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2話 ギルド

「おぉ!!」


 近くにあることは知っていたが、実際目にしたのは初めての光景に、ユーコンも思わず声を上げてしまう。

 ギルド総合受付所。依頼の受付窓口に、各依頼の書かれた掲示板。それを見つめるギルドの人々に、交流をしている人もいた。


「まずは、ニッチェの捜索依頼が出ていないかだな」


 早速、掲示板の人探しの依頼を探す。ニッチェも同じように、張られた依頼書を読んでいくが、数が多い。

 この数では、もはやグレイシから子供の捜索依頼が出ていないかを、受付に聞いたほうが早いかもしれない。

 ニッチェが受付へ目をやるが、長髪の男性となにやら話している。あの人が終わったら、声をかけようともう一度掲示板を見上げた。


「魔族が子供連れて何やってんだ?」


 その声に釣られて、視線をやれば、しっかりと防具や武器を携えた男たちがユーコンを見ていた。


「ニッチェが親とはぐれたから、探してあげてるんだぞ」


 素直に答えれば、男たちは驚いた表情をしたあと、互いに目を合わせ、笑みを浮かべた。


「そうかそうか。なら、その親の場所知ってるぜ? 案内してやるよ」

「ホントか!? ありがとう! いい奴だな」


 目を輝かせるユーコンに、ニッチェは不安そうに男たちとユーコンを交互に見やるが、ユーコンに手を引かれ、受付所から出ると、脇の道に入る。

 少しだけ人気が少なくなった道。昨日歩いた森の様子に似た道に、ついユーコンの骨の手を引っ張ってしまう。


「怖いのか? 大丈夫だぞ。おばけが出てきても、オレが退治してあげるからな!」


 わざわざ膝を折って、安心させてくれるユーコンに、ニッチェも訳の分からない恐怖を言葉にしようと口を開くが、それより早く目に入ってしまったその光景。

 ユーコンの頭蓋骨のすぐ後ろ。男の内のひとりが、剣を構えていた。


「ッッ!!!」

「おばけは、そっちだ。ガイコツめ」


 ユーコンも事態に気がつき、ニッチェに覆いかぶさるようにうずくまる。

 ユーコンの服だけを切り裂くことになった男は、舌打ちと共に、刃を返し、ニッチェを庇うユーコンへ、もう一度刃を振るった。

 金属の甲高い音が音が響いたと思えば、男の振るった剣は、少し離れた場所に音を立てて転がっていた。


「……」


 状況をいち早く理解したのは、襲ってきた男たちの方だった。

 道の入口。長髪の男が銃を構えた体制で立っている。撃ったのは、その男だ。


「テメェ! なんのつもりだ!?」

「どう見ても、悪者はそっちだったろ」

「ハァ!? こいつは魔族! 俺らは、子供を救おうとしただけだろ」

「ただ、魔族を殺したいだけじゃなくてか?」


 ユーコンがニッチェを守るように庇い、ニッチェもまた、ユーコンを守ろうと小さな腕でユーコンの頭を守ろうとしていた。

 そのふたりを見て、まだ魔族に囚われた子供と思えるはずもない。


「……チッ善良者気取りが」


 後ろで控えていた男が、ナイフを投げた。

 それと同時に、駆け出し剣を拾い上げた男は、ナイフを撃ち落とした長髪の男の腕に向かって剣を振り上げる。

 刃が腕に触れる直前、一歩下がった男は、銃をリロードすることなく、持ち替えると、銃創で男の顎を打ち上げる。


「ガッ……!!」


 脳が揺れ、気絶した男の腹を軽く蹴り、殴り上げた勢いのまま銃を回転させ、正しく持ち直すと素早くリロードし、ナイフ男の肩へ銃弾を撃ち込む。

 持っていたナイフが転がると、男は恐ろしい形相で隣に控えていた魔法使いの男へ回復させろと訴えるが、その魔法使いもまた首に鋭い爪を向けられていた。


「獣人……!?」


 顔はフードで隠されているが、その獣の手は獣人族の手そのものだった。


「善良者気取りだから、命まで取るつもりはないが、どうする?」


 力の差は、明らかだった。


「――ッ」


 男たちが逃げたあと、ユーコンたちはギルド総合受付所の二階の一室にいた。

 総合受付所は、二階が個室になっている。依頼者との相談などが行われる場所だ。


「つまり、グレイシにいる両親の元にニッチェを返したいってことか」

「そうなのだ」

「グレイシ……俺は聞き覚えないんだけど、ある?」


 長髪の男、ナラは、壁に寄りかかっているフーディに目をやった。


「風の噂程度なら」

「マジで!? なら、悪いんだけど、詳しい場所調べてきてくれない? 大変だとは思うけど、頼む!」


