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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第一章
3/65

第二話 俺のソレ

2018/12/04 本編への大幅な加筆修正。

 ───記憶を巡りに巡り。時間は現在へと帰結した。




 何処までも続いていそうな、緑溢れるジャングル。

 そんな景色が見えるバルコーではスーツの男が一人。項垂れていた。

 やがて暫くの間項垂れていた男はゆっくりと立ち上上がり。


「はぁ……。ちょっとは落ち着いたなー。」


 ほんと。人間って凄い取り乱し方するね。

 思い返す事もしたくない程、病的な取り乱しっぷりだったよ。

 もし誰かに見られていたら間違いなく恥ずか死する程の、な。はぁ。

 叫び散らして幾分か落ち着いた俺は、何の用も無いバルコニー

 から部屋の中へと戻り。何時もの定位置である、

 部屋の中央に置かれたソファへ腰を下ろす。


「どーするべきかなぁ……。どーしたら良いのかなぁ……。」


 頭をソファの背に預け、高い天井を仰ぎ見ながら独り言ちる。

 俺は今現在。何故かは知らないが、遊んでいたネットゲームから

 ログアウトが出来ない。VR機器の故障か何なのかは分からないけど、

 兎に角ログアウトが出来ないのだ。

 それの意味する所は現実へ帰れないって事で。まるで漫画や

 アニメでよく聞いた展開だ。

 今ほどVR技術が進歩するずっと前から、仮想現実に閉じ込められる

 何て話は沢山あった。勿論アニメに映画、都市伝説とかの創作物

 としてだけどね。しかしいざその技術が現実に普及してみれば、

 仮想現実に閉じ込めれるなんて事件は一つも置きた事は無い。


「そりゃそうだよ。安全じゃなきゃ誰も買わないし遊ばないもん。

『遊んでたら偶に意識が帰ってこない場合があります。』とか

 注意書きがあったら、怖くて誰も買わないよー。」


 仮想現実から帰れないとかって話は、所詮創作物の中だけの話。

 沢山の良く分かんない安全装置と悪戯で使えない通報機能。

 それらが備わったお高ーいVR機器。安全安心なバーチャルライフを貴方に。

 なのに。それなのに。俺は今現在このネットゲームの中に

 閉じ込められている。多分意識だけね。


「世界で初めて仮想現実に閉じ込められた人間か。

 取材来ちゃうなー……。じゃないよ!」


 一人ノリツッコミとか生まれて初めてした。しかも仮想世界で。

 いや分かってる。勿論分かってるって。

 自分の身に起こった都市伝説レベルの現状に、最早頭がついて

 行けてないんだ。だってもう怖すぎて一杯一杯だもん。

 駄目だ。このままじゃ駄目だ。また頭がおかしくなる前に、

 現実逃避するまえに一旦冷静になろう。

 そう。こう言う時は冷静に物事を考える事こそが大事。

 考えろ俺。何が今一番大事な事か。今大事なのは、それは。


「やっぱ現実に帰る事。それだよな、うん。

 でもどうやって帰れば良いんだ? ログアウト

 出来ないって言われると、一プレイヤーの俺には

 もうどうして良いやらだし……。取り敢えずゲームの

 運営にでも助けを求めれば良いのかな?」


 このゲームの中に閉じ込められているのだから、

 助けを求めるな運営に連絡。で良いはずだ。

 でも何と言えば?『ハロー運営さん。どうやら僕は

 ログアウト出来ないんです。意識が仮想に閉じ込めら

 れてるんです。助けてくださいお願いします。』って?

