第四十五話 獣の咆哮
───岩の上で寝ていた巨大なライオンは、ビーストマン二人の
叫び声と共に目を覚まし。空色の青年たちを真っ直ぐに見据え一
つ吠え上げた。
それは敵意に満ちた、身が竦み上がってしまう様な咆哮。
敵の拠点に連れ込まれた時にはちょっぴり絶望もしたけど。ムリ
ゲーと投げずに頑張ってみたら、協力者とか脱出の手段とか色々
見付ける事ができちゃって、しかもいよいよ帰れそうって所まで
来れちゃった。後一歩って所、所だったのに。
突然相手の、此方で言う所のオレポジな協力者らしきプレイヤー
二人が訳分からん感じに取り乱しちゃってさ。
「彼奴らはケモナーじゃない!ケモナーを装っただけだった!」
「ファーリー以外は全部、全部ぜんぶゼンブッ嫌だぁ!」
とか。いきなりSAN値ゼロで発狂して敵対。
何でこんな事になっちゃったのかなぁー。オレ別に失言とか無か
ったはずなんだけどなぁ。あーあ。
『子供たちがこう言っている以上、消えてもらうしか無い』
「うわ喋った!(恐ろしい声と見た目に反して冷静!)」
「ふーん」
子ブタと子イヌの前に降りてきた、いや此方を踏み潰そうとした
ライオンさんが普通に語りかけてきた。やっぱあの中身ロリ様と
同族っぽいし、そりゃ喋るか。あんな恐ろしい、ゲームの中でも
リアル過ぎる咆哮を上げたライオンさんがね。
そのライオンさんに脇へ抱えたままのロリ様が、言葉を受け抗議
を示す様に体をバタつかせながら。
「はぁ? え何?ぷぷ、おまえ如きが私と戦う気なの? やめとき
なさいよそんな冗談」
「(何でこいつここに来て強気なんだ!?)」
『メガミ。お前此処ではまともには戦えまい?』
「んぐぐ!」
「ああもう何で其処では強気が出てこないんだよ! 分かりやす
く反応しちゃダメでしょロリ様ー!」
抱えたロリ様を見下ろせば、握り拳を作り両目をつむっては、口
をバッテンに食いしばってる。何で簡単に相手へ情報あげちゃう
かなこのロリ様は。
ハッタリでも何でもかませたろうに、今!
『此処にはブンブンと煩い、ヒト攫いの淫らな乙女達も』
「「「!」」」
巨大なライオンが一歩。猛禽類の様な足を此方へ踏み出す。
『くだらぬ見栄で貶め従属させられた、美しき魔神達も居ない』
裂くように引き上がった口角からは、肉を削ぐに相応しい立派な
牙が姿を覗かせ、踏み出した足の爪は地面を抉るように食い込
む。
モンスターが獲物を捕らえる。仕留める為の前準備が、目の前で
大迫力にも行われている。こえぇー!けど格好良いー!
『私の子供たちの願いの為に、愛嬌だけのマモノには消えてもら
う』
「! ……わたしを魔物呼ばわり? しかもお前が子供ぉ?
アハッ子供、子供ねえ? で?何時にしようかは決めてるのかし
ら?」
『黙れ!!!』
現在ロリ神様と話している相手はソウルズで、しかもロリ神様と
同格の存在っぽい。つまり中身は所謂自称神様で、このぶっとん
だ仮想世界、エリュシオンでも屈指の、本物のチートを使いこな
すボスキャラって事だよね。
それをまあ……よくも煽るねこのロリ様は。何が煽りだったのか
は分からないけど、ロリ様の言葉を受けライオンはその顔を、完
全に怒りに満ち溢れさせちゃってます。鼻の辺りのシワがスゴ!
『ガア! 何とでも思うがいい! 私は私の安らぎを、やっと得ら
れた理想と夢を守るッ! 今はそれだけの存在だッ!』
「相棒!」
「ッ!」
言葉が言い終わると同時に激おこライオンさんは、ビーストマン
から『アカド』と呼ばれたキャラが此方へ飛び掛かって来た!
狙いは勿論ロリ様で、詰まり……抱きかかえてるオレ込みじゃね
ーか! 一緒にやられる積りも、やらせる積りはないから飛び退
って躱すけどもさッ!
『ガアアア!』
叫びと共に飛び込んでくるライオン。半歩身を引いていたり、回
避準備をしていた事もあり初撃は避けられた。
『避けるか!』
オレ達が立っていた場所では土煙が舞い上がっている。オレって
ば俊敏性にはそれなりに自信があるけど。
「いやあの巨体でこの速度はやべえって!ズルだよズル! デカ
イのは遅いがテンプレでしょ!」
「は、は、話してる途中だったじゃない! これだから他所の神
って嫌いなのよ!」
『ガアア───!?』
ライオンは飛び付いた先で“くるり”と巨体を一回転しては、巻
き上がった土煙を瞬時に散らし。爆心地からもう一度此方へ飛び
かかろうとして───出来なかった。
何故なら。ライオンの直ぐ側、脇腹下から相棒のショットガンが
火を吹いたからだ。
相手の攻撃のタイミングで咄嗟に相棒へ叫んだけど、それだけで
相棒はリストゥルンさんやトロラオさん達突き飛ばして、自分の
気配を“隠した”のだと思う。でもあの突撃を間近で避けるとか
土煙の中で息を潜ませるとか。
「心臓に毛が生えてるよね!相棒ってば!」
オレと、いや一人でも高難度のクエストやレイドを戦い抜いた相
棒なら、あの咄嗟の一声だけで危険を察知できるとは思っていた
んだけど、まさかのカウンターです。流石相棒!
「そんな訳───!」
『グウウウウウ! 痒いはァアアアアア!』
「ぬぐッ!」
「相棒!」
一瞬怯んだライオンは驚異的な持ち直し行い、よろけた身体を立
て直す勢いそのまま相棒へと強烈な薙ぎ払いを食らわせた。
『……グウ。小賢しくもまた隠れたか』
ギャグマンガみたいにぶっ飛んじゃった相棒は、そのまま跳ばさ
れた草陰に身を紛れ込ませたらしい。と言う事は、まだ瀕死じゃ
ないって事だ。隠れられるんだもん。
『良い、良いだろう。一番美味しいウサギとネズミ、それはこう
して見えているのだから!』
「は? アイツ今わたしの事をねずみ扱いしなかった?」
「オレうさちゃんだから、そうだろうね!」
「許せないんだけど! どう見ても世界一可愛いネコなんですけ
ど!今!」
「ああもうどうでも良いってそんな事!」
「そんな事ッ!?」
一先ず相棒達は大丈夫だと思う!思う事にした! ぶっちゃけ
考えてる余裕とか此方には無さそうだし!
