第十二話 どんなに取り乱しても、握ったその手は冷静
2020/12/08 加筆
───夜にも拘らずヒトで賑わうは仮想の町。歩道脇の街灯から降り
注ぐ光の先には。
「んね? 凄く良いお店だと思わない?」
戻って来た相棒と合流した俺は、町の端から中心部を目指して歩き
進んでいた。その道すがら運命的な出会いを果たした超優良店に
ついて、買ったライフポーションを見せびらかしながら相棒へと話す。
だが話を聞き終わった相棒は“イマイチ。”何て表情を浮かべ。
「……良く分からん。売ってる物は普通だったんだろ?」
「それはもう普通も普通で売ってる物も接客も極々普通。でもね、
集客なんかコレっぽちも望めないあの場所に、態々お店を構えたんだ。
それはきっと何が何でもお店を開きたかったんだと思う理由。そう!
夢だよ夢! あの人外ラミアちゃんは自分の店を持つ事を夢見て、ついに
叶えたんだ! だけど人外な下半身の所為で客が全く来ず、それでもやっと
叶えた夢を守るためにお店を続ける彼女。くぅ~健気!」
「? 客が来ないのは立地と品揃えの所為だろ? 後半の話は一体何なんだ?
本人からでも聞いた設定か?」
「んやほぼ全部俺個人の妄想。そもそもあの店員さんがPCかNPCかどうか
さえも調べなかったし。でもさ、その方が捗るだろ?」
「捗る……?」
「そう。色々捗るの。」
NPCの受け答えや仕草のクオリティが高すぎるこのVRゲームで、見た目や
少し話しただけで相手がNPCかそうでないかを見分けるのはかなり難しい。
でも実は相手のステータスを確認すればPCかNPCかが分かる。まあ対応が
自然だから、普通に遊ぶ分にはPCかNPCかを気にするプレイヤーもそんなに
は居ないんだけどね。分からない方が面白いって奴だ。
だけど俺の貢ぐ遊びは相手がPCだとちょっと面倒だったりなんだりする
ので、貢ぎ相手はPCかどうかを調べたりする。
「そいでい~い感じに捗ったら、匿名で寄付やら何やらするのだよ。
グフフ。」
「……相変わらずお前の楽しみにはついて行けないよ。」
“やれやれ”と言った具合に困り顔を俺に見せ付ける相棒。そっちから
聞いてきた話だってのに、なんでいなんでい。 専らNPCに貢いでいる俺
だけど、その俺がPCNPC何方でも構わないと思える程のお店だったんだ!
……いやまあ個人的楽しみや趣味の話を、気の置けない仲だろうと無闇に
話すのは良くないね。うん。ちょっとテンションが上ってまた醜態を晒して
しまったかも知れない。等と僅かばかり心配していると。
「楽しみが増えたのは良かった。それで? 町の中心に来たが何をするんだ?」
「そー……ね。取り敢えず何か適当なクエストでも受けようかと思ってる。
今後の為にもちゃんと受けられるかどうかも試しとかんとね。」
このVRゲームの中に新生(仮)した俺にはどうやら、ゲーム的処理とそうでない
処理ってのが発生しているらしい。それをゲームを始めたばかりの初心者ばり
に一つ一つ確かめようって訳だ。んでその手始めがクエスト受注。
「分かった。ではフリーとサブのどっちを行く?」
「んー……。」
このVRMMOエリュシオンには他のゲーム同様クエストなるものが存在して
いるが、その種類は四つ。ストーリークエスト、サブクエスト、フリー
クエスト、イベントクエストだ。ストーリークエスト、これは町や都市
等に居るNPCから受けられる物で、内容はPCが主人公してるお話。
ゲームには良くある奴ね。でも他のVRMMOと違ってこれを無理に進める
必要は今の所このゲームには無い。ストーリーを進めないと開放され
ない町や都市、新要素と言った物は絡まず、純粋に物語だけを提供する
