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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第一章
5/65

第四話 食って飲んで騒いで燥いで。

 ───部屋の中には二人の男性キャラクター。




 部屋を出て行くタイミングを失い、更には醜態まで晒していた

 事実に。俺が複雑な心境のままに席へ着いて暫く。


「……。」


 隣に座る相棒は最初のやり取り以降何も言って来なかった。

 俺に気を使ってくれているのかなんなのか、兎に角何も言って来ない。

 酷く息苦しい状況だ。なんだよ、俺全然悪くないのになんだよこれ。

 誰だって一人の時はハイテンションで鼻歌を歌ったり、独り言を

 垂れ流したりしちゃうだろ? そしてそれらは決して誰にも

 見られちゃいけないんだよ。自分自身を含めてね。

 ……限界だ、ああもう限界だ。この何か気不味い状況に

 俺はもう耐えれない。精神的限界を感じ、俺が何かしらの

 行動を起こそうとした時だった。相棒が不器用な咳を吐き。


「あー……。んんっ、ごほん。

 なんだ、こうしてお前と居るのは久しぶり、だな。」

「そそ、そうねー。」


 いやいや『そうねー。』じゃないでしょ。何なら昨日も

 一緒に遊んだばかりじゃないか。何時もの俺達なら、

 この程度の沈黙はそれ程辛くはないはずだ。

 なのに相棒は、たまの休日に娘と話すお父さんよろしく。

 無理矢理話題を捻り出して来た。俺悪くない。俺悪くないのに。

 何で醜態晒した俺の方が申し訳無さを感じるんだよ! ……はぁ。

 これ以上相棒から『今日はいい天気ですね。』何て、初めての

 デートボーイばりの話題が出てくる前に何かしよう。

 そう思い、俺は適当な話題を相棒へ振る。


「そうだ。確か相棒は他の皆と一緒だったんだよな?