 かなりイっちゃってる発言だけど、事実だから仕方ないよね。

 うん。この際体裁は気にしない事にしよう。こっちは

 まさに非常事態な訳だし。俺個人じゃ無理でも運営とかなら

 なんとかしてくれる、はず、多分、きっと。

 と言うか。非常事態と言えどログアウト出来ない事以外は、

 何時も遊んでいるのとまるで変わらないこの状況。

 俺はそれに慣れて来てしまった。人間最大の能力。

 慣れが発動しているのだ。これは不味い。

 早く現実に帰らないと非常に不味い、気がする。

 思えば時間も結構良い時間で、何時も寝るお休みタイムが徐々に迫っている。

 よし。とっと運営に連絡してさっさとどうにかしてもらおう。

 んですぐ寝て。朝イチでこのVR機器を勧めた家電屋の店員を訪ね。

 滅茶クソに責めよう。何が『安全性ならこれ一択です。』だ! ってな。

 殺るべき事を思い立った俺は、インターフェースを空中に開く。


『失礼します。旦那様。』


 運営への緊急SOS連絡を、震える手でいざ押そうとソファを立つと。

 長い黒髪に女袴姿の女性。マイサーヴァントの『ノギ』が声を掛けて来た。

 まあ話し掛けて来たと言っても、彼女の中に誰が(プレイヤー)居る訳じゃない。

 彼女と言うか『コレ』は、全ゲームプレイユーザーが持つ事の出来る

 NPCの様な物で。マイサーヴァントと呼ばれるゲームコンテツの一つだ。

 用途は自室の管理やら何やらと色々あるがまあ、そんな物はメインでは無い。

 このコンテツの真髄は自分の趣味丸出しであれやこれやと弄くれる事だ!

『それならキャラメイクでやったじゃん。』何て事を言う奴思う奴も居るが、

 あれは自分の半身で。此方は趣味とか我が子とか、全然別物。

 勿論プレイキャラクターを愛娘のとして愛でる者も居るが、それならそれで

 娘がもう一人増える喜びを味わうだけの事じゃあないか。

 このマイサーヴァントは性別から容姿に種族。装備品から話し方等など。

 実に多種多様なカスタマイズが可能。その幅は頭の可笑しいレベルで、

 広大と呼ぶに相応しい。

 勿論無料でも十分楽しめるけど……。禁断の力。“課金”で

 その幅は更に広がり、まさに無辺と至る。

 ああ、一体どれだけのプレイヤー達が。沼を自ら広げては

 喜んでその身を投げて行った事か。

 かく言う俺も幾ら課金したかは思い出したくない程だ。

 好みの声帯の為にリアルマネーを飛ばし。着せたい

 洋服の為にゲーム内通貨も飛ばし。おっと、コレ以上は

 思い出すのは良くないな。

 課金したら絶対に振り返らない事。これが一番大事。

 ふ。まあお陰で? うちの子は至上の出来栄えだけど? んっふっふっふ。


『旦那様。』


 おっとと。敢えて残した電子音混じりに、ノギから再び声が掛かる。

 思わず最高の出来のノギに見惚れてしまったが。うちのノギは

 用も無いのに話し掛けて来る設定では無い。

 つまり何かしら用があるのだろう。とっと返事をして内容を聞くべ。


「どうした? ノギ。お前の旦那様は今人生最大の危機的

 イベントに直面しているんだぞ。」

『指定されたエリアにて。ボーナス効果の発生を確認しました。』

「あー……。」


 俺の危機もなんのその。ノギは伝えるべき事をきちんと伝えて来た。

 このゲームでは極稀に、特定のフィールドエリアに何かしらの

 効果アップボーナスが掛かる事がある。それの効果とエリアは

 毎回ランダムで決まり。俺は自分の欲しい物があるエリアに

 効果が乗った時、マイサーヴァントには知らせる様に設定して置いた。

 そして今。俺が欲しいアイテムが落ちるエリアに補正が

 掛かっているらしい事を、ノギがお知らせに来た訳だ。

 しかし今は流石にゲームで遊んでいる場合じゃあないよね。うん。

 今はとんでもない緊急事態だし? それにどうせ、果てしなくどーでも

 いい効果だろ。経験値アップとか塩っぱいタイプのさ。それよりも自分の命の

 方がずっと大事大事。だから今回はパスしよっと。……でもまあ。


「因みに掛かった効果は?」

『効果内容は。アイテムドロップ率上昇。です。』

「まままぁ~じでぇ!?」


 ランダム効果の中でも全プレイヤーにとって一番価値がある、ドロップ率

 上昇効果か! 俺は開いていたインターフェースのSOS発信画面を閉じ。

 急いで指定エリアをチェック。効果の掛かったエリアはと言うと……。

 ほほう『蠱毒の山岳地帯』とな。ん? 蠱毒の山岳地帯!?

