表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第一章
14/65

第十三話 ネクストステージ

 ───酷く疲れた様子の男が二人、酒場の中へ入って来ては店奥を目指す。




 疲労困憊(ひろうこんぱい)満身創痍(まんしんそうい)な体を引きずるように歩き、辿り着いたカウンターへ

 両腕を預け、頭をがっくりと落とす。隣では相棒がカウンターへ背を

 無言で預けて居た。


「!」


 そんな俺らの様子に頭上では受付の人が僅かばかり驚いている気がした。だけど

 構わないさ。なんたって今の俺たちは気力を使い潰した状態、消えかけのロウ

 ソクも良い所だ。気遣いに回せる余力は残って無い。とは言っても、このまま

 でいると折角上げたスッタフや店全体の俺への好感度が下がってしまう。

 気怠さに流されずさっさと用事を済ませよう。


「クエスト、完了、報告、したい。」

「少々お待ち下さい。」


 こんな怪しい客にも質問や疑問も飛ばさず、営業的声色のまま対応してくれる

 受付さん。これも足繁く通い積めては好感度を積み上げたお陰だね。今じゃ

 このお店のNPCスタッフさんは全員ほぼ好感度カンスト状態、いやぁ~頑張った

 もんよな。まあ好感度とか貢献度は隠し要素だから、対応とかで此方が察する

 しかないんだけどね、名前呼びとか会話の柔らかさとかで。こう考えると

 何だかギャルゲーっぽいかもな。……そう言えば、イベントが忙しくて新入り

 の子はまだ何人か好感度を上げてなかった。ふむ、何れは新入りさんも……。

 誰にも見せられない笑みを浮かべ、項垂れながら待っていれば。


「お帰りなさいませルプス様。」

「……。(片手を上げての応答。)」


 ミランジェさんの声が聞こえ、俺が視線を落とすカウンターテーブルへ既に

 開かれた状態の本が差し出された。その本へ何とか片手を動かし、自分の名前が

 隣りに書かれた項目を指でなぞる。すると焼かれた様な文字が端から光り始め、

 隣に記されていた俺の名前へ吸い込まれるように消えてゆき、全ての文字が

 消えると俺の名前も掻き消えた。後には空白のみが残り、その空白も段が詰め

 られ直ぐに無くなる。そしてクエストクリアの報酬が所持品に追加された旨が

 視界端にシステムメッセージとして流れ。


「依頼の完了を確認いたしました。毎度ご贔屓にしていただき誠にありがとう

 ございます。」

「……軽い軽~い。」


 何時もの台詞も聞いた所で、俺は店を出ようと項垂れたカウンターから頭を

 上げる。その瞬間。


「良ければ一休みしていかれますか? 僭越ではありますがテーブル席を一つ、

 予め此方でキープして置きました。」


 そう言って小首を傾げ視線を俺の後方へと飛ばす。視線を追うと店の出入り

 口から右端、円状に膨らんだスぺースのテーブル席が見える。ああ言う席は

 結構な人気なのだが、プレイヤーが使用している気配がない。と、新たに店に

 入って来たプレイヤーが早速近付くも、直ぐに離れて行く。様子から察するに

 あれは予約されて近付けない状態なのだろう。

 俺たちが疲れて帰ってくる事を予測したかどうかは分からない、いやそもそも

 どうでもいい。戦いで疲弊した心と精神にこの気配りである。俺は再び視線を

 前に戻し。


「好きだ……。」

「ありがとうございます。」

「勿論一休みしていきま好きです。」

「ありがとうございます。では此方をお持ちください。」


 溢れた感情が疲労で緩くなった口から思わず暴発してしまう。他プレイヤーに

 聞かれたらすんごく気不味い台詞を口走った俺は辺りを“キョロキョロ。”ふう。

 幸いにも近くに居たのは相棒だけ。相棒はもう俺の生態を何から何まで知ってる

 ので、全然問題ない。何時も通りの致命傷だ。っと、勝手に俺は休むと決めたが

 相棒はどうだろうか?