『グルル。心配するな、全員逃すつもりは無いからなぁ』
「っすよねぇ。あのその、話し合いとか───」
『王よ! お待ち下さい!』
マシラオウが此方へと来ようとするが。
『マシラオウ!もう邪魔はさせん!』
『そうだそうだ! それに今近づいたら危ないんだぞ!』
『……。………』
他の四獣に阻まれる。もうオオザルさんの増援は望めそうにない
ね。
『全く騒がしい。ああ、お前達も気が散るだろう? 逃げられても
面倒だし。……グオオオオオ!』
「「ほわー!?」」
ライオンが叫び上げると同時。オレとロリ様、そしてライオンだ
けを取り囲むように、おどろおどろしく、とても綺麗とは呼べな
い風が遥か高さまでと巻き起こり。
『これで邪魔は入らないッ!』
「やっぱこうなりますよねー!」
「あー!ああー! あわわわわわわー!」
風の壁が逃げ場も援護も断つ。
ボスライオンの狙いは勿論オレが脇に抱えるロリ様で、大将首。
特設フィールド作り上げた後は。
『ガアアア!』
「「わー!」」
鋭い牙むき出しで此方へ飛び込んで来ては、後ろ足で身体を支
え、可愛らしさの欠片も無い猛禽の鋭い前足を振り上げて来
る。
あの爪は間違いなくオレ諸共ロリ様を引き裂こうとしてるよ
ね! まあオレも敵か!今や完全に!
「なななんとかして! 此処で死ぬ訳にはいかないでしょ!?」
「言われなくとも! アクセラレイション!」
加速スキルを使って取り敢えず自分の行動速度を引き上げる。素
の状態じゃおっつけなさそうだしな!
「っぬあおー!」
『アァ! ガアアア!』
「むひゃあっぁー! うびゃー!」
「ロリ様煩い!」
最初の様に飛び込んできたボスライオンだったけど、そのまま着
地の隙きも無く此方へ爪を振り抜き。此方が躱せば回避行動の間
に体勢を整え小さな飛びつきへ移行。また距離を縮め爪、飛びつ
きと。繰り返し前足でロリ様をオレごと引き裂こうと試みる。
あの巨体で細かい動き!デカイからリーチも長い!
しかも相手の攻撃をスレスレで躱す度、脇に抱えたロリ様が泣き
声を上げるのが───とてもウザイ!
「ア───」
「気が散るってー!(あれ?でも躱しながら攻撃できるか
も?)」
繰り返される飛びつきと引き裂き。ワンパターンな攻撃。かと思
いきや。
「───ッガア!」
「うおっ!?(フェイントを入れてきやがった!)」
直前で攻撃をやめ大きく飛びかかってくる。此方も全力で、現実
的に身体を壊しそうな程身を捻らせて躱してみるけど。
「ぬああああああああああッ! ───あ。やべ」
「!!?」
完璧な捻りについて来れず、脇に抱えていたロリ様がスッポ抜け
ちゃった。
「いやぁあああああ!じぬ゛ぅぅぅぅううううううう!」
『ガアアアア!』
溢れた獲物、置いて行かれたロリ様へアカドの爪が迫る。
アカドの飛びつき、百点満点なオレの回避、溢れたロリ様。そし
てアカド再びの攻撃……。別に此処ってターン制でも何でもない
けど、もう既に回避行動へ移行してるオレには、引き返して庇う
って事はできない。何処にだって限度はある。既に無理な回避し
ちゃったからね。
だからできる事は。
「こなくそぉおおおお!」
「ぴゅぉッ───!」
『なにッ!?』
背後。身体を置いて行かれ宙を舞うロリ様を、体感、感覚だけを
頼りに、加速バフの影響下でギッチギチに動かし辛い腕を伸ばし
───掴み取るッ!
掴んではそのまま止まる事無く回転するように飛び退り、腕を引
き戻して胸に抱くのは。
「ぁぁ。ぁぁあ。しぬがどおもっだぁーぁああ!」
「はぁはぁはぁ! セ、セーフッ」
無傷のロリ様。コイツの耐久が外でもデタラメならこんな事しな
いのだけどね。寧ろガンガン盾にもデコイにも使うし!ホント!
「良かったぁ。掴んだが既に瀕死のロリ様、じゃなくって」
「ぁぁー!ぁぁあああ!」
胸に引っ張り込んだネコ型ロリ様はちゃんと生きてる。言葉喋っ
て無いけど。
『グゥゥゥ……』
「助けた事にご立腹な様子!」
目の前でイージーキルを逃したボスラインオンが低い唸り声を響
かせる。
相手はAIボスモンスターでは無く、自由意志を持っている。だか
ら逆に攻撃パターンが読み辛い。フェイントだって当たり前に入
れてくるよなそりゃあさ。
普通のバトルと気が抜けていたオレは意識を変える事に努め、怒
ったボスライオンからの攻撃に備えようと、して。
「ん?」
「(両手で“ひしッ”としがみつく少女)」
「んん? ちょっとロリ様!? やだ離して!」
「ヤダ!」
「やだッ!?」
ロリ様を抱えなおそうとしたのだけど、自分の胸へ、うさぎの着
ぐるみへしがみついてロリ様は離れようとしない。
「これじゃど真ん中が的なんですけど!?」
「また宙を舞うのはイヤよ、絶対イヤ!」
『グルルル……ガアアアアアアア!』
「ああああもおおおおおおおおおう!」
相手がこのやり取りの間にも待ってくれる、何て事は無い。
仕方無しにオレは胸にロリ様と言う大当たり的をぶら下げながら
回避を行う。
ま、まあ。これで両手が空いてくれたから動きやすくはある、あ
るのだけど。
『ガア!』
「ぬお!」
『ゴオオオオ!』
「なあああああもうこれ、ヤバイ!避けるので精一杯だわ! し
かも多分スタミナとか無限なんだろうなぁ! あのライオンさん
はさあ!」
「何とかして、しなさいよおおおおおおお!」
「何とか、ってもな!」
このエリュシオンってVRゲームの中に、明確なスタミナって仕
様は無い。けれど現実の身体がある以上俺たち人間は疲れっての
必ず感じる者だ。仮想世界で激しく動いて疲れる事もあれば、椅
子に座って疲れをとる事もできる様に。スタミナと言う概念はし
っかりと存在している。現実的疲労蓄積こそ、此処でのスタミナ
かな。
ただこの疲労度、プレイヤーのゲーム内行動やレベル等で精神
的、肉体的に感じる疲労の増減をある程度ゲーム側で制御されて
いるって話しがある。疲労回復もね。
じゃないと無茶苦茶な連続攻撃とか無限に続けられちゃうし、そ
うならないよう様に制御があるっぽい。高レベルのキャラと低レ
ベルキャラでは連続戦闘時間に差が出てくるとかザラだしね。
なので。高威力、高レベルなスキルや攻撃スタイルを続けると何
処かでヘタる。身体の自由に制限が掛かるかのように。
ゲームバランス的に何処かで息を入れる場面ってのが必要になっ
てくるのだけど……。
どうやら今オレが相手してるボスライオンは、とっくに一息入れ
ていい程に超攻撃的に動いてる。
例えスタミナ有利があるとされるビーストマン、ビーストタイプ
だとしてもよ、此処までか? 考えるにコイツ、スタミナってのが
無限って事なんだろうなぁ。肉体の無いオレと一緒って事だ。
「クソ! お前ら皆当たり前にチート地味た能力使いやがって!」
「ちょっと!わたしは違うんだけど!? それとこれじゃ何時まで
も勝てないわよ!」
『グオオオオオオオオオ!』
「分かってる!分かってるよ!」
何とかしたいのは山々なのだけど、反撃する隙きが無い。
デカイ身体から繰り出される攻撃間隔には、反撃の空きが全く生
まれないのだ。正直言うとアタック、ムーブ、どのスピードもオ
レの方が相手のより圧倒的に高い。それでもキツイのは、体躯に
不釣り合いな速度を持っているからだ。
サイズ補正で体格が大きければ大きいほど、下へ与えるダメージ
はデカくなる。でも大きいからこそ動きは大ぶりになるし、後隙
きのある行動が生まれるハズ、なのに。
その部分をある程度の速度で補ってるよアイツ!サイズとスピー
ドを両立とかズルいよね!ね!
