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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第二章
23/65

第二十話 恐怖は過ぎ去り

 ───林の中。一人が槍を持っては動き、もう一人が指示を出し

 ている。




 戦う事を諦めたく無いと、格好良すぎる台詞を言い放った彼女へ、

 俺は体の動かし方を教える事に。

 本当はそろそろ面倒だと思っていた所なんだけどー……。


「(良い表情と台詞。それにあの制服姿だとなぁ。)」


 自分が懇意にしているお店の衣装。それが俺を引き止めた一番の

 理由かも知れん。


「(……あれ結構好きなんだよねぇ。)」


 おっとと笑みが零れそう。いかんいかん。

 うーんしかし。俺はかなり店に顔を出すけど、店で彼女を見掛け

 た事が無いな。お店の常設のNPCなら全員覚えてるし。まあ中に

 は時間帯や曜日限定な店員さんも居るからね。それに普通に入

 れ替えや新人が増える、何て事も。

 現実同様お店で働く店員さんは流動的だからー……。


「ッ! ふぅ。……ルプス様、出来ました。」


 薄ぼんやり考えている俺へ。

 槍を振っていた彼女が武器の構えを解き、此方に声を飛ばす。


「ん? ああ出来ましたか。」

「はいっ。ルプス様の教え通りに体を動かして見たら、先程より

 もずっと楽に動きます!」

「それは良かった。」


 先程までは槍を振り回すと言うよりも、槍に振り回されていた

 リストゥルンさん。動きのキレが上がった彼女が。


「ルプス様は槍の使い手でもあるんですか?」

「いえ全然。」

「? 此処までお詳しいのに?」

「詳しいって言っても、表面的な事と武器独自の仕様。それらを

 把握してるだけですね。普段使わない武器でもその辺知ってると

 役に立つんで。」


 PVPやPVEで必要になる最低限の仕様だけは知っとかないとね。

 別段何でもない話しなのだが。


「勤勉なのですね。偉い偉い。」


 等と言いながら此方の頭を撫でてくる女性NPC。

 他のPCに見られても居ない林の中で、NPCに頭を撫でられたぐら

 いで羞恥が吹き出たりはしない。いや嘘メチャクチャ恥ずかしい

 なこれっ! だってキレイなお姉さんに頭撫でられるんだぞ!?

 俺が独り心で阿鼻叫喚して羞恥に耐えていると。


「! ご、ごめんなさい!」

「イエッ!」


 ヤベ声裏返った。折角の勇者様的ムーブが無駄にっ!


「ん゛ん゛! いえ、気にしてないのですよ。」

「ふふ、ありがとうございます。」


 素敵な笑顔。ああ、今そんな表情をされたら、正直直視が厳

 しい。なので、俺はマイサーヴァントの無機質で無表情な顔へ

 一度視線を逸しては。


「槍を持った状態での動きも分かった所で、次は実戦の動きをし

 てみましょうか。」

「はいっ!」


 話を進めて空気を変える事に。

 さっきまで頼りない初心者かと思えば、突然のお姉さん。そんな

 ギャップを見せるNPCへ教えていた事は、重心移動や力の掛け方な

 どだ。

 VRゲーム内では現実と同じ様に体を動かす事に成るので、そう言

 った体術が必要になって来る。まあとは言ってもあくまで此処(VRゲーム内)

