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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第一章
8/65

第七話 スリープ!スリープ!!スリープ!!!

2019/03/04 誤字修正 2020/11/23 加筆

 ───控えめに両目を見開く渋顔の男性。彼が見詰める先には瞳を

 輝かせる誰か。




 驚いた様子も様になっちまう。そんな相棒が俺を見詰めて来ている。

 まあ驚きもするよね。だって相手がいきなり『俺ゲームの世界に住むわ!』

 何て言い出したらそりゃあーねえ。だけどもう、実際に俺は元の現実には

 帰れない、それは確かだ。帰りようが無いんだもの。だから俺はこれからを

 此処で生きていかなきゃいけない。そう、剣と魔法が言う存在する、誰もが

 一度は夢見た幻想世界で、仮想として作り上げられた此処で。

 これからは遊ぶのではなく生きていくんだ。……くぅー高まるぅ! 等と一人

 内心ウッキウキしていると。


「本気か?」


 冷静さが戻ってきたらしい相棒が俺に問い掛けて来る。『本気か?』だって?

 それはもう。


本気(マジ)本気(マジ)よ」

「……現実に帰れない以上それしか無いか。」


 相棒はやれやれと言った具合に頭を数度振り。困ったように笑う。

 きっと相棒は“仕方がない奴だ。”何て思っているのかも知れない。

 そんな気がしたから、俺も困り笑顔を浮かべる。そうやって互いに

 少しだけ笑い合った後。相棒が少し言いづらそうに。


「もう少しお前の側に居てやりたいんだが、実は今ネットカフェから

 インしてるんだ。」

「ああ、俺の自宅を見てきてくれてそのままって事か。何か、悪いな。」

「謝るな。お前の方が、その。色々大変だろう。」

「そうだな。自分の体が死の淵にある中、レア掘りしちゃう程度には

 色々大変だったよ。」

「おい!」


 ツッコミを入れられた俺は肩をすくめて見せる。そして何となしに

 二人で互いの顔を見遣り。


「ふ。」

「はは。」


 相棒と俺は笑い合った。小さくもなく、大きくもないけれど。さっきよりも

 大分気分良く、笑い合えた気がする。一人では押しつぶされそうだったけど、

 今はとても呼吸が楽だ。これも相棒が側に、一緒に居てくれたからに違いない。

 だからこそ俺は言う。


「もうそろそろ落ちないと不味いんだろ?」

「! ……ああ。」

「俺なら大丈夫。」

「本当にか?」

「もち。何かさ、相棒が側に居てくれたお陰で受け止められた

 気がするんだよね。色んなもんが、さ。」

「……ルプス。」

「そんな訳で俺は大丈夫!」


 ちょっとだけ寂しいし、ほんと言うとまだ側に居て欲しい。

 だけど俺と違って相棒には生きるべき現実が、生活がある。

 それを俺の犠牲にはしたくない。俺が強気に笑って居ると

 相棒は一つ溜息を吐いては。


「分かった。今日は落ちる。」

「おう。」

「なあルプス。」

「んあ?」

「何処にも行くなよ?」

「は、何処に行きようがあるんだよ。」


 相棒の冗談に乗ってはまた笑う。本当、なんだか今日はよく笑ってる気がする。

 いや? 前から俺たちはこうして良く笑い合って居たんだっけ? 何だか新鮮に

 感じるのは俺が今を、現状を本当に受け入れたからだろうか? 悪い気分では

 ない、新鮮な気分を味わいながら。


「じゃあまた明日に。」

「おうさ。」


 側に居てくれた以上の相棒を見送る。視線の先、相棒が此方に顔を向けながら、

 光に包まれたと思えば。小さな粒子となって消え去った。


「……やっぱり少しだけ寂しいなぁ。」


 相棒が居た空間にはもう何の痕跡も残ってはいない。ちょっぴり切ない気持ちを

 胸に感じた俺は、その場から離れる事に。向かう先は。


「寝れるか分からないけど、一度部屋に帰るかな。」


 このゲームに存在する自室へと飛ぶ事にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 心配をかけまいと強がって相棒と別れた後。ゲーム内で所有している