 手を合わせて頼むナラに、フーディは軽く肩をすくませると、


「別に構わないっすよ。てか、そんなに畏まんなくていいっすよ。一言で済ませるお人もいるわけですし」


 その人物に心当たりがあるのか、苦笑いをこぼしたナラは、正面に向き直る。


「とりあえず、グレイシの位置に関しては俺たちが引き受けるよ。調べ終わったら、自宅……ってわけにもいかないか」


 先程、魔族というだけで襲われかけたユーコンたちだ。人間に自宅を教えたくはないだろう。


「町外れの森の中だぞ」

「ユーコン……!?」

「おっと……」

「冗談だろ……」


 即答したユーコンに、ニッチェどころかナラもフーディも頬をひきつらせてしまう。


「ヘーキだ! ナラたちはいい奴だからな!」


 疑いもなく言い放ってしまうユーコンに、ナラも開いた口が塞がらなかった。


「あー……もう一回聞きますけど、本当にこの頭がお花畑な依頼人の依頼受けるんですか?」


 ギルドの依頼となれば、多少の危険は仕方ない。だからこそ、依頼者というのは重要な要因になる。

 ギルドを嵌めるための依頼をワザと流すもの、嵌める気はなくとも依頼者そのものが多方面より恨みを買っているなど、想定外の危険が降りかかる場合がある。

 特に、魔族は後者に当たることが多く、魔族が依頼者というだけで、依頼を受けないギルドも多く存在する。


「いや、受けるよ。受けるけど」


 ナラたちの所属するギルドは、どの種族であっても分け隔てなく依頼を受けることにしている。


「いろいろ心配だから、家まで送ってく」


 そのため、多少、扱いにくい依頼者には慣れているつもりだが、このタイプはだいぶ珍しい。


「了解。それじゃあ、俺は先にグレイシの場所を調べてきますよ」

「よろしく」


 残った三人は、手続きを済ませ、ユーコンの家へと向かう。

 話を聞くところ、どうやら、魔族の町に住んでいるというわけではないらしい。ナラとしては、気が楽ではあるが、その分、不思議に思う部分も多い。


「修行だ!」

「修行?」

「そうなのだ! 騎士団に入るためには、もっと強くならないといけないのだ」


 どの種族であっても、わざわざ別の種族、特に出会ったら戦いになりかねない種族が多くいる場所には、簡単には近づかない。

 動物で言えば、群れや縄張りのようなもの。そこから離れるということは、危険がそれだけ増すということ。

 理由があり、離れた場所に暮らす者もいるだろうが、ユーコンはどうやら修行らしい。


「騎士団?」


 名前からして、魔族の国の軍のようなものだろう。


「シャルム王国王立騎士団! かっこいいんだぞ! 特に騎士団長のダルクはな、”マリナロビン”なんだ!」

「”マリナロビン”?」


 聞き慣れない言葉に、ニッチェが首を傾げれば、ユーコンも不思議そうに首を傾げた。


「知らないのか? マリナロビンって……『ナポリオの冒険』とか、知らない?」


 首を横に振るニッチェ。


「すっごくおもしろいぞ! 家にあるから、あとで一緒に読もう!」


 頷いたニッチェに、ナラも少し気になる気持ちを抑え、ニッチェの方を見る。


「”マリナロビン”ってのは、”星の落し仔”のことだけど……」


 種族ごとに、同じものを指していても別の言語のことはよくある。文化の違いというものだ。ノアーズのおかげで、だいぶ言語も標準化されてきたとはいえ、根強い文化はある。

 神聖なものほど、その傾向は強いと言える。


「?」


 不思議そうな表情のニッチェに、ナラは少しだけ目を逸らし、困ったように、別の言葉を告げた。


「”地塗れ仔”」

「あ、それ、知ってる」


 ようやく納得したように声を上げたニッチェだが、すぐに怪訝そうな表情で首を傾げた。

 ”星の落し仔”と”地濡れ仔”は同じものを指している。だが、決定的に違う意味を含んでいた。

 なんと説明すべきかと言葉に迷っていれば、ニッチェは小さく首を横に振った。


「あとで、ナポ……」

「ナポリオの冒険か?」

「うん。一緒に読むから」


 大丈夫。と、微笑んだ。

 気を遣わせてしまったかと、ふたりに気づかれないようにため息をついていると、ふと感じた殺気。

 その殺気の元へ、銃を構えれば、ふたりも驚いたようにその銃口の先、草むらから出てきたものへ目をやる。

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