 なのに一人で先に来たのは何でなんだ?」


 話題を振られた相棒は思い悩むような仕草を止め。此方に向き直る。

 まさか本当に天気の話題とか考えてたんじゃないだろうな……。


「ああその事か。他の連中は狩りの戦利品を店で売ったりと。

 色々やる事があるから遅れてるんだ。俺は後からの参加だったから

 そんなモンも少なくてな。だから整理する物も無かったんで、

 俺だけ早く準備が終わったから、皆に一言断って先に行かせて貰ったんだ。」

「成る程ねー。……因みになに狩ってたの?」

「ふ。聞かれると思ってたよ。」


 そう言って相棒は少し笑い。狩っていたモンスターの話を語り始めた。

 俺は彼の話を聞きながら、ふと相棒の事を少し考える。

 トレンチコートに無精髭。草臥(くたび)れた身形に鋭い眼力の備わった瞳。

 見た目はダンディな伯父様キャラクター。それが相棒で、

 この世界(ゲーム)の相棒のPCだ。

 PCの名前は『ブルクハルト』と。また格好良い名前なんだなコレが。

 相棒との出会いは此処とは別のネットゲームで。以来気の合った俺達は

 一緒に遊び、笑い合う仲間に。

 思えばかなり長い付き合いに成るな。ネット上だけの付き合いとは言え、

 かれこれ七~八年位には成るのかな? ネット上の仲間としては間違いなく最長。

 相棒とは本当に馬が合い。数多のネットゲームやら何やらを渡り歩いては、

 一緒に楽しんで来たもんだ……。この世界へ移住したのも同時だったしなぁ。

 ほんと。頼れる相棒で楽しい仲間なんだよ。何て。

 俺は彼の話を聞きながら、頭の片隅ではそんな事を考えていた。


「───だからな、俺は二人から漏れた雑魚をひたすら撃ち抜くだけ。

 楽ではあったが……。少しだけ退屈だったよ。」

「そりゃあ相棒の好みはひりつく様な狩場。と言うか最早戦場と呼んだ方が

 似合いそうな場所だからなぁー。俺や彼奴等一般ピーポーが行く場所じゃ

 あ退屈に感じるだろうよ。」


 俺のプレイスタイルの好みは、ミスの許されないひりつく様な最新コンテンツ。

 ではなく、ワンランクダウンしてでも安定して狩れる場所だ。そしてたまーに。

 魑魅魍魎だったり、罵詈雑言が飛び交うかも知れない、混沌極めた野良。

 それを嗜む程度。だが俺の相棒は意識高い系プレイヤーではなく、本当に

 意識の高いプレイヤーなので。基本的にはガチと呼ばれる領域の住人───


「いいや。お前や彼奴等との狩りは、場所が何処だって退屈しないモンさ。」


 ───なんだけど。エンジョイやまったりさんフレンドとも一緒に遊べる

 プレイヤーでもある。

 まあフレンドのガチやエンジョイを気にする方が少ないか。

 皆互いのプレイスタイルに理解があるかどうか、そして一緒に楽しんで

 遊べるかどうか。それに尽きるよね。


「ただ今回退屈したのには他の理由があるんだよ。聞いたら驚くぞ、ルプス。」


 俺がぼんやりしていると。そう言っては不敵に笑い、

 気になる理由も話さずに黙る相棒。


「おいおい……。そんな、話の続きを聞いてくださいって

 丸出しの誘いに。この俺が乗る訳が是非教えてくだ───」


 定番のノリで話の続きを催促しようとした瞬間。

 俺達の部屋の出入り口が勢いよく開き。


「はっはっは! 拙者が一番乗りでござったなぁ!」


 厳つい甲冑男が部屋に一歩入り込み、胸を張っては快活な声で叫ぶ。

 背後には狐のような獣人と白いローブで顔を隠した女性。

 一歩前で胸を張る甲冑男。その影から獣人が心底迷惑そうな表情を

 浮かべながら。


「どう見ても先客が居るだろ。オマエの兜の穴にはゴミでも

 詰まってんの?」

「……某達の中で、と言う意味だ。」

「だとしてもやっぱりオマエは一番じゃないだろ。ルプスを

 除外してもブルクハルトが居んじゃんか。」

「ブルクハルト殿はー……。もうパーティーから抜けてるので

 ノーカンですな。」

「あっそ。」


 甲冑男の言葉に、突っ込む気も失せたらしい狐っ娘は。そう短く会話を

 打ち切り。甲冑男の脇を抜ける。狐っ娘が脇を通り抜けると、甲冑男が

 突然大きな溜息を吐き。


「分かりました分かりました。一番はリュゼ殿にお譲りしますよ。」

「はぁ?」

「拙者も大人ですから? リュゼ殿が難癖を付けてまで『一番が

 欲しい!』と望むと言うのであれば、お譲りしますとも。拙者大人だし。」


 甲冑男の言葉を聞いた狐っ娘が、最小限の動きで

 腰に挿された短剣へ手を掛け。


「───チッ」


 軽く顔を背けてはこれ以上無いほど見事な舌打ちを発した。

 そんな狐っ娘へ甲冑男が首を傾げ。


「如何しましたかな? 此処ではあらゆる戦闘行為は御法度でござるよ。

 忘れっぽいですなぁリュゼ殿は。はっはっは!」


 高らかに笑う甲冑男。その態度が狐っ娘の何かを切らせたらしく。


「───」

「ななな、なにをなさるかー!」


 小柄な体躯で素早く甲冑男に近付き。あっと言う間によじ登っては、

 肩車の様に男の頭に掴まり。細い口を兜の耳の辺りへ近付け。


「………。」

「のわー!? じゅじゅ呪詛! 呪詛をやめよ!

