3-7 少女の思い出
目的地である神社の入り口前に立ち、一人列を作り順番を待った。
自分の番が回り、鳥居を潜ると篝火からパチパチと薪が燃える音を立て明かりが周りを照らしていた。
境内の真ん中に儀式用の畳の上に赤い敷物を広げており、座布団が置かれていた。
私は、何となくだが…一礼をし座布団に座った。
不思議な気持ちと感じだった。
何時だったか“知っている”から“憶えている”に変わっていたから…私は、用意されていた座布団に静かに座ると何気に夜空を見上げた。
月のない新月の夜空だが、雲一つないが星も見当たらない真っ暗な闇夜。
先程まで、音を立てていた篝火の明かりが弱まると同時に吹いていた夜風も何時の間にか止んでいた。
私は「来る」と、思い…俯くような姿勢で、待った。
すると『ザアッ…』と、強い風が吹き込む思わず顔を上げ、目に入った。
蜘蛛だ――…蜘蛛の姿をした“土地神様”が、私の前に現れた。
その姿は、黒く…まるで、新月の夜のような漆黒の体と足。
赤い…いや、臙脂色が掛かった紅色の無数の目。
その姿に私は、思わず「綺麗…」と、呟いた。
その呟きを聞こえたのか『土地神様』は、ズイッと私の前に顔を近づけた――…私は、呟いてしまった事を知り慌てて顔を俯くが、止められた。
何時の間にか『土地神様』の足は…人の手に変え、私の右側の頬を触れていた。
村の『土地神様』の姿に私は、また釘付けになった…私は、何時の間にか手を伸ばしていた――…思い返しても理由なんか無かった、ただただ――。
「…ただいま」と、私は何時の間にか『土地神様』に向け言葉を発していた。
この言葉しか出なかった…いえ、その言葉を言いたかった。
言い切った後で『私』が、貴方の『妻』だった事を思い出した。
この言葉を聞いた『土地神様』は、目を見開き…無数の手足を器用に扱い私を抱き締めてくれた。
私は、また「ただいま…ただいま」と、言いながらずっと繰り返していた…どうして、貴方の側を放れてしまったのかは、何故か思い出せなかった。
・・・・・
どのくらい経ったのか、分からない…気づいたら家に戻っており、客間に敷いてあった布団の上に居た。
ボ~と、していると…蛍ちゃんといのりちゃんが、見舞いに来てくれた。
あの後の事を聞いたら「冬ちゃん、待っても待っても戻ってこなくて…迎えに行こうとしたら少しふらついてたけど、私達が駆け寄ったら気を失ったんだよ」と、蛍ちゃんといのりちゃんから交互に説明された。
心配をさせてしまった従姉妹達に「ごめんね、もう大丈夫」と、謝罪をしながら「(私が、あの時“死んだ”理由は、何?)」と、疑問を持った。
でも…思い出そうとすると脈を打つような頭痛に襲われた。
しかし、諦め切れなかったから…当時の『私』が、早く亡くなった理由を調べた――…しかし、調べるにしても限界があったので、諦めていたが…ひょんな形で知る事になった。
私の『七五三の儀式』の『七の儀』を行うため、まだ母と姉と一緒に遊びに来ていた頃…祖父の手伝いで、祖父の父である曽祖父の大事に保管していた村の歴史を記した古書の天日干しをしていた。
祖父と叔母が屋根裏部屋から古書を次から次へと持ってきながら私と蛍ちゃんといのりちゃんに古書に挟まっている塵を払い、一つ一つ並べていた。
古書の中には、明治の末期からのもあった。
「ぅわぁー…よ、読めないっ…」
「確かに…」
「鰻みたいな字だし…まさか、英語っ?」
「違うと思うよ?」
「何度か、歴史や国語の授業で似たようなの見た事あるけど…ウチにもあったんだね」
「一応…代々、記録をつける家系らしいけど…」
「あー…そういえば、そうだったねー」
「そういえばさ…この前、来た人…何だっけ?」
「ん?」
「ほらー…なーんか、さー…歴史オタク?というかー…先生なのかな?譲ってくれー!て、騒いでたじゃん」
「あ、あー…あったねー…謝礼として、持ってきてくれたご当地菓子…!くっ…!」
「――温かいほうじ茶ミルクティーを持ってきたよ」
「おー!ありがとー、冬ちゃん♪」
「何の話ししてたの?」
「ん?あー…そっか、まだ冬ちゃん達が来る前だったか…この前、ウチに貴重な歴史の資料があるからって、突撃してきた人達が来てさー」
「えっ?」
「お姉ちゃん…流石にザックリ説明だよ、それ…」
「えー?ザックリの方が分かりやすくない?」
「人によると思うよ?」
「そっかー…まぁ、そんな人達が来ましてね」
「あ、はい」
「何処だったか、有名な大学の歴史教授と博物館の館長さんと…後、何だっけ?」
「歴史作家さんじゃなかった?その人のお付きか担当さんか知らないけど、綺麗な女の人も来てたんだよね」




