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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第三章
33/65

第二十八話 白亜の広間

 ───辺り一面には不自然な程に白だけが広がる空間。

 端があるのかどうか、それを確かめられるのか疑問に思える程、

 見える範囲は広大。白故に見据えるは難しく、また遠くを見よう

 とすれば目眩すら覚えそうだ。

 不思議。そんな一言で片付けられ無い空間では、白以外の者二つ

 が相対して居た。




「何が……どうなってんだあ!?」


『うひゃあ眩しいッ!』って目を瞑った次の瞬間、俺はそれまで

 居た部屋からこんな所に立って居た。

 見た事も来た事すらも無い白い場所。上を見上げても眩しくて、

 白い空? が何処まで続き。左右を見渡しても白しかない。辛う

 じて薄い距離感を掴めるのは、完全に白いだけの世界と言うより

 は、僅かに輪郭らしきが見えるお陰だ。白って寄りも白亜に近い

 のかも知れない。

 そんな場所で白以外のモノがある。それは。


「彼処で力を使うと色々面倒なの。部屋の片付けとかね。」


 呟いたのは白亜の世界で白では無い色を持つ幼女。ネグリジェ姿

 のあのロリっ子だ。

 さっきは天幕付きベッドの中央で座って居たので気が付かなかっ

 たけど、こうして全体を直視してみると……。

 何もない真っ白な空間に立つロリの、ふんわりとした緑色の髪は

 足元。白い地面に少し溜まる程度に長く。首にはロリに不釣り合

 いな黄金の装飾が施された首飾り。填められた赤い宝石特徴的。

 顔はと言えばえげつない程に作り込まれ、ちょっと息を飲む程度

 には良い出来のキャラメイク。その、細工極まる瞳が此方を見詰

 め。


「だからこの広間でオマエを試す。光栄に思いなさい、此処でわた

 し直々に試して貰える事を。そう、光栄に思いながら……。」

「いや。ちょっと意味が分からないと言いますか、そもそも此処は

 何処で? あ、さっきの事謝っちゃお───」

「ウルサイ死ねぇぇえええええええええええ!」

「ホワッツ!?」


 突然物騒な事を叫び上げたロリが此方に両手を差し向ける。

 咄嗟に、本能的直感とスキル的な物が俺の身体を突き動かし、幼

 女の正面から大きく外へ向かって走り飛ぶ行動を取らせた。

 ダイブする形になりそのまま白い地面に身体を預ける、何て事は

 せず。現実では出来ない芸当、受け身を取っては振り返り。それ

 まで自分が居た場所を見遣る。


「わぁーきえーなひかりらー。」


 余りな光景に語彙が溶けた。

 俺が立って居た場所には凶悪無比な極太レーザー光線が通過中。

 流れる綺麗な光線を目で追えば“ヒュォッ”っと言う音が遠く

 で僅かに聞こえ。次の瞬間バカみたいに大きな閃光が瞬き。


「あ……? お、おいおいおいおい!」


 遠くで置きた爆発。続いて真っ白な岩? の様な物が近場へ

 “ドンッ”“ゴゴンッ”何て降り注いで来やがった。押し潰され

 そうなサイズもチラホラ見え、俺は必死にそれらを避け逃げ惑う

 事に。やがて岩石の雨も収まるった頃。


「何で避けたのよ。わたしが撃ったら当たりなさいよ、何で……事

 ……お……。」


 ブツブツと呟くチートロリ。メンタルヤバそうな奴へ。


「あ、あぶねぇ! 急に何すんだ!」

「? 何って、オマエを試してるに決まってるでしょ。」

「試すってレェヴェルじゃねえし、普通に言ったらダメな事口走っ

 てぞお前! 後! 普通あんなん受けたら塵も残らねーだろう

 がぁ! 頭おかしいぞチートロリ!」

「あーウルサイウルサイ。良いからさっさと───いえ。そう

 よ、そうだわ。試してるんだものね。うん。」


 幼女が独り頷き始めた。マジでヤバイぞコイツは。


「もっともっとも~っと長く。試してやらなきゃ。私をバ、バ、

 バ……!!!??」


 一瞬取り乱した様子で頭を抱え身を捩る幼女。怖い、マジで怖い

 よこのチーター。


「……事、事を悔いて悔いて悔いて悔いさせて。其上でごめんな

 さいって言わせてやるの。額を地面に擦らせてそれを踏みつけ

 て……。そうじゃなきゃダメじゃない。ふ、ふふフフフフ!」


 もう何の感想も出ないよ。此処が何処で、今がどう言う状況なの

 か全く分からない。分からないけど、今それらを考えるよりも大

 事な事は。


「(あの物騒なチートロリから逃げる事っ!)」


 俺はその場から駆け出し、降り注いだ真っ白なのに輪郭のある岩

 石の間を縫うように走り。自分の姿をロリっ子から隠す様に物陰

 へ。


「あら逃げ出すの? それは何て勇気の無い事。とても勇士とは

 言えないかも知れない。だからもっともっと試してあげるわ。」


 言いながら少女が適当に指を差し向ける。すると真っ白な空から

 光の線が一本降り注ぎ“スガガガガガッ!”と轟音を立てながら

 白い地面を抉り進む。それを無作為にディレイも無く繰り返され

 る。何だあれ巫山戯てんのか?


「(無茶苦茶な攻撃だなおい! 溜めはないのか溜めはッ!

 ったくこれだから悪質チーターはよう!)」


 幸いにも自分が隠れた白い岩石辺りには飛んで来てない。

 一旦、一旦落ち着こう。“スガガガガッ!”まずは“ドガガガ

 ッ!”この“チュィーン!”


「(うるッぇぇせええええええええええええええええ!)」


 バカスカと射たれる光の線。それが真っ白な大地を抉り轟音を響

 かせる。撃てるからって適当に撃ちやがって!