 自室へと戻って来た。部屋には誰が居る事も無い。入室を許可してる

 フレンドは皆もうオフラインだしね。つまり部屋には俺一人、一人ぼっち。

 すこーしだけやっぱり寂しいかな……。


『おかえりにゃん。』


 何て部屋の入口で少し考えていると通りかかったノギが、設定された

 挨拶を実行して来た。そうか、正確にはマイサーヴァントサービスの、

 このNPCノギが部屋に居たな。


『……。』


 俺からの返答を待つノギ。うん。NPCとは言え誰も居ないよりはずっと良い。

 相棒と別れた寂しさが紛れ、癒やしをノギから感じた俺は大きな感謝を

 籠めて。


「ただいまにゃん。」


 挨拶を返す。挨拶を受け取ったノギは一度小さく頭を下げ、部屋を掃除する

 ()()へと移行した。うーむ。生きてる感の演出のため、凝りに凝って

 設定した行動だけど、我ながら素晴らしいね。埃などで汚れるはずもない

 ゲーム内自室を、細やかに掃除するノギを暫し眺め。俺は部屋の中を

 移動する。出入り口から入って直ぐが既にリビングのような作りの、この

 大部屋の左右には二枚づつの扉が設置されている。勿論扉の先には別の

 大部屋が存在しているのだが、俺は余り使用していない。部屋ですべき作業は

 ノギに任せ、もっぱらこの最初の大部屋で寛ぐ程度だ。しかし今日は違う、

 今日からは違う。俺は左手前の扉へ歩き進み、艶のある木製扉を開けては中へ。


「いやぁー……。此処に入るの何時ぶりよ?」


 扉を開けて中に入れば、今まで居た部屋と同じ程度に広々とした空間。

 置かれた調度品も全て同じく統一された物。だけど前の部屋とは決定的

 に用途が違う。部屋には大きな、所謂キングサイズのベッドがどーんと置かれ、

 天井には豪奢なシャンデリア。勿論お約束としてベッドには天幕も完備。

 そう、この部屋は寝室なのだ。俺は室内を進み、デカイ、デカすぎる

 ベッドに腰を落ち着かせ部屋の中を見渡す。壁に掛かった雰囲気重視の

 名画っぽい何かに、俺には必要ないであろう化粧台まで。


「本当。当時の俺は何を考えてこの部屋を作ったんだ?」


 製作者自身分からない。見事に作られた“豪邸にありそうな豪華な寝室。”