クエストだからだ。なので、ストーリークエストを遊ぶのはこの
エリュシオンの世界観を知りたい奴だけって感じかな。 実際俺も
ストーリークエストはほぼ手付かずだし。
次にサブクエスト、こっちは世界の本筋関係なく様々なNPCから受注
出来る物。繰り返し受けられる物やデイリーウィークリー等。後は
ゲームアップデートに依る新要素も此方で追加される事も。
んでお次はフリークエスト。フリー、フリクエと略されるコレは
俺らPC達が自由に発行出来る物。報酬や目的を設定して発行、すると
クエストサービを利用出来る場所に流され、それを誰それが受注。
或いはPC同士で直接依頼受注なんてやり方もある。
最後はイベントクエストだけどこれは改めて考える必要も無いな。
期間限定の大型クエスト、まあ要はお祭りだ。
さてストーリーとイベクエは論外として、サブとフリーの何方を
行こうか。何方でも受けて見る必要があるけど、現実時間的に
相棒と一緒に行けるのは片方だけ。それなら。
「サブに行こうぜ。フリーだと良いの探すのに時間掛かりそうだし。」
「了解だ。何に行くかは任せてる。」
「あい。んじゃんじゃ昼行灯へ行こう。」
「ああ。」
行き先を決めた俺たちは歩き出す。町の中心部から少し離れ、明るさや
人混みと言った物が濃さを落とした場所。適度な静けさ漂う其処に目的の
建物が見えた。寂れた風貌も大繁盛と言った様子も無い、ありふれた
風景に溶け込んだ酒場。何時来ても素晴らしいと思いながら早速中へ。
中に入るとそれなりの人がテーブル席などで楽しげに過ごしている。ただ
その数も店を埋め尽くす程じゃあない。あれか、もうイベント終了二日目
だからかな? いや俺は丸一日を睡眠デバフで寝過ごしたのだから、三日か。
なら人もボチボチ減る頃だな。そんな事を考えながら店内を歩き進み、店奥の
カウンターへと向かっては受付女性へ声を掛ける。
「こんにちは。」
「ようこそオリエンタルランプへ。今日はどの様な御用でしょうか?」
にこやかに対応してくれる受付女性。因みに今彼女が言ったオリエンタル
ランプとは、このお店の正式名称だ。ここは当初看板に『昼行灯』と書か
れており、暫くすると何故か『オリエンタルランプ』と店の名前が変更され
ていた。NPCが経営を担当する初期のお店は、最初運営が初期設定をして
建てて居たのだが、その時に名前を間違えて建てたのだろう。と言うのが
専らの噂。だから当時を知っているプレイヤーには引き続き
昼行灯の名で呼ばれ続けている。そんな一人である俺は彼女に。
「サブクエストの一覧を見せて欲しいんだ。」
「サブクエストですね、承知しました。少々お待ち下さい。」
受付の女性は一言断ってはカウンター奥にある棚へと向かう。その様子を
眺めていれば、女性が棚から分厚い本を一冊手に取り此方へと戻って
来ようとする、のだが。
「───」
「! ───」
途中でキッチリとしたスーツ姿の女性に声を掛けられ、持っていた本を
手渡しては礼をと共に下がって行ってしまう。代わりに本を持って来たの
は当然スーツの女性。彼女は此方へ近付き。
「ようこそお越しくださいました、ルプス様。此方が現在私どもが発行して
おりますクエストの一覧でございます。」
ニッコリと営業スマイルを見せながら本をカウンター上に差し出してくる。
他の受付とは服装や佇まいが明らかに違う彼女は、此処の支配人に当たる
人物で、NPCのミランジェさんだ。置かれた本を確認する前に俺は、今の
一連の流れを目を閉じ息を鼻から吸い上げるように噛み締め。隣に立つ
相棒へと振り向いては。
「な? 良いだろこれ?」
「分かった分かった。お前は凄いよ。」
「いやホントこれマジ嬉しいって、今度やってみようよ。あ、でも此処は
