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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第四章
47/65

第四十話 乾き

 ───空色の青年と渋い男性キャラの二人が、不思議な髪色の少

 女から衝撃の事実を伝えられた後。現在場所は少女の寝室から客

 の居ない酒場一階へと移されていた。

 木造作りを意識してデザインされた店内の様子は、中世を舞台に

 したアニメ、ゲーム、映画等に良く出てくる酒場の、正にそれだ

 ろう。

 四人がけ程度の丸テーブルが点在し、店内中央左右端には何事か

 の受付カウンター。中央から正面奥には主要と思しき受付と、カ

 ウンター左右には二階へと繋がる階段。

 しかし階段には現在“スタッフオンリー”のデジタル表記が入口

 に浮かび、立ち入りを制限されている事が分かる。

 そんな一階酒場では、置かれていたテーブルやイスが片付けら

 れ。空いたスペースへ従業員らしき女性キャラクター達が一同に

 集められて居る様子。

 彼女たちが見据える先は正面カウンター前に立つ、あの空色の青

 年。彼の隣には不思議な髪色の少女の姿も。

 彼らの背後、カウンター向こうには腕を組み壁に背を預けるトレ

 ンチコートの男性キャラ、そしてウェイトレスが控えて居る様

 子。

 二人は集められた従業員同様前の二人へ視線を送る。




 ロリ神様の『資金マイナスになっちゃった』発言の後。

 俺は深く悩み、今後の立ち回りを考え。この酒場の従業員全員を

 一階へと集めるように強く、強ーくロリっ子へ頼み、いや命令し

 たと言った方が近い。ロリ神様は渋ったり嫌がるも、頼みは押し

 通させてもらった。握り拳と相棒のライフルをチラつかせてね。

 なので。現在俺が見据える先にはこの酒場で働くウェイトレスさ

 んに、普段はバックヤードで何事かして居たであろうお姉さん達

 が“ズラッ”と勢揃い中。

 従業員さんの事をよくロリ神様は『乙女たち』と呼んでいたのだ

 けど、意味が分かった。まさかこの酒場で働く従業員の百パーセ

 ントが女性で、しかもみーんなキャラメイクがお姉さんお姉さん

 してるとは。流石の俺も思わなかったよね。うん。

 客な俺にバックヤード事情までは分からないので、当然男性キャ

 ラも居るんだろう、とか思っていたのだけど! そんな事全然無

 かった。此処は天国かよ。


「(……一度死んでるから、ある意味そうかも?)」


 並んだ姿は花も恥じらう絶景───……とは言い切れないんだ

 な。


「「「……」」」

「(だって見事にお姉さん達ってば無表情。接客業務外だとこ

 んなものなのかー?)」


 人外だから無感情。って訳じゃあ無いと思うんだけどね。襲撃時

 とか普通に怒ったり戦ったりしてたし。オンとオフがあるとか、

 何だコイツ?って思われてたり? んー……おっと。今はこのま

 まぼーっとしてる場合じゃない。


「んん。えーっと皆さん始めましての方は初めまして。俺の事は多

 分、もう、知ってますー……よね?」


 協力者である俺の事は前回の襲撃事件で走り待っていた事もあ

 り、またリストゥルンさんが話していたらしいとの事なので、多

 分存在は認知されているはず。……どう言う風にかは知らないけ

 どね。


「まあ知って無い人が居ても自己紹介はまたの機会って事で。

 なぜなら今、俺何かの自己紹介よりも重大で、深刻な問題がある

 からです」


 本当は初見なお姉さん達に自己紹介してちょっとお喋り何かも楽

 しみたい欲求があるんだけど、今はマジでそんな事言ってる場合

 じゃないのだ。


「実はですね、この酒場は現在経営の危機。オブラートを突き破っ

 てぶっちゃけますと皆のロリ───」

「……」


 隣のロリ神様から鋭い視線が俺に突き刺さる。はいはい。


「───じゃない。ニルスさまの館? 的なこの拠点、それが無く

 なっちゃうかもって問題でーす」

「「「!」」」


 発言を受けちょっとだけお姉さん達が驚いている。

 あーやっぱ同じ陣営と言えど一般従業員的扱いなのか、お姉さん

 達は知らない感じなんだ。この事実。

 俺は“チラリ”と隣、陣営責任者兼酒場の代表、自称乙女たちの

 主とか言うロリ神様へ視線を向けると。


「……」


 完全に萎縮し目まで泳いじゃってる始末。

 何かこう、先生に呼ばれ、隣りに立たされた哀れな注目生徒みが

 あるな、コイツ。ま、悪いのはロリ神様で間違いないし、折角な

 のでもう少し萎縮させてやろう。

 俺は瞬きの間程度の時間で思考を巡らせ、ずらした視線をもう一

 度前へ戻す。


「と言うのも常々利益と出費が全く釣り合ってない状況でして。

 しかも最低限確保しなきゃ行けない更新の蓄えも~“何故か”消

 失。してしまったんすよねぇ~」

「!?」


 ロリ神様は視線を此方と従業員さんの間で忙しなく動かして居

 た。はは、焦ってる焦ってる!

 自尊心の高さは間違いなく神様クラスなだけに、部下への体面が

 気になっちゃう感じだ、これ。


「いやもうハッキリ言います。蓄え無いど頃かちょっとマイナスへ

 と転じちゃってます。何ーで出費がこんなにもかさみ、資金がゼ

 ロからマイナスへ動いたのかは───」

「!!?」


 お?おお? ロリ神様が寝間着、いや品を加味すればネグリジェ

 って言うべきだろう。まあそんな見た目装備の裾を両手で握りし

 め、ちっさい身体を強張らせちゃってるよ。あー流石にこれは…

 …おもろッ!

