第九話 決闘の行方
───夕焼けの下には、拳銃を片手で構えるトレンチコート姿の男性。
此方に銃を構える姿は、何かの映画にでも出てきそうな程様に成っている。
そんな絵になる相棒へ俺は。
「受ける、決闘は受けるけども! いいいきなり撃ったりはしないよね?
俺にも心の準備って物があるんだからさ。」
「分かってる。無言でいきなり撃ちはしない。」
既に構えてる時点で大分怪しいよなぁ……。だけどこれってゲームだし、
それに相棒は俺の事をころ、いや倒すような攻撃はしないってさっき
言ってもんね。不安が無い訳じゃあないけど、俺自身も気になる事。なので。
「……。ん。決闘受けたぞ。そんで?」
「コイツを使って状態異常を付与する。」
言いながら、相棒は手にした現代的な黒いハンドガンを顔の横でヒラヒラと
振って見せた。やっぱりかー。このゲームに登場する武器のハンドガンは、
射程も威力もそう高くは無い設定だ。なので緊急時の自衛目的意外でメインに
使う人もいない、と言うか。ハンドガンを使うであろう遠距主体のプレイヤー
達は近距離自衛枠に他の優秀な武器を選ぶか、そもそも彼等は近距離戦闘
自体をしない。だからこのゲーム内で武器のハンドガンを見る機会ってのは
意外と少ないんだよね。なんだけど、うちの相棒は銃器が大変お好みらしく、
遠近その他全てが銃関係で統一されている。武器をシリーズで揃えるのは嫌い
じゃない。良い拘りだよね、うんうん。そんな拘りを持つ相棒が。
「まずは火傷からで良いか?」
「全然良くないけど良いよ、っとちょい待ち。一応装備の質を落とすからさ。」
「分かった。」
俺の返事を聞いた相棒は、片手にしていたハンドガンからマガジンを
地面へ抜き落とす。マガジンは地面へ落ちる寸前青い光の粒子と成って消え、
釣られた視線を戻せば、いつの間にかもう一方の手に持っていたマガジンを
ハンドガンへセット。銃身を一度スライドさせ銃の左右を確認しては一つ頷く。
今のは見たまんま弾の交換で、多分火傷付与の効果がある弾に変えたんだろう
なぁ。相棒が使うハンドガンは状態異常付与に特化してカスタムされている
から、装備の質を落とした今の俺ぐらい容易に状態異常を付与出来るだろうね。
因みに、弾のリロードモーションやら武器のチェンジモーションはこのゲームの
隙として用意されている物だけど、そのモーションはプレイヤー毎で自由に
カスタム出来る素晴らしい仕様だ。まあどんなに頑張っても所要時間が
一定から短く成る事は無いけど、長くなる事はままある。皆決めポーズとか
入れたりするからね。俺が自分の銃火器のリロードモーションは一体どんな
だったかなと思い返していると。
「此方は準備完了だ。」
「あ、ほんと? ……此方もおk。あーでも、近くても問題ないだろうけど
ちょっとだけ離れるわ。」
「了解。」
何となく至近距離でズドンされたく無かった俺は相棒から少し距離を置く。
近すぎず遠すぎない距離まで歩いては、相棒へ振り返り。
「んじゃいっちょたのんま。」
相棒は一度頷き、ハンドガンのハンマーを親指で倒しては両手で構え直す。
その様子を離れた所から見ていた俺は何だかソワソワとする感覚に襲われた。
まさか緊張している? いやいやいやこれゲームだし、何だったら銃に撃たれる
のも初めてじゃないよ? モンスターやらプレイヤーやらからもう数え切れない
ほど銃は撃たれたじゃないか。なのに今更何を緊張する必要がある? それに
相棒が使ってるのはこのゲーム世界じゃ威力のひっくいハンドガンを、更に
状態異常特化で威力が下がった武器じゃん。そんなので俺がビビるの?