やめとけ? 今でこそこんな気配りの籠もった神対応で、しかも名前まで
呼んでくれるけど。このミランジェさん好感度低い時は声掛けても完全無視
だからね? それも此方を認識出来てないレベルでのな。この楽しみをするに
当たって此処を最初に選ぶと多分心が折れる。」
「そうか。自分は全く興味がないから大丈夫───」
俺の忠告を聞いた相棒が、話途中でカウンター向こうのミランジェさんを
一度見遣る。この至近距離でこんな会話をしててもニッコリスマイルを欠片も
崩さない彼女。再び相棒の視線が俺へ戻り。
「これは好奇心なんだが、ルプスが最初にその遊びを選んだ所は?」
「勿論此処。」
俺の即答に相棒がまたあの“やれやれ顔”だ。聞いといてと思うけど、まあ
此方も慣れたもんですよ。こんな話は相棒に結構してるしね。しかし相棒に
話していたからか当時が思い返される。当時を思えば今のミランジェさんの
対応はまさに天と地。まだまだ俺がライトユーザーだった頃、この町を見て
回っていた時にこの店を見付け、酒場、宿、依頼受付所の三つの機能を持ち。
落ち着いた雰囲気の内装等、機能と見た目に惚れて店へ尽くす事を決めた
あの頃。店へ貢献すればするほどお店のスタッフNPC達の態度が軟化する中で、
彼女だけは違った。彼女、ミランジェさんだけは無視に次ぐ無視。いくら声を
掛けても返事はなく、長い間俺は彼女の声どころか視線すらも一瞬此方を
捉えた覚えがない。だけど此方は挑むと決めたならばとことんだ。お店へ
ひたすら貢ぎ続け、ライトがヘビーに片足を突っ込んだ頃だっただろうか。
根を詰めすぎたレア掘りに疲れ、気分転換にフリーでもと立ち寄った時の事。
受付で『お帰りなさい。』を言ったのは誰あろう彼女だった。その時俺は
疲労と嬉しさの余り現実で汗と涙を───
「───おい、おい大丈夫か?」
「ふへ? ああ、ああ勿論。いやちょっと懐かしき思ひ出に心がね。」
「?」
「ん、気にしないで。えーっとどれにしようかな……っと。」
いかんいかん感慨に意識を引っ張られていた。俺は気持ちを正し、
ミランジェさんが差し出してくれた本を開く。開いた中には討伐系
やら納品系からお使い等など。今回は挙動の調査だから面倒なのは
やめて比較的楽な物を選ぼう。となると。
「軽く体も動かしたく成って来たし、軽めの討伐系選んでもよか?」
「……ああ。」
「ういうい。」
相棒へ確認を取るとちょっと遅れて返事を返してくる。了承を得た俺は
適当なフリークエストを選び、その項目を人差し指でなぞる。すると指で
なぞられた部分が淡く光を放ち、一瞬光度を強めたと思えば直ぐに消えた。
後には焼かれた様に変化した文字とその隣へ俺の名前。これで受注完了。
本を閉じミランジェさんの方へ少し押し寄せては。
「用事は済みました。」
「依頼の受注確かに。何時もありがとうございます。」
軽く頭を下げるミランジェさん。そして再び頭を上げ。
「お気を付けていってらっしゃいませ、ルプス様。」
カウンター向こうでNPCの彼女が小さく笑って魅せる。俺はそれに会釈を
返しては相棒と一緒に外へ向かって歩き出す。その途中。
「ね?ね?ね? 良くない!?」
「ちょっとだけな。」
「だろー!」
困ったように笑いながら話す相棒。本来ならこんな事をせずとも、
仮想インターフェースからクエストの受注が出来る、のだが。
やはりVRゲームを遊ぶならこういった手間も楽しまないとね。何より
女性NPCとの会話が楽しい! 俺はウキウキ気分で酒場を後にし、依頼内容の
遂行を目指し。相棒と共に町を離れる事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───『穏やかざるましらの森』フィールド。其処は暗い夜の森。