 表現力の高いゲームだと見た目に遠慮して責められないヤツも五

 万と居るんだろうけど、俺はガンガン攻めれるな。

 ……つってもまあ? 相手中身のあるヤツだし、お灸はこん位に

 してやりますかね。


「───実は重要じゃなかったりします。今は、ね」

「………」


 隣。身体の強張りから開放され、安堵ダダ漏れフェイスのロリ神

 様の姿が視界端に映る。本当は出費は重要な事だし、何よりマイ

 ナスに成った事に関してはロリ神様に全責任がある。

 先程事情を聞けば、事は少し前。他陣営からの襲撃事件後。

 ロリ神様に無理矢理にも近い形で協力関係を結ばれた話し合いの

 場で、この酒場の経営状況の最悪さ、ほぼ俺からの支援頼りで経

 営していたらしい惨状を聞かされドン引きし“おいおい”と詰め

 寄れば、その場でのロリ神様には何か考えがあったらしく『うる

 さい! おまえは此方が連絡するまで待ってればいいの!』と放

 置を食らった、その後の期間で金を溶かしてしまったらしい。

 俺が放置された間資金に困ったロリ神様が何をしたかと言うと…

 …。何処でやり方を知ったのか、俺が金策で行った一般トレード

 市場での、素材の先読み買い占めだった。

 自分で考えついた方法なのか聞きたかったけど、大事なのはその

 先読み買いでの初期投資に、残りの全財産を全てツッコんで、更

 に儲けを出そうと後払い契約で素材を爆買した事。……結果はと

 言えば、狙っていた物が謎の競争相手に取られ、確保していた素

 材への需要も無くなり、慌てて資金の回収に動いて市場で抱えた

 素材を捌こうとして───見事回収できなかった、と。

 慣れない金策、博打にも近いそれで極まった失態を演じたロリ神

 様。

 そんな話を聞かされた俺と相棒は絶句、側に居たリストゥルンさ

 んの愛想笑いも乾いたモノよ。……んまッ。


「(謎の競争相手ってば───俺だったんだけどねッ!)」


 一般公開のトレード市場での買い占め、先読みは現実の投資程難

 しくは無い。とは言えやろうとすればゲーム内アイテムの知識は

 いるし資金もまあまあ必要だ。しかし何よりも、市場は自分だけ

 が見てる訳じゃない。常に利益を狙う誰か、或いはゲーム特有の

 利益度外視の横槍が入って損をする危険性がある。って事を理解

 してるかが大事なのよね。面白半分で市場荒らすヤツ居るし。

 安く買いたいプレイヤーに高く売りたいプレイヤー、トレード市

 場での販売競争は遥か昔からあるオンゲの醍醐味の一つ。


「(だから狙いを明らかにしてるガードの甘い買いを見つけたら、

 当然襲いたくなるよねって話し)」


 因みに競争相手は買いの履歴とか見れば特定できるのだけど、ロ

 リ神様にはそこまでの知識が無いらしく俺と気が付かれてない模

 様。んまあー今回に関しても俺は全然悪くないけどね、全然。

 だってロリ神様が資金を増やそうとした手段ってかなりの博打だ

 ったし、もうギャンブルで懐を増やそうとしたヤツの思考だった

 もん。おまけにロリ神様はさっき『それで、ね。また支援してく

 れる?』とか俺にほざいて来たもの。俺は勿論『ざけんなブチ転

 がすぞ』と丁寧にお断りした次第。

 まあ俺の懐も一時的発作でだいぶ寒くなっちゃったしね。だから