 での体術。現実での体術とは少し違う。ゲーム内ステータスに依

 る動きへの補正や、武器毎に動き方が変わってくるからね。

 なので、此処で格闘技を極めたからと言って現実でも同じ動きが

 出来たりはしない。悲しい思いをするだけ。

 俺が彼女に教えた体の動き方とは、このVRゲーム内で戦闘をする

 場合に必要になる、動きのコツだ。でもそれで効果は充分。

 ゲーム内で普通に動くのと、戦闘での動きはまた別物なので。そ

 のコツを知ってるか知ってないで動きは変わってくるのさ。

 まあそれをこの世界の住人足るNPCに教えてどうするって話しだ

 けど、そこはあれ。この世界での動きなので問題無い様子。

 ふ、ある意味俺はこの世界で戦闘のプロ、って所か。え、そう考

 えたらメッチャ格好良いじゃん俺。

 自己肯定感を感じつつ、彼女に武器の使い方を教える。


「まず武器を持って戦うなら、その武器の適正距離、または間合

 いと呼ばれる範囲で戦いましょう。」

「ふむふむ。」

「例えばリストゥルンさんの今の槍なら、槍の切っ先が届く距離

 に敵を置く様にするのが良いですね。」

「成る程……。私さっきからずっと敵の側で戦ってましたね。」


 察したらしい彼女。


「ま、まあ戦いに慣れてない所為ですよ。」

「確かに。戦いに赴いても前線へは余り向かいませんでしたか

 ら。」

「ほら。なら次は───っと。さっきのモンスターが帰って

 来ましたね。」


 俺が指差す方向には先程脅かしたネズミモンスターの姿。

 体の動きや説明などしてた所為で、使用した魔除けの効果が切れ

 たらしい。


「丁度良い。リベンジ戦と行きましょう。」

「……。」


 静かな彼女。“流石にトラウマになったかな?”と思って横顔を

 窺うと。


「………。」

「(眼つき鋭っ! そんなんで戦ってたのか!)」


 びっくりするほど怖い眼つきでモンスターを睨んで居た。

 優しい気なお姉さんの“優しい気”な部分が見事に消えて

 仕舞っている。こ、これもギャップ……。

 思わず此方がトラウマを貰いそうになりながらも。


「て、適正距離を保って戦ってみたください。」

「はいっ。……ぁぁぁああああ!」


 ネズミモンスターへ叫び向かう。前の三戦と同じく突進し、槍の

 切っ先を突き当てようとするも。


『!』


 叫びながら突進してたので。モンスターバレバレの突進突き

 は見事に躱された。そしてそのまま何時ものように───とは成

 らなかった。


「! ……。」


 距離を取る事を覚えたらしい彼女は、突きが外れても更に距離を

 詰めるような事はせず。モンスターとの距離を一定に保ち。


『!』

「!? っく!」


 距離を保ったお陰で必ず受けていた反撃を躱す事に成功。これだ

 けでもかなりの進歩だ。俺は今まで通り手を出さず、マイサーヴ

 ァントと一緒に彼女の戦いを遠目で見守る。


「今度は此方から行くぞっ!」

『!』


 モンスターへ律儀に攻撃宣言をしては、手にしていた槍を横へ払

 い。モンスターがそれをジャンプで回避。


「そこぉ!」

『!!?』


 回避を促した所を───槍から離した片手で殴り飛ばす。殴り飛

 ばされたネズミ型モンスターは壁へ激突し。


「うぉあああああああっ!」


 間髪入れず片手に持った槍を引いては、思い切り対象へ向けて突

 き刺す。“ズドンッ!”と地面が揺れそうな音と共にネズミ型モ

 ンスターは勿論木をも貫き。初心者ようのモンスターはそんな

 一撃に勿論耐えきれず。


『……───』


 絶命。その体が粒子と成って消え去っていく。

 まあ初心者が相手にするモンスターだからね。うん。

 いやなんかもう凄いな、初心者な動きじゃなかったぞ今の。

 動きのコツ教えただけであんな動くか? とんでもないポテンシ

 ャル持ったNPCじゃん。酒場で働くお姉さん越えてるでしょ今の

 はさ。ぶっちゃけ怖い。


「………。」


 鋭くて怖い目で、モンスターが消え去った後を見詰めていた彼

 女が。


「やりました……。やれましたよ!」


 戦闘中とは打って変わって明るい笑顔を浮かべ、此方へ駆けて

 来る。んーギャップ。ギャップ過ぎ。


「どうでしたか!?」

「い、いい良い動きでした。多分リストゥルンさんには戦闘のセ

 ンスが、多分じゃなくて絶対ありますね。」

「え、ええー? またまた、お立ててもダメですよ?」

「ウソじゃないです。(あんな動きでセンス無い訳無い。)」


 傍から見れば、たかが初心者が雑魚モンスターを一匹討伐した

 程度だけど、それでもVRゲームでは大した物だ。

 戦ってみると分かる事だけど、VRでの戦闘は本当に難しい。

 現実とはまた違った体の動きを要求されるし、感覚にも成れな

 きゃいけないからね。感覚の問題は無かったとしても、彼女は

 他のNPCと比べ動きも良く、飲み込みも早かった。間違いなく

 才能あるNPCに違いない。


「本当にセンスがあります。」

「ま、まあ。こう見えて、戦争経験者でもありますし。」


 戦争? ああ、そう言えばこのVRゲームの世界観でそう言う話も

 あったかな。まあストーリー追ってないんで俺は知らないけ

 どね。ふむふむ。彼女は此処であった戦争の経験者、つまり元

 兵士か何かって事か。うわ、ちょっとそのキャラスト気になる

