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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第三章
32/65

第二十七話 いらっしゃいませ

 ───少し前をブロンド女性が歩き、その後ろを空色の青年が歩

 き続く。




「「……。」」


 二人揃っての無言。

 今俺は買い物へ付き合った(好感度イベント)女性NPCから“最後にもう一つ”

 と請われ。得も言われぬ何かを感じ了承してしまう。んでもって現

 在何処とも分からぬ其処へ向かっている最中。

 請われた時の雰囲気が余りにも通常の物と違う、ギャップを振り切

 り最早別人の域にすら感じられ。それに……。そう、気圧される様

 にして俺は返事を返してしまった訳だが。

 こうして歩いていると徐々に緊張は解れ、しかも無言でと来れば考

 えも頭を巡る物で。


「(……今思うと凄い雰囲気! って思ったけど、実はそうでも無

 かったかも? 俺が勝手に緊張して受け取っただけかも知れん。

 だって冷静に考えたらこれってもう次の段階へって話しだろ?

 おいおいおい! 良いのかコレ、まだ付き合ってもないよー!

 あ、だから告白的な的な? うは!)」


 等とハッピーな思考が花開いてしまう。

 誘われた時の雰囲気を考えると重要、と言うか“ゾクゾク”って

 した事しかもう印象に残って無いけど、それでもこれは新たなお

 誘いに違いない。

 アイテムを譲渡した事で好感度が爆上がりして、何かイベントを

 飛び越え一気に関係性が深まった結果、なのかも知れない!

 もしや……お家にお呼ばれって事じゃねーのか!?


「(うひょー! ……まあ。自宅にお呼ばれしてもする事ってお

 話するぐらいなんですけどね。これ、そう言うゲームじゃあな

 いんで。)」


 だけどそれにしたってこれだけリアルなバーチャルワールド(仮想世界)

 当然質の高いドギマギ何かも味わえる訳。直球どストレートに

 言えば心が十二分に潤う。ンッフッフー。


「(つっても。どーも誘った感じがそんな風には見えなかったん

 だよなぁ。其処だけが何ともって感じ。)」


 咲いたハッピーな(思考)(疑問)が再び伸びる。

 あの時、まるで含みありありな雰囲気だったNPC。

 何と言うかそれまで彼女の何処か抜けた感じと言いますか、お

 姉さんらしくしようとして出来てない感じ? そんな女性NPCか

 らは到底行き着きそうにも無いロール。得も言われぬ雰囲気を

 纏っていたあの様子は、正直言うと多数のNPCとの交流を嗜む俺

 ですらかなり“ドキリ”とした程。そう、“ドキリ”とね。

 あの時の“ドキドキ”はこの“どきどき”だったんだろうか?

 でも……。お家にお呼ばれって事だとは思うんだけど、本当に

 そうかって言われると……ヤベ、ちょっと。いやかなり不安に

 成ってきたかも!

 もしかしたら俺は勘違い野郎かも知れない? 待て慌てるな。俺

 は異性NPCのお家にお呼ばれされるのは初めてじゃない、初めて

 じゃあないんだぞ。自身を持て! そして落ち着いて考えを纏め

 るんだ!


「……。(んでも毎回ドキドキしちゃうぅ!)」

「目的地はこの中です。」

「?! んはいっ。……って此処の、中すか?」

「ええ。」


 ちょっと自分でもどうかな? って考え事をしながらオートラン

 で付いて行った所。着いたのは何と始まりの地点、つまりは昼行

 灯へと戻って来ていた訳だ。

 一つ違うとすれば店を出た正面扉ではなく裏口にって事ぐらい?

