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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第二章
24/65

第二十一話 別の恐怖が来た

 ───人ビトが行き交う大通り。道の真ん中では睨む男性と睨ま

 れる青年。そして、そんな二人を無機質な目で見詰める女袴姿の

 女性姿。




 V(バーチャル)R(リアルティ)。その技術の発展は凄い物で、こうしてVR技術を惜

 しみなく使われた仮想世界は、正に見た目だけなら本物とそう変

 わらない。勿論物だけでは無く其処で遊ぶPCの作り込みも凄く、

 だからこその恐怖も存在してる。例えば。


「楽しい一日だったか?」


 目の前の相棒が、怒りに狂っているのが表情だけで見て取れてし

 まう、とか。


「うん……。」


 蛇に睨まれた蛙如く、象の足が降り迫る蟻よろしく。身動き一つ

 出来ないぜぇ……。

 うぉぉこんな時マイサーヴァントが空気を読んで助けてくれたら

 なああああ!

 俺は無理な願いを胸に懐きながら、暫く相棒の苛烈な視線に晒さ

 れ続け。暫くそれが続いた後。


「………っ。」

「あ、相棒っ!?」


 それまで睨みつけていた相棒が、突然此方を抱きしめて来た。

 俺の視界には『ハラスメント行為として通報しますか?』等の表

 示が出てくるが、それど頃じゃない。


「相棒、相棒さん?」

「………。」


 声掛けにも反応を示さず、その逞しい腕で俺を抱きしめ続ける相

 棒。いや逞しいのは関係ない、関係ないぞ俺。


「もしもーし。な、なあ。なあってばさ。」

「………ふぅ。」


 二度目の呼び掛けでやっと相棒から反応が帰って来た。

 相棒はそのまま一息吐いては、俺を抱きしめからゆっくりと開放

 しては。


「お前が……。ルプスが無事で本当に良かったよ。」

「! ……。」


 静かな声で俺の無事を喜んでくれていた。

 離れた相棒の顔は安心しきった表情で、それを見て漸く俺も気が

 付けた。

 相棒は俺の事情を知っているからこそ、昨日のアレが一方的な別

 れで、もう二度と会えないと思っていたに違いない。だからこそ

 こうして会えた事が嬉しいんだ。

 その様子を見れば、友達が消えて居なくなってしまう事への、恐

 怖や絶望。それらを相棒は独り抱えていたんだと分かる。


「その。ごめん。……図々しい話だけど、許してくれないか?」


 友達の信頼を裏切る別れ方。それをしてしまっただけに、許され

 なくとも仕方無い。


「許して欲しいか?」

「勿論。最低な事したちゃったけど、許して欲しい。」


 でももし出来る事なら、俺は相棒との関係を修復したい。

 そう思い飛ばした言葉に相棒は瞳を一度閉じて。


「なら二度とあんな別れ方はしない。そう誓え。」

「分かった。誓うよ。」

「なら許す。」

「え? いや、そんな簡単に許して良いのか?」


 あっさりとした許された事に驚き尋ねると、相棒は閉じていた瞳

 を開けて。


「簡単じゃない。許したい気持ちと許せない気持ちが打つかって

 せめぎ合ってるんだからな。正直さっきまで、違うな。昨日お前

 と別れてからずっと憤りが渦を巻いて巻いて……。」

「……。」


 相棒は一度深呼吸をしてから。


「だけど、居ないと思って、会えないと思いながらも此処に来た

 時。フレンドリストに名前を見付けて、跳んだ先にお前の姿が見

 え、こうしてまた話せたら……。何だか嬉しさや喜びの方が勝

 って。そしたらまあ、な。」

「相棒……。」

「こうして言葉にして考えてみると、お前が言ったように簡単に

 許してしまったのかも知れないな。だけど、それで今は良い

 とすら思えるんだ。」


 穏やかに笑う相棒の顔が、何故か俺には恥ずかしくて直視出来

 ない。何て優しく笑うんだよ、相棒。

 そんな笑みを浮かべる相棒は俺を見詰めながら。


「もう一度ハグして見ても良いか?」


 等とぶっ飛んだ事を言いながら、手を軽く広げ此方に迫る。

 俺は咄嗟に両手で待ったの姿勢を取りつつ後退し。


「バッ! 何でだよ!」

「いや他意は無い。ただ、抱きしめるとお前の存在をしっかりと

 確かめられるからな。駄目か?」

「ダメに決まってんだろ! おお、男同士の友情的抱き合いは

 一回切りなの! それに、するにしたってこんな人目が沢山ある

 場所ではやらんっ!」


 そう。俺が相棒に抱きつかれたのは町の大通り。

 メンテ開けと同時になだれ込んだPC達が行き交う公で、大の男が

 二人抱き合うシーンを、二度も垂れ流しにしたくない。ただでさ

 えさっきの一度だけで、俺の囁きには『ナイスガイ。』や『良い

 よもっと見せて!』『ホホ、ホホホ、ホ。』等の言葉が届いてい

 るのだから。……一つ人語じゃなかったし。


「そいつは残念。なら次は人目のない時にするか。」


 何て言いながら笑う相棒。それと同時に湧く大量の囁き通知。


「(あー煩い煩いっ! 此奴楽しんでるのか? いや天然何だよ

 なあこれ。)」


 長い付き合いなので、相棒のこう言う態度は初めての事じゃ

 ない。だからまあ慣れてる俺は届いた雑音通知を全て無視し。


「取り敢えず、取り敢えず此処から動こう。」

「? 分かった。」


 疑問気な相棒を連れ、俺はその場を離れる事に。

 行き先として選んだ適当な場所は何時もの酒場、『昼行灯』だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 大通りから気持ち急ぎ目で離れ、行き付け酒場の昼行灯へ。