 あが、あがががががガガガガガガ!」


 兜に張り付く狐っ娘を引き剥がそうと、甲冑男が必死に藻掻(もが)く。

 しかし両足で首を締め、両手で頭にがっしりと捕まる狐っ娘は、

 易易とは剥がれそうにない。あの二人は一体何がしたいんだか……。

 そう思ったのは相棒も同じらしく、俺と相棒は呆れながら二人を見守る。

 すると、叫んでは暴れる甲冑男と必死にしがみ付く狐っ娘を無視し。


「二人とも元気ですね。」


 優しい声色で話す白いローブの女性が、俺の対面の席へ腰を落ち着け。

 彼女は顔を隠していたフードを後ろへと下ろし。フードの下から現れたのは

 綺麗に整った顔に、チラリと見える首元には白く透き通った肌。

 フードに隠れていた銀灰色の長い髪が、背を緩やかに流れ。

 彼女の一挙手一投足には気品すらも感じる。細部にまで漂う品。

 相変わらず徹底しているなぁ……。対面に座った女性は俺のフレンドの一人。

 今回のイベントでヒーラー役を務めた『レイナ』へ向け。


「アレが元気で済む話なのかどうかは置いておいて。

 まあ取り敢えず、よく来たね。レイナさん。」

「お待たせしました。本日はお招き

 ありがとうございます。ルプスさん。」


 彼女はそう言いながら瞳を閉じ、小さく礼をして魅せる。エルフ種独特の

 白い肌に、作り込まれたキャラメイク。更にはこの所作だ。

 仮想とは言え初心(うぶ)なネトゲ初心者は元より。狙いすぎと

 揶揄する中堅であろうと、誰もが思わず“ドキッ”としてしまう事だろう。

 しかし俺は長いネトゲ歴に加えロールを楽しめるハイプレイヤー。

 勿論誰よりも初心(うぶ)に“ドキッ”としました。流石は姫と歓心歓心。

 あ、そうだ。あの時のお礼を言って置かなきゃな。


「そうそう。昨日は足場をありがとう。

 いやーお陰で助かったよ。」

「ああ俺の方からも礼を言って置こう。

 昨日は助かった。」

「うふふ。お二人の役に立てて何よりです。」


 優しく笑うレイナ。ふむ、相棒も俺が知らぬ間に

 助けられていたらしい。まあヒーラーに助けられる

 事の無い状況の方が少ないってもんか。彼女はプレイスキルも高い方だし、

 ヒーラーとしてだけなら中堅の部類に入るからね。

 俺と相棒が彼女にお礼を言い終わると。彼女の隣上手側へ狐っ娘が座り。


「はーもう! アホの相手で疲れた!