 あー此処に住んでるって事、なのかな? 宿舎的意味で。


「此方からどうぞ。」


 言いながら女性NPCが裏口の扉を開き中へ。俺もその後を追う。

 行きつけの酒場と言えど裏口から中に入るのなんて初めてだ。


「(オフゲと違って勇者行為よろしく勝手には入れないし

 ね。)」


 裏口から入った屋内は従業員用通路の様な物で、それを抜ける

 と厨房、キッチンスペースへと続いていた。

 其処ではお店のスタッフらしきNPC達が調理スキルを使用して

 いたり、出来上がった物を取りに来たフロアスッタフ等が行き

 交う姿も。

 普段俺は此処を酒場としての利用が主だけど、こうして裏で働

 くNPCを見ると。此処がギルド、酒場、宿屋に食事所の機能を

 兼ね備えているのだと改めて思い出す。

 ただの酒場にしては建物全体が大きいからね。二階三階とかも

 あるし。


「ルプス様。」

「ん。ああ、はいはいっと。」


 物珍しさから働くスタッフさん、彼女たちの普段見れない姿を

 目に焼き付けようとする俺へ。少し離れた場所で待っていたリ

 ストゥルンさんが名を呼ぶ。

 ちょい慌てて彼女の後ろへと付き、そのままキッチンを通り抜

 け奥へと進む。

 キッチンを離れ従業員通路らしきを再び歩き、通路の主流から

 伸びた別の通路へ逸れては───其処が結構長い。

 ゲームの中なので建物内の構造がちょっと特殊なのはままある

 事。ダンジョンの規模とかね。それもまあ“何で地下に降りた

 のに外の二階に出るんだよ。”見たいな余りにもおかしい事は

 あんまし、あんまし無い。ちょっと外から見て中がバカ広い、

 とか。特殊であってもプレイヤーの多くが気にしない程度の物

 が大半。だって此処はゲームの中だし、問題なく遊べるならプ

 レイヤーは細かい事を気にしない。

 ……ただちょっとこの、逸れた従業員通路ってのが。


「(極端に人通りが少ないし、いやに長いし。不気味何だよ

 なぁ。)」


 キッチンから此処まで歩いて来たけど、それまではスッタフNPC

 ともよくすれ違って来た。なのにこの通路へ入ってからは全く

 人気が無く、それに長い通路の途中は扉すらも無い。

 まるで目的地が一つと言わんばかりの作り。それが少しだけ気

 になり。


「あのー……何処に向かってるんすかね?」


 気になったのなら尋ねれば良い。なので俺は今更な質問を前を歩

 く女性NPCに投げ掛ける事に。

 別に他通路と違って此処の薄暗さとか、もうずーっと続く沈黙に

 耐えかねてとか。期待やらで上がるテンションと不安やらで下が

 るテンション。脳内で繰り広げられるアッパー君とダウナー君に

 依るシーソーゲームで心が不安定化してるだとか。

 そんな事は一切は関係無い。無いぞ。


「この前。ルプス様に助けて頂いたおり、かの出来事を私は仲間

 へ話したんです。」

「へぇ?(仲間? てかそれ関係ある話なんだ?)」


 此方を振り返らずに話す彼女はそのまま足も止めず話を続ける。

 あー良かった。これで無視とかされなくて。

 いやそれも大事だけど、あの出来事ってのはテストイベントの事

 だよな。んー……? どういう流れだこれ?


「私はあの出来事を目で見て確信しました。ルプス様は間違いよ

 うもなく勇士であると。」

「勇士っすか?(えー勇者じゃ無いんだー。あれ? そもそも同じ

 意味だっけ?)」

「はい。ですので、是非私達の“上司”にご紹介させて欲しいの

 です。上司は常に勇士を求めていますので。」

「上司……っと言うのは?」

「この館。オリエンタルランプの主人ですよ。」


 主人ですって奥さん。

 確か前、一度調べた限りだと此処の経営者はNPCって事しか分か

 らねーな。店の表に出てくる事も無いし。確認出来るプロフィー

 ルは全部白紙で名前の欄にも記載が無くて、所謂謎の経営者って

 ヤツだね。

 何故そんな人物に俺? と言うかやっぱそれ勇士関係あるの?