おいおい勘弁してくれよ。全然ビビる訳が無いってーの! 等と頭でイキって
いれば前方。
「!(引き金を引く)」
見遣った先で火花が小さく飛び。此方へと放たれる赤い閃光。閃光は俺の腹部
目掛け真っ直ぐに伸び迫り、近付く閃光をスローモーションな世界で眺めていた
俺は、俺は───
「んああああああっと!」
腹部を貫かれる既の所を全力回避で躱す。横へ大きく翻すように交わした
俺は荒い呼吸のままに過ぎ去った閃光を見遣る。既に閃光は遥か遠く。
「? 何で躱した?」
掛けられた声に振り返れば、相棒が構えた銃口を少し下げ小首を傾げていた。
「い、いや? ……くせ、そう癖でね、つい。」
「成る程。ならもう一度行くぞ。」
「おー! 来い来い!」
納得した相棒が再びハンドガンを構え、此方に銃弾を撃つ。先ほどと同様
迫りくる赤い閃光。大丈夫、もう避けたりしない。これは必要な実験だもん。
アレに一度当たるだけ、ダメージ何て無い無い。簡単、当たるだけ、当たるだけ
あたあたたあたああああああああ!
「ああああああっっっん!」
叫びながらも迫る閃光を再び躱してみせた。
「おちょくってるのか?」
「ちちち違うから!」
「じゃあ何なんだ?」
問い掛けてくる相棒。俺は体勢を直しながら。
「いやね。今の俺って俺じゃん?」
「答え易いようで答え難い質問だな。」
「そんな奥深い話じゃないって。ようは俺の体って呼べ得る物が、今はこの
ゲームのキャラクターだって事。そう思ったらさ、何か大事にしてやりたい
と言うか、銃弾でぶち抜かれる事に抵抗が生まれたと言いますか……。」
「……気持ちは分かった。それにルプスが言うようにソレこそが今の
お前の体だ。もしもで予想外のダメージが出ては困るな。」
「な!な!なー! んじゃこの実験は後日改めて───」
「だから臓腑は避けて足を撃つ。」
言うと同時に引き金を引く相棒。俺の足目掛けて飛んで来る閃光を、
俺はその場で空中一回転を決める事で見事に回避。綺麗な回転の後に
地に足を着け、相棒へ言う。
「うおい! 危ねーだろっ!」
「大丈夫だ。あるかは知らんが大腿動脈は外すように狙ったから。」
「え、ほんと? それはありがとう。何て言う訳ないでしょーが!
聞いてなかったの?! もう俺にはこの体しかないの! この大事な大事な
体を傷付けるのはどうかなってさぁ!」
叫ぶと相棒は構えていた銃口を下ろす。やっと納得してくれたかと、ホッと
する俺を相棒は真っ直ぐに見詰め。
「ルプス。怖いのは分かるがこれは必要な事だ。睡眠状態の様に何か変わった
のだとしたら、今把握して置かなければいけない。お前に重大な何かがこれ以上
起きる前に。」
下ろした腕をゆっくりと上げ、此方に銃口を向け直し。
「だから───お前を守る為にお前を撃つ。」
「格好いいんだが物騒何だか分かんない台詞やめろぉぉおおお!」
マジでイケてるオジフェイスにマジな表情を加え銃を構える相棒。
その相棒が俺の足目掛け二発刻みで銃弾を放つ。撃たれた弾丸を横へ
走り出す事で躱すも、相棒は俺の動きに合わせて一緒に横へ移動しながら、
間髪入れず二発毎に銃弾を発射してくる。殺る気だ! 殺る気満々だー!
俺は必死に撃たれまいとして走り続ける、じゃないと直ぐ後ろを通り過ぎる
弾丸に捕まるからね。撃たれたくないので必死に走る、が。俺は横目で
チラリと見ていた相棒の、その動きに気が付き足へ急ブレーキを掛けた。
「ひょわ!?」
後もう少しで当たると言う所を赤い閃光が飛び抜けて行く。っぶねー!