 クソ程騒がしい中でも分かった事がある。この真っ白な空間には

 地面が存在すると言う事。そして。


「(見た限り果てが無いって事。んなバカな……。)」


 正に超空間。こんな所さっさと逃げようとポータルや転移を試し

 ては見るのだけど、展開のお約束通り。それら空間移動系は一切

 機能してない。さっきと場所が違うから行けると思ったんだけど

 ね。ちきしょう。

 事前準備の掛かるポータル移動も、その準備すら出来ないっての

 は酷い話し。因みにこう言った突発的なボス戦やらに置いての緊

 急脱出、伝家の宝刀ログアウトは───俺には出来ない。だって

 アウト先(現実の体)が無いからねー。


「(つかなんでいきなりの戦闘? これってチートボス戦って事

 で良いのか? 何にせよあんな無茶苦茶なチートボスと正面切っ

 て戦えっかって話し。俺ってば此処(ゲームの中)で死んだら、今度こそ本当

 に死んじゃうかも知れないんだらからさ。とすれば。)」


 一刻も早くこの場所、戦闘行為から逃げ出したい。

 危険を承知で身を大きく晒し、果てがあるかも分からない果てを

 目指して一発走るか? そんで見付からない様に隠れて相手が飽

 きくれるの待つ。

 いや、出来上がった岩石地帯は此処だけじゃん。身を晒すには隙

 がデカ過ぎちゃうよなぁ。


「(あークソ。何で俺がこんな目に遭うんだよ。あ、チーター

 怒らせたからか。……ん?)」


 考える最中ふと気が付く。先程からバカみたいに乱射されていた

 光の線が止まっている事に。

 俺は岩陰から少し身を乗り出し、チートロリボスが最後に居た場

 所を覗き見てみる。


「ビビってるかしら? 恐怖してるかしら? ふふふ。」


 チートロリは始めの場所から一歩も動かずその場所へ存在して居

 た。顔には悪戯っ子な笑みと呼べそうなモノを浮かべ。

 可愛げが感じられないそれは、俺にはただの嫌な笑顔だ。


「でもそろそろ無様な姿と悲鳴が聞きたいわ。うーん……そう

 だ!」


 チートロリがその見た目らしからぬ発想と言葉を呟き、両手を広

 げ瞳を閉じては。


「私が喚ぶ。『メロブ』と『ルー』を此処へと。」

『『……。』』

「(……ありゃさっきのネコじゃん。)」


 召喚スキルらしきを発動。

 幼女の足元からは白い球体が現れた、かと思えば次の瞬間それは

 二匹のネコの姿を形取り。見覚えのある二匹は先程天幕の紐を引

 いていたネコ達だ。こんな所へ呼び出してなにすんだ?


「さあメロブ、ルー。オマエ達が導くのよ。」

『『……。』』


 チートロリは言いながら呼び出したネコ二匹へ小さな手を翳す。

 やがて翳した手を下げるとネコ達が一斉に駆け出して行く。そ

 れを満足気に幼女が見詰め。後はそのまま。


「(何だったんだ今のは? まあ動きが止まってくれたのなら考

 える時間が出来たと喜ぼう。)」


 俺は身を岩陰に戻す。

 よし。まずこの空間から逃げる事、それは残念ながら無理っぽ

 い。転移もポータルも、伝家の宝刀も無いんじゃ打つ手が無

 い。ゲーム運営に助けを求めるってのも難しい。何故なら此処

 ってばチャット機能も制限されてるらしいからね。

 そうじゃなくたって運営には連絡しない。此処で死ぬのと運営

 に存在がバレるのはイコールの結果だからだ。


「(瞬間長距離移動が出来ないって事は。……これもダメか

 よ!)」


 取り敢えずと仮想インターフェースを開き倉庫へのアクセスを

 試みるけど、倉庫へのアクセスは“現在位置が利用不可地域、

 または戦闘中の為サービスをご利用できません。”っと言われて

 しまう。

 って事はだ、此処は独立した戦闘フィールドって事に成るのかも

 知れない。仮拠点立てたらアクセス出来んのか? あーでも仮拠点

 制作アイテムはマイサーヴァント持ちだ。そして此処へは喚べ─

 ──ないと。はい、積みかなこれは。

 もう一個抜け出すための、その可能性はあるっちゃあるけど。


「それはなぁ……はぁ。」

『にゃーん。』

「あ?」


 事前準備も無しにぶち込まれたボス戦みたいな現状に溜息を吐く

 と。不思議な事に足元から返事が返って来た。背を預けていた真

 っ白岩石から足元へ視線を落とせば。


「黒いネコが一匹。ってこれさっきのネコ───」


 其処で俺はとんでもない悪寒。鳥肌のスタンディングオベーショ

 ンな気配を頭上からバッチリ感じ取る。具体的に言うと自分が持

 つ“危機察知(アラートスキル)”の力が発動。

 パッシブスキルから伝わる感覚は、それまでの経験から“とんで

 もなくヤバイ”と直ぐ分かった。なので直様俺は足元の猫を掴み

 上げ、それまで隠れていた岩石から走り出す。すると。

 “ドッゴォン!”と背後でバカデカイ爆発音が響き、序に巻き起

 こったらしい爆風で俺のから、体が吹き飛ぶ!?


