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オレだけが此処にいる。  作者: MRS
第一章
12/65

第十一話 町を流す

 ───ベンチに腰掛け一人仮想の夜空を見上げる男。夜空には星々が瞬く。




 玉蜀黍を見送り。ぼーっと上を見上げる事にも飽きてきた俺は、別段疲れも

 してない首を片手で労りながら、見上げた頭を下ろす。


「さてと。相棒が戻って来るまでどうすっかねー。」


 自室に帰る、って言ってもどうせ直ぐ町に戻るだろうし、そもそも帰っても

 する事が無い。なら適当に町をぶらつく? ……ありだな。

 新生(仮)をしたらしい俺は過ごし慣れたこの町を妙に新鮮に感じる。なら町

 を見て回るのもそう悪い事じゃない気がする。それに。


「これから長く過ごす此処(ゲームの世界)の事を改めて考えるのにも良さそうだし。」


 俺は今の俺を何とかギリギリグレーな感じで受け入れはしたけど、実は

 此処(住む世界)の事はそれほど受け入れられていなかったらしい。それを偶然

 出会ったフレンドとの会話で気が付いた。だからこそ今町を見ながら

 思いを巡らせるのも悪くないと思える。そう考えた俺は早速座っていた

 ベンチを離れ、プレイヤー達が行き交う歩道へと自らも混ざる事に。

 行き先も決めずに歩道を流し歩きながら町の景観を観察。この町は

 全体的に中世風な街並みで、まさしく剣と魔法の世界に沿ったデザイン。

 勿論他にも町はあるけど、此処は誰もが一度は想像した魔法がありえそうな

 町として、或いは映像の中で再現されたそれらに最も近い町だと思う。

 そんなファンタジーな映画や物語に出てきそうな街中を歩くのは、実は

 それ程純ファンタジーな存在ばかりじゃない。フォーマルスーツな見た目

 装備の俺とか。後は。


「!」

「───?」


 視界端、歩道の脇で話し込む二人へ視線を少しばかり向ける。

 片方はジャンパーを羽織った現代風ファッションのヒューマン男性。

 もう一方はレトロなゴーグルを頭に乗せ鳥の足に羽の腕を持つ、スチーム

 パンクな装いのハルピュイア女性。何事かを話し込む二人は装備を見るに

 プレイヤーだろう。種族と装備の組み合わせが世界観をぶっ飛ばす勢い

 だけど、そもそもこの世界のゲームプレイヤーとは自由な存在。

 だから彼等の装備や見た目種族を余り気にし過ぎてはいけない。寧ろ

 楽しむべき物なんだ。……まあ、始めた当初はふんどし一丁の(つわもの)とか

 エプロン姿でモンスターと戦うプレイヤー達とかに俺も驚いたけどね。

 でもそう言った事はプレイしていくうちにすっかりと慣れてしまう物で、

 今じゃそれらを楽しめる余裕まで生まれてる程。ある種の様式美があるとも

 理解出来た。ま、それにしたって自由度の高いキャラクリエイト悪用して

 悪巫山戯が過ぎると運営何かに通報とかされちゃうけどね。何事も

 見極めが大事だな。うん。

 等と考え歩く傍ら、視界の端から二人のプレイヤーが過ぎ去る。横へ

 流していた視線を前へと戻せばすれ違うプレイヤーの種族はまさに多種多様。

 このVRゲームでは開始時にキャラの種族が選べるのだが、妖精族やら獣人族に

 人間族等など。豊富な種族選びが可能で更にはそこから妖精族のエルフ種に

 ドワーフ種と……。もう選ぶだけで大興奮物。そんな理由(わけ)である程度の

 プレイヤーは皆キャラメイクに膨大な時間を貪り食わせる。勿論俺も食わせた

 口だ。そりゃあだってねぇ、皆自分の分身息子嫁婿うちの子ともなれば、気合も

 バリバリに入るってもんよ。


「(凝っただけに自キャラもそこそこイケてる───いや! 今はイケメンと

 強く名乗らせてもらおうか! だってもうキャラが俺みたいな物だし!)」


 自分がイケメンに新生したと考えればこの出来事も悪くないと思える。

 生まれて始めてイケメンな気分を味わいながら町を歩き、建物の窓ガラスに

 映る自分を見ては小さく格好を付けてみたりしちゃう。だって俺今イケメン

 だし。周りに怪しまれない程度にガラスへ映る自分で遊んでいると、俺は