相棒は意地の悪い事に、俺を追い立てるように撃ちながらも不意に進行
方向へ予測撃ちをぶっ込んで来たのだ。止まれば撃たれ、走りすぎても
撃たれる。此方の回避のリズムを崩す戦法。
「惜しい。いや対応出来たルプスは流石と言った方が良いか。やっぱり
今度一緒にPvPに参加しないか?」
「今褒めあられても全然嬉しくないもんね! 後何度も言ってるけど俺は
PvPよりPvEのが好きなの!」
「残念。一緒にやれたら楽しいんだがな。」
手早くリロードを挟む合間に相棒から称賛が届く。今のうちに跳んで逃げた
ったけど決闘中。そしてリロードの済んだ相棒が此方に銃口を向ける。
もう一度走って躱すのも良いけど、こんな野原じゃ射線を遮れそうな物が
何も無い。そんな中で今みたいに此方のリズムを崩す戦法を取られ続ければ、
何時か此方がミスをするのは分かりきってる。だからこそ俺は走るのを
やめて相棒を見据える事に。
「?」
疑問気に小首を傾げるも、相棒はぶら下がったチャンスをみすみす見逃したり
はしない。だから当然遠慮もなしに引き金を引く。相棒から放たれる二発の
弾丸、それを俺は目測だけで───躱す。その後追加で放たれる弾丸も躱す、
躱す、躱す。
「………。」
相棒はリロード挟んだかと思えば、即撃ちながら此方へ歩き近付く。
俺は放たれる銃弾を躱しながらも相棒との距離は常に一定に保つ。
引き撃ちされれば近付くように躱し、逆なら離れる様に躱す。
もう現状を打破するにはこの方法しかないと思って実行したけど。
「(躱せる! 躱せるぞ俺!)」
相棒は俺が装備の質を落としたから余裕と思ってたかも知れないが、
俺は使わない装備だろうと必ず全てに、敏捷を上げるアビリティを
付けているのだよ! フハハ! 装備の質的に余裕は無いにしても、
お陰で何とか反応速度が上がって避け続けられている。
このVRゲームでの回避の仕様は、まさに見た目通りの回避。明らかに
攻撃が当たっているのに“ミス!”何て表示が出て回避出来る訳じゃない。
VRゲームでその表現方法は合わないもんね。まあ中にはそう言うのもある
らしい。だけどこのゲームで攻撃を回避するには、本当に躱すしか方法は無い。
とは言えVRゲームで遊ぶ人の大半は常人。何の補正も無しにそのままの
反射神経で回避の達人には成れないさ。そこで登場するのが素晴らしき
ゲーム内ステータスの一つ、敏捷性だ。プレイヤーはこれを上げる事で
ゲーム内での感覚が鋭敏化され、高めればプロアスリート並の感覚を
得る事も出来るのだ。ま、それでもゲーム内とは言え銃弾をこんなには
躱せないんだけどね。これも補正を上げに上げ、常に鋭敏化された感覚で
回避の経験を積みまくった賜物。
「伊達に回避特化のスタイルを貫いていないぞ! 俺はぁ!」
良い気に成った俺は相棒へ叫ぶ。でも仕方ない、此処まで回避を極める
まで散々苦労したからね。鋭敏化された感覚に慣れない頃は常に床を
掃除していたもの。それがソロじゃなくてPTとかだと……。
挫けそうな心を何度奮い立たせた事か! 辛くも懐かしき思ひ出よな。
だからちょっとぐらい気持ちが高ぶってもー仕方ないないない!
さて、後はこのまま相棒の銃撃を躱し続けていれば良い。幸いあの
ハンドガンの射速なら反応出来ているしね。そんで躱し続けて体力勝負に
持っていけば此方が勝つ。だってー今の俺はー疲れしーらーず! だもんね。
仮に相棒が武器を変えようものなら、この距離だ、速攻近付いてスタンなり
何なり決めて非戦闘エリアに逃げてやる。或いはそのままノックアウトする
もよしか? むふー完璧っ。
いやぁPvPとかは相棒みたく好きじゃないけど、あれね。戦況有利でこんなに
も気分良く成れるのは、やっぱPvPならではの魅力だよねー!
