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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第二章
22/65

第十九話 歩みを止めないなら

 ───三人の男女が仮想の林、その入口前で佇んでいる。




 拠点としている町から平原を歩き、少し離れた場所にある

 この林。所謂初心者向け狩場の入り口へ立ち、此処へ来る事に

 成った経緯を俺は少し考える。

 捕らわれたVRゲームで行われる、定期メンテナンスで消滅の道し

 かないと思っていた俺だったが、意外な事に生き延びる事が出来

 て。生き残った俺は大好きなVRゲームの舞台裏を覗けるのでは浮

 かれ、拠点にしていた町の様子を見に出かけてしまった。

 その途中でテスト中らしきイベントに遭遇。止せばいいのに何故

 かそのイベントへ飛び入り参加しては、完璧なクリアをしてしま

 った訳なのだ。思い返すと我ながら見事な手際。

 今思えば全て、そう全ては浮かれたマイソウルの、いやマインド

 の所為かも。


「あの? どうかしましたか?」


 隣から此方を心配した様子で女性が話し掛けて来た。

 彼女はテストイベントらしきで一緒に共闘した町のNPCで、何故か

 今俺は彼女にモンスターとの戦い方を教える事になっている。

 NPCに戦闘を教える? って疑問は無い。町や村に居るNPCの殆どは

 戦闘経験も戦闘技能も持ち合わせていない場合が多く、そんな彼

 らを成長させるサブクエスト等もあるし。


「(傭兵見習いが傭兵になるまで、みたいなのね。)」


 最初こそ驚きはしたけど、今更戦闘を教える行為事態に違和感は

 無い。

 まあこれもテストイベントの一環なんだろう。そう思いながら俺

 は林を一度見上げてから、隣の女性NPCの方へ視線を移し。


「いえ。慣らすには良い場所だなと思って。そうですねまず最初

 にすべき事は、えっと……。」

「?」

「すみません。何て呼べば良いですか?」


 此処は仮想世界でありゲーム内。当然PCやNPCの名前を知る術は

 沢山用意されている。

 例えば、相手の詳細を調べた時に偽装非偽装問わず名前は公開情

 報で、PTを組めばPTメンバーリストに名前が載っているし。何よ

 りも設定で相手の頭の上にPC名を表示非表示が設定出来る、んだ

 けど……。

 俺はこの仮想世界で頭の上に名前が浮いてるのが嫌なので非表示

 設定にしてるし、おまけに現在PTを組んでいない。

 相手の公開情報を調べて名前を知る事は出来るが、それで知った

 名前で呼ぶには少し抵抗がある。相手に名前を尋ねず、詳細を調

 べて知った名前で呼ぶ、ってのはどうもね。だから彼女に名前を

 尋ねた訳だ。

 実際の話し、PCは勿論NPCも名を聞かずに調べた名で呼ぶと、

 一瞬の間。見たいな物が現れる。メッチャ気不味いヤツね。

 なので此処では名を知りたければ、PCでもNPCでも互いに名を尋

 ねるのが一般的だ。

 ……そう言えば昔面白いタイトルのネット記事があったな。確か

 “名前を教えてないのにいきなり名前を呼ばれたんだが?”みた

 いな物だったはず。


「名前……。私の名前は『リストゥルン』と申します。」


 俺がちょっと面白く、読むと喉が“キュッ”と締まる記事を思い

 出していると、女性NPCが名を教えてくれた。

 相手はNPCなので名前の気遣いは無用だと思う人も入るが、これは

 ある種の慣れに近く。そうじゃなくともNPCも名を尋ねず名を言う

 と変な空気を一瞬出してきたりする。メッッッッチャ気不味いヤ

 ツね!