あのズル敏捷特化なオレだからこそ避けれてるって感じ。特化以
外で避けるのはムリだろうね。後、何とか今避けれてるのは相手
が何故か一向に大きなスキル攻撃をして来ない事、通常攻撃の乱
打だけだからってのもあるか。勿論ワンパターン化しない様に頑
張ってる見たいだけど、攻撃の幅が少ないらしく。結果的にはパ
ターン化してしまっている。
此方が予想外に避けるからなのか、何にせよ今のこれじゃAIの
が強いかも。戦い方が下手と言うか何と言うか……うーん。
まあ意思持つキャラにはチート過ぎる能力だし、これでロリ様み
たいな大技連発とか笑えないけどね。
でもロリ様の言う通りこれじゃ勝てない。ついさっきまでの詰ん
でいた状況から今の方が良いとは言え、この戦闘が長引くと敵地
に居る以上オレ達がますます不利になる事は明白だ。
勝負するしか無い。外の状況は分からない。けど。
『逃げ足の早いウサギだ!』
「うさぎさんだからねッ!」
「言ってる場合!?」
「ホントにな。このままだとヤバいよね~」
「おまえが疲れたら終わりなのよ!疲れないで!疲れるな!」
「無茶言うなぁー!」
打開策を何も考えてない訳じゃない。
『ハハ。余裕を見せるか!』
「(攻撃のタイミングはもう掴めた。後は共通目印が欲しい)」
『ガア!』
「おらあ!」
完全フリーでの反撃の隙きは全く無い。だけど相手の攻撃に自分
の攻撃を重ねるぐらいはできる。
上から振り降ろされる爪に、両手で握りしめたショートソードを
振り抜くとかね!
『ヌガア!』
「だはー!ムリ!」
弾けはしたけど、相手へダメージを与えられたかは微妙。真上に
振り抜いた剣は、剣圧を飛ばすスキル。爪を押し上げ、最後まで
振り抜いたお陰で、地面にも剣圧が迸る。それは風の壁までと。
「良いんじゃない!?」
「いや大したダメには成ってないだろうね!
てかスキル使って弾くのがやっとかよ!」
言ったように。アカドには大したダメージが入ってないように見
える。
まあそんな事よりも。
『生意気にも防いだか。よく出来たと撫でてやろうか?』
「あわわわわ!ちょっとねえ!」
「……(って感じなんだけど───)」
「あいつ怒ってる、絶対怒ってるあれ!」
『だがいい加減飽きて来たぞ! グアオウ!」
「ほらー! 吠えてやる気満々よ!」
「……(お)。………(マジ?)」
「ねえ!ねえねえ! 何かないの?と言うかもしかしてもう諦
めてる?諦めてるの!?」
胸元で泣き叫ぶロリ様。実の所何も考えてない……事は無かっ
た。
相手の攻撃タイミング。目印。それに合図。
オレは自分が付けた地面の跡を確認しつつ、一歩下がった位置へ
付く。
『グアアアオオオオ!』
「ああああああああ!」
「(よし。今!)」
考えた打開策。それは一人じゃ難しい、手を借りようって事で。
大事な大事な打開策は外から、風の壁を突き抜け此方へ飛んでき
た。
『ガアアアアア───!?』
反則級に連続攻撃を繰り出すボスライオン。その身体を弾丸がか
すめる。いやライオンさん、見えてないはずの弾丸を察知して身
を僅かに反らすとか、マンガ級に格好良いな。まるでさっきのオ
レみたいに!
まあそれはそれとして。今相手は弾丸を躱すために回避をした、
してしまったよね? つ・ま・り。
「まだオレは攻撃してないって事だッ!」
『グウ!?』
回避行動を挟んだボスラインには反撃への間隙が生まれた。だか
らオレは、空中で身を捩り弾丸を躱したボスライオンへと、一歩
踏み出し。そのまま両手で握ったショートソードで後ろ足を思い
切り───
「だりゃあああああ!」
たたっ斬る!
『ガアア!?』
「わーやった、やったやったやった!