 折角異性NPCのお家へお呼ばれかと思えば違って、更には何故か

 謎の経営者NPCに会って欲しいとか言われてしまう。意味不明な

 流れにちょっと頭が混乱している間に。


「さあいよいよこの先です。準備はよろしいですか?」


 気が付くと長い長~い廊下の終着地点。道中に無かった事で久し

 さすら感じさせる一枚の扉前に辿り着いて居た。

 頭の整理もまだだけど、取り敢えず謎の人物に会うだけ会おう。

 これが何かのイベントなのだとしたら進むしか無いし、行きつけ

 の裏が見れるのは正直楽しみ。うん、楽しいが大事だ。


「……。(流れもゲームイベント進めてたら分かるっしょ。)」


 そう考えた俺は一つ頷いて見せた。

 頷きを確認した彼女が扉へ向き直りノックを二回。


「失礼します。勇士の方をお連れしました。」


 ノックした彼女は中からの返事も聞かず扉を開き中へ。先へ入り

 此方を促すので、俺も続いて室内へと歩を進める。


「(ふーん? 中は結構明るくて広いんだ。)


 それまでの薄暗くて無駄に細長い廊下の先にあった部屋は。

 室内は広い間取りで床には如何にも高そうな赤い絨毯何かが敷か

 れてて。天井には眩しく煌めくシャンデリア。そして何よりもこ

 の室内で一番気になる物と言えば───。


「(ベッド?)」


 部屋の中央奥に鎮座する天幕の付きベッド。俗に言うお姫様ベッ

 ドとか呼ばれるタイプのヤツだろうね。

 見るとそれはとても良く出来た意匠が木材に刻まれ、何と言うか

 ファンシーと言うよりもエレガントって感じな作り。ゲームの中

 とは言え素晴らしい出来の品物。ナイスグラフィック。

 俺が完全に部屋へ踏み入ると背後では扉が女性NPCに依って閉めら

 れ、彼女はそのまま部屋の奥。天幕の下ろされたベッドの側へと

 控えては。


「どうぞ此方へ。」


 俺をベッドの前へと呼ぶ。呼ばれたので素直にベッドの前に移動

 する事に。

 近付く途中、彼女が何度かベッドの方へ耳を傾けては頷く仕草を

 見せていた。きっと天幕の中からの指示なのだろう。

 はぁ。てっきり俺は仲良くなったNPCのお部屋で和やかで、何も

 起きないと分かりつつもドギマギタイムで心を潤す。そんな楽し

 める事ばかり思って、思ってたのになー。

 それがまさか今行きつけの酒場の、謎の主人と対面を果たそうと

 しているのだから驚き。……ま。


「(正直此方は此方で楽しいけどね。行きつけの店、その秘密が

 一つ分かるんだし~。この部屋に入ったPCってどれぐらい居るん

 だろう? てかマジでよく出来た作り込みだから、ちょっと緊張

 するな。ゲームの中とは言えそれっぽいNPCにこれから対面する

 ってなるとやっぱ。)」

「ルプス様。」

「あ、はい!」


 ヤバ。緊張がそのまま出ちゃったよ……。恥ずッ。

 俺の緊張にリストゥルンさんは特に気にした様子も無く。


「ご紹介いたします。仮初の宮殿、オリエンタルランプの主人

 にして私達の上司───」

「(口上がそれっぽい! ……ん?)」


 彼女が話す傍ら。ベッドの天幕が独りでに、いや。よく見ればベ

 ッドから床まで垂れ下がる天幕の紐二つを、二匹のネコがそれ

 ぞれ口に咥えゆっくりと左右に引っ張っている。何アレおもろ。

 ネコへと一瞬落とした視線を上に戻せば、ベッドの中を遮る天幕

 が左右へ静かに開いて行く所。

 恐らくだけど主人は女性だと思う。天幕付きのベッドは男性も使

 うだろうけど、ちょっと男性向けのデザインとは思えないから

 だ。ワンチャン無くは無いけど、ここは女主人にベットだ。その

 方が俺が嬉しいからだけどね。

 んー酒場を経営する謎の女主人か。うは。ちょ、ちょっと楽しみ

 何だけど! 高まった緊張は飛んだ思考へと跳躍。想像にて絶世な

 美女を夢想してしまう。

 緊張も今は興奮へと置き換わり。俺はゆっくり開く天幕を、その

 中を期待大大大で見詰め続ける。


「───『ニルス』様です。」

「(お、おおおお!)」


 女性NPCの溜めに合わせタイミングバッチリで、それまでゆっく

 りだった天幕が一気に開かれ!