木々の間、何もないその空間に突如光が集束したかと思えば、一瞬で
霧散してゆく。光の後にはトレンチコートを羽織った壮年の男性と、
腕まくりをしたフォーマルスーツ姿の男の姿。スーツの男が辺りを見渡し。
「うーん暗いっ!」
「そうか? まだ此処は明るい方だろ。」
「相棒には夜目系のアビがあるけど俺には無いの。ほら、火蝶は俺が
使うから、相棒はPT入ってクエスト共有しといて。」
「了解。」
俺は仮想インターフェースを開いては、表示されたメニューを操作して
相棒にPTへのお誘いを送り。その後インターフェースの画面に腕を突っ込み
所持品から目的の物を取り出す。
取り出したのはコルク栓のされたガラス瓶。栓を引き抜き少し揺らして
やれば。
『『───』』
揺らすたびに中から小さく火の粉が吹き上がり、やがて大きく吹き上がると、
明かりを放つ火の蝶が二匹ヒラヒラと飛び出て来た。一匹は俺の側を付かず
離れずと言った具合に漂い、もう一匹は相棒の側へと飛んでゆく。火の蝶が
放つ明かりのお陰で周りを確認できる程度には光源が確保出来た。
俺はガラス瓶に栓を戻し、そして握り潰す。するとガラス瓶は光の粒子と
成って手元から零れ落ちては消える。
「うっし。んじゃちゃちゃっと目的のモンスター探してぱぱっと倒そうかね。」
「ああ。」
相棒は返事をすると共に腰へ手を伸ばし、何もない背後から長銃を一丁
取り出す。それはスコープ付きで、緑がかったストックを持つ近代
狙撃銃。相棒は取り出した狙撃銃に片手を乗せるようにして肩へ担ぐ。
もう武装するとは気が早いな。今回受けたクエストは中級者レベルの物で、
フィールドの危険度もそれぐらい。上級者に当たる俺らには軽いもんな
のになぁ。
等と思いながらも、自分も相棒に倣い武器を取り出す事に。
腕を横へと伸ばす動作をすれば、省略行動に設定されていた
武器が手に収まる。それは見た目に何の特徴も持たない良くあるデザインの
ショートソード。各々武装も済んだ俺と相棒は、暗い森の中を歩き出す。
此処は俺が寝たあの不気味な森とは違い、至極真っ当な自然溢れる森。
夜と言えど不気味さよりも自然な涼しさや静けさが勝る物で、キャンプ
などをしたら楽しいのかも知れない。実際このゲームでは野営なども
出来るので、雰囲気を楽しみたいプレイヤーには好評。俺は遠征以外で
やる野営には十分で飽きちゃう質だけどね。何かしてたい質なので仕方ない。
そんな事を考えながら涼し気な夜の森を歩いていると、隣の相棒が。
「!」
不意に立ち止まっては片手で“動くな”と此方に意思を伝える。伝えられた
通りに俺は足を止めて少し待つと。
「目当ての奴が居たぞ。」
「お、何処よ何処。」
相棒が指差す方へ目を凝らすも……真っ暗で見えない。そんな俺の視界に
狙撃銃のスコープが突如現れる。横をチラリと見れば此方へスコープを
傾ける相棒の姿。ナイスな気遣いに感謝しながら夜間戦闘仕様のスコープ
を覗くと。遠くに見える木の上、其処で丸まるようにして眠っている猿が
二匹。猿と言ってもそこはファンタジーなゲーム世界。不気味な毛色に
二又の尻尾、そして可愛らしくない顔立ちと、アレは魔猿で立派な
モンスター。んで今回の討伐目標でもある。確認の済んだ俺は
スコープから顔を上げる。
「ルプス、何時もの様に単騎駆で行くのか?」
「のつもり。俺体動かしたい気満々だし。それに彼奴等程度なら事故も
無いからね。」
「分かった。ルプスの準備が出来たら突っ込め。」
「あいよ。」
作戦を決めた俺と相棒。相棒は片手で自分の側を跳ぶ火の蝶を払う。払われた