やるじゃないおまえってば! キスしてあげてもいいわよ!今
だけなら!」
「うげ!やめろッ! 鳥肌と悪寒がすごい!」
「わたし万物に愛されるべき、愛すべき女神なのですけどッ!?」
胸に張り付き大興奮のロリ様は放っておこう。
ボスライオン、アカドはロリ様みたいにイカれた耐久力とは違うら
しく、全力で攻撃すればダメージは入ってくれる親切設定だ。その
事は相棒のショットガンで分かっていたけどね。あれぐらいのダメ
ージが出せるのなら、相手に攻撃が通るって事だ。後爪とか硬そう
な部位以外なら。ふんふん。
流石相棒の初手ショットガン理論。初めて聞いた時も今も理論意味
不明だけどね。
『なぜだ、なぜ今攻撃が届いた? 壁の外から!』
「簡単。だけど教える義理とか無いっすよね」
『グルルル……』
本来は教えるまでも無い事。外から飛んできた打開策は、オレが
地面に付けた印を頼りに撃たれた物で。合図は個人チャットで
のやり取りそのまま。他のキャラには見えない、聞こえない仕様
だからね。物理的分断と言っても近距離で、しかも拠点、風の壁
にはチャットを遮断する仕様は無いっぽいし。相棒とかは分断作
戦には通信妨害も仕込んでくるけど、今回は相手が甘くて助かっ
ちゃったね。
マップ機能が使えるならピン刺しでも良かったんだけど、この場
所は全体が秘匿扱いされてるっぽいから映らなかった。ので、ち
ょっと別の手段考えるのに時間がかかったけど。
「これで一方的な試合は無く成ったよね~」
「おまえ見直したわ! ちょっとだけ!僅かに!」
『グウウウウ……』
アカドは此方を睨みつけながら低く唸り声を上げる。流石に今の
一撃で倒れてくれるほど軟じゃないらしい。ただし。
『……』
「(足を気にしてるって事は……。これはラッキーかも)」
部位へ一点集中して与えられたダメージ。それは片足の自由をあ
る程度制限を加えられた様子。
「あ!アイツ足に来てるわよ!」
『ッ!』
「バッ! そう言うのは気が付いても言わんで良い!」
「なッ、なによう。わ、わたしだって……だって………うぅー!」
「ああいじけるな!すねるな! 特にオレのうさちゃんボディに
顔を擦りながらはな!」
「うぅー!」
「あ゛ぁぁー!」
やめろと言うと激しく顔を擦り付けてくるロリ様。何だこいつ。
此方が相手の弱みに気が付いてない振りはできなくなってしまっ
たけど、まあいいか。
オレ側の秘密として、実はオレの方もスタミナには自信がある。
と言ってもこの状態に成ってからの話だけどね。
だから可能な限り耐える事は可能だった。それこそ一昼夜ぐらい
戦闘を続けるぐらいには。でもこの場所でそんな事をしていても
解決にはならないし、相棒の事もある。そう、相棒、相棒たち
だ。
「ボスを一人で倒すってのも楽しいけど。やっぱレイドボスはPT
で挑むべき、だろ?」
『グゥ……。生意気な』
現在の戦闘状況は互いに一変した。何故なら、オレと相手のスピ
ード勝負はズル込みで拮抗。装備とかパッシブで上げまくったオ
レと、サイズ無視し拮抗何て納得できないけど……。
まあ兎に角。オレはこのまま躱していれば良いんだ。そうすれば
相棒の攻撃が当たるだろうし、相棒の攻撃を躱せば今度はオレが
攻撃を与える事だってできる。
中の状況をアカドが外へ知らせたりしたら厄介だけど。そもそも
そんな機能を知らないのだろう。
「(適当に目印の線ももう二本程増やそうかな)」
『!!!』
「うお!?」
「なになに? 駄々っ子?」
アカドが突然身体を大きく上げ、そのまま地面へと両手を叩きつ
けた。するとオレ達の周りにあった風の壁が形を崩し。
『ガアアアアアアアア!』
顕になった平原草むらへと吠え上げるボスライオン。威嚇って事
らしい。今の威嚇でビビらせようとしたのだろうけど、相棒がビ
ビるとは思えない。
風の壁が晴れた周りでは、オオザルと魔猿達が四獣と戦っていた
のが分かった。外の状況も状況だなぁ。ちょっとこの世の終わり
みたいな戦闘風景よ、アレってば。
魔猿は死屍累々って感じで、オオザルもかなり辛そう。だけど
まさに必死の抵抗のお陰で四獣が此方に参戦するにはまだ猶予が
ありそうだ。けど決着は急いだ方が良さそうだね。隠れた相棒を
四獣が探し出したりしたら面倒だし。
まあ相棒のスニーキングスキルはプロレベル。短時間で探せるも
んじゃないでしょう。もしアカド自らが相棒を潰しに動けば、オ
レと相棒に挟まれる形になるんだけど。探したりしてくれないか
なぁ。
最適なスナイプポイントで此方を見てるであろう相棒のお陰で、
形勢は此方の有利へ大きく傾いている。現状だけならね。
「「アカド? アカドッ!」」
風の壁が消えたのだから、向こうからも此方が見える。ボスライ
オンへ戦闘を任せていた子イヌと子ブタのプレイヤーが、まさか
とアカドが負けるとは思ってなかったらしく。憎しみたっぷりの
表情から一転、心配したで様子で剣と杖を喚び出し、此方へと参
戦に向かって来ている。うへー以外にあっちも冷静。
此方へ駆けて来る二人。が、その前へ。
「行かせません! 貴方達の相手は私だッ!」
「怪我はさせないが、止まってもらう。自由の為に」
「! 退いて、退いてよ!」
「ボク達の邪魔をしないでください!」
リストゥルンさんと、裏切ったはずのトロラオさんが二人の前に
立ち塞がる。
「ナーイス!」
「良いじゃない良いじゃない! ねえねえ!」
勝てそう。勝ちの目が出てきたね。
相手が大賞首を狙うように、此方も大賞首が取れるのなら、それ
は勝利。戦術的勝ちって事だ。
「アカド!」
「アカドー!」
力の限り叫ぶビーストマン二人。
『ゥゥ……』
「おっと忘れて無いぜ。さあこっから───」
叫びを耳にしたボスライオン、アカドは。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「い!?」
「ななななな!?」
獣は体全身を大きく震わせ、憤怒の表情で叫び上げた。
それだけじゃない。ボスライオンは身体に、辺りを漂っていた風
の壁、その残骸を集めだす。暗く冷たい風が彼の周りを漂い、離
れてる此方まで冷たい感覚、悪寒を感じさせる不快な風。
「おいおい。これ───」
『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
直感があった。スキルと感覚の両方で。アカドが身を僅かに屈め
た瞬間に。“あああ。これ絶対マズイ”ってね。
どうする事もできない、絶対絶命ってのを全身で“ヒシヒシ”と
感じながらオレは、最後にできる事ってのを必死に考え身体を動
かす。
「! ───グッハ!?」
「ルプスッ!!!」
「え?うええええ!?」
全力で正面のライオンに背を向けるってね。振り返った瞬間には
背中に尋常じゃない痛みが奔っては、一瞬でオレの視界が霞み歪
む。メチャクチャな視界は直ぐに薄暗くなって行く。
倒れる最中に聞こえた相棒と、ロリ様の情けない声。ああ、この
まま倒れたらロリ様潰れちゃうかなぁ……。でもま、爪に切り裂
かれるよりはマシだろ? 多分さ。
「ルプス様ッ!」
『ゴアアアアアアアアア!』
「ッぐぅ!?」
「……ッチ。よそ者なんか助けるんじゃなかったな」
振り返った先、視界が地面へと落ちるまで僅かな間に見えた光
景。動かせない視線の先では振り返ろうとしたリストゥルンさん
が、そして諦めたように両手を下げたトロラオさんの二人が、一
瞬のうちに仕留められる光景。
おいおい。オレを攻撃して、もうあっこまで移動したの? それ
ってばズルくない? マジサイズ無視な速度だなー。
「ちょ、ちょっとこんな所で───」
何きっかけか分からないけど、ブチギレたアカドからの一撃を受
けてしまったオレ。たったの一撃で既に視界は地面。攻撃に当た
らない事前提な戦闘スタイルなのだけど。にしてもさ。
「一撃でダウンとか……マジ……反則………」
あのスピードで一撃必殺とかさ。マジプレイヤーが持っていい力
じゃないでしょって。装備とかレベルが足りてないなら分かるけ
ど、そんなに差があったかなぁ。
「(あーあ。オレはもう死にたくなかったのに。
だってさ? 肉体の無いオレは、オレの魂、心は此処で死んだら
一体何処へ行くんだよ?