 おおお俺がずっと欲しかったレアアイテムが眠る場所じゃないか!

 命が大事。命は大事。でも───


「俺は今直ぐどうにかならないけど、このレアアイテムは今しか掘れない。

 つまり重要なのは───(レア)!」


 欲しい物があるエリアにボーナス効果が掛かる事。更には内容が

 ドロップ率上昇なんて、今後二度と無いかも知れないレベル。

 更に更に! 俺が一番欲しい物の眠るエリアに掛かった事はこれが初めて。

 狩らねば。これは狩らねばならん!

 俺はドロップ率上昇アイテムやら何やらのセットを倉庫から引っ張り出し。

 堀作業用の装備とアイテムを手早く揃え、指定エリアへと向かう。


「このチャンスは逃せねー!」


 何だか今日は拾える気がするんだよなぁ。

 あ、それは誰もが掘る前に思う事か。ふふ。

 いざゆかん! 狩場へ!

 奇跡的なボーナス効果にぶち上がるテンションのままに、

 俺は自室を後にした───


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ───怒涛の掘り作業を終え。俺はホクホク顔で自室へ帰還。

 部屋に入り、ソファへ優雅に腰掛け。


「むっふのむふふ。」


 いやー狩った狩った! 狩り尽くしたと行っても良い程には狩ったなー。

 マジでひっさしぶりにガッツリ狩ったは。俺は一体何時間

 ぶっ続けで狩っただろう? ログアウト出来ない事と何か

 関係があるのかは知らないけど。何か疲れも知らずにひらすら

 狩りを続けられたんだよねー。トイレ休憩も小休止も無し何て、

 ほんと何時ぶり? ちょっと無理しすぎちゃったかな……。

 でもまあそのお陰で? 俺は遂に、遂に!


「手に入れたぜぇ……。

 『トライバレル』をなぁ! ヒャー格好イイー!」


 手に持った戦利品に大興奮して騒ぐ俺。

 仕方ない、仕方ないって。だって欲しかった装備だし。

 それにこれめちゃめちゃ格好良いもん。テンション抑える方が無理。

 三角に伸びた銃身に、三つの銃口! 近未来的フォルム。

 な・の・にだ、撃つと薬莢が出る仕様なんだよねーこれ。んー素晴らすぃ。

 しかもこの見た目で三属性を同時に撃てる。とか化物

 的性能もまた良しの良し。

 ああ、どれをとってもレアアイテムに相応しい一・品っ……。

 実装当時。これをに手に入れるために俺が一体どれほど

 エリアに通い詰めた事か。思い出されるは敗北の日々。


「本当に長かった……。」


 懐かしき思い出達が頭を過る。心を無にしてひたすら狩り続けた日々。

 ドロップ率上昇アイテムを使用しては籠もり、

『あれ? 俺アイテム使ったよな?』の台詞で狩りを終える。

 他の狩りの誘いを断ってはまた籠もり。メンテ明けに掘ると

 レアが出やすい等と言うジンクスを信じた事もあった。

 だけどそれでも、それでもドロップする事は等々無かった……。

 激渋のドロップ率に目玉が“ソレだけ”のエリア。

 俺と同じく欲しくて狩場に通った者もその過酷さ故、

『何れ入手方法が増えるだろう。』と呟いては一人、また一人と

 狩場を去って行き。実装早々から人気の無い狩場と化しては、

 いつしかエリア名も“蠱毒”の山岳地帯では無く“孤独”の山岳地帯に

 見えた事か。……いや実際皆孤独孤独って呼んでたな。

 後、掘りを諦めた奴が『孤独死しました。』とか言うのが、

 結構笑えたんだよなぁー。


「俺も本気で頑張ったけど、結局ドロップしなくて最後は孤独死。

 狩場を去った敗北者の一人……。か。」


 出るまで続けると意気込んだ俺だったが、色々あって掘りをやめた。

 そして通った時間や掛かったコスト何かが重く伸し掛かり、

 暫く立ち直れなかったっけかねー。懐かしい。本当に懐かしい。

 だが俺は今、長年欲しかったそのアイテムを!