火の蝶は僅かばかりの火の粉を瞬かせては消え去り、狙撃銃を両手で抱えては
後ろへ下がり。暗がりにその身を隠す。闇に溶けた相棒を見送った俺は首、
手首、足首を軽く慣らし。剣を握る右手に力を籠め。
「───!」
魔猿が眠る木へと駆け出す。走る俺が木の下へ着く頃、後方から一つの閃光が
俺を追い越し、頭上を真っ直ぐと飛び進み。目標たる魔猿を撃ち抜く。
『!? ───』
『! キー!キキー!!』
撃ち抜かれた一匹は木の上からズルリと地面に落ち、そのまま動かない。
残った一匹が隣の異変に気が付き、頻りに鳴きながら木の下へと降りてくる。
そうして魔猿が木を降りきるのと同時に。
「そーれっ!」
『!!!』
俺は横をすれ違うようにして斬り抜け、振り返る。
『───』
切られた魔猿が“パタリ”と倒れ、絶命。これで依頼は完了、とは行かない。
討伐数がこれでは全然足らないからだ。でもまた一から探す必要はないから
安心。
『『『キキー!』』』
辺りの暗がりから今し方倒したモノと同じ魔猿が何匹も飛び出して来た。
相棒はこの為に、敢えて二匹同時には仕留めなかったのだ。お陰で
沢山の魔猿に囲まれる俺。威嚇を繰り返す魔猿たちを軽く流し見れば……。
おー沢山集まったなぁ。よしよし、これならちょっと蹴散らせば必要
討伐数にも届くね。気分もノッて来た俺は剣を片手で真っ直ぐに構え。
「来いオラー!」
『『『!』』』
スキルの関係ない挑発をかます。それが効いたのかどうかは分からないが、
目の前から一匹の魔猿が此方へ跳びかかってくる。俺はそいつの到着を
待つような事はせず、此方から一歩を踏み出し剣を内から外へ切り払う。
最初の脅威を排した俺はそのまま踏み出した足に力を籠め、前へ大きく飛び込む
事で、魔猿達の囲いからあっさり脱出。囲いを抜ければ後は簡単、振り返っては
迫るそれらを後退しながら倒すのみ。
「ほいほいほほいっと。」
飛び掛かる奴がいれば切り払い、地面を四足で駆けて来たら蹴飛ばす。いやぁー
軽い軽い。この辺のモンスターは楽勝だから何て事は無いなぁ。これスキルを
使う必要も無いね。パッシブアビリティだけでも十分十分。予想通りのクエ
スト運びに安心していれば。不意に右方向から“ゾワゾワ”とした感覚がし始め、
その強さを増して行く。が、それを無視して目の前の魔猿たちを斬っていく。
『キー!』
暫くすると感覚がした方向から一匹の魔猿が飛び出して来た。振り上げた魔猿の
爪が真っ直ぐ俺に───
『!?』
───は届かない。奇襲魔猿は哀れにも空中で撃ち抜かれてしまう。今撃ち
抜いたのは勿論頼れる我が相棒。俺は弾が飛んできた方へ向けて、剣から指を
二本程立てては振り振り。届いたかどうかは分からないけど、多分相棒なら
見えてる事だろう。後退しながら戦う俺を追うようにして付いてきてるで
あろう相棒へ礼を送っていると、下の方からまた“ゾワゾワ”とした感覚が迫る。
直ぐに視線を遥か後方から目の前へと戻し、向かってきていた魔猿を切り払う。
先程から感じているのはパッシブアビリティの『危機感知』だ。効果は自分への
攻撃的意思をこうして教えてくれるお便利アビリティ。回避行動命な俺には大変
ありがたいモノ。お陰で回避も対処も楽々。
「……。(気の所為かな。何だか凄く動き易い。)」
こうして余裕を持って体を動かしていると気が付いた。凄く調子が
良いと言うか、動きがスムーズと言うか。兎に角体を動かす事に
ラグや感覚の相違を全く感じない。『危機感知』も今まで以上に
強弱が分かるしモンスターの動きも良く見える。これも新生(仮)の
お陰なのだろうか? だとしたら……凄く良い感じぃ! 現実の肉体が
無いから疲れて動きが鈍る、何て事も無いし。あれ、俺今最強じゃね?