 今回彼奴は呼ばなくても良かったんじゃない?」

「まあまあそう言わずにさ。最後アレだったけど道中は役に立ったし、

 イベントもクリア出来たんだ。だからね」


 話しながらも俺は空中にインターフェースを浮かべ、少し操作する。

 すると暫くして部屋の扉が開き。飲み物を持った給仕が入室。

 給仕は持って来た飲み物を長テーブルへ並べると、出入り口で

 一礼しては去って行く。俺は並べられた飲み物を三人に配りながら。


「此処のフルーツジューズでも飲んで、許してあげよう。な?」


 この酒場のフルーツジュースは狐っ娘が前に好きだと言っていた。

 その事を覚えていた俺は、それでご機嫌取りだ。

 と言っても、好きと言うのは味の事では無く見た目の話。

 どのVRMMOも、いや。仮想現実サービス全般に言える事だけど、

 現実との乖離や価値観低下を防ぐために。仮想現実内の飲食物には

 一定の規制が掛かっている事が殆どだ。

 端的に言えば仮想現実の飲食には味もクソも無い、のだが。

 この酒場はその規制が───少し甘い。運営の故意(不具合の放置)偶然(バグ)かはさて置き甘い。

 二重の意味でね。この酒場を俺が気に入っている理由の一つのだったりも

 するんだなーこれ。

 まあそれでも他よりはマシってレベルの話だけどね。しっかりと

 味がする訳じゃない。それでも此処を使う連中が多いのは、

 皆アンダーグラウンド的な物を楽しんでいるからだね。


「……ったく。甘いんだから。」


 俺のフォローを聞いて。片手で頬をつき、不貞腐れる獣人の少女。

 そう言いながらも視線は、眼の前に配られた飲み物をチラリチラリ。

 この、見た目だけなら愛らしい獣人種の名前は『リュゼ』

 金色の毛並みに長細い口を持つその見た目は、まさに狐を獣人にした

 様な凝ったキャラメイクだ。

 ま、此処に居る全員は勿論。これだけ綺麗な世界(ゲーム)

 キャラメイクに拘らない奴も少ない。

 うん。席に着いたのは、相棒にレイナにリュゼ。これで後は───


「ルプス殿は本当に器の大きな方よな。うむ。」


 何て事を言いながら甲冑の男『玉蜀黍(とうもろこし)』は。俺が部屋の隅に

 退けた椅子を長テーブルの端に持って来ては上座にし。


「では皆席に着いた事だし。僭越ながら我輩が乾杯の音頭を取りましょう。」

「本当に僭越だよオマエ。何一人其処に座ろうと───」

「乾杯ッ!!!」


 リュゼの言葉を遮るように叫ぶ玉蜀黍。


「「「かんぱーい!」」」

「ええ゛?! か、かんぱい!」


 構えばドツボと分かっている三人は、何も言わず音頭に合わせる。

 驚くリュゼも慌てて木製のコップを両手で持ち上げ、音頭を上げた。

 イベント後の祝賀会。始まり始まり───


 ───乾杯の暫く後。

 楽しむ四人とは違い、一人インターフェースを開き

 作業をしていた俺は、ふと気が付く。

 最初に皆で頼んだ分とは別に、追加で食べ物やら

 飲み物やら何やらと注文されたのか。

 大皿に盛られた沢山の鶏のから揚げに、ピラミッド積みされた骨付き肉。

 デカイスープ鍋と山盛りのサラダ等など。

 少し大きい長テーブルも大分賑やかな事に成っていた。

 いやいやいや賑やか過ぎるでしょこれ。字がブリな映画じゃないんだぞ。

 俺は作業の手を止め顔を上げ。


「ちょっと君達頼み過ぎじゃない? 此処が俺持ちだって分かってる?」

「知ってる。だから高い酒を頼んでは飲んでるんだ。」


 だろうな。相棒は食うより飲む派。そして飲む方が高えの知ってるのか?

 いや良いんだけどね、良いんだけどさ。もっと気遣った言い方しようよ。

 何時もの気遣いを何で此処で使ってくれないのさ。


「ふふ。ふふふ。」


 レイナは一度小さく笑っては小首を傾げ、目で上を見上げる様な

 仕草を見せては。今度は反対側に小首を傾げて優しく笑うばかり。

 おうおう困った時の仕草頼みか。もっと何か見繕ってくると思ったが、

 めっちゃ可愛いからこれもまた良し!


「何かこう言う時?所? だと。いっぱい頼みたく成るのよねー。」

「分かりますぞ。やはりパーティーですからな。

 テーブルが寂しいのは良くない。うむ。」

「ねー。」


 一番物を頼みまくったらしい二人。リュゼと玉蜀黍は

 あっけらかんとしながら話す。こう言う時だけ仲良くしやがって。


「はぁ。」

「これしきで溜息とは。とてもイベント後の酒場を貸し切った、

 豪胆なお方には見えませんな。実は某と同じく金子にお困りで?

 そうであれば困った時はお互い様。良い仕事(クエスト)を紹介しますぞ? 」

「ウソ。ルプルプ等々お金無くなっちゃたの?