「良く来ましたね。」

「……。」


 天幕の中。ベッドの上で座り込む誰かは、レースの施されたネグ

 リジェと呼ばれるであろう衣服に身を包んだ姿で。


「乙女に見初められし勇士よ。」

「………。」


 それは風もなく揺れる不思議な緑色の髪を持ち。華奢な身体をし

 た一人の、一人の───“幼女”だった。


「…………。」

「ルプス様? どうかしましたか?」


 それまで夢想した魅惑的で蠱惑的な美人女主人との乖離に。

 呆然とする俺へ声が掛かるも、勝手な期待の大きさ故に耐えられ

 なかった心が応答出来ずに居ると。


「良いのです。彼は私の姿に見惚れているのでしょう。

 それは仕方ない、仕方のない絶対的事情です。」


 ロリっ子が話す。ふむ、ふむふむふむむむむむ。

 どうやらあのロリっ子が女主人で間違いない様子。


「さあ。存分に私の、万象から隔絶された美に見惚れてくだ

 さい。」

「ああ、はい。うっす。」

「───何か、何か冷めてませんか?」

「いえ大丈夫っす。全然、ロリが出てきたからって冷めてないっ

 す。」


 俺はてっきりとんでもなく威厳たっぷりな大人の女性が出てくる

 ものだとばかり思い。勝手にガチガチに緊張していたけど、出て

 来たのはロリ。俺の緊張の糸は一気に緩み、たわんではどっか行

 っちまった。さらば緊張の糸、さらば絶世の女主人。


「ろ、ろり。んん、良いのですよ隠さずとも。この完璧な姿に見惚

 れていたのでしょう? そうに違いないのでしょう? 絶対そうで

 す。」

「いや自分。生憎ロリは趣味じゃないんで。すいません。」


 ゲームやアニメでの話だけど、ロリっ子や幼女よりも俺はやっぱ

 り大人な女性の方が好みだ。ロリが悪いとは言わないさ。ただ好

 みのジャンルが違うんだよなぁ。まあ確かに? このロリっ子に

 はロリらしからぬ品、見たいなモノがあるけどさ。それでもロリ

 はロリ。守備の範囲外。


「そ、そう。でもね、こう見えて実は貴方の何倍も長生きなんで

 すよ? だからただのロリとは───。」

「それってロリバッ───ん゛ん゛。へーそうなんすねー。以外

 っす。」

「……。」


 おっとやべ。つい何時もな口調で喋りかけた。相手がNPCとは言

 えロリババア呼ばわりは初対面で失礼だろ。初対面じゃなくて

 も失礼かな? まそれは良いとして。

 ロリっ子が米上を器用にピクつかせてるの見るに、不味った

 なぁ。緊張の弛緩からつい口が緩んだ。つかNPCのAIってロリバ

 バアを理解するってのも凄いな。


「あ、あ、あのニルス様! 例のお話の方を。」

「………そうでしたね。」

「(ありがとうリストゥルンさん。)」


 不穏に傾きかけた空気が彼女のお陰で持ち直し。


「貴方を此処に呼んだ理由(わけ)をお話しましょう。」

「(お。いよいよ本題か。)」

「貴方は以前の黄昏時に、私の乙女を助けたらしいですね。」

「はい。(黄昏時?)」

「乙女を手助け出来る程度の武を持ち、話では心の方も素質がお

 有りだとか……。心の方は疑問ですけどね。ね。」


 言葉と共に訝しげな表情を此方に送るロリっ子。そう言われても

 って感じだけど、此処は黙ってた方が無難な選択っぽい。