 この館の維持費を余裕で投げれる程は、懐はまだまだ潤ってない

 のだ。……お気に入りのお店に投げたばっかだし。

 勿論潤ってても出さんけどね。出したらロリっ子に一生タカられ

 そうだし、まずもって根本的問題解決にもならないだろうし。

 とは言え競争相手が俺で、底値で売り払ったロリ神様の素材も全

 買いして、今もちまちま市場に出しては二度目の美味しい思いを

 してる事。……それがバレたら面倒ど所の騒ぎじゃない。

 なので二重の事実を隠し、とち狂って競争相手探しなど微塵も考

 えないように、ロリ神様の失態は“この場では”秘密とした訳

 だ。

 それにこの陣営で内部分裂や抗争を引き起こしたいわけじゃない

 からね。言葉選びとその行き先には気をつけんと。特に“言えな

 い”って事に気が付かれないようにさ。

 俺は考えを頭で巡らせ、口にする言葉を慎重に選び。大事な所を

 隠すように、見えないようにして。


「何故重要じゃないかと言えばそれは経営戦略、運営方針、現場環

 境等など。問題が多岐に渡るものだと思われるからっす!

 そして。足元が疎かでは敵に勝つ事だって難しく、帰る家無くし

 て生活は成り立ちませんよね?」

「「「……」」」

「ですので───」


 お姉さん達は一回驚いただけで、後は無表情。話の流れに疑問を

 持っている様子は無いので、オッケーだろう。無表情過ぎてちょ

 っと怖いけど、これならまあいい感じ、かな?


「(にしても、あーあ。何で今俺はこんな事になってんだっけ

 か?)」


 事の発端はついさっき。酒場の、いや此処は館って呼んで欲しい

 んだったけ? まあその苦情主で此処のオーナーでもあるロリ神

 様の部屋で、何か相棒が自ら面倒事に巻き込まれに来やがって、

 俺の気苦労も知らねーで何だかんだと実力を示して無理やり協力

 者に成っちまった。

 そんな訳で相棒ともまた秘密を共有してしまいまして、秘密の説

 明中にロリっ子が前回の襲撃で勝てる勝負を落としたからか、そ

 れとも予想外な戦力を確認したからか分かんねーけど。兎に角、

 獣と呼ばれる陣営連中が大人しいのだとか聞かされちゃったの

 ね。ああそれは様子見でも付け入るでも絶好なチャンスじゃん!

 ロリっ子が俺を呼んだ理由はきっとこれだ! そう思った。


「(んだけどねー)」


 このロリっ子はあの始末でこの始末よ。

 ロリ神様が言うには、ってか合間合間で補足してくれたのはリス

 トゥルンさんだけどね。そもそも酒場としての経営が上手く行っ

 てなくて、次回の拠点維持費が収められないばかりか借金まであ

 る事を申告されちゃう。まあそれは前別れ際に聞かされてたけど

 ね、借金を以外の事情はさ。

 全く、俺との話し合いから間が空いていた時に何をしてたかと言

 えば、何とかしようとして大惨事を引き起こしてました、なんて

 ねぇ。隣のロリを“チラリ”と見れば、自分の事を話されないと

 分かったからか、先程までと違いえらく余裕そうな表情。安堵丸

 出しである。

 そもそも拠点状況とかを俺に言わんでも良かった気がする。態々

 弱点を部外者寄りな俺に話すとか、もし俺がその情報を持って他

 陣営にでも行ったらどうするとか。んな事も考えなかったのか

 な?