 かわいそー。だからもっとたーのもっと。」


 溜息に反応した玉蜀黍に続き、楽しそうなリュゼ。

 俺はまず玉蜀黍に視線を向け。


「金に困ってるなら君がそのクエストを受けなさい。どうせまた

 報酬だけ見て受けた、ろくでも無いクエスト何だろ?

 PCからの高リスクな奴だったり、武器制限人数制限のマゾい奴だったり。

 知ってるんだぞ俺は。PCからのは自分一人でちゃんと断りなさい。」

「───」


 固まる甲冑男。兜の下では口をへの字に曲げてそうだ。

 まあ兜の下を見た事は無いんだけどね。次に狐っ娘へ視線を移し。


「何で金が無いって、可愛そうってなって。追加で頼もうとするんだよ。

 指で頬を突くどころか突き刺してどうすんだ。

 小悪魔系の試運転なんだろうが、ただの悪魔だぞそれ。」

「うぐ。その、悲しみを紛らわせるって言う裏の背景が……。」

「裏も何も見えなきゃ意味がないの。ただ、さり気なく愛称を

 混ぜたのはグッド。次からは相手を気遣う台詞も混ぜて、

 言った後に少し気不味げにして見せるんだ。

 それで相手に『俺を元気付ける為に、無理して恥ずかしい小悪魔を?』

 って感じさせろ。これでそこそこの奴は刺さるはずよ。」

「ナルホド。分かった。」


 言いながらリュゼはインターフェースを小さく開き。メモを取り始めた。

 と言うか、また実験台にされてアドバイスまでしてしまった。くそう。

 俺は苦笑いを浮かべる相棒とレイナの視線に耐えながら。


「後、金は問題じゃないからな。つか等々ってなんだよ……。

 仮想現実と言ってもね、俺は。食い残しが嫌なの。

 だから頼んだ物が余ったら責任持って食べてくれよ。

 それでも食えないなら金取るからな。」

「ご心配なく! 此処は仮想。幾らでも腹に収まりますぞ。

 はっはっはっは!」

「……。」


 等と玉蜀黍が上機嫌でのたまい、リュゼがそっと食い物の皿を

 押し退ける。勿論玉蜀黍の方へ。

 此処は仮想。だから食い物何かも幾らでも胃袋に収まる。

 何て事は無い。確かに仮想世界では大食いを装う事も出来るが、

 それも現実への乖離を防ぐために。化け物じみた食べ方は出来ない

 様に成っている。

 食べる量は個人個人の感覚を参照され、オーバー表現は

 此処までとキッチリ決っている。更に。

 この店の食べ物は他と違って規制が甘い。だから他所よりも早く

 満腹感が襲ってくる事を。此奴は毎回忘れるらしいなぁ。

 残したくないのは俺の勿体無い精神もそうだが、食べ残しは店と店のNPC達の

 好感度に大きく影響が出るのだ。無論上がったりなんかはしないぞ。

 ま、残したらその分金取って、寄付にでも回させてもらうけどね。


「因みに。誰が何を頼んでるかは把握してるから無駄だぞ。」

「! ちちち違うし。て言うか女性が何したとか覚えるの

 良くないし!」


 キョドるリュゼを無視して、俺は作業途中の

 インターフェースに視線を戻す。

 俺には皆が宴を楽しんでいる間にやる事があるのだ。

 それは、昨日のイベントでの取得品の整理。

 このゲームでは敵を倒した時に個人個人で手に入る物とは別に、

 パーティー全体で獲得出来るPTアイテムと言う物がある。

 これがレアだったりなんだりと。ゴミからレアまで実に

 ピンきりな物が手に入るのだが。コレがなぜかと言われれば、

 運営に依るパーティーを組ませるための工夫の一言に尽きる。

 これも設定で取得物をパーティー内ランダムに設定出来るが、

 今回は俺が一括で受け取り、活躍如何での分配方法を取っている。

 まあこれ、俺が身内パーティーを組む時の恒例行事だったりするんだよね。

 俺はインターフェースで作業しながら、テーブル上の食べ物を適当に摘む。

 現実でも仮想でも、こう言う事をしたく成るのは変わらないもんだ。

 そう思いながら摘まんだ物を口へ放り込む。


「ん? ……っ。これ美味いな。」


 インターフェースから視線を皿に移す。俺が摘まんだそれは、

 タレの掛かった肉団子のような物。ふーん?