クソ。こんな事ならロリ様にも、裏事情にも関わらなきゃよかっ
たよ。もう全部世界が悪い。オレをもっと甘やかせよ、世界)」
「ねえ。ねえって───!」
中身の無い悪態を頭で吐きながら。オレの意識はどんどんと遠
退いて行く───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───ふと気が付くと。真っ暗な場所にオレは寝そべって居た。
寝そべってるってのは身体の感覚的にって事で、真っ暗ってのは
目を開けてるのに景色が黒一色だから。
寝ぼけ眼ながらに手をちょぴっと動かしてみる。すると手に水が
触れる感覚。まるで浅瀬、それとも真っ暗な水面そのものに寝そ
べっているかのようだ。
「……。…。………」
声は出せないっぽい。意味不明で、何でやねんって感じなのだけ
ど。不思議とオレは此処に見覚えがあった。いや此処に来て思い
出したと言うべきなのかな。
「(オレの記憶通りなら。よっと)」
寝ていた身体の、その上体を起こす。起こせた。
『『……』』
「(ほらねっ。てか“ワーオ”じゃん)」
身体を起こした正面には此方を、多分オレを見詰める二つの燃える
瞳。何か凄い夢を見てるよねぇ。
『……』
「(アレ?)」
呆然と瞳に見入られていると。その二つの瞳の上に、もう一つ燃
える瞳が増えた。増えるの?其処が?
『『『……』』』
「(アレアレ? 何故増えるー?)」
三つの燃える瞳がオレ見る。その瞳の中に、見覚えのないオレを
映して。覚えがない、でもオレと分かる。不思議。
自分の瞳と燃える瞳が繋がる様な、無いはずの脳に熱が伝わって
来る様な、不気味で形容し難い感覚が。
『『『………』』』
「(アババババババ!)」
あるかどうかも不確かになってきた自分へと満ちて来る。
勝手に震えだした身体、右手が特に激しく震え思考が溶けて来た
所で。
直ぐ近くの様で、もう二度と行けない遠くの様な、そんな所から
相棒の叫びが聞こえた気がする。それとは別にもっと近く、限り
なく近くからロリ様がずっと呼んでいる様な気も。
ああそろそろ起きたい。起きないと。でもどうすれば───
『『『…………!』』』
「フォギャ!!!!??」
起きたいと思った、考えた瞬間。燃え盛る瞳達が一層激しく燃え
盛り、テンション上がって吹き出された炎が此方、オレを包み込
む!身体の感覚があやふやで抵抗なんてできないし、逃げられな
い。
そのまま炎に包まれると不確かだった全身の感覚が、確かと戻っ
てくる───全身へ迸る激痛を伴って。
息を吸えば、無いはずの肺は中から溶け。
腕を動かそうとすれば、炎の熱量で簡単に骨は砕け。
溶けた意識は確かな痛みとアドレナリンの下瞬間凝固。覚醒。
ぶっ飛んだ激痛、経験した事も無い痛みが自分を確かと、痛み、
痛み痛み痛みが自分、じぶぶぶブブブブッ───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全ての感覚がしっかりとしてる。身体の所在も、瞼だって望めば
ほら。
「ほらひら───ッいっでええええええええええええええ!?」
「うわあ! 何よ、急にのた打ち回ってぇ!?」
激痛。この仮想世界で感じちゃダメな激痛が全身を駆け巡り、か
っぴらいた目の前にはロリ様の……不安気な顔。その顔との衝突
避けて起き上がろうとしたのだけど、上手く立てずに転がり落ち
ては、のたうつ。何とか落ち着いて出来た体勢と言えば、四つん
這い。
な、な、情けない!理想夢想像の仮想世界で、しなくて良い格好
ナンバーワンなのだけど。けど痛いからね!仕様がないよね!
「ちょちょっと。ねえ大丈夫?」
「ど、どうな、ってッ」
今現在は痛みは無い。体中に奔った痛み既に無く、と言うか“痛
みを感じた”って言う余韻だけが残されていたらしい。なのに冷
や汗は止まらない、背中はじっとりとして耳の先が熱くなる、あ
の感覚がずっと止まない。
そんなこんなで、興奮し過ぎで両手とか震えちゃってるんですけ
ど!
と、取り敢えず。状況、状況を把握しないと!
「はぁ、はぁ、はぁ」
「え?何? あ、周りが見たいのね? ……んしょッ」
ロリ様に身体を支えられながら首を上げて辺りを見渡す。
意識が途切れた前と同様まだ平原に居るって事が分かり、オレは
リスポーンはしなかったって事で……ん?
「……パーティー壊滅してねッ!?」
「しちゃったわよ」
倒れる間際に見た光景通り。リストゥルンさんとトロラオさんは
既に瀕死状態で転がっているし。相棒は瀕死の二人の前に立っ
て武器を構えている。だけどその前には更に。
『ご、ごふ……』
膝を着いたボロボロのオオザル。周りには倒れ伏す彼の部下と、
怯える様に遠目で見守る他の四獣達の姿。
「ルプス? ルプスかッ!?」
「はろ~相棒~」
片膝着いたオオザルの股ぐらから相棒がオレに気が付いた。なの
で手を振っておこう。
『グウゥ……』
同時に。暗い風を纏うアカドも此方へと振り向く。オレはこれ以
上無く確かな感覚のまま、安定しない呼吸のままに立ち上がる。
もうロリ様の肩は大丈夫。大丈夫だ。うん。
『仕留めタはず。何者だ、貴様?」
「あ? ただの一般優良プレイヤーだよ」
現在のオレ精一杯の返事。だったのだけど、アカドは返答自体に
興味は無いらしく。
『臭いガ……。何ダ、何処カら???』
鼻を頻りにひく付かせては訳の分からない事を口走ってる。
『イヤどうでモ良い』
顔だけだった物を、オオザルと向き合っていた身体を此方へと向
け。
『もう一度、もう一度殺せバ良い!』
「「きゃああああ!?」」
言い終るやいなや爆発するかの様に走り込んで来るボスライオン
へ、オレとロリ様が同時に叫び声を上げちゃう。
「きゃああああの、きゃあああああ!」
「は、ちょ、おまえ───ッ!?」
「絶対離すなよ!ロリ様ぁ!」
「ッ!」
オレは直ぐにロリ様を胸へと貼り付け、自ら走り出す。向かって
来る爆速ボスライオンへと向けて。
「あああ頭、頭おかしくなっちゃったんだ!おまえ!」
「ちょっとだけね、ちょっとだけ!」
「ぁぁぁああ! 心配したわたしがぁあああああああ!」
ロリ様の心配も分かるけど。頭はとっても冷静。
あのまま待って居たって、守りに徹したって勝てやしない。目覚
めた今の状況は最悪。もうオオザルは膝を付いてるし、相棒の援
護だって無い。あの状態のボスライオン、アカドには誰も勝てな
いと思う。だってさっきよりも早くて、しかも一撃必殺級の攻撃
よ? 待ってるのは蹂躙され尽くす敗北の未来。
だったらお行儀よく待ってる必要とか無くない?