「リストゥルンさんですね。」

「はい。」

「因みに俺の名前は───っと。」


 俺はこっそり自身へ施した偽装を一時的に解除し。


「ルプスです。んじゃまずー……は。」

「はいっ。」


 真剣な眼差しで此方を見る女性NPC。彼女を見て俺は一瞬“何故

 こんな面倒な事を?”と考えそうに成るが、もうその自問は封

 印する事にした。

 よく考えれば此処で断ってもメンテ開けまで自室に籠もってる

 のも暇だし、そんだったらこうして何かしてた方が良いよね。

 町から離れた事で監視の目を心配するのも、少しは楽になった。

 ……結局は同じゲーム内なので、町とフィールドで違いがある

 か分からんけど。

 んな訳で俺は暇潰しとして、このテストイベントに付き合う事

 にしたのだ。NPCとの交流は嫌いじゃないしね。


「アイテムって今何持ってます?」

「アイテム?」


 小首を傾げる女性NPC。いやいや。


「回復アイテムとか補助アイテムとか、は?」

「アイテム何て必要ありませんっ。この身と武器さえあれば敵を

 討ち滅ぼせます!」


 優し気なお姉さん的見た目に反して言う事が勇ましい。


「んー……んっんーいやでも。回復アイテムとか、あったらあっ

 たで便利じゃないですかー。」

「いいえ必要ありません。傷を癒やすなら術を心得ています

 ので。」

「あ、回復スキル持ちでしたか。じゃあ補助アイテムだけで良い

 ですね。」

「補助アイテム……そんな……。」

「?」


 NPCは悲しそうな表情を浮かべては


「私自らの力を、ルプス様は信用してはくれないのですか?」


 このNPCの気持ちは分からないでも無い。

 自らの実力のみで他者と渡り合いたい、そんなプレイスタイル

 には共感も覚えられるし、嫌いじゃない矜持だね。でも。


「実力のみで、ブースト無しで戦いたい気持ちはも分かりま

 すよ。でもその頑なさは戦いの幅を大きく狭めてしまい

 ます。」

「むむ……。常にドーピングしろと?」

「いえ、ブーストアイテムを常時使用して欲しいのではく、備

 えて欲しいだけです。備えとは手数ですからね。

 一応持ってて欲しいんです。持ってて損は無いですから。

 それに最初から信用“だけ”するのは無責任だと、俺は思い

 ますしね。」

「む、うぅ……分かりました。」

「んじゃ適当に何かを見繕いますねー……って訳でノギ。」


 彼女を適当な言葉で丸め込め。

 それまでずっと俺の少し後ろで控えていたマイサーヴァントを

 呼ぶ。


『はい。御用ですか?』

「中Lvの補助アイテム何か一つ、見繕ってくれる?」

『承知しました。倉庫へアクセス中……。倉庫へ……。』


 マイサーヴァントへ補助アイテムの選別を頼む。

 これが初心者PCで、頼まれてのこの対応だったら。俺はきっと

 呆れ果てて無言の帰還からのブロック。っと言うコンボが発動

 する所だった。しかし相手は中身の入ってないNPC。だから苛立

 ったり何てしないのさ。

 今のやり取りやこの流れから察するに、このイベントでは共闘し

 たNPCと親交を深める類の物なのかな? 彼女の服装が俺のお気に

 入り酒場、その制服って所を見るに選ばれるNPCはランダム。

 そして選ばれたNPCを助ける事で、こうしてイベントが連続して

 行く───ってと所かねー?

 何て考察をしつつ、見繕った補助アイテムをマイサーヴァント

 から受け取り、それを彼女へと手渡す。


「……ありがとうございます。」

「いえいえ。(わー不服そうな顔ー。)」


 ま、アイテム使う使わ無いはNPCさんに任せるとして、だ。


「それじゃあ中でモンスターと実際に戦って見ましょうか。」

「よろしくお願いします! ルプス様!」

「此方こそ。」


 様呼び。そういやさっきもそだったな。これは初期から好感度

 高いじゃん。あーでも、そう云うNPCなのかも? 頭の片隅でそ

 んな事を思いながら。互いに挨拶をし合い、俺達は林の中へ歩

 を進める───


 ───林を歩きながら。


「(……こう言うの、こう言うの結構良いなぁ。)」


 素直な初心者に手解きを施す何て、ファンタジー系MMOやってる

 プレイヤーなら皆ちょっとは憧れるシチュだよ、これは。

 実際に初心者導くってなったら、適当な装備渡してブーストアイ

 テム掛けまくってのキャリー。って感じに成るしな。

 普通はこんな風には行かんよ。しかも可愛い相手お姉さんだし。

 面倒だと思ってたけど、いんでなーい?