「へぇ?」

「ほほう?」


 俺がそう言うと相棒と玉蜀黍が続く。相棒は一つ摘み、

 玉蜀黍は頭を上に向け。兜の口の部分を開いては流し込む。

 その様子にレイナと談笑していたリュゼが気が付き。


「あー!? それアタシが頼んだヤツ!」

「ご安心を。美味そうな見た目の割に中身は他と変わりませんぞ。」

「見た目を楽しんでるんだから味は良いんだよ!

 あーん酷いよ彼奴等!」


 机に突っ伏し泣くリュゼ。

 彼奴等って。俺と相棒もさり気なく含ませたな。

 罪の荷を分散させて後で回収って腹か?


「泣かないでください。今同じ物を頼みますから、ね?」

「レイナー。」


 泣きつくリュゼを柔らかく慰めるレイナ。

 仮想での飲み食いはそれっぽく振る舞う為の道具。味もしない

 ソレを美味いと言ったり一口欲してみたり。良くあるロールだ。

 だけど、今俺は普通に美味いと感じたんだけどなぁ。疲れてんのか?

 いやもしかして───


「それよりもルプス殿。報奨の方は如何かな?」

「あ、ああもう済んだよ。」

「おお!」

「待ってました!」


 玉蜀黍とリュゼが喜ぶ。他の二人もそれなりに楽しみな様子。

 何か考えてたけど後だな。さてと。


「まず今回一番活躍したヒト。つまりMVPはヒーラーのレイナさんね。

 かなりの強行軍だったけど安定した回復。それと足場や防護壁等。

 素晴らしいプレイだった。おめっとう!」

「まあ。」


 口に手を当てては上品に喜んで見せるレイナ。

 他の三人からは拍手が送られる。


「んで続いては各自の活躍ねー。

 最短ルートの割り出しから偵察。リュゼと

 相棒のお陰で無駄な戦闘を避けられたのは大きかった。

 二人共センキュー!」

「とーぜん───」


 言いながらテーブルを。と言うか椅子の上に立ち、

 テーブル上に乗り出すリュゼ。


「───だな。」


 そのリュゼを見て相棒も身を乗り出し、お互いにハイタッチ。

 いいねいいねー和気藹々(わきあいあい)な雰囲気。

 俺は身内でパーティー組んだ時は、こうして後で良い活躍を挙げ連ねる。

 それは各自のモチベの向上に繋がり、モチベはプレイスキルの練度向上を助け。

 そして回り回って俺の助けと成る訳だ。だから俺は誰であろうと、

 最低一つは必ず褒める。

 ふと。そんな俺へ視線が刺さる。


「……。」


 椅子にきっちりと座り、体は微動だにもせず。

 兜もただ前を向き、此方を見てない。なんだけど。

 その兜に隠された素顔は分からないのに、確実に彼は此方を見ている。

 此奴は今回最後の最後でとんでも無い大戦犯を犯した訳だけど……。

 まあそれが全てでは無いよね。


「道中の敵を引きつけ、素晴らしい耐久力を見せた玉蜀黍さん。

 貴方には素晴らしい盾役で賞を送ります。おめおめ。」

「いやぁ!其処まで褒めますまいな! 某てれるでござの候!」


 急にテンションぶち上げて来たなぁ此奴。その様子にリュゼが

 引きつった顔で玉蜀黍を見ている。やめなさい。せめて顔をもっと

 繕う努力を───ん? そのリュゼが、高笑いを始めた玉蜀黍から

 此方へ視線を移し。

『甘やかしていいの?』と言った具合にシークレットチャットの

 文字が、彼女の頭の上に浮かぶ。俺は数度頷き

『良いの良いの。』とチャットを返す。

 自分が駄目だと思ったプレイングは皆分かってる。てか普段プレイしてる