『気が狂ったカ!恐怖したカ! 脆い、脆すぎル!』
「うるせえええええぁあああアクセラレイション!」
ただ勝ちの目を無理やり引き出せるのは、プレイヤーが到達でき
るほぼ限界値の速度。支援職のバフ無しで其処まで極まってるオ
レの速度だけだと思う。まあそれ越えているのが相手なんですけ
どね。
あのキャラにオレはまた無謀にも戦いを挑んでしまう。PC理論
値最速のオレと、サイズ的に速度の速い相手。
だからオレ達が互いの間合いに到達するのは、瞬きして世界を更
新するよりも圧倒的に早かった。
『沈めッ!』
「うわああ、うわあああああん!バカバカバカー!」
アカドが目の前で腕を振り上げる。現実でグリズリーとかの猛獣
と相対したらこんな光景なのかも。
大きい前足が此方を引き裂こうと、先程オレの背中をざっくり行
った爪が迫る。
その爪を、両手と肩で支えたショートソードの腹で受け。相手の
爪をそのまま剣の腹を滑らせるよう流し。自分はアカドの横へと
身体を滑り込ませ。
「うらあ!」
「あああああああああ!」
『なんダとッ!?』
そのまま剣を思い切りと、すれ違うアカドの横っ腹へ一閃。
互いに通り過ぎざまの攻防。すれ違った先で向かい合う。
『グ、グォオオオウ!』
「やっぱそんな効いてないっぽいかぁー……。うーん」
「ああああ! ……ああ?え?ええ? 生きてる?わたしまだ生き
てる? やったー!」
アカドは全然平気そうにしてるし、ダメージ痕もほっとんど無い
感じ。さっきと違ってあの風、アレが装甲値を高めてる? それ
か物理耐性を上げたのかな? ただのエフェクトだけって訳じゃ
ないだろうね。
どうしよっかと考えていると、胸の方から着ぐるみの頭が引っ張
られる感覚。
「はいはいあによ? 今オレご覧の通り命がけのボス戦で忙しいん
ですけど?」
「バカバカ、何でそんなに冷静なのよッ! て言うかさっきはス
ピード負けてたじゃない、なのになんで!?」
「んっふっふっふ……」
「まさかおまえ、おまえったら秘密の力を隠し───」
「それはオレにもさっぱり分からんッ! 何かできそうかもって感
じて、そのまま考えなしに行動した結果が……今さ!
後スピードは負けてなかったし。サイズ差で仕方なかっただけだ
し」
「───は?」
目が空洞にでも成ったかのようなロリ様。おほほう、こんなにも
冷たい目もできちゃうのね、エリュシオンってば。
「い、いや。口や言葉で上手く説明できないだけ何と無く、何と
なく“今の自分は戦える”って感じた、感じてるのよ。マジ」
「……? さっきと言ってる事一緒じゃない!」
「んふッ。ま、まあね。ただ、たださ。オレはオレの直感って奴
を何時も大切にしてきたのよ、この仮想世界で危険な時は何時も
ね。
だから今回もオレはオレの直感を信じて、諦めて神頼みするので
無く。日和ってる心騙して、ブルってる身体も見て見ぬ振りしち
ゃって腹ぁくくってさ、全力の本気で直感を取りに挑んだ訳よ」
「ふん。根性論じみててわたしにはよく分からないけど、いい
わ。何故か結果は出てるもの。それでおまえが戦えると言うのな
ら、戦いなさい!
戦士ができると言うのなら、たまには信じてやるのも主の努めで
すもの。ただし必ず勝利する事。それが女神に信じられた戦士、
その最大の努めよ」
「戦士じゃないです。後そんなの事言われなくとも───!」
様子見をしてるらしいアカドを真っ直ぐに見詰めるオレに。オレ
の着ぐるみ頭に、下からロリ様が、多分おそらくきっともしかし
てで……キスをした、された気がする。
ぎこちない動きで着ぐるみの頭を下へと向ければ。オレの、着ぐ
るみの胸に両手を広げしがみつくロリ神様の、自信満々満面笑み
が眼下に広がっていた。
「わたしがおまえの勝利を信じてあげる。そして、勝てるおまじ
ない。そうこれは!女神にのみ許された最強にして最高の祝福─
──」
「おおおお悪寒と寒気がスゴイッ!!!」
「───~~~おま、おまえオマエお前ぇええ!」
自分を女神だとか語って、しかも祝福のキスぅ? ロールに寛容
理解のあるオレでも流石に寒気がしちゃう!うひゃあ!
身震いをするオレにロリ様が『返せ!わたしの祝福を返せこ
の!』とか騒ぎ出す。器用にも、てか以外にも力のあるロリ様は
片手でオレの腹を“ぽこぽこ”と殴ってもいる。ネコパンチで。
「はは、非力非力」
「~~~~!」
『グゥゥゥゥ。グゥゥウウウウウウオオオオオオ!』
「「!」」
此方の様子を見ていたアカドが低い唸り声を、大きな雄叫びへと
変えては、淀んだ風が送り込まれる。
「「あひッ!?」」
寒さと言うよりも、不快感の強い風。良い事は緊張からの震えは
もう無いって所。身体はもう完全にオレの意思で動く。
さて。飛んで来てるこの風はスキルだ。鈍足、疲労感増加とかの
デバフが含まれてるっぽいスキル。抜け出さないと凍結からの即
死コンボとかありそう!
こんな搦め手、しかも肉体あんな強いのに強力な魔法系スキルも
使えるとか。きっとこのスキルのコストも安いんだろうなぁ!
クソ羨ましい!
「許せねえぇ!」
羨ま怒りな感情を言葉に出しつつ、ショートソードを地面に突き
刺し、鍵を開けるように捻っては、ウェポンスキルを開放。武器
へセットされたスキル、炎の翼が辺りへ爆発的に広がり風を一時
的に吹き飛ばす。風と熱気がぶつかり合い煙が吹き巻かれる中。
急いで煙から脱出を試みる。と。
『ガアアアアアア!』
「出待ちかよ!?」
逃げた先へと先回りしていたアカドの姿。
既に振り下ろされている最中の爪! 何故か速度の上がっている
バフ状態のオレのスピードでも、これは無傷で躱せないかも!
逃げ先予想されたのなら、予想外をぶつけてやる!
「『ナイス!』」
『ッ!?』
「だりゃあ!」
『グ!』
迫る相手へ向けで吹き出しスタンプを見せてやる。
完全な子供だまし。だけどリストゥルンさんもロリ様も驚いてた
仕組みは、アカドにもどストレートに効いてくれた!