 その様子を見渡しては頭を捻る。はて、当時は何故ノリノリでこんな部屋を

 作ったんだったか……。この世界はVR内で、つまりは仮想だ。だから此処で

 寝る必要など無いし、ヘッドマウントディスプレイを付けたままで中々

 寝れるもんじゃない。まあ、中には寝落ち出来る強者もいるんだけどね。

 そう言えば仮想空間で寝るための専用ヘッドギア何て物も出てた。だけど

 アレは大して流行らず、気が付けば商品棚からも消えてたっけか。


「ま。俺はもうヘッドギアもマウントディスプレイも付けて無いけどね。」


 言いながら俺はベッドへ背中から身を預ける。預けた体をふかふかな

 心地で受け止められた。おー仮想とは言えナイスな心地ですなぁ。

 寝転がった俺は高い天幕の裏へ手を伸ばすようにして、仮想コンソールを

 開く。伸ばした手の先で青いデジタルディスプレイが表示され、時刻を確認。


「もう良い時間だ。昨日からぶっ続けだし、今日は大人しく寝よう。

 ああ、今この瞬間。この部屋を作った意味は合った訳か。」


 部屋を作った意味を無理やりに見出し、空中に開いたディスプレイを片手で

 払うようにして閉じ。両手を折り曲げては頭の後ろに畳み込む。ベッドに横から

 寝転がった状態だけど、別に風邪を引く訳でもない。このまま寝てしまおう。

 俺は静かに目蓋を閉じ。眠るために意識を手放す。


「…。」


 仰向けから横向けに寝返りを一つ。


「……。」


 横向けから反対側へ寝返りを一つ。


「………。」


 左右に寝返りを二つに、片手で掛け布団を掴んでは体に巻き込む。


「…………。」


 巻き込んだ掛け布団を払い除け、デカイ枕二つで頭をサンド。


「……………んんんんんんんあああああああああああああああ!」


 俺は上体を起こし。両手に掴んでいた枕を投げ飛ばす。


「はぁ!はぁ!はぁ! 何だこれ全く寝れないぞ!」


 こんな俺でも寝起きだけは毎日規則正しく熟せていた。ついでに寝付きも

 寝起きも(すこぶ)る快調なのが自慢でもある。なのに、なのに全然全く

 欠片も寝られない! 目はバッチリ冴えてるし、眠気を微塵も感じない。

 つまりこれって。


「俺は寝れないって事か!?」


 恐ろしい答えに辿り着いた瞬間、体中から嫌な汗が吹き出す。首裏や額を

 拭えば手には汗。ゲームの中でも汗が掛けるとは、本当に凄い再現度だよ。

 もうこんなにも再現出来るなら。


「いっそ此処で寝れても……良いじゃない……。」


 いや実際寝ようと思えば皆寝れるのだろうね、現実を使ってなぁ! だけど

 俺にはもう現実世界で眠る体が無い。体が無いから眠気を感じられない?

 それだけとは思えないけど、今現在寝れないのは多分その所為なんだろうね。

 流石に徹夜して眠気を微塵も感じられないのはおかしいし。参ったな。んん?


「あ、あそっか。別に無理して寝る必要も無いじゃん。」


 原因は分からないけど全く眠気を感じない、だから今眠れない。これは

 眠いのに寝れないのとは違う。眠くないから眠る必要を感じないって

 所だ。眠らなくても辛くないのなら、何の不便があるって言うのさ。


「おおーう。これは夢にまで見た二十四時間遊べますモードじゃないですか。

 と成ればこの部屋にいる必要も無し。あっちでこれからを考えようかね。」


 俺はベッドから降りて部屋の出口へ向かう。扉を開き、部屋を出ようとして。


「結局この部屋の意味って───」


 頭を振り、悲しい答えを導き出そうとした思考を飛ばす。気持ちを切り替え

 眠る必要もなくなった俺は寝室から最初の部屋へと戻る。そして部屋の

 中央に置かれた何時ものソファーに座り込む。うん、落ち着く。

 寝れないって事に気がついた時は、最終的に自我が崩壊するのではと

 も思ったけど。今は徹夜後のアッパーな気分も、寝たいのに寝れない

 ダウナーな気分も無い。至って普通。これなら睡眠障害による自我崩壊も

 大丈夫。大丈夫……だと思う。んー……。


「ダメだ。独りだと色んな事を考えちゃう。」


 これはいけない。眠らないのなら眠らないで、何かやる事を見つけた方が

 良さそうだ。でも狩りやクエを熟すのは気分じゃない。それにイベント

 終了後だから今はイベントもなーんも無いしね。困った、いっそ酒場で

 時間を潰す? あそこならどんな時間でもプレイヤーの声を感じながら

 まったり───は無理かな。今はイベント後。何処の酒場もどんちゃん騒ぎ。

 それにしれっと混じるのも嫌いじゃないけど、やっぱり気分じゃない。

 今は静かに過ごしたい気分。このまま自室で、久しぶりにノギの設定でも

 弄ろうか? ……はぁ。俺は溜息を吐きながら背をソファーに預け。


「寝れないのも寝れないで色々不便かもー……。」


 この時間帯は何も無い日なら何時も寝てる時間だからか、どうにも気分が

 乗らない。そもそも何で自分は寝れないのだろう? このふわっとした俺と

 言う存在が眠るには、一体どうしたら良いのだろう? 眠る、睡眠。

 ん?睡眠? ソファーから背を離し、仮想インターフェースを開いては

 キャラクターの、いや自分自身の状態異常の項目をチェック。


「睡眠耐性プラス百パーセント。これかぁ!」


 睡眠。大抵のゲームに存在するであろう状態異常の一つは、勿論このゲームにも

 存在している。睡眠は効果時間が切れるか、誰かから大ダメージを受けるまで

 動けないと言う非常に強力な物。だからこそ殆どの皆は耐性を盛りに

 盛る訳で、それは俺も例外じゃないのよね。ふむむー。もしもこれの所為で寝れ

 ないと言うのなら!