「ぐふぇあ!」


 抱え上げたネコちゃんを潰さぬよう守りながら、白い地面に身体

 を打ち付けながらゴロゴロと転がり。転がる最中に片手で地面ら

 しきへ手を伸ばし、ブレーキを掛けては自らの体勢を立て直す。

 アクション映画でも早々出来ないアクションを披露して立ち上が

 った俺の視界には。


「……もう、もう何でもありじゃん。」


 身を隠していた岩石は綺麗に無くなり。真っ白な地面にはクレー

 ターのみが残されている。威力やばぁ……。


「ああ。そんな所に隠れてたの。今のでやられない何て生意、ん

 ん。スバラシイソシツデスネ。じゃあ次も避けて見せてください

 ねー。」


 等と此方を見ながらチートロリが言う。そしてその細腕を白い、

 真っ白な空へと上げては同時、俺の頭上に何事かの気配が再び漂

 い始め。見上げた其処には。


「きえーなひかいー。パートツー、って言ってる場合じゃあねえ

 よな。逃げんべ!」


 金色に輝く軌跡が宙に刻み込まれ、魔法陣の様な物が形作られて

 行くではないですか。先程の事を思い出した俺は勿論魔法陣の下

 から逃げ出す。

 白い空に描かれた魔法陣が完全に形成されると、陣からは閃光が

 迸り。それまで俺が居た場所を攻撃。最初程の威力じゃない、だ

 けど。


「連続技かよおおおおお!」


 その一度の流れが終わるまでにはもう次の魔法陣が頭上に出現

 し始め、それは五つと続く。酷くないかおい!

 此方を視認され続けているからか? ちきしょうがぁああああ!


「一旦身を隠さねぇと……なっ!」


 俺は所持品へ常備している、初期からお世話になっているお便利

 アイテム。スモークボムを取り出し地面へ叩き付け、一定範囲に

 視界不良の煙幕を張り。


「!」


 そして直前まで覚えていた地形を頭に浮かべつつ。隠れられそう

 な岩陰へと身体を滑り込ませる事に成功。煙幕を出してから頭上

 の悪寒が止んだので、やっぱ見えてないと撃てないか精度が落ち

 る系だなありゃ。


「面倒臭い知恵、浅知恵があるんですね。スゴーイ。」

「(普段なら全然全くこれっぽっちも気にしねーけど、今はスゲ

 ームカつく煽りだ!)」

「そんなの無駄なのに……。」

「?」


 含みのある言葉の後。急に静かになった幼女。俺はそれが気にな

 り、物陰から様子をこっそり窺う。


「……。」

「(んー?)」


 チートロリは白い空にもう一つ、詰まり両手を上げた状態で佇ん

 でいた。何だ何だ?


『にゃーん。』

「ん? どしたのネコちゃん?」


 何だろうかと思っていれば抱えていたネコが一つ鳴き、悪寒が俺

 の頭上からビンビン。上を見上げれば綺麗な魔法陣が形成されだ

 しちゃって───


「にゃーーーんとぉおおおおおおおおおおおおお!」


 “ドグオオオォォオオン!”っと光が降り注ぐ。

 威力は五連よりも大きなモノ、だったけど。威力がデカイ分当た

 り判定として落ちてくるまでに猶予があった。それに二回目だ。

 だから最初よりも上手く避けれた。と言うか。


「まさかと思うけど、このネコをターゲッティングしてんのか

 よ!」

「あ、もうバレちゃった? まあ当然でしょう。そのネコは私の

 モノ何だから。」


 直様俺は抱えていたネコちゃんを名残惜しくも安全な場所へ下ろ

 し、走って逃げ出す───も。


『にゃーん。』

「やっぱ付いて来ますよねぇー!」


 降ろしたネコちゃんは俺の後を付いて走ってくるではありません

 か。そして魔法陣もネコちゃん起点に迫り来る訳で。


「んんぁあああああああああああああ!」

『にゃーん。』

 “ドオオオン!”“ドオオオン!”“ドオオオン!”


 俺、ネコ、光の放流と。息を吐く暇もなく走り続けねば成らない

 状況が続く。クソクソクソオオオオオオオオ!


「アハハハハハハ! アハ、アハハハハハハ!」


 突然チートロリ。いやチートロリババアが大きく笑い出す。

 ムカつくと思いつつ今は逃げ回る事しか出来ない。幸い走って疲

 れたりはしないけどよ。

 よくある物としてスタミナ、と言う仕様があるけど。それは此処(エリュシオン)

 には無い。NPCには何か知らあるらしいけど、PCには無いんだな

 これが。なので走ろうと思えばキャラクターは何時までも走り続

 けられる。プレイヤーの“精神が持つ限り”だけどね。

 VR型MMOと言えど実際に走ったりしてる訳じゃない。此処はダイ

 ブタイプとか、シンクロタイプと呼ばれる類のVRゲー。キャラを

 動かすプレイヤーは部屋で専用の機器を付け、椅子に座ったり寝

 転んだりしているもんだ。

 でも、それでもVRに限らずゲームってのはプレイしてっと白熱し

 たり、緊張やら何やらで肉体的疲労が生まれる。それがVR内での

 戦闘や長距離移動などと成ると、実際にはしていなくとも頭がし

 ていると錯覚するらしく。平時のゲームプレイとは比べ物もなく

 疲労を加速させるのだとか。

 現実よりもずっと早く動けても、驚くほど長く長距離を走れたと

 しても。プレイヤーが永遠とそれが出来ないのはそう言う所が関

 係しているらしい。意図された仕様では無いモノの、それが結果

 として良い具合にPCへのスタミナ機能として働いているって訳。

 とか昔調べた事を考えながら走っているのは俺がこの状態を何

 時で続けられるのだろうと、そう考えて居るからだ。はぁ。


『にゃ。』

「あん?」


 何の勝算も浮かばず。ただ逃げ続ける俺の耳に背後から変な鳴き

 声が聞こえて来た。何事かと後ろをチラリ。

 其処ではネコが小石に躓いたらしく“ビタンッ”と伸びている。

 ネコの癖にトロイなぁと思っていれば、その頭上には容赦なく魔

 法陣が形成され───されちゃってますねぇ!?