 憧れたシチュエーションをまさかこうして体験出来るとは、やっ

 ぱこのゲーム最高!


「ルプス様前方、彼処に敵が居ます。」


 シチュエーションを味わって居た俺に、女性NPCからモンスター

 の発見を知らされる。言われた方を見てみると。


『…。…。……。』


 見付かったモンスターは雑魚も雑魚。

 見た目は大型犬サイズのネズミで毛深く、ちょっとした愛嬌を持

 ち合わせている。見た目の愛くるしさからも人気なモンスター、

 なのだが。

 あれは多くの初心者が最初のLv上げでお世話になるモンスター。

 初心者が相手をするには耐久力が割と高めだが、見返り(経験値)はその分

 大きい。なので愛嬌たっぷりなアレを皆ボッコボコにするのだ。

 まあ今回の目的は経験値では無く、戦う事事態なんだけどね。

 うん、アレなら町で襲われた猿型モンスターよりもかなりの格下

 だし、猿倒せる武器ならまずまけんしょ。動きの確認だけなら充

 分充分。


「良い相手ですね。まずはアレと思うままに戦って見てくだ

 さい。アドバイスは戦闘後にしますね。」

「了解ですっ。……!」


 了承した女性NPCが横へと手を伸ばす動作をしては、伸ばした手

 に光が一瞬集まり。次の瞬間には槍がその手へ握られていた。

 女性NPCは装備した槍を両手で構え、ネズミ型モンスターへと突

 撃を開始。


「(あー素直に前から行くんだ。此方に気が付いてなかったし、

 奇襲でも良いと思ったんだけどなぁ。)」


 突っ込む彼女を、退いた場所からマイサーヴァントと一緒に見守

 る事に。

 んーまあ動きが見たいだけだし、倒す目的じゃないから奇襲は別

 に良いか。そう考え突進する彼女ぼーっと眺めつつ。


「(見た目は民族衣装、ディアンなんちゃらってのに似たヤツだ

 けど、多分あれは見た目だけ。下には俺と一緒でちゃんとした

 防具を付けてるはず。んで猿にトドメを倒せる程度には攻撃力の

 ある武器だから……。あ、しまった。ネズミ君じゃ少し荷が重い

 かも?)」


 等と。ぼけーっと考えていると、ネズミ君と女性NPCの戦闘が

 開始。

 槍を構えて突進していた女性NPCがモンスターに接近した所で。


「あぁっ!」

『!』


 走る勢いを上げては構えた槍を突き出す。気迫の籠もりまくっ

 た声と様子、だが。


『ッ!』

「なに!?」


 突進に気が付いたネズミモンスターは体を少しずらすだけで

 突きを避け。


『チ゛ュヴ!』


 大きな体に勢いを乗せ。


「ぐっは!?」


 攻撃をスカし、隙きを晒す女性NPCに横から体当たりを見舞っ

 ては、相手を弾き飛ばす。

 ぶっ飛ばされて転がる女性NPC。転がるのが止まって暫く待つが。


「……。……。」


 NPCが起き上がる気配が無い。んーんーんー……。


「ノギ。魔除けLv01発動。」

『承知しました。……装填……発砲、行きます。』


 指示を受けたマイサーヴァントが拳銃を取り出しては空へ向け。

 “パンッ”と一度発砲。すると撃った拳銃の銃身先から視覚出来

 る波紋が一瞬で広がり出し、揺れる波がネズミモンスターへ届く

 と。


『!』


 慌てた様子でネズミモンスターはその場から去って行く。

 今マイサーヴァントに指示して使用させた物は、通称魔除けと呼

 ばれる類のアイテムで、簡単に効果を説明すれば弱いモンスター

 を遠ざける品物。使わせたアイテムの質を考えれば、此処のモン

 スターは軒並み此方に近付いて来ないだろうね。

 安全、と言うよりも邪魔が入らない様にした俺は倒れる女性NPC

 に近付き。


「よっと。」


 ライフ回復系アイテムを使用する。すると瀕死状態だった女性

 NPCが“スッ”と立ち上がり。


「……中々の強敵、油断しました。」

「っ!(んふっ。いや、いやいや危ない危ない。)」


 大真面目で染み染みと呟くその姿に思わず吹き出しそうになっ