 店に入る前にマイサーヴァントのノギへ自室へ戻る指示し、相棒

 と二人で店内へ。

 店内へ入った俺は空いていた壁際の席へ腰掛け。


「ったく。変な通知のオンパレードだったよ。」

「そうだったのか?」

「相棒の方には来なかったのかよ。」

「ああ。自分は知り合いと運営物以外、全て拒否の設定にしてあ

 るからな。」

「納得。」


 そうして適当な話で一息を吐いた所。


「それで。あの後どうなったんだ?」


 相棒が昨日別れた後の事を尋ねて来た。


「そりゃ気になるよな。」

「当然だろう。」

「んーあの後な───」


 此方の事情を知っている相棒へ、俺は昨日別れた後の事を。自室

 に籠もって消滅の恐怖に気が狂いそうになり、身辺整理でその時

 を待って居た事を赤裸々に話し。

 メンテが始まっても何故か自分は消滅せず、生還の喜びから上が

 りまくったテンションのまま、町へ繰り出した事も話した。そこ

 で一度相棒は。


「お前なぁ……。」

「分かってる、分かってるから。でも俺消滅すると思ってたんだ

 ぜ? そっから奇跡の生還はテンションも有頂天だろ。」

「だとしてもそれは……。捕まって人体実験云々の恐怖は何処に

 行ったんだよ。」


 呆れられたしまった。危機感の欠如も仕方無い。だって人間最大

 にして最低の能力、慣れには俺も勝て無いっ。とは口に出さず

 心の中の弁明として。


「でもマジで良かったぜ。メンテで消滅しなくて。」

「そもそも自分は、消滅する可能性は低いと思ってたぞ。」

「へ? そなの?」


 相棒が以外な事を話す。どういうこっちゃ。


「ああ。メンテで行われるのはPCの強制ログアウトであって、何

 もキャラのデリートじゃない。肉た……っと、ログアウト先が無

 いお前の場合は、何処へログアウトも出来ない。だから処理出来

 ずその場に留まるんじゃないか、ってな。」


 言われて見れば確かに。


「おいおい。それなら教えてくれても良かったじゃん!」

「これは自分の希望的観測で願望にも近い考え方だったし。

 エラーコードに捕まって、永久に何処かへ囚われる可能性もゼ

 ロじゃないとも思ったしな。」

「恐ろしい事言うね君。」

「だから話すか迷ってたし。……何よりも、それを話す暇も与え

 なかっただろ。」

「そでした。すいません。」


 相棒は苦笑いを一つ浮かべ。


「だから、その場合は自室に籠もって“ジッ”としてろって言う

 積もりだったんだがな。」

「冒険に繰り出しちゃったぜ! へへ!」

「『ちゃったぜ。』じゃない。まあいい、それでその先は?」

「おう。いやぁすげー面白い事があったのよ。まず大通に跳んだ

 けどさ───」


 再びメンテ中に起きた出来事。テストイベントらしきに遭遇した

 事を話す。だけど話が進むに連れ相棒は強い呆れ顔へ変わるが、

 気にせず最後まで話し続ける。


「───って感じで。その初心者に色々教えてた訳よ。」

「そいつはNPCだったんだろ?」

「うい。」

「だとしたら相当に変な設定だな。」

「なー。いやぁ冒険初心者って寄りも、アレはもうゲーム初心者

 に近かったね、うん。」

「試験的イベントに参加とは……。全く危ない事しやがって。

 テストランに監視が付いてなくて良かったな。」

「本当にそう思う。一応偽装してたけどね。」


 見付かったら見付かったで一応策は考えてたけど、実践の機会が

 無くて助かった。


「でもこれで、お前はメンテを越えられるって事が分かった

 訳だ。」

「俺は不滅だぜぃ。」

「ふ、ああお前は不滅。そう在ってくれよ。」


 くだらない事で笑い合う。ああこう言う事がまた出来る、何て嬉

 しい事だろ。……メンテを越えられる以上俺が消滅する事は多分