 殆どのプレイヤーは、みーんなその事の方を死ぬほど気にしてる。

 だから、良くなかった所は上げず。伸ばして欲しい、

 良い所を良いと上げるのだ。自分の為にね。


「んじゃ俺個人の褒め称える時間は終了。後はイベント中の

 各々の活躍と、イベントクリアに掛かった出費何かを鑑みて。

 拾ったドロップ品の内、価値のあるヤツは現物そのまま。価値の無い

 ヤツは店売りで換金。そんで現物と金を後日各々へ送りまーす。」

「「「「はーい。」」」」


 言いながら、作っていた配分表を保存し。インターフェースを閉じる。

 普通の野良パーティーなら全ての取得をランダム設定にするだけで、

 こんな面倒な事はしないでも済む。これは、俺が個人的に

 冒険後の締めとして楽しむ為の催し。

 勿論しっかりと活躍や出費を考えて報酬をより分けてる。それを皆は

 信頼してくれているから、こうして毎回配分を一任してくれている訳だ。

 まあこの配分方法も、俺が身内パーティーを組む度にやってる訳じゃあない。

 今回みたいな超大型イベントに参加した時ぐらいなんだよね。

 何時もは解散時に良いプレイングを褒める程度だ。


「(思えば、今回のイベントも中々大変な物だった。)」


 超大型イベントとして、十二の高難易度クエストが開放され。各々が

 欲しい物のある場所に挑むと言う形式だったのだけど。俺達はその全て。

 つまり十二クエスト全部をクリア、それを目指した。

 うーん。中々馬鹿な事に挑んだもんだ。まあ……。

 言い出したのは誰あろう俺なんだけどね。いっやーどうしても

 クエスト一覧をクリアマークで埋めたかったんだよなぁー!

 やー噂でチラッと一つだけ難易度が可笑しいとは聞いてたけど、まさか

 あんなにだったとはな。皆が欲しいモノを取ってから挑んで良かった。

 何処かで誰かが沼ってたら、挑戦すら危うかったけど。今回は

 運が味方してくれたな。

 お陰で皆もそれぞれ装備だったりスキルだったり、アビリティだったりと。

 お目当てが貰えたらしいし。イベントも完全勝利で終了だな。うん。

 俺は一度皆を見渡し、大きく息を吸い。


「よっし。それじゃあイベント!」

「「「「「おつかれさまー!」」」」」


 これでようやく俺達のイベントも終わったと言っても良いだろう。

 後に残るのは俺個人の問題。さて、此処をどう適当に切り上げるか。

 つかもう用事があるって抜けるか? 俺がそう考えていると。


「さあさあ作業も終わったのでしょう? 飲みましょう

 食いましょうルプス殿。」


 玉蜀黍が食い物と飲み物を抱えては、俺の側へと寄って来る。

 宴好きでムードメイカー。料理に味も素っ気もないこの場での

 玉蜀黍は、正直一緒に燥ぐなら最高の相手で間違いない。

 しかし、しかし今はなぁ。


「んーでも……。」


 遠慮しようとする俺にも構わず。


「まあまあ。拙者にも褒めさせてくだされ。

 いやー最後! 見事に大物を仕留めましたなぁ!

 “ズバッ”と一閃! 見事見事の見事に尽きますぞ。」

「でぃへ。本当ぅ? かっこ良かった俺? 俺かっこ良かった?」

「勿論! 格好良かったでございますぞ! よ、大将大英雄!」


 プレイングを褒められるのはめちゃんこに嬉しい。玉蜀黍の

 ヨイショに俺のテンションのギアがゆっくりと温まり始め。


「そー? そーーーおう!?