 俺だったら部外者に話す位なら、秘密にして獣陣営なりなんなり

 に特攻させてたよ。事態好転に成るかは別として、異分子っぽい

 ヤツは他所になすりつけるが一番。……うーんもしかして俺って

 酷いヤツなのか?


「……(にこにこ笑顔の幼女)」

「(コイツってバカだけど素直で純粋なのかも)」


 まあ素直って言うよりは素直にならざる得なかったって感じだっ

 たのかな? 拠点関係を他陣営には勿論頼れないだろうし、現実

 での協力者ってのも便利とは違うらしいし。

 此処は現実と違ってゲームの世界。金を得る方法何てのはもうた

 っくさんあるんだけど、プレイヤーが所有する建物の維持費って

 のは安くない。建物所有はかなり敷居の高いコンテンツの一つ

 だ。クソ過疎エリアの最端ですら値段はそこそこしちゃう位に

 ね。

 これはプレイヤーが建物を所有する事、その物への敷居を落とさ

 ない為の措置で、建てたからにはポコポコ倒れて欲しくも、また

 乱立して欲しくも無いって言う運営の方針。

 なので初心者は当然として中堅どころに身を置くプレイヤーだっ

 て建物所有の資金を集めるのは結構大変。それが商売オプション

 のあるショップタイプとなれば、更に難度は跳ね上がる。

 ゲーム内市場のバランスへ影響を与えかねないコンテンツなの

 で、ショップタイプ保有には許可の見極めにゲーム内通貨価値担

 当運営よる適正審査がある程だ。ま、審査って言っても目的はゲ

 ーム内市場へ悪意をもって参入する気かどうか、それだけの審査

 何だけどね。そして審査終了と共に、希望先市場でのローカルル

 ール、商人系プレイヤーの特色や傾向等の情報が希望者へ提供さ

 れ、新参と古参との軋轢や衝突を防ぐのが、審査担当の第二の目

 的だ。

 審査を通過しても初期費用、土地の確保等など……。多くの課題

 を突破して初めて、ショップタイプの建物は建設、保有が認めら

 れるってわけよ。


「(そっから利益の出るお店を目指すってのもまた結構大変だけど

 ね)」


 ゲーム仕様に寄った経済、娯楽目的の経済行為にシビアってのは

 薄い。かと言って努力を怠った店には当然の結果が待っているの

 は、現実も此処も変わらない。つまり破産、倒産、閉店って結末

 ね。

 なんで。話を聞いた時に、俺は『悲しいけど利益出せねーなら仕

 方がないんじゃね?』とロリ神様に言ってみたりしたら。

『そうは行かないの!』

 と返された。所詮ただの酒場じゃんと思ったが、そうでないらし

 いのよね。

 涙目なロリ神様曰く。自分の陣地に居る流れの多くはNPCと言う

 存在を器へ変換し、また乙女も新規で器その物を作ったり(キャラメイク)