 無い。


「……今度の事で決めたよ。」

「! ついに原因究明に───」

「やっぱり俺は此処で遊び生きて行けるんだと! 確信したぜ!」

「───そうか。」


 何やら相棒は少し呆けていたが、結局俺には現実に戻りようが

 無いのは変わらず。なので此処で遊び生きて行く事こそが、俺

 の新たな人生だろうさ。


「いやぁゲームが人生かぁ。ワクワクするぅ!」

「良かったな。」

「アレ? ……小言言わないの?」

「小言ってお前、人の心配を何だと思ってるんだ。」

「ごめ。今の言い過ぎた。」

「お前に悪意が無いのは分かってるから良いさ。それに俺もお前が

 消滅するかもと思って分かったよ。お前が楽しく生きていてくれ

 るなら、どんな場所だって構わない。それだけで良いってな。」

「あ、相棒っ!」


 笑う相棒の笑顔がただただ眩しい。


「俺ってば本当に最高な友達が居てくれたんだな。危うく失い

 欠けたけど、お前が居てくれて良かったよ。」

「……急に恥ずかしい事を言い出すなよ、ルプス。」

「え゛。そう?」


 今のが恥ずかしい言葉なのか。相棒の言動の方が何倍も上だと思

 うんだけどなぁ。……何だか変な空気だ。空気を変えるために別

 の話題を切り出す。


「あーあ。それにしてもあのNPCちゃん早く実装されないかなぁ。」

「またお気に入りか?」

「おうよ。しかもな、此処の制服着てたから多分その

 うちに───」

「お待たせしました!」


 俺が話している所へ店員さんが頼んだ飲み物を運び込んで

 来た。驚くべき事にその人物を良く見れば。


「んん!?」

「! ルプス様!」


 先ほど別れた、テストイベントの女性NPCだ。


「どうして此処に!」

「え? いや俺、は此処の常連さんだからね。」

「そうだったんですか! ……良かった。」

「ん?」

「いえ。先程別れる時に何処に行けば会えるのか、それをお伝え

 し忘れてしまったので……。」

「成る程。」


 嬉しそうに喜んでくれる女性NPC。このVRゲームではメンテやア

 プデ等でしれっと新規のNPC等が増えている事が多々ある。つま

 りこの女性NPCも先程のメンテで、イベントに先行して実装され

 たって事だろう。嬉しがる彼女は飲み物をそれぞれの前へと

 配り。


「また御用がありましたらお呼びください。」


 そう言って丁寧な礼を見せた後に。


「……約束、忘れないでくださいね?」

「!」

「ではごゆっくり!」


 小さく手を振って見せてはその場を去って行く。いい、すごく

 いいじゃないの。


「アレが例の?」

「うむ。素晴らしかろう?」

「それは分からないが、既に好感度が高めだな。」

「にゅふ。っといかんいかん。これからもそれを維持しよう。」

「……大丈夫なのか?」

「ん? 頭がって事?」

「いやそうじゃなくて。」


 相棒は少し良い難そうにしながら。


「だってお前、殆ど今文無しだろ?」

「? ………!?」


 冒険以前を思い出す。そこで装備品の殆どを売却、或いは譲り渡

 した事を。俺が無理矢理捻出した時間を注ぎ込んで集めたアイテ

 ムや装備品の数々……。それを今全て失った。


「ぐふ!」

「……ったく。」




 目の前が真っ白に成った俺は机へ頭を沈めた───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が楽しめた物なら幸いです。

お読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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