「ちょちょちょ! お前バカ、それネコだけに当たっから!」

「? それが?」


 まるで意図が分からないと。そんな表情を見せるチートロリ。


「それがってお前ッ───“アクセラレイション!”」


 俺は一瞬で踵を返し、間に合ってくれと思いながら加速のスキル

 を発動。転け伸びるネコ。加速した視界、感覚の中その首根っこ

 へ手を伸ばし掴んでは。足を止めず拾い上げては死ぬ気で走る!

 直後には直ぐ背後で爆発音が響き。


「どぅへあ!」


 距離が近い所為で強烈な爆風に身を晒され、キャラがぶっ飛ばさ

 れ、ぶっ飛ぶ正面には白亜の岩石!

 このままだと俺と岩石に挟まれネコちゃんがプレス。仮想の世界

 と言えどそれは絵面も結果も最悪な事になりそう!


「ぬぎらあ!」


 なので飛ばされる最中身体を思い切り横へ振り、自らの背を岩石

 へと向け。


「ッ! セ、セーフ。(だけど!)」


 背が直撃。

 受け身を取らなかった所為でライフが大分持ってかれたけど、五

 体は満足でネコプレスも回避。俺はネコを掲げながら身を晒し。


「ネコが木っ端微塵に成る所だったろうがぁ! まあ成らんけど

 も、見た目グロくは成らんけども、それでも嫌でしょうが!?」

「ウルサイなぁ……。それは私のモノ何だから、別に何だって

 良いじゃない。」

「なんつーもの言い!? 動物飼ってるヤツが一番言ったらダメ

 なセリフだぞおい! 後ネコ好きを敵に回したな!」

「ほんっとウルサイ。あ、でもそんなに好きなら───」


 チートロリがにっこり笑い。


「メロブ。」

『……。』


 名を呼ばれた白いネコが何処からか姿を表し。


「絶対に動くな。」

『……。』


 何てチートロリが言っては俺へより一層の笑顔を向け。


「鳴け。」

『にゃーん。』


 ネコが鳴くと。その上にはあの魔法陣が形成され出す。

 こ、こ、こ。


「このバカ野郎がぁあああああああああ“アクセラレイション”

 んんんんッ!」


 俺は必死も必死の形相を晒しながらスキルを使って走り出す。

 此処はゲームの中。あの光に包まれたとしても、マグマでもアイ

 スブレスに包まれようと。見た目が悲惨さに即した姿に変わる訳

 じゃない。大人も子供も泣いちゃうよそんなん。成るとしても少

 しコミカルな程度。だけど、だけどそれでも溶岩に落とされる絵

 面も氷漬けにされる絵面も。俺は好きじゃない。

 それは俺がネコが好きで、好きじゃなくたってそんな事をゲーム

 内で楽しむ趣味が無いからだ。つまり俺が個人的にあの光に包ま

 れたネコちゃんを見たくないから走ってるんだよなぁ! でもこ

 れ間に合うかー!?


「んんんんネコちゃああああああああああああんんんんっ!」

『にゃーん。』


 此方に駆けようともせず、ただ一定の音量で無くネコへ走り込ん

 だ俺は、先客の居る左手では無く右手ですれ違うようにネコを拾

 い上げ。そのまま攻撃範囲から離脱を試みる、けど。


「!(ギリ回避距離が足りてないじゃんこれ!)」


 加速のスキルを使って此処まで来れたが、離脱距離を稼ぎきれず

 に加速効果が減衰。

 だから俺は暴れ降り注ぐ光の奔流に背をカスヒットさせてしま

 い、巻き怒る近距離爆風に体がぶっ飛ぶ。


「ぬぐああああい!」


 二匹に増えたネコを潰さぬよう、抱えては転がる体が何かに当た

 って止まるのを待つ。そうして物理演算が収束しては転がる体が

 止まり。俺は立ち上がろうとして───それが出来ない。


「!?? 背、セな、背なか、がぁッツ!」


 焼ける。焼けている。俺の背が焼け焦げている。確かな“痛みを

 背に感じる!”ぶっ飛ばされて地面に全身を打ち付けても、大岩

 に体がぶち当たっても“痛くは無かった。”なのにあの光がカス

 っただけの背が死ぬほどメチャメチャビックリする程に痛いっ!

 痛いいたいイタイイタイイタイ!


「はぁ!はぁ!はぁあッ!」


 痛みから逃げたいのか、それとも頭が痛みでおかしくなってしま

 ったのか。俺は蹲る姿勢で頭を上げ、一度強く白い地面へと振り

 下ろす。叩き付けた額に痛みは無い、痛みなんて感じない。

 そうだ、感じる訳無い。仮想で痛みなんか感じる訳が無いんだ。

 じゃあ今、俺の背をジリジリと焼くこの痛み、痛みはッ!


「な、んなんだ、よぉッ!」


 呼吸。それが必要かも分からないこの仮想世界で俺は少しでも痛

 みに耐える為の反復行動。大きく息を吸っては吐くを繰り返す。

 久しぶりに、いや多分この仮想世界で初めて感じる“痛み”に俺

 の頭は真っ白。呼吸はどんどん早くなるのに肺を満たしてはくれ

 ないし、視界はどんどんと開く癖に鮮明さとは程遠い景色。


「ふふ。響くでしょう? その“魂”に。」


 ネコを抱いて蹲り、額を強く地に擦り付ける俺の耳に声が届く。

 俺は顔だけを幼女へ向け。


「全身を打たれたらもっともっと響くわよ。でも大丈夫、此処な

 ら死んでも平気。何度でも何度でもわたしが起こしてあげるもの

 ね。アハ、ウフ、ふふふふふ!」


 幼女の姿、言葉、瞳。今はその全てが死ぬほど怖い。はは、体が

 震えている何て凄いじゃん。リアルにバーチャルを感じてるな俺

 って。


『『にゃーん。』』

「だからそのまま一度眠りなさい。オマエ何かその程度だったの

 よ。」


 腹に抱えたネコが鳴き。俺の頭上に魔法陣が形成されて行く。

 ああ、このままだと俺は直撃を避けられない。でも動きたくても

 痛くて動けねえ。てか此処まで頑張る必要とか……ある?