 そうしてNPCとしてエリュシオンに紛れて居る、いや“生活をして

 いる”。だからこそ困ると。

 端的に言うと此処で暮らす流れ達は個々人の生活があり、此処で

 暮らしているので他所へは行けない、行かせるほど他所の陣営も

 優しくないって話し。それに加えロリ神様自身も館に力を置いて

 いるので、館が無くなるのは力の消失に繋がるのだとか。一番大

 事な所って力の部分だよね。そう尋ねた時に。

『それもそうだけど。此処には同郷、信奉者である流れ達が居る

 の。彼らは戦えなくとも、わたしはわたしの支配エリアに暮らす

 彼らを、崇め奉られる存在として、エリアの支配者として庇護す

 る義務があるの。だから館はなくちゃダメなの』だってさ。……

 存在で庇護してるヤツのセリフとは思えないよねー。

 まー此処ってばただのゲームの中だけど、思えばロリ神様達や俺

 にとっては大事な現実の一つ。お家や故郷って大事だよね。

 後。魂とか心を持つ彼女の様な存在は、持ったソレを満たす必要

 があるらしい、何て新情報まで聞けた。

 具体的に言うと睡眠だとか食事なんかで、必要欲求は宿った魂と

 心の種類、性質で違いがあるんだってさ。

『何事の全てが満たされる世界から、自ら満たさねば成らない世界

 へ来た変化は等しく。そして今こそが正しいあり方。なの』

 だとか何かロリ神様は言ってたっけ。イヒミでムズい話しよな。

 要は魂や心が欲するモノを与えないと不調を来すって事らしい。

 それを聞いてふと俺は思ったね。


「(だーから俺ってば調子が悪くなったのかも!)」


 ロリ神様にその辺聞いてみると多分そうらしい。此処では飯も睡

 眠も肉体的には必要なくとも、それまで満たされてきた欲求、本

 能が必要として満たし続けていたモノは、希薄になった後も最低

 限継続しないと何らかの不調が出てくるんだってさ。

 こんな俺でも飯、睡眠、運動って奴が必要なのだろう。ってね。


「(うーん夢の無睡眠ゲームは諦めよう。っと、考えが寄り道し

 すぎだな)」


 兎に角。現状この館を失う事は自衛手段を失い、防衛の要が無く

 なってしまう事に繋がり、引いては生活の場を失いお姉さん達と

 この町に紛れる流れ達が路頭に迷い、陣営自体が瓦解しちゃう。

 認めたくないけど、事実としてこのロリ神様陣営が盤上から離れ

 ると、パワーバランスが一気に崩れちゃって獣陣営やその他の陣

 営が好き勝手の始まり。

 んな事に成れば当然俺の悠々自適なゲーム内第二の人生台無しっ

 て結末も待ってる。そんなバッドエンドは避けたい。

 ……まあそれに。


「此処ってばイツメン達とよく使った、俺にとっても大事な思い出

 の場所でもあるんだよなぁ。はぁ」

「でしょ? でしょでしょ? 此処は良いお店よね?」

「「「……」」」


 やっべ口に出たちゃったか。考え事は長引かせるもんじゃない

 な、思考が物思いに引っ張られちゃう。

 あー今の発言でロリ神様は此方を見詰めるし、ロリっ子に釣られ

 た形でお姉さん達もこっち見てるし。……店自体を褒めた訳じゃ

 無いけど、此処はあえてそう受け取らせようかねぇ~。

 俺は咳払いを一つしてから。


「んん。勿論良いお店っすね。でもそれだけじゃあダメなんすよ。

 なんで。このお店を良いなと思う俺が、今日からこの店の立て直

 しを手伝わせてもらう事になりました。ま、アドバイザーみたい

 なもんすね。んなので、色々説明したんすけど、皆さんには本位

 不本意を超えて協力してもらえれば嬉しいなーって話しっすね」


 角無いようにってもこんなもんだろ。話も頃合いだと思い、俺は

 隙きの無い一押しを隣へ頼む。


「! あ、ああはい。そんな訳だから、わたしの館の経営をこの下

 っ端下僕───」


 おっと。


「着服横領、私利私欲ギャンブル、信頼喪失。吊し上げ、権威失落

 強制退去……」

「───じゃなくて。あどばいざー? を協力者にお願いする事に

 したから!」


 聞き捨てられない事を言ったので、乗ったイス(調子)を蹴飛ばして

 やる。……また直ぐに上りそうだけどね。


「良いわね?皆協力する事。分かった?」

「「「はいニルス様!」」」


 おー壮観。何故か心底分からないんだけど、お姉さん達はこのロ

 リ神様に服従と言うか、上下関係の上位にロリっ子を置いている

 らしいのだ。その辺りは信者を持つ神っぽいのかも。

 そしてこれの面白い所は、実は俺もお姉さん達から若干好意的に

 見られているらしいって事。自惚れじゃないぜ?