『グウウ……ガアアアアア!』
「今度は突進ね!」
一瞬怯んだアカドへ斬り飛ばしを試すも、直様体勢を立て直し此
方へ攻撃を仕掛けてくる。もうスタンプでは怯んでくれないだろ
うね。でも十分に隙きは与えられた、二撃目は余裕で躱してやろ
うと、そう身構えていると。
「お前ってば。この私を忘れてはいないかしら?」
「!」
『!』
着ぐるみの胸板へとしがみついていたロリ様は、いつの間にか小
さな杖を片手に握り、その杖を迫るアカドへと向け。
「スキラ」
『ゴア!?』
小さくロリ様が呟くと杖が僅かに光った。ただそれだけ。
だけどそれだけで迫るアカドは大きくを身を引き、顔を両手で洗
う仕草を挟んだ。
お陰でオレとロリ様は爪に切り裂かれる事も、身体に押しつぶさ
れずに済んだ。
「スゴイ! 今のはマジでスゴイぞ!見直した!」
「何言ってるの。わたしは何時だってすごくて綺麗で強いわよ」
「んんー盛りすぎだけど、今は許そう! んじゃもう一回───」
「あ。それはムリ」
「え?」
「今の何てアイツに対しては一回限りね。ほら」
言われて見れば距離をとったアカドは既に取り乱した様子が全く
無く。
『子供騙シに続キ、不快ナ術を私に掛けたかッ!』
怒りに満ち満ちてます。うわーお。
「マジかよ」
「マジよ。ちょっと怖い幻影を見せてやったのだけど、同格相手
じゃ二回も通じないわよ。
ま、そもそも同格に一度とは言え幻覚を見せられる事自体が、
わたしのすごさを物語ってるのだけど」
「も、もったいねえ───けどナイス!」
さっきの一撃を受けてたらゲームオーバーだったかもだしね。具
体的に言うとオレの身体に増えている急所的な意味で。
よし。意識を切り替えて、剣を構え相手を見据えよう。
アカド。アイツはスピード、パワー、スタミナ。ダメ押しに耐久
まであるっぽい。ショートソードでダメージ与えられてる事から
装甲はそこまでじゃないと思う。それでも恵まれすぎたハイスペ
ックPCだよなぁ。
でも今このバトルでの大きな問題は、時間だ。
これ以上長引けば、此方の攻防を傍観してる四獣が参戦して来る
かも知れない。今は自分たちのボスが怖くて萎縮してるっぽいけ
ど。それが何時まで続くか分からない。後運営がこの超バトルを
嗅ぎつける可能性も怖いし、自分の謎バフが何時切れるか分かっ
てない。そっちがめっちゃ怖いよね!
「(どうにかしなきゃ行けないのは分かってる。だけど短期決戦
できる方法が何も出てこない!)」
謎バフのお陰でオレは動けているとは言え、オレの耐久が上がっ
たとかでは無いと思う。だからキルラインは変わってない。
長引けば長引くだけ何が起こるか分からない状況。不確定要素が
増え続けてしまう。どうにかしないと、どうにか……。
「?」
何とかこの状況を切り抜ける為にと思考を光速で巡らせている
と、不意に巡らせた思考が道を間違え、ぽっかりと開いていた穴
に落ちて行ってしまったかのように。静かになった。
逃げる為の手段、戦闘の運び方。そんな考えで一杯だった頭の中
には言葉が浮かび上がる。
「エンチャント・メインウェポン」
浮かんだままを口にすれば、それは覚えてないはずの付与系スキ
ルで、だからこその初期始動キー。
「『ポイズンエビル』」
そして。聞いた事も無いスキルを発動。
エンチャントスキルを発動させると、手にしていたショートソー
ドの刀身を、沸き立つような液体が、毒々しいエフェクトが包み
込む。実に身体に有害そう!
「何か出ちゃった!出ちゃったんですけど!」
「なにそれ。すっごく嫌な感じが───」
『グオオオオオオ!』
「あああボサッとしない!」
「お、おお!」
自分の身に何かが起きてるらしい事は分かる。分かった。
けれど深く考えてる暇は無い。何か身体に超バフ掛かってる今、
この見に覚えのないスキルもきっとスゴイ物に違いない!そう信
じよう!
『ゴアアアアアアアアアアアア!』
「ああクソ!スキル説明も見ずにぶっつけ本番だよ!」
バトルの最中。深く考える暇も無いまま、此方へ向かって来たア
カドをすれ違いざまに斬りつける。
此方の攻撃を既に数回受けているアカドは、大して重く見てない
らしく、浅く切りつけられる事に何の警戒もしていない。
だからあっさりと斬りつけられ、そのまま互いに距離を取り見合
う。
『こノ程度、コの程度! 痒みスらないッ』
「あ、あっれー?全然効いてないっぽいです~!」
『ガアアアアアアアア!』
「もー!なにやってんのよー!」
ピンピンしてるアカドが再び襲いかかり、躱しては浅く斬りつけ
る。頑張ってもこれが精一杯。スピード此方が勝ってるからね。
途中ビーストマン達の加勢もあり得たのだけど、何故かあのビー
ストマン達は自信満々で見守っている。微塵もこのライオンが負
けるとは思ってないのかね。さっきあんなだったのに……。
ま。相手のそんな油断、傲慢のお陰でオレはタイマンで戦えてる
から文句はないけど。
目が覚めてから妙なバフのお陰でオレと本気のアカドの速度は、
拮抗から此方の有利に傾いてる。本来サイズ制限で速度が落ちる
所を維持、デメリットを帳消しにしている相手。だけどサイズの
大きさは実際のモノ。だから小さい此方の方が小回りが効く。
素早く躱しては、相手の下へ潜り込み斬りつける。そんな攻防
を幾度か繰り返すしていると。徐々に戦況、対戦相手に変化が出
てきた。
『グォ。グルル! ゴォ……。な、ナンだ?』
「マジ? マジかマジかマジか!」
「ちょっと。アイツかなり弱りだしたんだけど!?」
打開策を考える攻防で、浅すぎる一撃を何度も入れ続ければ、ど
うやらこれは毒スキルで、しかもマジでヤバいらしい事が分かっ
た。
このエリュシオンでは相手のライフは見えない。見た目と与えた
ダメージで推し量る他ない。但し、此方が与えるダメージはエフ
ェクトで可視化が可能。ヒット確認のため、与え続けているデバ
フを視覚情報で得るため、とかね。ちなみに他人のはオンオフ可
能って言う、エリュシオンの沼い詳細設定仕様。
消す人も多いけど、戦闘の臨場感重視で消さないオレ。なので戦
闘中エフェクトを注視し続けたので、分かった。
『グォゥゥウウッ!』
「(すんごいダメージエフェクトの連発!こんなん笑うぞ!)」
連続して表示されるダメージエフェクト。何が面白い、いやイカ
れてるかと言えば、それは表記がどれも単体と言う事。つまり、
このスキルの毒状態とは、全て同種としてカウントされず、スタ
ックしない。だから攻撃を与えれば与えるだけ毒のデバフが一つ
二つ、三つ四つと増えて行く!