「おりゃりゃりゃりゃ!」


 俺はインターフェースを操作して耐性装備を外しまくる。まあ殆どの装備に

 耐性を付けているので、最終的にはほぼ全ての装備品を外す事に。お陰で

 睡眠耐性値はゼロ! 装備を外して暫く待ってみるも。


「………うん。全然全く眠気を感じないね。」


 当然と言えば当然かも。だって耐性をゼロにしても、このゲームでは勝手に

 睡眠状態になる事は無い。その辺のサバイバル要素は省略されてるからなぁ。

 良いと思ったんだけど、考えてみたらこのゲーム的に睡眠は与えられるもの

 たったね。……と言う事は?


「誰かから睡眠攻撃を受ければ良い?」


 俺は天才か。もし試すとするなら、そうだな、低レベルで睡眠攻撃してくる

 雑魚に突っ込んでみる、だな。つっても雑魚敵の睡眠攻撃って初期成功値

 低いよな、確か。かと言って強い奴の所に行けば睡眠ど頃か永眠の危機が

 待ってる……。いや、やりようはある。


「確か装備品倉庫に売らずに残して置いたはずっ。」


 仮想インターフェースを開いては倉庫を確認。倉庫の中を並べ替え検索等を

 利用して漁ると……あった! 探し出した目当ての装備品を早速装備! そして

 自身のステータスをチェック。項目には睡眠耐性マイナス百パーセントの表記。

 キタコレ!