 まあ俺ってばこの店の常連だし? NPCだと思って好感度上げに

 尽力してた訳だし? 少ーなからずお姉さん達から好意的に見ら

 れるのも納得できる! と思ったけど。リストゥルンさん曰く好

 意的なのは俺がロリ神様の試練を突破した者だから、だそうな。

 そりゃそうだよね。彼女たちって中身あるんだもん。んじゃあー

 好感度システムってのは何の意味も無いのよねー……残念。

 何にせよ。初期好感度がマイナスじゃない事を喜ぼう、うん。

 ロリの一押しとそれのお陰か、アドバイザーとか怪しさマックス

 な俺も難なく受け入れたらしいからね。


「あのー」


 と。従業員なお姉さん達の中から一人が前に出て来る。常連な俺

 には勿論彼女に見覚えがある。何時も元気いっぱいなウェイトレ

 スさんだ。


「それで、えーっと協力者、様?は。此処が無くならないように頑

 張ってくれるん、だよね?」

「そっすね」

「ホント?ヤッター!」


 何て言いながら両腕を頭の後ろで組み。


「ならさーアタシ達って何すればいいの? いっぱいいっぱい協力

 するよ!」


 うわぁ良かったぁー……。『お前を受け入れない』とかじゃなく

 て、マジ。俺はいきなりの敵対宣言かと焦った心に冷水ぶっかけ

 まくり。


「取り敢えずはまあ、暫くは普段通りに働いて見てくださいっす」

「……え? そんだけ?」

「うっす。今の所それでお願いしまっす」

「んー……分かった、りょーかい!」


 元気が売りっぽいそのNPC……いやアレも魂が入ってるんだろう

 なぁ。そのお姉さんは列へ戻り、同時に従業員さん達がそれぞれ

 の持ち場へと動いて行く。

 今回の集まりにバイトPCは居ない。と言うか、彼らに支払う給料

 が捻出出来ないし。そもそもPC勢のバイトは雇わない方針だった

 からなそうな。


「はーってか、マジで全従業員が女性キャラだとは思わなかった

 わ。表に多いなとは思ってたけど、裏方にも居ないとは」

「当然よ。此処はわたしの館、なら当然乙女達しか居ないの」

「何が当然かは常識良識の壁にぶち当たって俺には届かなかったけ

 ど、マジで俺に任せる気かよ?」


 俺はクエスト、宿泊の手続きをするカウンターに寄り掛かりなが

 ら隣のロリ神様に疑問を飛ばす。話し終わった事でカウンター奥

 目に居た、相棒とリストゥルンさんたちも此方へ近付く中。

 二人が此方に付く前にロリ神様が“ぼそっ”と。


「だって……。わたしじゃ……上手く……できなかったし……」

「へぇー……急に自信を無くすじゃん。神様なのに」

「実際に失敗したのはわたしなんだから、自信だってなくすわよ。

 それにわたしはココロある神だからね。人が持つソレと形は違え

 ど、似通ったモノは持ってるのよ?」


 所々人外な空気出してくるなぁ。まあ泣いたりしないのは見た目

 と中身が違うから───あ? てか中身って何歳なんだ? かなり

 の疑問を胸に思いつつ、俺は足元のロリ神様をカウンター上に座

 らせてやって。


「ま。此処が無くなって惜しいってのは俺の本心だから、やれる事

 は精一杯やってやるよ、ロリ神様」

「あ、あ、ありがとう。……下僕」


 それで礼を言ってるつもりかよ、とは言わない。此方にも此方の

 思惑あっての事だしねー。

 っと、それを見たリストゥルンさんと相棒が。


「うふふ」

「ふ」


 何て穏やかに笑ちゃってくれる。なんだよ。

 何が可笑しくて笑ったのか分からない相棒が言う。


「だが請け負っても大丈夫なのか? お前店の経営経験なんて無

 いだろ?」

「うん。無いねー」

「「え!?」」


 照れたロリっ子から照れが消し飛び、序にリストゥルンさんから

 も穏やかな笑みがぶっ飛ぶ。


「おまえはこの世界に詳しいし長いって!」

「詳しい事と長い事は確かだよ。でもお店の経営とか、そんな面倒

 な事するわけな無いじゃん。俺は気ままなゲームプレイで楽しん

 でたんだから。手を出さないコンテンツだってあるよん」

「ハァ!? ック、わたしのお礼を返しなさいよ!このッ!」


 カウンター上で此方に殴りかかってくるロリ神様。長年の戦闘経

 験で分かるけど、これは避けるまでもねーわな。


「はーマジ、部屋の外だとホンっと無力な!」

「ッ!?!?」

「ニ、ニルスさま、そんなに暴れたら、ああ落ち着いてください、

 お、落っこちちゃいます!」