撃ち抜かれる恐怖も高揚感に塗りつぶされ、気分も上がりに上がった俺。
そんな俺へ銃弾を撃ち続けていた相棒が。
「……はぁ。分かった、この方法はやめにしよう。」
溜息混じりに相棒がそう言いながら銃口を下ろす。そして。
「でも何か別の方法で状態異常の付与はしよう。」
「えぇー……。」
「何だ、撃たれる方が好みならそう言ってくれ。」
「いや! 別の方法を探しましょう!」
銃で撃つ何て方法だから良くないのだ。それ以外の方法を選べるなら
そっちの方が良いに決まってる。銃を下ろした相棒が此方に近付きながら。
「で。何か代替案はあるか?」
「んー……。ちょっと面倒だけどネームドを探す、とか?」
「───すまん、許せよ。」
「へ?」
急に謝られた思えば“パンッ!”何て音が下から聞こえて来るじゃないか。
音に釣られて下を見遣れば、相棒のハンドガンが俺の足の甲へ向けられ、
そして見事に足をぶち抜かれていた。撃ち抜かれたと言ってもこのゲームに
過度なゴア表現は無い。だから足に穴が開いてるとか血が吹き出ているとか、
そんな描写は一切無い。ただ足の甲を赤い閃光が突き抜け、俺の足先に
メラメラ炎が燃えているだけ。だけええええええええ!?
「あー! あー! あ? ああああーーーー! おおお俺のあんよがぁ!?」
メラメラと燃える足先。俺は膝を両手で抱えながら後ろへ倒れ込み。
「あつあつあつあつあづづづづづづっづづうううううううう!!!!」
「な、何!? おい!そんなに熱いのか!?」
撃った野郎が馬鹿な事を聞いて聞いてきやがった。なので俺は相棒へ。
「当たり前だろうがぁ! こんな燃えてて熱くない訳、訳、訳ー?」
「?」
持ち上げた足を眺める。足先は見事に火傷エフェクトでメラメラリと
燃えている。燃えているのだが、全然熱くないし痛くもない。うん、まあ、
ゲームだから? 取り敢えず痛みも熱さも感じない事に深く安堵した俺は
ゆっくりと立ち上がり。
「何か、痛くないし熱くないっぽい。」
「そ、そうか、それは良かった。他に何か感じる事はあるか?」
「いんや。火傷の継続ダメージがあるなーぐらいだわ。」
「成る程。ふむ、火傷はゲーム的処理のままな訳だな……。
それじゃあ次は凍結を試してみるか。」
「───その前にちょっと。」
「何だ?」
「良いから良いから。此方此方、もそっと近く近く。」
「???」
招いた相棒が直ぐ近くへ歩み寄る。うん、距離に申し分はなし。では早速。
「ぉぉぉぉおおおるらあああああああああ!」
「ッ!?」
俺は相棒の顎目掛けて拳を振り上げると同時、地面をも蹴り上げた。
まさに龍が昇るが如く。勢いのある拳が相棒の下顎を殴り抜き、天へ帰らん
ばかりに振り上がる。その後捻り一回転を挟んで綺麗に着地。野原に倒れる
相棒を見下ろしながら。
「騙し討とは卑怯なり!」
泣く程ビビらされたお返しをした。これで許そうと思っていれば、目の前に
決闘の勝敗メッセージが表示され、俺のノックアウト勝利と出ている。
どうやら俺の何でも無いアッパーがクリティカルヒット判定だったらしい。
俺は野原に倒れ伏す相棒を、何だかちょっと後ろめたい思いで見詰めつつ。
少しだけニヤけた───
最後までお読みいただきありがとうございます。物語を読んでくれた貴方様に心からの感謝と
御礼を此処に。誠にありがとうございます。