 かも。好感度高めたら、その頃の話とか聞けるんだろうなぁ。


「……余り最前線には行きませんでしたけど。」

「成る程。(後方支援とかかな?)」

「あ、その納得は酷いですよ。」


 怒り顔を見せる女性NPC。さっきの様な怖い物ではなく、何処か

 優しい怒り顔。

 良い、凄く良い。中身入って無くても全然寂しくないし虚しくな

 い。そんな素晴らしいNPCの出来に、心の奥で歓心感じつつ。


「もう少し戦ってみます?」

「はい!」


 俺はマイサーヴァントを連れながら、女性NPCの戦闘に付き合う

 事に───


 ───暫くの連戦後。


「はぁ!」

『!? ……───』


 槍に勢いを乗せた払いをモロ受け、モンスターが倒れる。

 突きと払いを使い分け、見事な戦いを見せた彼女が連勝を刻む。

 そんな女性NPCへ。


「今日はこの辺にして置きましょうか。補助アイテムの効果も

 そろそろ切れる頃ですし。」

「そう、ですね。実は槍がさっきから妙に重くて……。」


 言いながら、先程まで片手で振るえた槍を、今は両手で持つ

 彼女。

 補助が切れステ不足に依るペナルティが発生している模様だ。


「はは。取り敢えず町に帰りましょうか。」

「分かりました。」

「ノギ、ポータル起動。」

『承知しました。……ポータル接続……ゲート起動。』


 何もない空間に歪みが現れる。一般NPCの多くは個人でのワープ

 スキルを持っていないので、こうしてポータルを起動してあげ

 るのだ。

 出口を町に設定されているポータルを皆で潜り、林から町へと

 帰還する事に。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 出た先は町の大通り。


「よしっと。到着到着。それじゃあ解散しましょうか。」

「はい。今日は本当にありがとうございましたっ。」


 腰を居り丁寧な礼を此方に見せる女性NPC。果実に目が行きそうに

 なるのをぐっと堪え。


「いえいえ。俺は何もしてないですよ。」

「そんな事はありません! 私に戦い方を教えてくれたじゃ

 ないですか!」

「教えたのはどれも基礎。其処から積み上げたのはリストゥ

 ルンさんの力ですよ。成長を見て取れたので、力に成れた

 此方も嬉しく思います。」

「もう。そう言う言い方して……。」


 大人びた照れを見せる彼女。うーんさっきまで鬼神ぽかったのに

 今はお姉さん。幾度目かのギャップに俺は大きな可能性を感じな

 がら、一つの装備品を取り出しては。それを彼女へと差し出す。


「これは?」

「STR……。いえ、力への補正が付いたバングルです。これを

 差し上げますよ。」

「なな、なんで? 既に私は教えを受け取っています。その上こ

 の様な貴重品までは。」

「あー……今の俺には必要ない物なんで。」

「でも……。」

「また戦わなくちゃ行けない時、俺みたいなのが助けてくれると

 限りません。その為の備えですよ。」

「! 分かりました。恥を忍んで受け取ります。」

「はは、そんな重く受け取らないで。そうだ、また今度装備品で

 も見に行きましょう。」

「はい是非! ……約束、ですよ?」

「!」


 此方へ笑みと優しげな声を飛ばす彼女。その姿に俺は思わず

 “ドキッ”として仕舞う。でも、その目は何処か、何処か狙い

 を持った様な、或いは獲物へ向ける目にも……?


「それではまた!」


 向けられた笑顔に睨まれた、と俺が感じてる間に。彼女はスッキ

 リとした笑みを浮かべ、その場を早足で離れて行く。途中一度だ

 け此方に振り返り、小さく手を振っては遠くへ。

 俺はその背を見送りながら。


「(割と良いイベントだったな。……まあ。“また今度”は無い

 んだけどね。)」


 彼女はテストイベントらしきのNPC。また会えるかは微妙だし、

 会ったとしても一緒に買物イベント何て無いだろう。だとしたら

 何故そんな約束をしたか。決まってるあの子を気に入ったか

 らだ!


「(よし。あの子が実装されたら是非勤務時間を覚えよう。)」


 また新たにお気に入りの子が出来るてしまうなと、そんな事を考

 えて居ると。


『~本日のメンテナンス作業は終了しました~』


 メンテナンス終了のアナウンスが流れ、それと同時に大通りへ転

 送の光が幾つも溢れる。PC達の一斉ログインだ。

 アナウンスに少し遅れて実感が湧く。恐ろしいメンテが終わった

 のだと。俺は必要なくなった偽装コードを解除しては、冷静な興

 奮に包まれ。


「終わった……終わったのか! むふ。何だかんだで、今日って良

 い日だったかも!」


 喜びに溢れる俺はその場でガッツポーズと共に呟く。


「そうか。此方は気が気じゃない一日だったよ。」

「!!?」


 背後からの聞き覚えのある声。俺は恐る恐る振り返る。


「よお。」

「よ、よお。相棒。」




 すんご~い形相で此方を睨む相棒の姿だった───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が楽しめた物なら幸いです。

お読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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