「何の役にも立たないと思ってたけど『マイナス百装備何て珍しい~。』って

 記念に取っておいて良かったー! 見た目はゴッツイけど!」


 別に俺は装備品のコレクターと言う訳じゃないけど、ある理由でコモンでも

 レアでも必ず一個は倉庫へストックしている。それにオンゲーで遊んでいれば

 誰だってこんな思い入れのあるアイテムの一つや二つはある物。それが今回

 見事に活躍の機会を得た訳。んっふっふーさてさて、後に残る問題は場所だけ。

 睡眠攻撃をしてくるモンスターは非常に厄介な相手なので、何処に出現する

 かは暗記してある。高レベル帯の出現フィールドは論外として、俺へのダメー

 ジを限りなくゼロに抑えられる低レベル帯で実験するのが良いだろうね。でも

 なぁ、厄介さに見合うだけの経験値やドロップ品が手に入るから、初心者には

 大変美味しい相手。なので日頃からレベリングやドロップ目当てで狩ってる

 プレイヤーがそれなりに居るんだよねぇ。其処に高レベルの俺が横槍を

 入れる訳にはいかないし……。あ、そだそだ。


「そう言えばレベリングルートからは外れてる、不人気の狩場があったはず。」


 初心者時代の記憶を掘り起こし、レベリングにあたって其処を避けた記憶を

 発見。其処で狩る位なら一個飛ばした狩場の方が旨味が大きい、だったん

 だっけか? うん、確かそんなだ。あそこなら今も不人気のはず。よしよし

 場所も決まった。んなら。


「この何時もの見た目も良いけど寝るには相応しく無い、と言う事で。

 見た目チェーンジ!」


 一人部屋で叫んでは、そそくさとインターフェース画面を操作。見た目

 なんてと思うプレイヤーも多いだろうけど、こう言うのは気分の問題で、

 気分は大事。このゲームでは装備品の見た目を他の見た目に変更出来る

 システムがあり、装備品枠と見た目装備品枠が別れているのだ。通常の

 頭装備枠は一個でも、見た目枠では三つだったりとね。お陰で

 着せ替え勢には大変好評なコンテツの一つ。勿論俺も広く浅くを嗜むので

 利用しまくり。そうして防御と自然回復のガン上げ装備を着けては、

 鎧やらスカートやらと混沌極めるキメラチックな見た目を変更して行く。

 んでもって出来上がった見た目をインターフェース画面で確認。


「うんうん。中々良いんでない?」


 見詰める画面には自分の全身像が写っている。上下を動きやすいグレー色の

 ダボッたいスウェットに、武器は右手に真っ白ふかふか枕、左手には何も無し。

 何となくで頭に付けたアイマスクがいい味を出している。完璧なパジャマ姿を

 再現できたぜ……。見た目装備を設定するにはその装備を所持している事が

 条件だ。なので俺はどんな装備品であろうと、見た目確保の為に一つは

 ストックして置いてある。いやー世界観ぶち壊しの装備品も役に立つねい。

 これで見た目も耐性も準備オッケイ!


「さあ眠りに行きましょうかね!」


 俺は開いたインターフェース操作して、目的地を選んでは跳ぶ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『避けるべき 睡魔潜みし密林』フィールドへ到着。

 辺りを少し見渡すと。背の高い木々が鬱蒼と生え、伸びた枝葉が見上

 げた空を覆い尽くさんとしている。降り注ぐ僅かばかりの薄明かり

 は、温かな陽の光なのか。

 それとも冷たい月の光なのか。それすらも分かりはしない。……と、

 相変わらずなフィールド模様に懐かしさを感じながら歩く。

 此処を初心者の頃に下見した時は、ハイクオリティな不気味さに圧倒され

 速攻フィールドチェンジしたものよ。俺は別にホラーゲームがしたい訳じゃ

 ないからね。まあフィールドの見た目だけなら我慢出来た。でも。


『…ォ……ォォ。』


 歩き進む前方から瑞瑞しさの欠片も無い葉っぱのだるま。全身が葉っぱに

 覆われただるまが“ずーりずーり”と歩いて来る。大きさもデカイだるま程度。

 これだ、これなのだ。このフィールドは見た目もそうだが出現するモンスター

 達も皆不気味で、此方の恐怖や不安を煽る見た目をしている。此処が実装され

 るまでにあったフィールドはどれも、比較的王道なファンタジー物だった。な

 のに何故か此処だけダークファンタジー感を爆発させてしまった。お陰で、フ

 ィールド名の通りに皆が皆此処を避け、別フィールドを楽しんだもの。

 中にはコアなファンも少数居たけどね。しかし本当に避けて欲しいフィールド

 じゃなかったはずだろうに。

 でもま、お陰で見渡す限り今現在も大変不人気らしく。

 プレイヤーの姿は全く見えない。今は此処が、俺にとっての理想的な

 睡眠環境と言えるね。


「そだそだ、俺は此処に寝れるか試しに来たんだった。まずはそのためにも。」

『……ォ。』

「それ。」


 俺は直ぐ近くに居た葉っぱだるま目掛け、手にしていた枕を振り上げては

 振り下ろす。枕が直撃しすると“バッジュンッ!”等と言う凄まじい

 ダメージ音が響き。


『オオオオオォォォォォ……。』


 葉っぱだるまのモンスターが大声を上げて絶命。少しするとその体が

 “スゥー……”っと消える。俺は一度よしっと頷いては、次の葉っぱだるまを

 捜して歩き出す。そして新たな葉っぱだるまを見付けては同じ様に。


「ほほい。」

『オオオオオオオオオオオオォォォ……。』


 葉っぱだるまを枕で叩く。この枕は見た目ふかふか枕のそれ。だけど中身は

 鍛え抜かれ、更にはオプションで攻撃力爆盛が施されたショートソード。

 俺自身のレベルも相まってもう、もう何か、何か何かだ。

 此処のモンスターは俺のレベルからすればかなりの格下。だから向こうが

 俺にアクティブに反応する事はまず無い。なのでモンスター達は俺を無視

 するし、俺も経験値とドロップがほぼ貰えない様な相手を倒すメリットは無い。

 だけどコイツらは倒さないと行けない。なぜなら。


『───オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 葉っぱだるまを十匹程度倒した時、フィールド全体に大声が響き渡る。