 てしまう。危なかった、ギリギリのギリで耐えたぞ俺は。


「えっと、はい、そう、ですね。」

「確かにルプス様が言った通り、私に相応しい相手です。」

「あーはい。あ、そうだ。今防具って何着けてます?」

「? この服のみですが……?」

「(まさかね、まさか。ちょっと気が引けるけど、装備を覗かせ

 て貰おう。……おいおいマジかよ。見た目そのまんまかい!)」


 このNPCは見た目装備と本装備が一緒。つまりこの戦闘用では無

 い見た目装備で戦ってるのか。まあそうか、相手は傭兵NPCとか

 じゅあ無いもんね。見た目そのまんまでもおかしくない。

 けど、もう此処まで来たらモノホンの初心者と変わらないなぁ。

 選ばれたランダムNPCが一般人だったと諦めよう。


「もう一度挑戦してきます! 今度は負けません!」

「ああはい───いやまって。待ってくださいっ。」

「? 何か問題ですか?」


 問題しかないよ! とは言えそれを言っても仕方がない。

 此処は冒険初心者よりも何倍も貧弱な装備をどうにかせねば。


「まず装備。今の物以外で、他に戦闘用の防具などはありません

 か?」

「ありません。支給された物はこの服と槍だけです!」

「……成る程。じゃあ装備は一旦置いておくとして、まずは

 先程渡した補助アイテム、防御アップの物を使用しましょ

 うか。」

「むむ。矢張りこう言ったアイテムに頼るのは私の矜持

 的に───」

「じゃあ俺が変わりに使いますね。」

「!!?」


 面倒だったので俺は彼女へアイテムを使用する。

 使ったアイテムは質の良い物なので、これで防御面は大丈夫

 だろう。戦い方を教える以前の問題を解決した俺は。


「それじゃもう一度戦ってみてください。」

「……分かりました。」


 不服そうな女性NPCへ再び戦闘を頼む。林の中には町周辺と違っ

 てモンスターがそこら辺に居るので、少し探せば相手が見付

 かる。

 まあ見付かったのはさっきとは違う個体のネズミモンスターだ

 った訳だが。相手としては良いはず。


「行きます。……りぃやぁぁぁあああ!」


 モンスターを発見した女性NPCがまた突進を繰り出し、これまた

 さっき同様躱され反撃を受ける事になる、が。


「っ!? ぁあ!」


 体当たりを受けても吹っ飛ばない女性NPCは、そのまま反撃にと

 槍を振る。防御力が上がったお陰で耐えられる様になってるな、

 よしよし。


『!』

「あぁ! ずぁあっ!」


 迫力満点な表情と声で攻撃を繰り返すその姿は、中々の気迫。

 なのだけど……。


『ッ! !!』

「すぁ! はあ!」


 うん。


『! ! !』

「ふあ! のあ! うおぁぁああ!」


 うん。うんうん。気迫は充分なのだけど、女性NPCの攻撃は尽く

 ネズミモンスターに躱されているし。


『!』

「ぐふ!? まだまだぁ!」

『!』

「へびゅっ。……のぉおお!」


 ネズミモンスターの攻撃を全て受けている。これは、うん。

 そうだなぁ……。


「ノギ。魔除け再使用。」

『承知しました。……再装填……発砲します。』


 先ほどと同じ様に空砲が鳴り響き、ネズミモンスターがその場を

 去って行く。それを追うとする女性NPCを呼び止める。


「待ってくださいリストゥルンさん。」

「敵に逃げられてしまいます!」

「アレは逃しましょう。」

「ですけど!」

「今回の目的は勝つ事じゃなくて、戦い方を教えるって事です

 よね? なら目的を忘れずに行きましょう。」

「! ……そう、ですね。申し訳ありません。」


 おー謝るのか。このNPC結構素直な子だな。

 よく出来たNPCが多いこのVRゲームでは、実に様々な性格のキャ

 ラに出会う事が出来るが、ここまで素直な子も中々珍しい。

 まあブースト系アイテムを渋る以外は、だけどね。

 それにしても、こうも素直な反応を見せられると此方もストレス

 や気負う気遣いも少なくて済む。よく出来た言動に歓心してい