 カウンター上で膝立ちに成るロリっ子が俺を殴るが、全くのノー

 ダメージ。PVPエリア外らしいし、ホールは。

 リストゥルンさんが慌てて暴れるロリ神様の体を支え。俺は勿論

 支えたり何かしない。落ちても知らん知らん。


「何で!それで!名乗り出たのよ!」

「んーそれはな、此処がなくなったら困るってのは勿論なんだけ

 ど。何よりも───」

「何よりも?」

「ロリ神様に任せるよりはマシだと思ったから、さ!」

「!????????????」

「ニ、ニルス様!」


 あーあ。また一層暴れてらあ。


「はは。言うなルプス。だがこんな面倒事、店の再建だなんて事

 にお前が手を貸す事になるとはな。経営系は避けてきたコンテン

 ツだろ?」

「いやそりゃ、やらねーとエリュシオンが終わっちゃうかも知れな

 いんだからさ、そうなったら俺もやるでしょうよ」

「何時もと違い、お優しい事だ」

「あ? 俺は何時だって優しいよ」

「ふ。ああ確かに」


 鼻で笑うな鼻で。ったく……まあ俺がこの面倒事をやろうと思っ

 た事には、個人的な目的もあるんだけどね。それはわざわざ言わ

 んでもいいよな? 協力関係たって、全てを話す必要なんて無い

 んだからさ。お互いに、さ。


「しかしゲーム内と言っても店を繁盛させるのは大変だろう。

 自分に出来る事があるなら喜んでお前の力になるぞ?」

「あ、マジ? それはありがてぇー。実はストーカー気質な相棒

 と、リストゥルンさんにも頼みたい事が早速あったのよ」

「ストーカー気質?」

「だからルプスあれは、その……なんだ」


 相棒は仏頂面で、ロリ神様を支えるリストゥルンさんは小首を傾

 げている。んふ、相棒をこのネタでイジるのはもうやめて置こう

 かな。……暫くはね。


「まあそれは良いとして。二人にお願いしたい事がありまーす」

「なんだ?」

「なんでしょう?」

「そいわねー……」


 俺は店の様子を眺めつつ。一人、頭の中でこのエリュシオン内で

 の人気店をリストアップさせた───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───俺が、俺に現状唯一友好的な陣営の、その基盤。生活拠点

 が借金店と言う最悪な状況で、仕方無しに店の経営改善に取り組

 みだして一週間ほどだろうか。

 あれからずっと店内の一席にて、店の様子を見詰める日々を過ご

 していた。そんな俺の所へ今日は珍しくロリ神様が近寄って来て

 は───


「『精一杯やるよ』とか言ったのに何よソレ!」


 いきなり怒鳴られた。俺はそっとプライベートモードを席の周り

 へ展開。……お客さんほっとんど居ないけどね!


「……ひょっとしてだけど、今のって俺の真似? えぇー……ちょ

 っと似てんじゃん! 特徴捉えるの上手ーい!」

「あ、ホント? えへへ……」


 中々ポイントを抑えたモノマネだったからちょっとテンションが

 上がっちゃう。いやこう言うVRゲー内だからこそ、モノマネっ

 てのが楽しくできちゃう。羞恥心は薄れるし、基本音声自体が現

 実とは違うしね。


「───じゃないわよバカッ!」

「おお素直な罵倒。……ナルホドね」


 この体躯、この態度。ナルホドナルホド。お姉さんたちの有効な

 魅せ方は思いついたが……ほむむむ……。


「ちゃんと聞いてるの? ほら、見てよ!」

「聞いてる聞いてる(マスコット、魅力、一つの売り)」


 言いながらロリ神様が天井を指差す。天井には明かりの消えた証

 明がちらほら。はー……もうお店のエネルギー節約して何日にな

 るかね。

 プレイヤーが所有する建物には維持費と言うのが必要になのだけ

 ど、これの算出方法が土地代とか建物のグレードとか色々な物で

 決まり、内部照明とか部屋数、外部看板とか。色々な小物で変動

 する。普段はシビアにならなくてもいい値なのだけど、盛り返せ

 るかどうかも妖しい今、節約するに越した事はないのだ。


「とうとう消えちゃったじゃない!」

「消したんだけどね、俺が。つか俺が呼ばれて来た時既に薄暗い

 と思ったけど、そもそも建物のエネルギー消費を抑える対策だっ

 たからね~」


 節約を指示たのはロリ神様───では無かった。俺がロリに管理

 者権限使って見せてもらった店のバロメータでは、既に節約モー

 ドだったのだ。はて、誰が手を回してくれたのだろう?