 ちょっと前まで消滅を受け入れてたんだぜ俺ってさ。そう。あの

 時は消滅しても良いと思ってた。仕方ないって。だから今回も。


「って訳あるかよバカがぁああああああああ!」


 地面から頭を振り上げても、叫び上げたって痛みは消えない。

 だけど白亜の大地を意地で踏みしめる、その手助けには成って

 くれた。

 地を踏みしめられたのなら、立ち上がれたのなら俺はもう一度

 走り出す事が出来る。

 白亜を蹴るように走り出すと直後。背に痛みを思い出させる

 衝撃が響く。ぶっ飛ばされて転がり、転がりながら体勢を整え

 また走り出す。

 回避の始まりがギリギリのギリだから、頭上より降り注ぐ光

 は躱せても衝撃はが躱せない。ぶっとび、転がっては受け身

 を取ってまた走る。それを数回繰り返した時だ。


「ちょ、ちょっとタンマ。お腹いたーい!」


 ケラケラと笑う幼女が笑い出し、上げた腕を下ろすしてはそ

 れを腹へと添え。腹を抱えて笑い転がりだした。勿論攻撃は

 止む。


「はぁ、はぁ、はぁ……。」

「面白い、貴方面白いわ! アハ。あーお腹も痛いし腕もちょ

 っと疲れちゃった~。」


 攻撃の止んだ俺は、意味が薄いと分かっていながらも岩陰に

 身を隠し。腰を下ろす。


「クソ……。こっちは……疲れてる……っつーの。」


 肉体的疲労とは嬉しい悲しい両方の意味で無縁な俺。だけど

 こんな緊張感の連続、オマケにどう言う訳か感じるはずの無い

 痛みまで感じちゃって。俺の精神は現在結構な疲弊状態。


キャラ(肉体)は全然動く。なのに息切れって矛盾だよな。」


 気合で逃げては見たけど、結局の所打つ手が無い。どうしたもん

 かね、これ。いっそ本当に───


『もう諦めてはどうか?』

「は?」


 不意に直ぐ近くで声が響く。発生源はと探すも側には何も居な

 い。居るとすれば腕に抱えたネコ二匹。……まさか今喋ったの

 か? 疑問を浮かべながらネコへ視線を向け続けていると。


『流れの者よ。案ずるな、此処ではそなたは死なぬだろう。』


 もう間違いなくネコが話し始めた。いやまあゲームだしネコ位

 喋るさ。何だったら無機物も喋るし。だからネコが喋った事よ

 りも俺が気になるのは。


「声渋ッ!」

『『?』』

「え、そんな愛くるしい姿なのに渋い声で話すの!?」

『流れの者よ。今ソレ気にする所チガウ。』

『吾も同意見。』


 渋ッい声で白と黒のネコからツッコミが入る。これで猫パンチ込

 ならもっと面白いのだけど。って違う違う。今は余計な事気にす

 んな。敵の召喚物っぽいモノへ俺は。


「あー……。俺はその、死んだら本当に終わりだから。死ねない

 んですよね。って何AIに話してんすかね。ハハ。」

『? そんな事は無いだろうが、そうと言うならそうなのだろ

 う。』

「でっす。後はまあ……。」

『『?』』

「諦めて良い、諦めろって言われると諦めたく成る質なんすよ

 ねぇ。しかもゲームに限っては諦め悪くいようって、そう決め

 てるんで、自分。」

『『……。』』


 特にこのゲームの中では、ね。つっても諦めるって決めた時は

 スッと諦めちゃうんだけど。あー我ながらブレブレのブレ。

 ただまあ……。今は諦めねえって気分になっちゃたな。


『そうか。勇敢な流れの者よ。吾らを助けようと動いてくれた思

 い、そしてその勇敢さに応え一つ教えよう。』

「え? 攻略のヒントっすか? 敵のAIなのに?」

『うむ。吾らはあの光に包まれても死なぬ。元に戻るからな。』

「へぇー……。(元に戻る?)」

『だが、あの“忌々しき”以外に殺された場合は別だ。』

「ほう?」

『吾らをそなたがその手で殺せば暫くは戻ってこれまい。それ

 で時間をどれだけ稼げるかは分からぬ。だが必死に吾らを庇っ

 てくれた礼位には───』

「んー……それ却下で!」

『『?』』


 ネコちゃんズが揃って此方を見上げる。声渋いけど見た目ネコだ

 から可愛く感じちゃう。そして可愛く感じると言う事は。


「俺にネコは殺せない。助けたのにそれは本末転倒じゃん。」

『この姿が吾らの本来の姿では無い。今がそうと言うだけだ。』

「でも今ネコでしょ? ならネコだわ。あのさ、此処じゃそれが

 全てなんだよ。」


 よく人は中身だと言う。それはまあ実際そうなんだけど。

 オンゲに置いて中身などは知らん。見えてるソレが本人で、そう

 じゃ無いとか中身の性別云々言い出したら何も楽しめねーのがオ

 ンゲだ。俺は中身が何であろうと見たままに惚れる。それが俺の

 VRゲーを、MMOを楽しむ信条。

 ……肉の入り無しは少し気にしちゃうけどね。


『変わった流れ者よ。吾ら使い魔に情を掛けるとは。しかし。』

『吾らはあの忌々しきには逆らえぬ。アレを主とするよう。』

『従うよう。』

『そう約束され拾われたのだから。』


 二匹のネコが交互に喋る。なんこれおもろ。


『故に“救済の光”を吾らは常に呼び、そなたを追うしか無い

 のだ。』

『永遠と逃げるは厳しいぞ。』

「確かに……。んならさ。」


 俺は両手で抱いていた二匹のネコ。それを片手へと抱え直し。


「あのクソムカつくチートロリをぶっ倒すしかねーな。」

『何と無謀な。』

『何と蛮勇な。』


 こっそり脳内で“何と”を“ニャンと”と変換しては。