 ると。


「本当にごめんなさい。あの、まだ私に戦い方を教えてくれま

 す、か?」


 先程戦っている最中に見せた気迫、それを微塵も見せぬ程にしお

 らしく話す女性NPC。ギャップとは、やりおる。


「勿論構いませんよ。」

「! ありがとうございますっ。」


 槍持つ両手を膝に合わせ、腰を曲げてまで頭を下げる女性NPC。

 戦闘中と非戦闘中の態度。ギャップが堪んねぇ……。っとまあそ

 れは今良いとして、此処は導く先達として話を進めよ。


「戦闘を見ていて思ったのですが、リストゥルンさんは考えに動

 きが付いて行って無い、って感じっすね。」

「そう、そうです! 私はもっと早く動けると思ってるのですが、

 その、この体が上手く動かないと言いますか……。」

「ふむふむ。(これは普通にステ不足かな。)」


 此処の仮想世界には沢山のNPCが居て、その全てにPCと同じ様にス

 テースが設定されている。

 一般NPCや護衛クエストで登場する彼らの多くは低めなステで。逆

 に賃金を払い雇える傭兵NPCや、一緒に冒険してくれる一部のNPC

 等などはステが高めな場合が多い。

 今回の彼女は一般NPCLvだとして、一度彼女が持っている獲物を見

 てみる必要がありそうだ。


「ちょっとその槍を見せてもらっても良いですか?」

「? ええどうぞ。」


 彼女が装備している槍を手渡して貰う。こうする事で装備品を借

 りられ、他のPCが確認や使用と言った事が出来る。

 因みにこれは所有権の付随した取引では無いので、借りパクは出

 来ない。装備を持って逃げたとしても、盗人の手元から持ち主の

 下へ装備が跳んで戻るからね。

 その仕様を理解出来てないプレイヤーが借りパクしようとして、

 恥だけ晒す場面に遭遇した事を思い出しながら、借りた装備を確

 認してみるも……。


「(いや一般人が持つ武器じゃ無いでしょ、これは。

 確かに攻撃力は高いけどそれだけ、なのに要求ステが高えー高

 えー。)」


 無数の武器が存在するこのゲーム内。そのどれもが誰でも装備出

 来る品物だ。ただし、必要ステータスが足りていないとその武器

 を正しく使用出来なかったり、本来の力を発揮出来なかったりす

 る等のデメリットが存在する。

 例えば、足りないステータス分のペナルティが課せられ、大きな

 剣を振っては隙を晒しまくり、銃を撃とうとすれば照準がブレる

 等などね。

 逆に必要ステを満たせば普通に扱えるし、更に要求されるステー

 タスを高めると武器の使い勝手が上がったりもして、奥が深い。

 以上の事があるので、武器を使う場合はその武器の必要ステータ

 スを最低限満たして使用するのが望ましい。


「武器もこれだけですか?」

「支給された武器はそれだけです。」

「んー……。」


 誰からの支給設定か知らないけど、装備が適当すぎだなー……。


「あの、その武器が何か?」

「そー……ですね。この武器を扱うには多分、リストゥルンさん

 のステータスが足りないですね。」

「すてーたす?」


 ああ。このNPCは伝わらない系か。

 此処は仮想世界なので、其処に住まうNPCに現実やプレイヤー目

 線での情報は伝わらない事もある。でも結構その辺曖昧で、傭兵

 NPCの中には普通にステとかが通じる事もあるんだよねー。まあ

 今回は伝わらない系NPCだったので、伝わる言い方をしよう。


「ステータスってのは自身の能力の事ですよ。」

「! ……。」


 俺の言葉に驚き、酷く落ち込む様子を見せる女性NPC。

 こんな伝えた方でも何となく理解出来るのは、矢張りゲーム内

 NPCなのだからかな?

 それにしても良く出来たAI。今ステの事を知り、武器を満足に

 使えないのが自身の能力不足と知ったからこそ、ショックも感

 じるのだろうね。


「いえ。いえいえそんな事は無いかと。私に限ってそんな。」


 お。ショック過ぎて現実逃避かな?