 ふと気が付いた。窓ガラスへ映り込む自分の背後を長身美形のダークエルフや

 狼フェイスでワイルド溢れるウェアウルフの誰それが行き交う事に。

 ああ、ああそっか。此処(ゲームの中)じゃイケメンなんて五万と居るよね。……悲しい。

 悲しすぎる事実に気が付いた俺は凹みながらも再び道を歩き出す。

 気持ち視線を下げ気味に。

 周りの格好いいプレイヤーを視界からシャットアウトして“あぁ~どうせなら

 自分だけがイケメンな世界に新生したかった~!”何て思いながらひた歩く。

 やがて凹んだ気持ちもちょっとはマシになった頃。下げた視線を戻してみると

 辺りには人気も無く、何処か寂しさが漂う景観。おおう、どうやら自分は知らず

 知らずに町の隅へと来ていたらしい。いやいやどんだけ落ち込んでたんだよ俺。

 結構歩いたもんだぞこれは……。歩を止め辺りを見渡してみる。すると。


「(……んん?)」


 行き交う人も居ない歩道の側。其処に建つあるお店に視線が留まる。それは

 ごく普通の雑貨屋。だけど俺はそのお店が気になり、気になったからには中

 へと入る。


「あ、いらっしゃいませ!」


 お店に入ると店員さんが声を掛けてきた。その人物は店奥にある台の向こうで、

 眼鏡を掛けた綺麗なキャラメイクの人間族女性。俺は女性店員に軽く会釈して

 から店内を見て回る事に。入った店内は然程広くもなく自分意外に客も

 見当たらない。中央には四角形のテーブルと、店内を囲むように壁側へ設置

 された商品棚。壁の商品棚へ近付き見てみるも珍しい物は特に無い。置いて

 ある物と言えばライフポーションやら毒消し臭い消し等の消耗品ばかり。

 試しに棚から一つライフポーションを手に取りステータスを確認。ふむふむ。


「……。(NPCが売ってる物よりは質が良く値段も適正。って事は初心者を

 カモろうってアコギなお店じゃあない訳か。こんな場所にあるからてっきり

 劣悪な品質でボッタ値段設定の店かと思ったけど違うらしい。見た限りダーク

 ショップにも見えないし……。どうやら此処は普通のプレイヤーさんが

 普通に経営してるお店らしいね。んでもってあの店員さんがオーナーかな?)」


 商品を眺める俺の姿を瞬きもせず熱心に見詰めてくる辺り、多分そうだと思う。

 高い自由度が売りなVRMMOエリュシオン。だから勿論ゲーム内でプレイヤーが

 お店を経営したりもできちゃう。経営には色々なやり方があり、店舗経営

 だけをして店自体の運営をNPCやバイトプレイヤーに任せたりする人もいれば、

 彼女の様に自ら店番を楽しむ人もいる。そんな店員さんへ。


「このお店って最近出来ました?」

「はい! 開店ホヤホヤです!」

「ホヤホヤ……。」

「はい!」


 やっぱりね。俺はこの町を拠点にして長い。だから主だった施設から小さな

 お店までほぼ全てを把握している。なのでこの見慣れぬお店が気になり偵察

 してみたんだけど。思った通り最近開店したお店だったらしい。だけどそれに

 したって、なぁ……。


「(此処は立地が悪いよ。)」


 まあそれも仕方がない事と言えば仕方がない。この町は人気がそこそこに

 ある場所で滞在アクティブプレイヤーも比較的多い。そうなれば必然商売

 何かも盛んで、立地条件のいい場所は軒並みやり手プレイヤーやら商人

 ギルド何かが日々奪い合いの睨み合いを繰り広げている。そこへの参戦は

 並のプレイヤー程度では難しいだろうね。多分彼女は参戦出来なかった口の

 プレイヤーで、だからこそ町の中心部から離れたこんな端の方にお店を

 出したのだろう。そして何とかお店を出したは良いけど売ってる物は

 どれも定番商品ばかり。これなら態々こんな端の方まで買いに来る客も

 居ないし、他に目ぼしい目玉商品もない様子。つまり……。


「(長くないだろうなぁこのお店。)」


 俺は此処に店がある経緯をそう考え、手にしていたポーションを

 棚の籠へと戻す。そして()()()()()()()()は会計台ヘ向かい。


「これ全部ください。」