ワハハ。何て心で笑う傍ら、目の前から上下に分かれて迫る魔猿。
一匹は跳び上がり、一匹は下から突撃して来る。上下の同時攻撃にも俺は
慌てず冷静に対処。まず跳び掛かって来る方を剣で突き飛ばし、直ぐ様
逆手に持ち替えては下へと……。そう言えば。俺はまだまともに
モンスターからの攻撃を受けた事が無いな。
あの眠りガスはダメージが無かったし、何だかんだでモンスターから
普通の攻撃を受けて無い。今の俺のレベルと装備なら、コイツら程度でも
多少はダメージも受けるだろう、多少……。何て、ちょっとした好奇心が
心から手を伸ばし、剣を握った手に絡まる。その結果。
『キキー!』
「あ、やべ───」
攻撃が遅れてしまう。当然倒せる物と思われていたらしく、相棒からの
援護は無い。魔猿は何に阻まれる事も無く、そのまま頭突きを綺麗に俺の
土手っ腹へとぶち込む。まあ俺のレベルに装備を考えればカスダメ───
「───ぐげぶあぁっ!?」
頭突きの衝撃に体が後方へ飛ぶ。地面を転がりながらも直ぐに体勢を
立て直し、ショートカットコマンドを頭で思い浮かべ。自分の視界に
キャラのライフポイントを表示する。表示された残りライフポイントは
二割ほど。二割!うそぉ!? 驚く俺の耳、と言うか頭に。
『大丈夫か?!』
相棒からのウィスパーが届く。それに対し俺は叫ぶ。
「実験の時から装備を変え忘れましたぁ!」
『な!? 準備が出来たらと言っただろうが! いや今はそんな事を
言ってる場合じゃない。よく聞けルプス、絶対にし───倒されるなよ。
倒される事がゲーム的処理なのか、そうじゃ無いのかはまだ分から
ないんだからな!』
そう言うと次々銃声が響く。どうやら相棒は本腰を入れて魔猿の群れを狙撃して
いるらしい。これはよく出来たVRゲーム、そうゲームだ。だからキャラクターの
ライフポイントが無くなってもそれは倒されたってだけの事。でも、それが
今の俺に起きた場合どうなるのか? リザルト画面が開かれるか、
それとも。
「たぁぁあああしかめたく無いぃぃいいいい!」
感じた恐怖が喉を通り抜け外へ叫び声と成って響き渡る。そうして自分自身の
恐怖の叫びが耳に届く。頭突きを食らって魔猿達からは少し距離がある、だが
町へ跳び逃げるには近く、装備を変えるにも近い! 俺が今見ているのはもう軽く
蹴散らせる魔猿たちではない、迫りく死の大群! 死神だ!
『『『キキー!』』』
死神の群れが俺に向かって迫り来るじゃないか、ああ、ああどうにか
しなければ! アレにやられてどうなるか何て、文字通り命をかけて
確かめたくない! ビビリ散らしながらも俺は無理やり足に喝を入れ、
迫りくる死を切り払う。逃げたい所だけど、此処で無防備に逃走何て
したら此方がやられる。だから逃げ出したい気持ちを必死に抑え、先程
同様下がりながら応戦するしか手は無い。幸いにも長年のゲームプレイで
染み付いた経験のお陰か、瀕死の時ほど冴えるプレイングと言うのが発揮され。
恐怖の中であっても辛うじて動けた、かつて無いほどの集中力を滾らせながら。
まあ本当に瀕死だからね! 必死にもなるさ!
『ギー!?』
恐ろしい死を何とか蹴散らしていると、群れの後方で魔猿が一匹、また
一匹と撃ち抜かれては断末魔を上げ倒れ伏す。大変嬉しい事に、さっきの
ウィスパーの終わりから相棒は、それまで軽い援護射撃だった物を
絶え間ない狙撃へと変え、魔猿の殲滅を図ってくれている。だが群れの
数が思ったよりも多い、と言うか追加とかが入って来て思うように数を
減らせていない。俺も我が身大事さに回避へ注力してるしな!
出来る事なら今直ぐ自分の防具を変えたい所だけど、出来ない。ゲームの
仕様的な問題では無く、純粋に俺が全身の防具を入れ替えるショートカット
コマンドを設定してないだけ。戦闘中に武器を変える事はあっても、全身
装備を入れ替えるのは想定して無かった! だからこのままの防具で戦い
続けるしか無いのだが、さっきの減り方を見るにもう一発はとても
耐えらないだろうなぁ……。かと言って悠長にも自然回復を待ってたら
事故が怖い。ああくそっ! 何時も使ってる回復アイテム、寝る時倉庫へ
一緒に突っ込んじゃったしよう! 手持ちには何も───いやまて、一つだけ
あったぞ!