 いやいや。玉蜀黍さんも輝いてた! 輝いてたよ!

 ん!騎士の鏡!」

「どゅっふふ! マジにござるかマジにマジに!

 ささ、ルプス殿。勝利の美酒を注ぐで候!」

「マジマジー! おっと。なら玉蜀黍さんも玉蜀黍さんも。」


 互いが互いを褒めては飲み物を注ぎ合い。俺の温まった

 テンションのギアは回転数を順調に伸ばし続け。

 そうして。少しだけ付き合って抜ける積りが───


 ───玉蜀黍と肩を組み。高らかに笑い合う俺。

 二人で一頻り笑った所で。


「あ。もうそろそろ落ちなきゃ。」


 リュゼが呟く。それを聞いた俺は玉蜀黍と組む肩を解き。


「もうそんな時間かー。んじゃ宴もこの辺にしよっか。」

「「「はーい。」」」


 そう言うと皆が席を立ち。リュゼが一足先に別れの挨拶と共に

 部屋から消え。次にレイナがお礼と別れの挨拶と共に、

 ローブのフードを被っては消え。玉蜀黍が俺に向けて。


「いやー! 今日のルプス殿は良いテンションでしたな。」

「何か俺も、何時も以上にテンションが

 上がっちゃった気がするよ。」


 仕方ない。食って飲んで騒ぐ。仮想での真似事と言えど楽しい物は楽しい。

 それに何だか今日の宴は気分が良かった。だから余計に

 テンションも上がってしまったんだろうよ。玉蜀黍は俺と軽く話した後、

 別れの言葉を残して部屋を後に。やーほんと、楽しい時間と言うのは

 “あっ”と言う間だは。後に残されたのは相棒と俺。

 何やら考え事中の相棒に、俺は声を掛ける。


「相棒。二階フロアの貸し切りもそろそろ終わるから、

 此処も出ないとだぜ。」


 此処はゲームなので。大部屋に意味も無く居座っても

 何ら料金も発生しないが、完全な個室は居座ると料金が

 発生する仕組み。

 本来なら考え事中に話し掛けたりはしなけど、

 此処は俺持ちに設定されているからな。

 譲渡にせよ何にせよ声を掛けざるを得ない。


「ああすまない。」


 俺の声掛けに相棒はそう返事をしては席を立ち、

 出入り口に立つ俺の方へ。どうやら相棒も跳ばないらしい。

 俺達は二人揃って個室を出ては二階の広前へ。

 個室を出て少し歩いた頃だろうか。俺の背に相棒の声が掛かり。


「ルプス。」


 振り向けば当然相棒。


「ん?」


 相棒は暫く俺を見詰め後。


「ちょっとだけ話せないか?」

「今から? んーでもなぁ……。」


 俺は今度こそ運営に連絡をする積りだ。相棒には悪いが

 此処は断らせてもらおう。


「頼む。」


 渋る俺に相棒は、短くそう言う。相棒にしては

 珍しく引かない様子で、しかも“頼む”とまで言われた。

 相棒の頼むは余程の事だ。それを知っている俺は。


「わかったよ。でも少しだけな?

 て言っても───」


 言いながら辺りを見渡す。貸し切りも終わり、二階にはヒトが

 チラリホラリと見えている。そんな中で立ち話もあれなので。


「俺の部屋で良いか?」

「構わない。そっちの方が都合も良い。」

「?」


 なんだ、内緒の話って事か? 俺はそう思いながら。




 相棒と一緒に自分の部屋へと移動する事に───

最後までお読みいただきありがとうございます。

この物語を少しでも楽しんでいただけたのであれば、幸いです。

お読みいただいた貴方様に。心からの感謝とお礼を此処に。

誠にありがとうございました。

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