 市場にも出回らず半ば伝説と化していた、コレを!

 遂に手にしたのだ! やり遂げぞー!

 彼の地を去った数少ない同胞達、狩場に埋もれた孤独死した戦友達。

 俺は彼らに声高々に叫びたい気分だよ。あ、ちょっと達成感で泣きそう。

 そんなルンルンでウルウル気分の俺へ。


『おかえりにゃん。』


 別室で作業していたらしいマイサーヴァント、ノギがお帰り

 メッセージを再生する。我が家は見送りもお出迎えも設定せず。

 自室で自由に行動させては、帰って来た時に初めて顔を合わせた時に

 メッセージを再生する設定だ。その方がランダム的で面白いからね。

 俺は話し掛けて来たノギに。


「ただいまにゃ~ん!」


 何時もより高いテンションで返事を返す。此処は俺だけの自室。

 だから何ら恥ずかしい事は一切無い! あ、そうだ。丁度良い

 タイミングで話し掛けて来たノギに、俺は戦利品たるトライバレルを

 武器部屋に飾るよう指示を出す。


『畏まりました。』


 指示を受けたノギは了承として。静かにそう言っては、

 品のあるお辞儀を魅せた後。俺から渡されたトライバレルを手に

 別の部屋へと移動して行く。銃を抱えるノギを見送り。


「ふ。今日の俺は運がカンストしているな。」


 はー本当に今日は素晴らしい一日。念願のトライバレルは拾えるし、

 あの巫山戯たイベントもクリア出来た訳だし。

 あ、もう日付が変わったからそれは昨日か? いやいや。

 寝るまでが今日だからね、今日。んん?


「………。」


 時計を見れば、時刻は十七時頃。俺がこの自室を出たのは

 “昨日の”二十三時頃で、今が十七時だから───


「デヅヤ゛ジジャッッダヨ゛ォォォオオオオウ゛ェオエ゛ェ!」


 ソファの上で頭を抱えては嗚咽混じりに叫ぶ。

 俺は本当に疲れを知らなかった。狩れば狩るほどテンションは

 上がりに上がり。単純作業の繰り返しは俺を無の境地へと導き。

 狩り中の俺は最早お目当てがドロップするまで止まらぬ

 マシーンと化していた。BOT通報されても可笑しくないレベルでね。

 そして今の今まで、『実は実装されてないのでは?』

 そんなレベルのレアを掘り当て。かつて無い興奮状態、だったが。

 時計と言う現実への扉を前にしてようやく、自分が

 仕出かしてしまった事を認識した。

 ログアウト出来ない異常事態のままでのほぼ徹夜。


「お、おお俺の。俺のかか、かッ!かッ!」


 単語を口に出来ない。ほぼ一日近く放置された

 “ソレ”は、果たして今どうなっているのか?

 一体何をその場で。その場で盛大に。


「はぁ!はぁ!はぁ!」


 “ソレ”の事を考えると。目は冴え、呼吸が荒くなる。

 此処に居ては確かめる術の無い“ソレ”の現状は───


「───ぁぁぁああああああああ!」


 俺は叫び上げて自分の思考を強制停止。そのままソファを

 立ち上がっては身支度を整え。


「わあああああああああ! わあああああああ!」




 叫び散らしては“孤独”へと駆け出す───

物語を最後までお読みただきありがとうございます。

この物語を貴方様が楽しめたのであれば、幸いです。

最後までお読みただき本当にありがとうございます。

心からの感謝と御礼を此処に。誠にありがとうございました。

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