「……まあ良いでしょう。貴方に私の派閥へ入る事を許してあげ

 ます。これからは私の為に頑張りなさい。」

「───はい?」

「? 聞こえませんでしたか?」

「いや聞こえてました。派閥、ですか?」

「そうです。」

「えっと……。そーですねー………。」


 派閥。ってのが何か分かんね。

 いや言葉の意味から考えれば何かの集団って事は分かるんだけ

 ど、それがどう言う集団か分からないのが困りモノ。

 此処でそのまま“入ります”って言うと、俺は良く分からない集

 団に身を置くって事になるんだよな。これギルドとか連盟って話

 じゃ無いとは思う。それならそれでちゃんと確認が此方に来るも

 んね。それが無いって事はー……これ、物語の中。イベント中限

 定での話しになるんだよね。うーんそれはそれでまた困った。


「(このゲーム、こう言う大事な所の選択をPCに委ねてくるんだ

 よなぁ。良い所なんだけどさ。)」


 多くのプレイヤーはイベントの中だけなら良いって思うかも知れ

 ないけど、エリュシオンだとイベントの進行で誰派とか雇われと

 かってポジションに就くと、それ関係で友好や敵対ってのが絡ん

 でくるんだよ。NPCとか町規模で。

 対立する二つの何方かに所属したら、もう一方から敵視とかされ

 ちゃったりーとかね。そう言うのが面倒な俺は基本中立系以外の

 モノは尽く避けて来た。面倒だし、敵対したくないし愛されたい

 しで。

 もしこのイベントが前のテストイベントからの実装なら、俺が多

 分今最速攻略っぽいからなー。情報も他に出て無いだろ。

 だとすると誰と、何処と関係が変化するか未知ってのが怖い。

 これと似たようなイベントがどっか他にあるとして、それらと敵

 対するって事にも成りかねない話し。……ん? もしかしたら別

 の場所のイベなら美人女主人もワンチャンって事あるかも? あ

 あでもここ蹴ったら折角のリストゥルンさんとの中が白紙になっ

 ちゃうかも知れないのか。んーんーんー……。よし。


「すいません保留で。」

「!?」

「───は?」


 答えに驚くリストゥルンさんとロリ。

 別に今直ぐ決めなくとも良いっしょ。後で情報漁ってから決めた

 方が賢いって絶対。そう考えた俺は選択の保留を告げ。


「て訳で。ちょっと考えたいんで酒場の方に行って来ます。」

「え?え?え? あ、ああのルプス様!」

「いやー大事な事はもうちょっと時間を掛けて決めたいのですよ

 俺。ハハハ。」


 制止しようとするリストゥルンさん。生憎止められる訳には行か

 ないのだ、リストゥルンさんの、その好感度の為にも。


「んじゃ返事はまた後日───」


 俺は踵を返し部屋の出入り口、ドアへと向かいその取っ手を掴も

 うとした。その瞬間。


「ダメよ。」

「ほあ!?」


 扉が一瞬で消えてしまった。後に残ってるのは他と一緒の壁紙の

 壁だけ。扉は、この部屋に唯一あった扉が消えてしまった!

 驚きながら後ろへ振り返ると。


「一体誰が、帰って良いと許したのかしら?」

「ニルス様、ニルス様どうか穏便に!」


 ベッド中央から此方を睨むロリ。雰囲気がそれまでと違うロリっ

 子。いやそれよりもアレは不味い、“今のは”不味い!


