プロローグ
2018/12/04 本編への大幅な加筆修正
───今日は素晴らしい一日で終わる。そのはずだったんだ。
細く、何処までも続いていそうな廊下。長い廊下の両側には
等間隔で扉が並び連ね、全体的に何処か近未来を思わせる装いだ。
そんな廊下を男が一人。歩いていた。
男の見た目は空色の髪に赤の瞳。フォーマルスーツの前を
開けては袖を腕まくり。スーツの下にはネクタイの無いシャツに、
ズボンと靴の方はスーツとお揃いの様子。彼の服装はこの
廊下の装いとは少々合っていないようにも感じる。
そのスーツ姿の男は等間隔に並ぶ扉の一つで立ち止まり。
扉の側に付いている端末らしき物へ、自らの片手を翳す。
片手の翳された端末が赤い点灯から緑色に変わり、同時に
扉が横へスライド。
スーツ姿の男はその開いた扉から中へと入って行く。
入った部屋の中は明るく。それは何故かと言えば、天井に吊るされた
シャンデリアから優しい光が零れ。室内を満たしているからだろう。
先程まで男が歩いていた近代的装いの廊下とは違い、部屋の中は
ずいぶんと古風で。アンティーク等と呼ばれそうな
調度品等で統一されており。静かで、落ち着いた雰囲気の演出だ。
古風な部屋の中を男は数歩進む。すると正面に。
『……。』
腰まで伸びた、艶のある黒髪を靡かせる一人の女性が立って居た。
女性は凛とした顔立ちに、白と京紫色を基調とした女袴姿。
日本に置ける華族令嬢のイメージそのままの様な女性。
黒髪の女性は男が側に近付くと、両手を腹の辺りで合わせては
美麗な一礼を魅せ。ゆっくりと姿勢を戻し。
『おかえりにゃん。』
冷たい表情で、いや。冷たいと言う感情の温度すらも感じられない程、
完全なる無の表情と抑揚の無い発音でもって。男にその言葉を発した。
女性の言葉を受けた男は。
「ただいまにゃん。」
息を吐くが如く、自然な態度と口調で女性に返事を返す。
返事を返された女性は秘色の瞳を静かに閉じ。小さな礼と共に
脇へその身を引き。男の通り道を開く。
挨拶を交わし終えた男は再び歩き出す。
部屋の中は広く、四角い一部屋。部屋の正面にはガラスの壁で
仕切られたバルコニーが見え、四角い部屋の左右の壁には。
入って来た扉とは別に四枚の扉が付いている。
廊下で見た扉同士の距離感を考えれると、この部屋の広さは
疑問を覚える作りだ。
不可思議な作りと空間の部屋。男はその部屋の
中央まで進むと歩みを止め。天井を仰ぎ。
「っぁぁぁああああああああああ!」
気が狂れてしまったらしい。男は両手で頭を抱えては
大きく叫び上げて居た。叫んだ彼は急に
走り出しては右側手前の扉を開き。
「わああああああああああああ!」
部屋の中へ自らの叫び声を届ける。一頻り叫び終えると
男は律儀にも扉を閉め、一つの隣に移動しては同じ様に
扉を開き、叫ぶ。
それが終わると今度は左の扉に走り向かい、同じ様に奇行を繰り返す。
とても正気の者とは思えない。常人であれば絶対に近寄りたくは無い、
そんな狂気を感じさせる言動だ。
やがて四枚全ての扉を開けては叫び上げると言う、
理解し難い行為を終えた男は。再び最初の部屋の中央へと戻り。
「………。」
今度は真剣な表情を浮かべ、部屋の一面を見詰める。
見詰めた先其処にあるのはガラスの壁で遮られたバルコニー。
男はその壁の前へと歩き立つ。するとガラスの壁が泡のように消え、
遮られていたバルコニーへの道が開けた。
バルコニーの向こうに広がる景色。其処には青々としたジャングル。
男は部屋からバルコニーへ出て、手すりに両手を乗せては身を乗り出し。
「っんなああああああああああああ!」
悲壮感極まった声と表情でもってして、今日一番の叫び声を
ジャングルの遥か彼方にまで轟かす。叫びに驚いたのか、
彼方のジャングルでは鳥達が飛び立つ様子が見えた。
渾身の叫びを終えた男は崩れるようにその場で膝を付き。
「なんでこんな事に……。」
力なく呟く。
「今日は良い日で終るはずだったじゃん……。
それが、何で……何で……。」
絞り出すように呟く。
そして、男は今日と言う日を思い返す───
この物語を最後までお読み頂き誠にありがとうざいます。
貴方様にとってこの物語が楽しい物であったのなら、幸いです。
読んでいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。
誠にありがとうございました。