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勇者殺しの英雄譚  作者: テンユウ
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偽りの言葉

聖剣の光線と、草薙の剣の衝撃で、所々ガラス化した大地の上に、女神は倒れていた。


俺は、戦いを終え、ふと違和感を覚える。


天変地異にも等しい騒ぎを起こしているというのに、王国の兵士どころか、やじ馬までもが姿を見せていない、それどころか、遠くから見えていた王都の時計塔も、その王都や王城、半壊した魔王城、そこで理解した、これまで出会った人々は、すべて女神が用意した幻なのだと、


「なるほど、この世界は本当にただの台本だったわけか、」


ふと、この状況に無反応なショキの方を見る。


「知っていたのか?」


「まあ、私のチート能力、アカシックコードの断片に、おかしな記載があってね、偽りの生とかなんとか、幻なら納得できる。」


何でもない事かのように、そう言った。


「ゴホッ、」


俺たちは即座に振りかえる、女神は涙を流し名がら弱弱しく言葉を発する。


「どうしてこうなったここは、私に都合のいい世界ではなっかったの?」


俺は、何か声をかけるべきかとも思ったが、女神の言葉は続く、


「そうじゃなかったら、どうして私を、転生なんかさせたの??」


俺は違和感を覚えた、転生だと、転移ではなくか、


「君は悪役でしかなかった、自身のハッピーエンドだけを見てきた女神様、悪役として消えるバットエンドははじめてか?」


ショキが女神を見ながら、いじわるそうにそう言い放つ。


「私が悪役?嘘よ、だって私が悪役なら、悪役であるのなら、ますます負けるはずがないじゃない、」


悪役という言葉に反応し、さらに女神はまくし立てる。


「いつもそうだった、正直者が、正しいことをしている人間が損をして、悪事を働く者だけが得をする。だから、母さんも、父さんも、私も、一度命を失った、だからこそ今度は好き勝手に生きると決めた、この命を維持するためにも、私が奪う側になってやるって決めた、だれにも奪わせない、奪ってやる。」


そこには、女神となる前の、人間の少女としての闇があった。


「ああ、実に正しい選択だ、理屈自体は大正解、けれどもその選択をした時点で、致命的に間違えた、わからなかったんだろ、命を失う恐怖を刷り込まれ、恐怖に突き動かされ、何をすればいいのかわからなかったんだろ、」


魔王になって、世界を自分のものだと言っていた、あのショキとは思えない、けれどもそれも彼の一面なのだろう。彼にも思うところがあるのだろう。俺が何か言うのも無粋だろう。


「つらいこともあっただろう、それでこんな過ちを犯したんだろう。やり直せるさ、」


「そうね、そうかもしれない、あなた達みたいな強い人がいたら、私が強ければ、でも強くなるために私は殺戮を、」


「私は強くはないさ、この強さもあぶく銭のように降ってわいた力だ、けれどもあそこにいる仮面をかぶった男と協力して、勇者と魔王を利用して、君に打ち勝った、地球に帰ろう。」


ショキは女神に手を伸ばすが、戸惑い首を振る。


「私はいけない、今更元の世界に戻っても私に居場所はないの、」


「作ればいい、居場所は作るものだ、勝手に作って勝手に守ればいい、私も手を貸そう。いくらでも居場所の作り方は存在する。」


俺は、静かに彼らの会話をながら静観している。俺は、同じ悲劇が繰り返されないのであれば、それでいい、俺自体は女神に恨みはない。


「フフフ、ありがとう、やさしいな、」


調子を取り戻してきたのか、妖艶にほほ笑む。


「私はこの世界を離れられない、この世界の神を殺し同化してしまってからな、土地に縛り付けられたようなものだ、確かに台本のためにこの大陸から人間を一掃したが、他の大陸で生きる人間がいる。贖罪のためにも、私は今度こそ、女神の仕事をまっとうしなければならない、だから御主らだけを送り返そう。その魔方陣に立て、」


ショキはその言葉を聞いて笑っていた。


「ああ、彼女の本質は、心の優しい子だ、彼女には未来があるとそう信じたい、」


「ああそうだな、」


俺はそう言って、魔法陣に立つ、ショキは女神の頭を撫で、女神はくしゃりと顔をゆがめ、涙をこぼす。


「君の幻には、苦しんでいた人もいたが、笑顔の人間もいた、あれが君の望みだ、君が間違えそうになったら、あそこの怖い仮面の人と、またこっちに来てやる。」


女神は、魔法陣を起動させる前に、口を開く。


「名前を聞いてもいいか?」


「モノガタリ・ショキ、悪れてくれていい、私に名前はあまり意味はないからな、」


「俺は草薙の剣を携えた戦士、ノチノミヤ・イミナ、俺はおまえたちが生きていることをうれしく思う。むろん貴様もだ女神、神となっても、今のお前の心は確かに人の物だ、」


「ショキに、イミナか、貴様らはまさしく、信念を持った魔王と勇者らしかった。お主ら、いやあなたたちの名前を魂に刻んでおく。最後に、私の名前はティアナ、現に帰るがよい、英雄たちよ。」


二人が消えた世界で、女神であるティアナは涙を流しながら、笑っていた、


「やっぱり、正直者が騙される。ありがとう、ごめんね、嘘をついて、」


震える声に共鳴するように、ティアナの身体がゆっくりと崩れていく。


「私は、人を殺してその命を奪わなければ生きていけなかった、それは女神になっても変わらなかった、私は神になれなかった、」


泣きじゃくるように叫び、こぼれる涙を両手で抑える。


「だから、ずっと、誰かの命を奪って、延命し続けるしかなかった、」


神としての姿も、大人の姿も崩れ、


「だけど、もういいよね、命を奪わなくても、」


幼い、何もわからずに殺され、


「誰かから何かをうばわなくても、」


何もわからず飛ばされた、


「だって私は、最後にこんなにも、満た、され、て、」


幼女の姿になって、最後は、光の粒子へと変わり、消えようとしていた、


俺はショキに声をかける。


「良いのか、ティアナは、嘘をついていたぞ、」


「知ってる。そこまで私は、お人好しではないのでな、」


俺は、ティアナに同情しているのか?


「神の力だ、手に入れてくると良い、」


俺はそう言い、聖剣にて再び異世界への道を切り開く。


「ティアナ、私とこい、私の物になってくれ、君が私に必要だ、私が君を…に…して、」


空間の切れ目は修復され、声も途切れた、


「俺の冒険、俺の英雄譚も終わりか、少し寂しいな。」


そう呟き、目を閉じた。

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