「あーそー……の。(やべえぞ、やべえってコレはさあ!)」


 やばい。兎に角今直ぐ逃げないと不味い! こんなに“やばい”

 連中だったとは思わなかった! クソ、とりま何処でも良いから

 跳んで逃げよう! 俺は適当な場所への転移を試みる。

 別の場所へと跳ぶため、体が光に包まれるエフェクトが巻き起

 こる、が。


「はぁ……。」


 溜息混じりのロリが人差し指を此方に差し向け、弾くような動

 作をして見せると。


「ぐぃ!?」


 身を包みかけた転移の光が霧散、そして俺の体を衝撃が通り抜け

 る感覚。突然の衝撃に思わず片膝を着いてしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ。(何だ今の、攻撃か? でも何か攻撃って

 よりも弾かれた感覚って言うか……!)」


 緊張から早くなった呼吸を正し。膝立ちになって居た体勢からゆ

 っくりと立ち上がり。


「……今俺に“何を”した?」

「……ふふ。」


 尋ねるとロリっ子が薄く笑みを浮かべ。


「わたしの許しも無く何処へ行こうとするから、それが“出来な

 い”様にしてあげたの。それだけよ。」

「へぇー……(クソ! マジじゃねえか! 何処にも跳べない!)」


 コッソリ転移を試してみるけど、謎の転移阻害で跳ぶ事が出来な

 いらしく、オマケに解除時間の表記が無い。つまり今の俺は逃走

 手段を完全に絶たれてしまった訳だな。此処までやるかよ……。


「オマエは勘違いしているわ。」

「何をっすかね。」

「オマエ自身に選択の余地がある。って所がそもそも許されな

 い不遜なの。」


 ベッドの中央から此方をロリっ子が睨み。


「わたしは『派閥に入る事を許してあげる』って言い方をしたけど

 も、それは乙女に配慮した言葉なの。オマエ“に”では無いの

 よ。」

「……。」

「さて。物を知らないオマエに説明してあげるわね。わたしが、

 このわたしが一体誰なのかって事を。良い事? わたしはね──

 ─」

「知ってるさ。何者かぐらい。」

「!」


 建物への干渉、期限の無い転移阻害。こんだけムチャクチャやら

 れや誰だって気が付くさ。


「少しは物を知ってるのね。言ってみなさい。」

「ああ言ってやる。テメーは、テメーは“チーター”だあッ!」

「「───え?」」


 ロリっ子とリストゥルンさんが同時に声を零す。

 信じたくない事だが、この二人は恐らくチーター(不正行為利用者)

 対戦ゲーは勿論人気なゲームには嫌な存在として付き纏うあの厄

 介者たちだ。

 俺がそうだと思った理由は二つ。一つはさっきの扉消し。

 仮想ゲーム世界で建物へ傷を与えたり、扉を壊したりって事は出

 来なく無い事だ。でも扉の耐久を減らして壊すのと、扉を消し去

 って壁にするのは全然違う。そんな建物の構造を変える芸当は、

 PCもNPCもその権限を大きく越えてやがる。

 二つ目は制限の無い転移阻害。

 ボス戦中とかの特別な場面では仕様としてあるけど、転移阻害と

 して使用されたモノに時間制限が無いのはおかしいすぎる。

 そんなの、無限にPCを拘束出来ちまうじゃねーか。

 俺もグレーな事をやってるが、暗黙の技術利用と完全な不正利

 用。どっちも悪いが質で言えばチータの方がずっと悪い。それも

 黒の領域以外に居るヤツ何てのは特にな!


