魔していたのですが…貴女宛に頼みがありましてね」
「私にですか?何でしょう?」
「実は、今朝の村長のお話の事を覚えていますか?」
「今朝の…?あ、はい…裏山に住む『土地神様』の事と…」
「そうです…その後に『土地神様』への恒例行事の事を憶えていますか?」
「は、はい…ですが、どのような行事なのかは…」
「そうですよね…」
「尼様?」
「すみませんが、これから話す事は、私の『お願い』として、聞き入れてくれませんか?」
「え?は、はい」
――尼様からの話しは、この村に伝わり続けている『土地神様』への夏に行われている祭りの事だった。
夏野菜などの収穫祭といえば、いいだろうか…その感謝をする祭りとして『土地神様の花嫁』を古くから行い続けている伝統行事だった。
そして、その伝統であり恒例行事の『土地神様』の“花嫁”を私がする事になってしまっていた。
驚いた私は、尼様の突然の『お願い』に驚いていると、尼様に「突然、こんなお願いをしてしまって悪いのだけれど…村長のご孫女様が丁度、学業や出稼ぎに行ってしまわれて戻ってこられないというし…――私達もお世話になっていますからね」と、未だに軽く困惑しながらも私を説得しているのが分かった。
私自身も尼様や村長、村の人達に出来る事は?と、考えていたため「分かりました、尼様…私も良くしてもらっている身ですので、引き受けます」と、答えた。
私の答えに尼様は「そう…そう…ありがとうございます、こんな夜分ですが…伝えに行ってきますね」と、言い終えると席を立ち勝手口から村長の家に向かった。
私は、尼様の帰りを待つ間に夕餉作りを始めた。
今日も野菜を中心の料理を作り、味噌汁が完成する前に尼様が、帰宅された。
「――おかえりなさい、尼様」
「ただいま戻りました…――すみません…全部、作らせてしまいましたね」
「いえっ…それで、その…どうでしたか?村長…」
「とても喜ばれていましたよ、明日の正午に打ち合わせをしたいと仰っていました」
「明日の正午ですか…」
「…何か、不都合がありましたか?」
「あ、いえ…――少し急だなーと、思いまして…」
「確かに…私もお伝えしたのですが、とても大事で…また『土地神様』のご機嫌が斜めにならないうちに――…と、いう感じで…」
「そ、そうでしたか…」
そんな話しをしながら出来上がった夕食を居間に持って行き、済ませた。
今日も一日、また不思議な事があったが何とか、乗り越えた感が凄かったが慣れてしまっている私自身に驚いていた。
「(明日、か…どんな風なんだろう…?)」
そう思いながら湯殿から上がり、自室に戻っていると…また部屋の戸の前に山桜の一枝が、置かれていた。
――何となくだが、もう心当たりがあった。
昨日も今日も出会った、両目を包帯で隠している青年の事だ。




