切り札は使いきった次回魔王死す
「魔王狩りに行きたい、行きたくない?」
勇者が、魔王城の前で、獲物を前にした肉食獣のような目で、刀をなめていた。
「先に行かせるか、」
ショキの言葉に俺も頷く、
「そうだな、特攻してくると良い、」
「よし『逝って』こい、」
「仲間が拙者を応援しているでござる。」
勇者は、仲間の二人から声援を受け、魔王へと飛び込んだ。
天井には女神が描かれ、シャンデリアが並び、絵画が飾られている。
「む、この気配、勇者か、」
魔王はそう叫び、玉座より飛び降り、同時に崩れ落ちる玉座、間一髪で魔王の首は繋がった。
「少しばかり、音が外に漏れないよう書き換えた、」
「良くやったショキ、これでここに邪魔者が来ることは無くなった、俺が前に出る援護を頼む。」
正面の扉から現れる俺とショキ、奇しくも魔王は勇者たちに挟まれる形になった。
「不意討ちとは卑怯な、まあいいだろう、正々堂々かかってくるがよい、」
観察する、魔王風なかっこいいポーズを取ろうとしているが、地味に動きが鈍い、
「奴は負傷している。ちょうどいい、クク、お望み通り戦ってやろう。」
お望み道理、勇者と魔王で戦わせてやろう。どちらも弱った頃に、止めを刺せばいい、
「ほぉ、勇者よ、お前の仲間は我に恐れをなし、戦闘から離脱した、貴様に止めを刺し、この世界を魔族の物にしてやろう。」
「なるほど、魔王討伐をこの私に任せるとは、なるほど雑魚は任せろとか、俺にかまわず先に行けというやつか、ミコト知ってる。」
魔王も、勇者も、自身に都合のいいように解釈したようだ。
「呪いの音を聞け、」
魔王は禍々しい魔力を集め、ギターを生み出し美しくも、体の動きを阻害するメロディーを奏でる。
「拙者にその程度の呪詛が効くとでも、」
硬直した体を、軽い自傷により解除した勇者は、その首めがけて一直線に迫る。
「落ちろカトンボ、」
勇者の刀を、体を後ろにそらすことで回避し、起き上がろうとする隙を狙う勇者に、魔法を浴びせることで追い払う。
「さて、方や音速で迫る女武者、方や一切のラグ無しで魔法を繰り出す魔王、魔族の中でも上位種である魔王との、種族としての差は存在しますが、先日の騒動で怪我を負った魔王に、戦士としての動きは出来ないでしょう。どちらが勝つか、気になりませんか?」
ここに来て、魔王の城に来てから、饒舌になり出したショキに違和感を覚えた、
「何が言いたい、」
「奴の視線は、あそこで戦う二人に移った、」
俺は、いや我々は驚いたようにやつを見る。恐ろしくもあるが、共犯者として望ましくもある。
「流石と言っておく、お前に話がある。」
「世界の半分をやるから仲間にならないかという話なら、すでにこの世界は私の物だから無理だよ、」
それは耳にしたことがあると思った、
「典型的な魔王のセリフだったか、俺はこんな世界に要は無い、欲しければくれてやる。我らの望みは勇者になることだ。」
「魔王すらも異世界から来た、チート能力を持つ何かだ、やつからチート能力を手に入れる準備は出来ている。」
何!やつも異世界から来たのか、やはりこの世界はどうしようもない、
「それは、知らなかった、だが今欲しいのは世界そのものではあるまい、」
「まあそうだが、すぐ手に入る。遅いか早いかの違いだ、」
ショキはそう言って本を閉じる。
「それまでの手助けをしてやると言っている。それとも俺と協力する『余裕』すらないほど焦っているのか?」
「君に一つ忠告だ、甘さや同情は、強者にだけ許された特権だと覚えておいてほしい、そして何より私には『余裕』がある。」
余裕があるんだな、そうか、そうか、甘さや同情、この世界がどうしようもないことを知っているんだな、やつを倒す手助けをするんだな、
「ククク、面白いやつだ、小説家風情がよく吠える。いや、だからこそか?言葉遊びが得意なようだ、」
ショキはそれを聞き、天井を指さす。
「わかりやすい言葉だったか、やつに邪魔されたくないものでな、」
「なるほど、では貴様に小さな安心をくれてやろう。チート能力、物質生成、」
現れたのは、神秘を纏った上等な小刀、
「中々に高度な術式が必要な能力でな、戦闘中に発動するのは俺に出さえ難しい、」
「なるほど、魔王の能力の下位互換、いや一つの魔術に特化っしたチート能力、どちらにしても魔王のチート能力を使用するリソースを削る術式系能力の時点で、私には不要だ。」
強烈な殺気が魔王から周囲に注がれる。
「フハハハハ、魔王らしく最高の魔術を披露しよう。以前はそこの本を持つガキに防がれたが、その対策の魔法も用意した、影響阻害、そして流星群、」
「確かに、書き換えることが出来なくなっている。」
ショキの、残念そうな声と、それをかき消すような轟音が、流星が、魔王城を破壊し、勇者を弾き飛ばす。
「フハハハハ、勇者、いや人間よ、あまりに弱い、すでに勇者はいない覚悟しろ。」
勇者が、魔王城の外に吹き飛んだのは計算外だが、俺の望むように動いている。
「それで、やったと思うのであれば、我らの予想道理、」
「なに、くそ魔力が減り、クラリときた、それにこれは、勇者のやつめ、去り際に呪いを残していきおった。」
本を広げ、ショキが前に出る。
「いいや、それは違う。いまだ勇者は退場していない、観た前諸君、」
巨大な魔王城の全貌を視界に収めた。
「ここまで飛ばされてしまったでござるか、だが拙者の腕は動く、刀を振れる。なら相打ちにござるよ、」
この世界に来てから、拙者の剣はいつの間にか聖剣になっていたでござる。このチート能力に頼るのは、戦人らしくないかとも思ったでござるが、どうな物でも使えと師匠から教わった。
「輝く聖剣の光は、この世のすべてを飲み込む光、魔王を飲み込め、」
勇者の叫びと同時に、魔王に死が襲い掛かる。
「小癪な、ならばこちらも奥の手を使わせてもらう。」
黒いオーラが竜の形を模倣し、そのブレスは、勇者の光と干渉しあい、ねじれ明後日の方向へと消えた。
「おやおや、聞きましたか、イミナさん、」
「俺は聞いたぞ、確かに言ったな奥の手と、勇者もなかなかやるようだ、どうする?」
「私が止めを刺そう。」
ショキは、力強くそう言った。