「ハ。チーターとはね。だから経営者の欄を秘密にしてたのか。

 納得。」

「いやそれはめんど……じゃなくて。え、わたしはちーたーじゃ

 ないのよ?」

「そうです。私もニルス様もチーターではありません!」

「リストゥルンさん……。」


 庇うって事は彼女もチーターと言う事になるのだろう。

 て言うか、主人がチーターって事はこの昼行灯全体がそれの居

 城って事? うわメッチャショックー。


「俺はそうじゃないって思いたかったです。」

「ちちちちち違いますっ! 本当に、決してチーター等ではあり

 ません!」

「そうよ。わたしは神なんだから、そんな者と一緒にしないで欲

 しいわ。」

「そうです! ニルス様は正真正銘の神何ですよ!」


 神! 神だってさーあ!


「あー居る居る! チート使ってイキってる奴は皆自分を神だと

 思ってるんだよなぁ!」

「「!」」

「はぁ。今思えば黄昏時ってのは、メンテ中の暗喩で? そん時

 に見掛けた俺をハッカーか何かと思っちゃったとか? だとした

 ら光栄だけど。俺はハッカーじゃ無いし、ましてチーターでも無

 いから。だからアンタ達の仲間にはならねーよ。」


 逃げられないと成れば肝も据わってしまう。それに俺はこんな状

 態でも一ゲームプレイヤー。チーター許すまじ。ああもうこうな

 ったら言ったろ言ったろ!


「それにどうせチート使うなら、もっとロリじゃなくて大人なの

 お姉さんに成って来いよ。何だよロリババアって!」

「!!?!??」


 キャラメイクに自信があるのか今の一言が効いたっぽい。


「ふ、ふふ。ふふふふふふふ。」

「! ニ、ニルス様?」


 ロリっ子が突然笑い出す。嬉しいじゃなくて怒りの方で。

 チーターの神経逆撫でてやれた事に、俺は満足。だ、け、どー。

 ちっとやべーかなこれ? チーター怒らすのは流石に不味ったか

 や? いやでもまあ何が出来るって話しだろ。リアルなオレに被

 害は皆無だし、やりすぎたら運営に密告だしで。

 出来てもログアウトの出来ない俺をこのまま無限拘束するぐら

 いっしょ。……あれそれヤバくね?

 いやヤバすぎるでしょ! なに、俺もしかしてこいつらが飽きる

 まで此処で拘束されっかも知れないのか! うわどうしよ、今直

 ぐ謝った方が良いかな? でも俺がログアウト出来ない事知らん

 だろうし……。此処は黙って様子を見て、適当に飽きさせてこ

 の場から開放してもらう方向で行こう。うん。


「ふふ……。はぁーあ。」


 怒りの笑みが一段落したロリっ子が此方を睨む。

 ベッドの中央と距離があるのに、その瞳からは射やられそうに成

 る圧を感じる。まあ全然負けないけどね、俺は! イキリチータ

 ーが何だってんでい! おおう!?


「全く。何処の流れかは知らないが、その癖随分な口をわたしに

 聞く。乙女が見初めたとは言うけど───その実力。わたし自身

 で直々に測ってやろうじゃない。ねえ?」

「ニルス様、それは余りにも───」

「煩い。」

「ッ! 申し訳ありません。ですが……。」

「オマエの仕事はもう終わった。此処から先はこれと二人で話

 す。」

「!? おおお待ちくださいニル───」


 威圧的な雰囲気のロリっ子が、リストゥルンさんの言葉を遮るよ

 うにして。指を一つ“パチンッ”鳴らす。


「ふお!?」


 すると眩い光が一瞬強烈に瞬き目が眩む。顔を背けた俺は、ゆっ

 くり閉じた視界を開いて行く。


「………は?」


 光にビビったけど、光はもう収まっていた。代わりに、開いた視

 界に飛び込んで来た光景は異常な物だった。

 さっきまで中世貴族が使ってそうな豪華な部屋の内装は其処に無

 く。辺りにあるのは真っ白で、真っ白で、真っ白だけ。何処まで

 もく白い空間。


「ようこそ。私の“広間”へ。」





 驚く俺へ声を掛けたのは、同じ空間、世界に立つたった一人の誰

 か。あの一人の少女だけが。俺をただ睨んでいた───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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