見た所七つは重なってるだろうね。
通常の毒状態は“毒”とか“猛毒”とかで分けられるけど、同じ
種類の毒を重ねても効果を延長するだけ。こんな毒状態のスキル
は今まで見た事もない。最大何スタックするのだろう? 時間経
過でダメージは増えるのか? 未知の新スキルへの好奇で心が弾
むけど。
「(今は相手に集中だ)」
相手の状態を見るに最初はそうでも無かった毒も、今や重なりに
重なり、オレと同じ謎のパワーアップ状態から、通常以下へと機
動性が落ちる程度には、もう相手のライフを削り続けているらし
い。スゴーイ。
スキルの詳細説明を見てないから分かってないけど、多分この毒
はスタックされればされるだけ、他の毒のダメージとリンクして
加算とか、若しくは乗算され続けるぶっ壊れスキルっぽいなぁ。
加算ならまだ有情、乗算なら無情だ。よく調べてないからから詳
しく分からないけど、それでも聞いた事も見た事もない、未知で
未発見のスキル効果。新種のスキルですよこれ! ムフッ!
『グ……グゥウウウウウ!』
様子見されていた、全身をぶっ壊れな毒に苛まれてるらしいアカ
ドが大きく一度叫んでは。
『ォオオオオ……』
遂にその巨体を草原へと倒す。マジか! 毒だけで逝ったっぽい
ぞ。
「……ッたじゃない!おまえってばッ!」
「ね!何かやったっぽいよ!」
「バカね! こう言う時はもっと誇るのよ、勝利の戦士として!」
とんでもスキルのお陰でボスライオン、アカドを倒せた。その事
実をオレとロリ様が喜び合う。腹から飛び降りたロリ様がオレの
腹辺りを“バンバン”と叩く中。
アカドが倒れたと言う事実を、少しの間受け止め来てなかった様
子のビーストマン二人。
「「アカドッ!」」
彼らは倒れたアカドへと少し遅れて駆け寄る。
一瞬相棒の方へと視線を映すと。驚いた様子で此方を見ている相
棒の姿。まあ………・驚くだろなね、色々さ。オレもおんなじ。
「(ちょっと手ぇ振っとこ)」
「……」
驚きながらも相棒は、リストゥルンさんとトロラオさんの蘇生に
入ってる辺り、やる事は分かっているらしい。チャンスは無駄使
いしないもんね。
「(でも手ぇ振り返してはくれんのね)」
「アカド、アカドアカドアカド!」
『……ゥ………ゥゥ』
「死なないで、お願い死なないで!」
アカドは息をするのもやっと言った感じ。ライフがバカ高いの
か、それとも毒は瀕死で止まる、それかトドメにならないか…
…。何にせよ、ゲームの中でとは言えちょっとだけ罪悪感を感
じます。例え此方を殺す気で、猛禽類の足とか付いてるライオ
ンさんでも。動物、ネコちゃんの苦しむ姿はちょっとね。
オレは胸を僅かに痛めつつ、全然胸も何も痛がってないロリ様
と共にアカドへと近付き。
『『『!』』』
「「!」」
当然ボロッロボロのオオザル含め怯えていた四獣、それと寄り
添うビーストマンの二人が此方へ敵意を向けて来る。臨戦態勢
で。
「おっと。皆さんもう勝負は付いてる、付いてるよな? これ
以上の争いはお互いの為にもやめとこうぜ?」
『ほざけ毛無しが!』
『喉笛噛み切ってやる!』
さっきまで羽で顔を隠してたオオワシに、頭の上に前足乗せて伏
せてたオオカミ。その二匹がオレヘと吠える。うんうん。
「んーオレってばそっちの大将よりも強いからー……このまま君等
全滅エンドでも、全然構わないんだぜ?」
『『『! ……』』』
四獣もビーストマンも強く、強く口を食いしばる様にしては押し
黙ってしまう。あらら、結構気持ちよく効くなぁ~この脅し。
脅しの有効期限と鮮度が落ちないうちに場面固めないとね。
場の流れは既に動いてる、後は此方の有利な位置で止めないと行
けない。止める位置、立ち位置と押し付ける立場を頭で考えなが
らアカドの側へと向かい。
「あ~らあら!苦しそうね獣! 病気、疫病にこそ自分は弱かった
のかしらー? ぷくく!」
『…グゥ……』
「きゃーもう返事もできないのね! そう。なら───今楽にして
あげるわ」
「「!」」
ロリ様が倒れるボスライオンを指差し。オレを見上げ。
「さあ最後のトドメを刺しなさい!我が眷属よ!」
「ん?良いの? 勢力図とかその辺り面倒なんじゃねーの?」
「いいのいいの。このエリアで“わたし”が倒れない限りはいー
の!」
上機嫌に話すロリ様。ふーん……。
「やめろ!」
「やめて!」
ビーストマン二人が此方に武器を構える。見た限り武器はレアリ
ティも低く、この二人がアカド以上に強いとは思えないね。
ロリ様がそれを分かってか知らないけど。ロリ様が勝ち誇った笑
みを浮かべ。
「あらあら。獲物は苦しめてはダメ、って知り合いが昔言ってい
たわよ? だからこれは慈悲、ええ慈悲なの。
お前達が阻めば阻むだけ、苦しみが長く続くけれど。良いのかし
ら?」
此処に来ていきなりそれっぽい事を言うロリ神様。
他の四獣とか此方をやる気満々で隙きを窺ってるし、敵のやる気
を削ぐ目的でも言う通りなんだけど、なのだけど……。
「アカドぉ!」
「目を開けてよアカド!」
『……。………』
抵抗するよりも、最後の瞬間を寄り添うことにしたらしい二人。
やり辛えなぁこの状況。子供体型のビーストマン二人が泣きつく
中で、弱りきったライオンさんにトドメって。これをサクッとは
出来ないでしょ、サクッとはさあ。
「さ。おまえも最後まできっちりしなさい。それと、これは戦争
で戦い。相手の大将が生きている限り他のモノの戦意はゼロにな
らないわ」
「まあね。……はあ。分かった分かった」
「そう。それでいいの。情けなんて無意味」
「「!?」」
手にしたショートソードをライオンへと翳す。するとライオンに
スタックされていた毒が剣へと戻る。脅し目的が意図してないア
クションを引き起こす。
おおー成程、こう言う使い方もできると。ふむふむ。
「んじゃあ───」
「「ッ!」」
最期を見舞いと。“キュッ”と目を瞑るビーストマン。
「これで、これで目障りな獣もおわりね!やったやったー!」
喜ぶロリ様を尻目に。
「ヒール! ヒールヒールヒールヒールヒール!!!」
「「……え?ええッ!?」」
「ババババババババカぁあ!?おおおおおおままま、なにして
んのよッ!?」
怒涛のヒール連打。ま、応急措置レベル、スキルレベル最低値だ
けどね。だからこそ連打連打。
ヒールを連打するオレへと集まる視線。顔をライオンから正面へ
上げては。
「えぇ~? 何でオレがこのままトドメさすとか、皆思っちゃっ
てるの~?」
「「「!??」」」
『『『!??』』』
一同へ言ってやった。相棒は遠くで苦笑いをしている。へへ。
四獣、ビーストマン。その場に居合わせた大勢が、空色の青年を
驚きながら見詰める───
最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら
幸いです。




