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聖書には『地の塩』という言葉がある。
あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。もはや何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである。
例えば目の見えない画家であるとか、あるいは音の聞こえない音楽家であるとか、もしくは味を感じない美食家であるとか。きっと探せばこの世のどこかに存在はするのだろう。事実、かのベートーヴェンはそうだったという。
「塩気がなくたって、塩味が付けば良いんでしょう?」
少女は事も無げにそう言った。
「塩気のない塩がどうやって塩味を付けられるっていうんだ?」
男は否定的にそう言った。