「だから! なんで! よ! この世界に詳しい協力者のお前に任

 せたらどうにかなると思ってたのにッ。これじゃ拠点を失っちゃ

 うじゃないのー!客も居ないし! あああぁーーーー!」


 頭を抱え叫ぶロリ神様。仕草の矯正は……いやこれはこれで…

 …。ふむ、ふむふむふむ。


「……おまえ、ちゃんと聞いてるの?」


 観察対象から冷たい、マジな眼力が俺を射抜く。やっべ!


「聞いてるよ勿論。……っつっても今は“待ち”の段階なんだよ

 ねぇ」

「待ちって……ここでずーーーーっと乙女たちを見てただけじゃ

 ない。なに?やっぱり乙女欲しくなったの? でもダメよ。武勲

 も武功も無いおまえにその資格はないわよ。わたしの乙女を抱き

 たいなら活躍しなさい。そうしたら一人ぐらい抱かせてあげる」

「そのキャラメイクで普ッ通ーにゲスな事言うんよね。

 ちげーからな? 俺が見てたのはこれが“最初”だからだよ」

「最初?」

「そだよ。それにな、此処で店内見ながら、俺はこうやってさ」


 仮想コンソールを操作してゲーム内情報……では無く。普通にブ

 ラウザを開いて現実世界のネットへアクセスして見せる。


「エリュシオンだけの話しじゃねーんだけど、今のVRゲーの殆

 どはこうやって中でネットを漁れるのがデフォなのよ。ってもネ

 ットが何か分かんない感じだよね」

「ねっと……はなんとなく分かる。人間が作り出した情報共有の叡

 智でしょ。すごいわよね」

「え?マジ? なんで?」


 ロリ神様が俺の席の隣へ座───り辛い様子なので、引っ張って

 座らせてやる。


「ありがと。んん、わたし達は現実の協力者から最低限の知識情報

 だけは共有してるのよ。此処と現実とでは力の影響と言う点では

 大きな隔たりがあるけど、会話や接すると言う点では薄い膜で隣

 り合うような距離感だもの。だから備えるため、守る為にも知識

 を得る努力はしてるの」

「へぇー……」

「……使い方は知らないけど」

「ダメじゃん」


 ボロがでねーためにって所かな? 一体何処まで俺の知ってる常

 識を持ってるのか。ちょっと知りたいなと思いながら。


「んで、このネットで適当に見つつ店内の様子も見てたのよ。

 ね? 何もして無くないでしょ?」

「……やっぱおまえ遊んでただけじゃないの? あぁやっぱりこん

 なのに頼むんじゃぁぁ……」

「こんなの言うな、こんなの」


 錯乱した様子で机に突っ伏すロリ神様。ほう、このリアクション

 性能……ほほうほう。

 あーでもそろそろ動かんと不味いかも? 俺が耐えるのも此処ま

 でかと思っていると。


「ルプス」

「ルプス様」

「お! 相棒にリストゥルンさん!」


 相棒にリストゥルンさんの二人が現れた。相棒は静かに俺の隣、

 ロリ神様と反対の席へ腰掛け、リストゥルンさんはそのまま立っ

 ているつもりらしい。


「この時間に来たって事は、頼んでた物が終わった感じ? 」

「ええ」

「ああ。データは……ほら」


 リストゥルンさんさんが頷き、相棒がデータを此方に送る。送ら

 れたデータの中身はこの町の飲食、販売、宿など。客商売を生業

 とするショップ情報。つまり此方と客を取り合うであろうライバ

 ルたちの情報だ。コイツと俺が“此処”で集めた情報を照らし合

 わせて……ほむ、ほむほむほむ。


「あんた達ずっと姿が見えてないと思ったら、コレを集めてたの

 ね」

「お。これが何か分かる感じなんだ」

「そりゃあ、これでも、元、経営者だし……」


 腐っても、とは内緒にして。さてっと。


「んじゃロリ神様、従業員を集めてくれる?」

「良いけど、今から?何で?」

「何でってそりゃあ……ここからこの店を一気に人気店へするため

 だよ(出来たら、だけどね)」

「!」


 ロリ神様の目が光を取り戻し、相棒とリストゥルンさんが笑顔を

 見せる。

 上手くいくかは分からないけど、やって見なければ分からない事

 だからね。ここは気楽に、出来ると信じてアレコレさせてもらお

 う。




 彼らが動き出す傍ら、一人居た客が店を出ると、背後酒場に

 “営業終了”の文字が浮かぶ───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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