「え!あ!ハイッ! ありがとうございます!」


 店員さんは驚きながらも籠を受け取る。彼女の会計処理を眺めつつ思う。

 いくら周りに競合店が無いとは言え客自体が来なければ経営も成り立たない。

 利益は無くとも土地代やらと出費はある物。まあ趣味で続けるだけなら

 クエや狩りにでも出て、日々稼いだお金をそのまま店の維持費に注ぎ

 込めば良い。だけど底の抜けた水差しに水を入れ続ける何て作業は大変だ。

 長く続けられるかは怪しい。なのでもし俺が次に此処へ来るとしても、その

 時にはもうお店が無いかも知れない。だったらこの一期一会を大切にしよう!

 何て思う傍ら。自らの行為を“やっべーこれぞイケメンに許されたイケメン

 的行動じゃね?”等と心でドギマギしながらほくそ笑む。ゲームの中だから

 こんな行為も全然恥ずかしくないもんね。あーたのし! 何て俺が意識して

 イケメンを楽しんでいると、会計処理をしていた彼女が此方を見上げ。


「あのぅ何故こんなに? その、見た所お客さんは初心者って感じでも無い

 です、よね?」

「初心者じゃないですね。(ある意味そうだけど)」

「だったら何故……?」

「開店祝いと投資ですかね。」

「投資、ですか?」


 疑問気な彼女。俺は会計処理の終わったポーションを一つ掴み上げ。


「このライフポーションは質が良い。低レベル帯の物であるにも

 関わらず平均よりもずっとね。つまりこれを作った人は商品を高い

 品質で提供したいって事なんだろうなと思いました。なので、品質に

 拘る誰かを応援する意味を籠めての一気買いであり、投資です。」


 説明が終わると女性店員さんは大きな瞳で此方を見詰めてくる。

 今のはイケメン云々関係なく言った言葉に嘘偽りは無い。

 本当にこのポーションの質は良い物で、多分コレを作ったのは

 生産型ビルドの彼女自身だろうね。

 このゲームには多くのオンラインゲームに存在するジョブやクラスと

 言った物は存在しない。あるのは自由で広大無辺なスキルツリーだけ。

 各プレイヤーは皆レベルアップやら何やらでスキルポイントを集め、

 そのツリーを自分好みに組み立てる訳だ。組み立てた結果、素材から

 アイテムを制作出来る生産型や戦闘特化の戦闘型などの『ビルド』と

 呼ばれる物が生まれる。もっともこの呼び方は全てプレイヤー間の

 スームズな情報共有の為に最適化された物だけどね。公式から特に

 呼び方が無いから生まれたのだ。だからビルドって呼び方の他にも、

 プレイヤー自身が特色のある二つ名呼びを作ったりもしている。これが

 また結構面白い───ってのは良いか。考えが脱線した。

 ま、自分のお店を経営したい何てプレイヤーの多くは生産型ビルドが

 多くて、彼女もそうだろうなーって思っただけ。そしてポーションの

 質を見ればどれだけ頑張ったかがある程度分かる。間違いなくこの

 プレイヤーは良心的。ならこれぐらいわねー。


「ああ、ありがとうございますっ!」


 見詰めていた彼女は心底嬉しそうに話す。俺はそれへ軽い会釈を返すのみ。

 今の自分はイケメンなので何をしても様になるのだ、フハハ。やがて会計

 処理も終えたアイテムを倉庫へ一括転送し。一つだけ手元に残したライフ

 ポーションを片手に店を出ようと台へ背を向ける。


「あ、あの! 始めてのお客さんが貴方で、よよ、良かったですっ!」

「(……上手いなぁ。)」


 帰り際にコレ、実に良い台詞。恐らく此処に来た数少ないプレイヤー

 みーんなに同じ事を、特に男性キャラクターを意識して言っているのだろう。

 これは中々商売向きな店主さんだ事で。こんな場所じゃなければ人気の出た

 事だろうに。だが残念、生憎俺はそんなロールに騙されるほど(うぶ)じゃ

 ないんだなーこれが。騙されはしないが乗りはする為、俺は振り向き。


「はは、ありがとう。また今度寄らせてもらいますね。」


 イケメン的笑顔で振り返りながら言葉を返す。すると。


「本当ですか!? 嬉しい───いたッ!」


 言葉に喜んだ彼女が()()()()()()()()()