「だって逃げてたら助かりそうに無いし。それに此処が戦闘フィ

 ールドなら、閉じ込めた本人を倒す以外で出れそうに無いんだよ

 ねー。

 此処に理不尽はあっても、倒せないボスは居ない。チーターも然

 り。それがこのエリュシオンの真理、なはず!」


 他ゲーと違いエリュシオンでは完全無敵チートなる者は存在し無

 い。それは此処がVRゲームだからだ。チートで高速化しても、個

 人の反応限界を越えた動きはプレイヤーの心身に大きな負荷を掛

 け。そもそも無敵を殺す手段が此処にはいくらでも、無数に存在

 するから対処しきれないと言うのもある。

 昔聞いた言葉。『チート見たいなモノは一見すると、明らかに仕

 様を逸脱して見えるがその実。必ず間延びした“出来る”と言う

 仕様の範疇に収められているモノだ。』っての思い出す。

 “出来ない”の範囲に居ないなら、どんだけ難しくても必ずぶっ

 倒せる。……ぶっちゃけ全て希望的観測だけどね。だけどまあ。


「言ったダンディフェイスを信じ、逃げるのやめて───」


 言いながら俺は空いた右手に遠距離武器。近未来的フォルムの

 ハンドガンタイプの武器。シルバーガンを装備しては。


「チートボス戦攻略に全力を出すじゃーーーーーーーん!」

『『!』』

「!」


 岩陰から飛び出し、チートロリへ向け引き金を引き続け容赦な

 く光弾を乱射する、けど。


「!! は、はぁー……。そそ、そんなモノが私に効くと思う

 訳?」

「(ビビった言動と裏腹に身動き一つ無し。避けもしねえか。

 つか、当たる前に弾消えてたな。て事は。)」


 障壁(バリア)持ち。

 今使ったシルバーガン。それを指で支え“くるり”と一度回すモ

 ーションをしては、カートリッジチェンジ。そしてまたチートロ

 リへ銃弾を飛ばす。こっちは物理属性の弾だけど……。


「アハ、無駄無駄。くすぐったい程度ね。」

「(今度は障壁に阻まれなかった! けど、身で受けて平然とし

 てやがる。ダメージは無いかカスって所?)」

「可愛そうで愛らしいわね、貴方。……最初のアレがムカつくけ

 ど、可愛いから痛み無く一瞬で終わらせてあげる。」

「!」


 言いながらチートロリが上空へと手を伸ばす。あの構えは魔法陣

 での攻撃を仕掛けてくるモーション!

 アレの対処はもう“分かってる。”だから俺は一気に走り出す事

 にした。上は気にせず、周りの岩石に体が打つからないように走

 るだけで。


「ほらほら逃げなさい!」


 あの攻撃は最大出現数五枚の魔法陣が、一つ一つ時間差で目標を

 追尾してくる攻撃だ。だから立ち止まってたり回避の速度が足り

 なかったりすると魔法陣が重なって、その分一発の威力が高くな

 る事も。

 なら落ち着いて冷静に。速度を一定に保って走ってれば当たらな

 い。しかも追尾先のネコちゃん二匹は俺が持ってるんだから、益

 々当たる訳が無い。


「(結果的にネコちゃん救ったの正解だった訳だ。)」


 俺は、ひたすらに逃げ回り。ロリボスの周りを回るように逃げて

 は銃を適度に撃ってみる。うーん効果なし。


『あの忌々しきに並の攻撃が通じるとは思えんが……。』

「はいそこ、心折れる事言わないの。いや折れても無理やり戻す

 んだけどさ。」

『攻撃が通じぬは先の事で分かったはず。なのに先程からそなた

 は何をしているのだ?』


 一周した所で身を隠しながら動き。ネコの疑問に応える。


「障壁に穴が無いかのチェック。」

『『?』』

「ああ言う障壁系ね、全方位にあるものと一方だけにあるのと

 あんだけど。全方位系は側面や背面とかに低減率が低いって事

 ままあるんだよ。んでそれっぽいの無いか今試してたんだけ

 どー……ないっぽいっすね。しかも常時展開かー。

 うーん流石チーター。」


 全方位を物理と魔法攻撃で試して見た。

 魔法属性の物は全て障壁に消されるし、物理属性は障壁素通りし

 ても本体に効いてる様子が全く無い。


「となると、だ。次は障壁の向こうで魔法を使って見るか。」

『……まさかあの忌々しきの弱点を探っているのか?』

「当然。初見ボスの攻略に必要なのは地道な検証。どれが有効な

 のか、それを探る所からだよっ。」


 まあ正攻法が通じるか分かんないチートボスだけどね、相手。

 でもやる事は一緒。空から落ちる光を避けつつ打開策を探る。


『そなた、何か手慣れてきてはいないか?』

「そりゃあんだけワンパターン連発されたらねー。

 あーでも。魔法陣って視界切ってると精度が落ちるのか避け易い

 な。んなら視界を切るように立ち回れば、ずっと動き続ける何て

 必要も無いかも? いやミスった時のリスク考えたら動いてた方

 が良いか。初動ミスって出遅れたらアホみたいだし。うん。」

『常人であれば絶望するべき能力差……。』

『勇敢を越した勇猛さよ……。』


 ネコが此方を見上げお口あんぐり。そんな様子を見る程度に

 は余裕が出て来たな。まあライフが半分以下でやべーんです

 けど。


「(にしても。)」


 あんな攻撃範囲持ってて? オマケに魔法耐性の激高障壁に物

 理防御も高いって? ハッ。全然余裕だし、案外チートも大し

 た事無いなあ! 相棒とか案外この難度を喜びそうじゃんか!