 事実から目を逸らそうとする彼女へ、俺は受け取った槍を片手

 で振って見せる。


「よ、ほ、よよっと。」

「!!?」

「んー必要最低ステしか無いと、こんなモンか。」

「………。」


 借りた槍を難なく振る様に、NPCは愕然とした様子。

 ふふ、おもろい反応。さてステの重要さはこれで見る事が出来

 たな。


「はい。お返しします。」

「………。」


 借りた武器を返却。それを両手で受け取る女性NPCは、武器を見詰

 めるばかり。物悲しげだなぁー。まあ自分が両手でやっとの武器

 を、片手で軽々振られたら驚くよな。

 面白い反応も楽しめた所で、俺は彼女へ一時的に(STR)のステー

 タスが上がる補助アイテムを使用。


「?」

「ちょっと武器を振って見てください。」

「……! ああ軽いっ!」

「やっぱり力が足りてなかったんですね。」


 喜び、槍を片手で振って見せる女性NPC。

 何も意地悪たの為だけに装備を借りた訳じゃない。彼女にステの

 大事さ、補助アイテムの良さを知ってもらう為だ。

 一頻り槍を振っては自信満々の表情を見せる彼女へ。


「ね? 補助アイテムも良い物ですよ。」

「むむ……。嬉しくはありますが、やはり自身の力では無いと

 思うと……。」

「これ系のアイテムは元の値、ステータスを参照して上昇量が決

 まるので、際限なく自らを強化って事は出来ません。今の自身か

 ら力を引き出すって考えた方が良いかも知れませんね。」

「つまり自らを鍛えれば、引き出せる力も上がると?」

「ですです。」


 女性NPCは真剣な表情を浮かべ。


「……成程。私達は少し、この類の道具を誤解していたのかも知

 れません。」


 納得した様子を見せた。

 私“達”? まさか俺が含まれてる訳じゃないだろうけど……?

 一人疑問に思っている俺へ。


「これで完璧に戦えます。ふふん、しっかりと見ててくださ

 いね。」


 それだけ言うと、何を言う前に意気揚々とモンスターを探し

 始めてしまう。


「(アップ効果は一時的な物なんだけど、ちゃんと其処の所分か

 ってるのかな?)」


 まあ効果が切れて落ち込むとしても、それはこの特訓が済んだ

 後だろう。取り敢えずはこれで苦戦する事無く戦えるだろうと

 思いながら、女性NPCがネズミモンスターへ三戦目の挑戦を挑む

 事に───


 ───結果は、マイサーヴァントの発砲音が全てを物語る。


「……。」


 俺は攻撃を外し続けては、敵からの攻撃を受け続け。等々倒れ伏

 す事になった彼女へ近付き、回復アイテムを使用。


「………ありがとうございます。」

「いえいえ。」


 瀕死から回復したが、NPCはその場に膝を着いたまま。


「私は……私はやっぱり戦いに向いていないのでしょうか……。」


 何て。三度目の失敗で心が折れてしまった様子。中々リアルな表

 情で落ち込む女性NPCへ。


「確かに向き不向きは誰にでもありますね。戦いに向いて無いな

 ら戦わずとも良いんですよ。此処はそれ以外も沢山出来ま

 すし。」

「はい……。」


 実際戦闘が難しいと感じるプレイヤーは戦闘を避けて、このゲー

 ムを遊んでいる。他にやれる幅あるのだから、其処だけに拘る必

 要は無い。

 楽しいイベントではあったけど、NPCが折れてしまったのなら仕

 方が───


「それでも、それでも戦う事を諦める訳には行きません。私には

 使命があり、守るべきヒトも居ますから。」

「……。(諦める流れだと思ったんだけどなぁ。)」


 彼女は諦めないらしい。


「そうですか。」

「はい。ルプス様には付き合って貰い申し訳ありません。もうこ

 の辺で───」

「少しでも戦えるように、俺が教えられる事なら教えますよ。」

「! ありがとうございます!」


 NPCが諦めないと言うなら、俺が諦める訳にはいかない。

 良い台詞を言ってたしね。




 そうして彼女へ、今度は体の動かし方から教える事に───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が楽しめた物なら幸いです。

お読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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