『『『キッキキー!』』』
「うるせぇ!!!!!」
『『『キー!?』』』
見出した希望を邪魔するかのように三匹の魔猿が飛び込んで来た。
俺はその突っ込んで来る魔猿をホームランよろしく剣の腹で三匹共
打ち返してやる。打たれた魔猿が後ろにいた仲間を蹴散らし、図らず
とも僅かばかりの隙きを作る。しめた! 俺は直ぐ様空いている片手で
何もない空間から一つのアイテムを取り出す。たまたま手元に残していた
一つの回復アイテム。そう、あの人外ラミアちゃんのお店で買ったライフ
ポーション! それを一気に飲み干す。
「───ぅぅぅぅうううめぇええええええ!」
涙が出るほどの美味。甘いとか辛いとかそんなんじゃない。味を超越した味。
まさに命の味だ。低レベル帯の物とは言え品質が良いお陰と、ここまで耐え
凌いで稼いだ自然回復とを合わせれば、視界端に見えているライフポイントも
何とか一撃分耐えられる程度には回復。魂のライフポーションに感謝しつつ、
もう回復アイテムはあの店以外では絶対に買わないと、心に強く固く誓い。
「……こんのサル共がぁ! ビビっちゃったでしょうがああああああああ!」
八つ当たり全開で魔猿共を蹴散らしにかかる。一撃で死ぬ恐怖から逃れ、
代えがたい余裕を得た俺は、強気の攻め姿勢。魔猿の群れはその正面を俺に
切り崩され、背後からは相棒の狙撃。挟撃されるように攻め立てられた群れは
みるみる壊滅していき。そして───
「これで最後ぉ!」
『キー!』
最後の一匹を仕留めた、仕留めきったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「大丈夫か?」
魔猿を仕留めるとその後方から、相棒が狙撃銃を担いで駆け寄って
来てくれる。命のかかった戦闘、そのプレッシャーの所為で精神的
疲労全開の俺は、そんな相棒に荒く呼吸を繰り返しながら。
「はぁ、はぁ、はぁ!(頭を左右に振って見せる。)」
「そうか。……取り敢えずお前が無事で良かったよ。」
俺も自分が無事で死ぬほど嬉しい、とは言えない。今は兎に角この
空気って奴を吸って吐いてするのがたまらなく嬉しくて楽しいからだ。
呼吸に勤しむ俺を相棒は暫し眺めては、辺りに視線を流す。俺も流し
てみれば、辺りには消えかけ、或いは消えている最中や消えてない等の
魔猿たちの死骸。それらを流し見た相棒が一言。
「依頼達成には十分すぎる数だな。討伐も済んだし町へ帰ろう。
ルプスも疲れただろう?」
「!」
“コクコク”と頷いて肯定。実際に戦った時間はそうでもないが、
俺にはとんでもなく長く、また緊張の続く戦いだった。用事も
済んだしこんな所はさっさと帰りたい気分───
『ギオオオオオオオオオ!』
「「!?」」
突如大声が響き渡り。“ズドンッ”っとデカイ音共に地面が揺れる。
声に振り返ればソレは居た。
『ギオオオォォォ……。』
低い唸り声を上げては、片手でへし折ったらしい木を踏みつけ、此方を
左右の目で交互に睨め付けて来る。ソレは先程まで戦って居た魔猿たちを
大きくゴツゴツな体躯へと変え、ちょっとした装飾品も身に着け。
より凶暴な顔立ちにした様なモンスター。
「「ちょっと倒しすぎた」ね。」な。」
俺と相棒が同時に呟き見上げる先。鋭い歯をむき出し、怒りに顔を歪め
出したソレ。
魔猿達の親玉、『マシラオウ』のご登場です───
お読みおいただきありがとうございます。この物語が貴方様に楽しんでいただけたのであれば、
幸いです。物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。
誠にありがとうございました。