 ……俺は絶対二度と戦いたくないけど!


「もーこんなの一人でどうにかしろって理不尽すぎか!」


 事前にPTメンバー募集もねーし。どう言うレベルデザインだよ

 と思いつつ、相手がチートボスだと思い出す。ちきしょう。

 考えながらも視線を適度に切り、チートロリとの距離を詰めて

 いた俺は。


「あ、其処に居たんだ。はあ? 此方来るの?」


 良い頃合いな所で身を晒し移動速度を上げ。装備したシルバーガ

 ンを投げ捨ててはアイテムをインベントリから呼び出し。取り出

 した掌サイズの結晶を。


「(“アクセラレイション”!)」


 スキルを使い目標へ“ぐん”と近付き、放ってはそのまま走り抜

 ける。


「!? 何こ───」


 走る抜けた背後から“バンッ”と破裂音。チートロリの目の前で

 爆発結晶が破裂した音だ。後ろをチラリと伺えば、結晶から迸る

 荒れ狂う雷が。


「ギャッ!?」


 チートロリを直撃。様子を見るに。


「お。ダメ通ったっぽくね?」

『『何と!!!』』


 物体の障壁すり抜け確認。障壁内での魔法攻撃は効果あり、と。

 て事はそれを中心に攻めてけばもしかしたら? あーでも手持ち

 がねえや。どすっかなー。


「こ。」

「こ?(何だ?)」

「こここお、このこのこのこのこのこのこのこのッ!」


 チートロリが頭を振り乱し地団駄を踏んでいる。


「ちょちょ、何かバグってるバグってるんですけど。ちょー笑え

 るー。」

『いかん。忌々しきが怒った。』

『ああ。ああなってはもう見境が無いぞ。』

「へ?」


 抱えるネコ達がそう言うと。


「ぶち殺してやるッ!」


 クオリティの高いキャラメイク顔を怒りの形相に染め上げ。

 両手を白い空へ掲げ、同時に俺の頭上には魔法陣が───あ

 あ!?


「数! 数がおかしいだろ!」


 真っ白な空には一気に金色の魔法陣が複数展開され。完成した

 物から光の奔流が地へと降り注ぐ。何とか走り躱してはみるけ

 ど。


「数が多い! これだとその内リズムが狂うか、感覚詰められて

 俺が死ぬぅ!」

『そなたは良く避け、一矢も報いた。』

『間違いなく勇士よ。死した後、共に酒を酌み交わそうぞ。』

「んーネコちゃん達意味不明! 後死した後とか、不吉な事言

 わないで欲しいなぁー! 此方はまだ死んで無いしー! あ、

 もう死んでるっけ!?」


 多数魔法陣の追尾攻撃が降り注がれ、それを避けるのに全力を

 注ぐ。これじゃ悠長に探ってる暇がねえ!


「レベルデザイン狂ってんぞ!」


 俺は怒りながら叫んでは憎きチートロリをチラリ。


「………。」


 怒りの形相は変わらず、その両手も天へと上げ続けている。

 が、ふとその足元に緑の輪が出現している事に気が付いた。

 それはこの無茶苦茶な攻撃よりも見知った物で。


「(アレは……ヒーリングスポット?)」


 PCが使う物と比べ回復量がとんでもない様子、だけど間違いなく

 あれは設置型の回復空間。

 俺は何時リズムが崩れて死ぬかも分からぬ中で、不思議と耳へ響

 く轟音が遠ざかって行く感覚とと共に。此処までで得られた情報

 を頭で整理して行く。

 さっきの一撃。魔法属性を直接本体へ当てて手応えがあった。と

 言っても其処まで強力じゃ、ましてこんなむちゃくちゃで理不尽

 なボスキャラに大きなダメージを当たられるような物じゃないと

 思う。ザコ一掃様に持ってたヤツだし。

 だとしたらあの床の出現は何なんだ? またを恐れてって事?