「構わない。」


 視線で意思の確認をするれば直ぐ様返事が帰って来た。連れの意思も確認した

 ので、俺はミランジェさんが差し出す紙切れを受け取り予約席へ相棒と向かう。

 円状に膨らんだ隅のテーブル席。そのテーブルの上には何やら模様の書かれた

 三角の紙が立て置かれており、近付くと視界に『予約席。』等とシステム

 メッセージが表示される。俺は受付で貰った紙を席へと翳す。すると三角の

 紙に書かれた模様が淡く光だし、同時に手にしていた紙が同調し始める。

 そして両方の紙が光の粒子と成って消えると、一瞬テーブル席を覆う薄い

 光の膜が現れては消え去る。その後、クッション付きの席へ俺と相棒は

 隣り合うように“ドカリ”と座り。


「「………。」」


 無言、無動、無意で少し静かな時間を過ごし。暫くして、目蓋を閉じ頭を

 背凭れに預けながら俺は。


「……まさかだったよなー。」

「……ああ。」

「流石にあの状況じゃ倒しきれなかったねー。」

「……ああ。」

「一歩間違ってたら死んでたな。あ、俺はもう死んでたは!」

「………。」

「ネタにするには、まだ早かった?」

「ああ。」


 ネタにするにはちょっと不謹慎だったか。また無言の空気が辺りを包む、が。


「ふふ。」


 それはどっちからだっただろう。或いは二人同時だったかも知れないな。


「「ふふ、ふは、あっはっっはっは!」」


 気が付けば互いに大きく笑っていた。疲れていると言うのに笑いが止まらない。

 緊張感から開放された俺たちはもう箸が転がっただけでも笑ってしまう状態。

 魔猿を倒しすぎて親玉を呼び寄せてしまい、命がけ(俺だけマジ)の戦闘をからの開放感は

 格別だった。あのボスなら俺と相棒の二人でも倒し切る事は出来ただろうけど、

 生憎装備が半端な状態の俺では難しく。しかも相棒はそんな俺を気遣いながら

 の戦闘。だから撃退に留め、勇気の逃走をで逃げてきた。お陰で必要以上に気を

 張り疲れた俺たちは意味の分からない、分かる必要のない笑いが溢れるのだ。


「はぁーあ。あー疲れたぁ~。」

「あんな戦い方はもうごめんだ。」

「俺もごめんだよ。でも助かったはマジで。」


 安定した狩りこそが俺の好み。今回の事は予想外な事過ぎたよ。だけどまあ

 何とか命が無事で良かった良かった。俺と相棒は互いを暫し称え合う。

 “カバー”がどうとか“身代わりご苦労さまです”とかね。

 称え合いも済んだ頃。ちょっとした荷物整理にインターフェースを開けば、

 現実時間が俺の目に留まる。ああ、もう良い時間だね。俺はインター

 フェースをそっと閉じ。


「そろそろ相棒は落ちないとじゃね?」

「そう、だな。……。」

「? あによ?」


 それまで控えめに笑っていた相棒が、笑みを消して此方を見詰めてくる。

 何故なのかとその意味を問えば。


「今更だが、何か家族に伝えて置きたい事はあるのか?」

「お、おお? 急にどうした?」

「ルプスの身に起こった事を知っているのは自分だけだ。ならお前が

 家族や知人に何かを伝えたいと思うなら、それを手伝いたいと思った。」

「あー……。」


 ほんと良い人。いや、良い相棒だよ全く。ふーん……。家族、家族に

 伝えたい事ねぇ。


「あるにはあるよ? オレがアレした世にも恥ずかしい状況への弁明とか。」

「なら───」

「でも説明の仕様が無いだろ? まさかこの状況を教える訳にいかないし、

 そもそも俺が教えたくない。知れば多分余計にお互いが苦しむだけだろう

 しよ。」

「……。」


 それに本当のオレかどうかも怪しいしな、とは言葉にしない。まあオレがアレ

 した結果家族がどうしてるとか、知りたくないし聞きたくない。卑怯な気もす

 るが、見たくないものは見たくない。見ても知っても聞いても、今の俺には

 どうする事も出来ないんだからさ。


「……すまん。」


 あらら謝られちゃったよ。別に俺ぁ気にしてないんだけど、なーんで相棒

 が落ち込むかねぇ。いや普通は落ち込むのかな?


「気にすんな。相棒は俺を気遣ってくれただけだろ?」

「ああ。だが今は何を言っても、お前を傷つけてる気がするよ。」

「もー気にすんなって。そうだなぁ……。」


 俺は少しだけ考える振りをして見せ。席を立っては。


「思うに。リアルでのオレは人生を全うしたんだよ。オレの終着点は彼処。

 んでさ、今の俺は奇跡的にも新たな人生を迎えた訳よ。此処になぁ!」


 相棒は困ったような笑顔を繕い俺を見詰める。


「良いか相棒。此処には夢と希望しかない、現実の厳しさ何て無いんだよ。

 だからもう俺は現実を振り返らない。この広がり続ける夢の世界を遊び

 尽くすって決めたの! 目を背け、逃げた現実の事なんかもう知らん!」

「おま……。」


 ダメ人間的発言に呆れ顔が見えるが、気にせず話を続ける。


「それが第二の人生、俺の新たな人生目標(ゲームライフ)だ。……それでもし

 良かったらなんだが、この世界を一緒に楽しまないか? ブルクハルト。」


 この世界は、独りで楽しむには広すぎるよ。でももし誰かが一緒なら、

 それが気の置けない相棒となら、きっと楽しめる。多分迷わない。

 少し怖がりながら横をチラリと見る。


「……ああ。ああ勿論だ、ルプス。」

「よっしゃ。んじゃよろしくな、相棒。へへ、これまで以上に一杯遊ぶぜ!」

「お手柔らかにな。」


 恐怖は消えた。俺は相棒に片手を差し出し、相棒がその手を握る。そうさ、

 俺はもう此処で面白可笑しく生きていくしかないんだ。だったらこの第二の

 人生を精一杯謳歌してやるぞ!


『メッセージを受信。』


 相棒と握手をする俺の視界端、そんなシステムメッセージが流れた。

 意識をメッセージに向ければ件名が視界に表示される。


『定期メンテナンスのお知らせ。』


 え、もう定期メンテだっけ? あ、俺一日寝ずっぱなしだったから日付感覚が

 ズレてんのか。ふーんメンテね。何か面白いもの追加───俺は思い出す。

 定期メンテナンス中はゲームプレイは出来ず、メンテが始まるとログアウト

 してない全プレイヤーは()()()()()()()()()()()()事を。俺は多分同じ

 メッセージを受信して、それを読んだであろう相棒へ。


「一杯は……遊べないね……。」


 びっくりするほどか細く呟いた。繋いだ手の先、相棒が何かを言おうと

 必死に考え倦ねる様子を眺めながら思う。


「(モブだって二度は死なねぇよなぁ……。)」


 現実での居場所を失った俺がログアウトをさせられたら、一体どうなる?

 迫るメンテ(恐怖)に意識が遠のく。ああ、此処(仮想)には夢と希望の他にも

 あったのか。定期メンテンナンスと言う絶望が。




 俺の第二の人生は早くも終了しようとしていた───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語を楽しんでもらえたのなら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