 キタキタキタ! 葉っぱだるまを一定数討伐すると出現するボスモンスター。

 俺の目的たるモンスターが出現した事を知り、俺は大急ぎで走り出し。

 葉っぱだるま探索中に目星を付けておいた、寝るのにい~い感じの場所で

 スタンバイ。暫くその場で待機していると遠くから。


『オアアアアアアアアア!』


 大声を上げながらデカさ三メートル程のモンスターが迫って来ている。

 あれこそが俺が待っていたボスモンスター。まあボスと言っても今の俺

 からすれば雑魚と変わりない、ないのだけど……。見た目は今でも

 ちょっぴり、いややっぱかなり怖い。三メートルはあるボスモンスター

 の見た目は、葉っぱだるまを縦にそのまま大きくした様なもので。デカイ

 事意外は所々枯れかけの花が咲いている程度の差異。後鳴き声が

 葉っぱだるまより高い、かな? 等と考え事をしていればボスモンスター。

『狂気のドライアード』が目前まで迫っていた。


「おっとそろそろか……。」


 俺は迫りくるボスモンスターへ向けて、所持品から一枚の丸められた

 スクロールを取り出し、丸まったままで差し向け。


「ショックウェイヴ!」

『!!!!?』


 発動キーを読み上げると手にしていたスクロールが端から光の粒子と

 成って行き、もう一方の端まで綺麗に消えた瞬間。俺の目の前から

 衝撃波が撃ち出される。それは目前まで迫っていたボスモンスターへ

 直撃し、衝撃に晒されたボスモンスターの動きが止まった。今使用した

 アイテムはスキル未習得者でもスキルが使用出来る様になる、使い

 捨ての魔法スクロール。安価で低レベルな物だけど、中々使い所の

 多い人気商品。こう言った魔法スクロールを市場に供給してくれる

 プレイヤーには何時も感謝だ。


「さてと。スタンが入ったしこれで準備は万端。」


 このボスモンスターは開戦時に取り巻きの雑魚モンスターを召喚するのだが、

 今の様に初手で行動不能系状態異常を入れてから戦闘を始めると、取り巻き

 召喚を飛ばす事が出来るんだよねー。これを当時見付けたプレイヤーは

 凄いよホント。後はスタンが解ければ睡眠ガスの攻撃が始まるって寸法。

 俺は手にしていた武器の枕を枕として使用し、その場に寝転がって待つ。

 寝れるかな? 等とドキドキワクワクしながらひたすら待つ。 待っている

 間に色々と考える。このボスモンスターの行動パターンは把握済み。

 コイツは一定間隔で睡眠ガスを吐き出し、ガスでプレイヤーが行動不能に

 成っている間、雑魚がプレイヤーをタコ殴ると言う戦闘スタイル。

 本体のライフポイントが三割削られない限り、雑魚召喚と睡眠ガスの

 繰り返し。だがしかし、最初に取り巻きが居ない常態で始まると、三割

 削られるまで再召喚しないのだ。更に更に、今の俺は睡眠耐性マイナス

 百パーセントなので睡眠が確定で入るし、なんなら効果時間も大きく

 伸びに伸び。一定間隔を睡眠が途切れる事なく受けられるはず。

 ふははは、完ッ璧!


『───オ、オ、オアアアアアア!』

「お! さあ来い! さあさあ!」


 スタン常態が解けたらしいボスモンスターが俺をターゲットし、

 睡眠ガスを撒き散らす。撒かれたガスをコレでもかと目一杯吸い込む。

 お、おお、おおおお? ね、眠い! きた……。ね……ねむ……け……………。


「zzzZZZ」


 すやすやと寝息を立てる空色の髪をした男。その側では彼の読み通りに

 唸り続ける魔物が一匹。ああ、でも彼は気が付いているのだろうか?

 これには()()()()()()()()と言う事に。




 延々と睡眠ガスに晒されるスウェット姿の彼。

 その表情は満面の笑みですやりすや───

最後までお読みただきありがとうございます。物語を楽しんでいただけたのであれば幸いです。

この物語を最後までお読みいただいた貴方様に、心から感謝と御礼を此処に。

誠にありがとうございます。

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