 まああの床の回復量的にもう効かないのは確かだろう。でもそれ

 にしたって回復量が尋常じゃない。アレを上回る攻撃なんて俺が

 持ってる訳ない。だって周回装備そのままで此処に来たしね。


「(どー見ても爬虫類特攻は効かないっしょ~アレに。

 僅かな望みだった攻撃も、あの床上じゃ無意味。動かしたいけ

 どそれも無理っぽいしなぁ。あのバカみたいな回復量を超える

 のは、同じくバカみたいな攻撃、それこそ圧倒的な火力で吹き

 飛ばすしか……お?)」


 頭の中で火花が一つ花開いたては、もう一つのツボミへと繋がっ

 た。そんな気がする。……ちょっと洒落て見たけど、要は微かな

 閃きを得た訳。


「(もうダメでも試すしか無い。)」


 此処はVRゲーム。浮かぶ発想の殆どが試せる仮想世界。

 攻略法の多様さは半端じゃあないんだ。試し損は無い。

 つっても、本当なら魔法属性の近接武器なりを取り出したい所

 何だけど、それが出来ない今。俺が今もってして最高な火力を

 発揮できるモノ。次の次として、それを信じて拳を握り込み。

 目的を持って駆け出す。


「死ね!死んじゃえバカ! そんで死んだらのなら、またぶっ

 殺してやるんだから!」


 暴言吐きまくりのチートロリへ“ぐんぐん”と近付き。


「はん? もうさっきのは効かないからな。バーカッバー

 カッ!」

「知ってる。だからチートロリには自分で自分を攻撃して貰

 いに来ました。」


 チートロリの直ぐ側で立ち止まり。


「───は?」

「アレだけの数の魔法陣が一箇所に集結したのなら、その一撃は

 計り知れないだろ?」


 言ってる間に俺とロリの頭上には(おびただ)しい数の魔法陣が重なり、眩

 しい光を放っている。ほら、もう逃げるのが間に合わない。


「頭上にご注意くださーい!」

「!? この───!」


 ヒーリングスポットに陣取るこのロリボスを動かすのは難しい。

 だから、そう考えたからこそ俺はボスキャラの目の前でこうして

 立ち止まり。その身をチートロリの足元へ屈み込ませたんだ。

 何でこんな事をするのかって? このVRゲームは超リアルだ。コ

 ップに注がれた水が揺れる程の細かさがある位、自分で自分を間

 違って攻撃した時、それが直撃する程度には───よく出来てい

 るんだ。そう。“自爆”がこのVRゲームには存在する。

 都合上俺は此処に留まらないと行けないし、そもそも自滅無効技

 だったらどうしようね。もう掛けだな。障壁割れたら儲けもんっ

 て事で。はは。


「このこのこのこのこのこのぉぉおおおおおおおおああああ!」


 ネコを抱いてロリボスの足元で身を縮こまらせる俺へ、その少し

 上から激情の叫び。悲鳴にも近いそれを叫びながら細い足を踏ん

 張るロリ。次の瞬間。

 “!!!!!!!!!!!!!!”

 その声がかき消されんばかりの轟音が直ぐ近くで鳴り響く。

 なにこれ超ー怖いッッッ!

 近場で恐怖心を煽る爆音にビクつきながら、こっそりロリボスの

 細足へ更に寄り添い。必死に耐える、耐えてくれる事を祈る。

 そうして。

 一体どれだけの時間が過ぎたのだろう。一瞬にも、数時間にも感

 じる体験。慣れる事の無い爆音が徐々に弱まり、遂には───止

 まった。


「───はぁ!はぁ!はぁッ!」


 爆音で耳がおかしくなる事はなかったらしく、爆音が止むと聞こ

 えて来たのはチートロリの荒い呼吸音。


「ざ、残念。はぁ、はぁ。わ、わた、わたしは自分の攻撃で自滅

 したり、しなかった、わよ。はぁッ!」


 両手から煙の上がる幼女は最後、言葉を吐き出すように言い切

 る。その足元にはもうヒーリングスポットは無い。


「ザマア見なさ───」

「問題。物理防御の高い敵にはどう対処したら良いですか?」

「な、なに、言って……?」

「答えはー……。」


 俺はゆっくりと立ち上がりながら片手へスキル“ペネトレーショ

 ンナックル”を発動し。


貫通(防御無視)攻撃だろうがぁぁぁああああああああああああああ!」

「ぶぎえッッ!!?」


 チートロリへ鋭いボディブローをお見舞いした。

 貫通攻撃。魔法耐性、物理耐性を無視して攻撃を通す為の手段。

 このゲームの素手攻撃は元々が貫通攻撃と言う訳じゃあ無い。だ

 けど俺はとあるパッシブアビリティ取得に依って、素手攻撃を貫

 通属性へと変更出来る。

 VRで遠距離近距離武器のある中、完全な素手での攻撃は難しいも

 いも難しい。だから全然このアビリティを活かせる事が俺には無

 かった。単純なロマン。

 しかも貫通属性でも結局は素手。素手攻撃と言うのは得てして火

 力がそうでもない。のだが、今の俺は瀕死状態。

 どのゲームにもある瀕死の状態には攻撃力が上がる効果系パッシ

 ブアビリティ、所謂火事場と呼ばれる物も所持している。

 取得難度がそう高くなくて、しかも遠距離攻撃時には無効なこれ

 は。近接だって滅多に有効スキル、アビ枠に入れたりしない。

 こんな状態で戦い続けるのは難しいし、俺が持ってる火事場スキ

 ルは素手指定のモノ。正にこれもロマンと言える代物。

 それが今枠余りで入れていたロマンとロマンが重なり窮地を助け

 てくれたのだ! ありがとうロマン。

 お陰で今の俺の素手は並の武器を凌駕する素手。高防御の相手は

 体力が低いってお決まりはお決まりらしく。


「ハイスペックな防御性能を過信した、その慢心がこの結果だ。」


 ライフ全飛ばし、とは行かずとも一気に大ダメージを与えられた

 らしい。お陰でノックダウン状態のロリ。

 取り敢えずお約束のそれっぽ事言いながら、俺はロリへ突き刺し

 た拳を引く。


「……オエッ。」

『『何と何と……。』』


 するとちょっと、いやかなり罪悪感が湧きそうな嗚咽を漏らしな

 がらその場へ崩れるチートロリの体。ふん。だが俺はこの様子に

 何ら罪悪感は無い! だって此方は殺される所だったし!

 俺が何の後ろめたさも抱かず、寧ろ清々しさすら覚えていると。

 突如。“ピキキッ”


「ほあ?」


 っと言う音共に真っ白な世界に激しい亀裂が走り。


「ほああああああああああああ!?」


 白亜の世界が一瞬で砕けた。

 呆気に取られている間に次の瞬間には───なんと元の場所。

 あのベッドが置かれた室内へと戻って居た。


「おお! やっぱ倒したらフィールド解除か!」

「ああルプス様!」

「はい?」


 掛かる声に振り向けば其処にはリストゥルンさんの姿。そして。


「これは───」


 もう一人別の誰かの姿。だけど俺には見覚えがあった。

 彼女は此処の酒場の受付、ミランジェさんだ。その彼女は俺と、

 腹を押さえ蹲り、震えるチートロリを交互に見ては。


「───どう言う事でしょうか?」


 冷静な声だけが響く。




 ああ。見た目だけ見れば今、俺は何て言い訳の出来ない絵面

 なのだろう───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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