 俺の返事を聞くと、台の向こう側に居た彼女はその背をぐんぐんと伸び上げ。

 やがて自らの頭を店の天井へと激突させたのだ。ぶつけた頭を片手で抑える

 彼女から視線を下へ下へとげれば、伸び切った下半身は紫色の鱗を怪しく

 湿らせヌラリとした光沢を放ち。爬虫類的、いやぶっちゃけ蛇の尾だわあれ。

 上半身が人間で下半身が蛇って……彼女ラミアじゃん!

 後序に下半身にスカート的な物が無い所為か、自由な上の服がひらりひらりと

 揺れてお腹の辺りがチラッと見え、見え、見え───たッ!


「ごごごごめんんさい。その、恥ずかしい所をお見せしちゃって……。」

「ありがとうございます。また来ます。」

「はい?」

「絶対にまた来ます。」


 良いモノが見えれた俺は大きな満足感と共に、それだけを言って踵を

 返し店を出て行く。そんな俺の背中へ。


「ありがとうございましたー!」


 あの女性ラミアの声が届く。悪くない、悪くないギャッッップ!

 何だよ何だよ大人しそうな話し方と見た目なのに下半身あんな生々しい

 蛇姿とか───最ッ高だな! ロールも良かったし、これは久し振りに

 超優良店を見付けちまったかぁ!?


「この一回だけと思っていたけど、これからは定期的にあのお店に

 通わねばな。ムフフ。」


 プレイヤースキルは別として、そこそこ長くこのゲームをプレイ

 してるだけに、装備や財等だけを見れば上級プレイヤー層に入る

 俺にはある楽しみが存在する。それは、自分が気に入ったお店に

 とことん肩入れする事。定期的にお店へ通ってみたり、匿名で資金を

 寄付してみたり、店からのフリークエストをそれとなく熟したり等など。

 NPCのオーナでもPCの店員さんでも関係なく、何か気に入ったお店への

 肩入れ、これが中々楽しいのなんのって! 極力目立たないようにして、

 影の常連客ごっこを楽しむのがねーハマるハマる。

 店を出た俺は早速仮想インターフェースを開いては、お楽しみリストに

 今のお店の名前と場所をメモる。ルンルン気分でね。


「~~♪」

「機嫌が良さそうだな、ルプス。」


 名前を呼ばれインターフェースから顔をあげると。其処には草臥(くたび)れた

 トレンチコートを見事に着こなす相棒、ブルクハルトの姿。


「おーう! もうそんな経ったのか。」


 VRゲーム全般に言える事なのだが、ゲーム内時間と現実時間とでは当然

 流れる速さが違う。完全に時間を同調させると夜だけとか朝だけしか

 遊べないからね。だから(ゲーム内)での時間的感覚を操作し、ゲーム内で一日を

 過ごしたとしても現実ではそれほどの時間も経ってない、とかの工夫が

 なされている。しかし現実が夜の間はこのVRゲームの中でも夜の時間の方が

 長くなるので、未だ此処は夜のまんま。


「ああ。それで? 何かあったのか?」


 相棒が此方を見ながら話す。人気も無いこんな場所で一人嬉しそうにしていた

 俺は、ちょっと怪しかったかも知れない。そんな事を思いながら。


「それがさ───」


 誤解のないように説明をする事にした。ベンチで見上げた夜空とか、

 俺ってイケメンじゃん? 的な話をしつつ、超優良店を見付けた事を。

 それらを話しながら俺と相棒は町の中心へと向かって歩く。




 薄暗い町の隅を二人の男が並び歩く───

この物語をお読みいただきありがとうございます。少しでも楽しめたモノであれば幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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