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踏破報酬と帰還

「ここが最奥の部屋か……」


 部屋は四方が20mほどで、天井に照明代わりの結晶がちりばめられている。

 そのため、部屋の中を一望できるほど明るい。

 部屋の中央に四角い台座があり、台座の向こうには上へと続く階段があった。


 冒険者は、僕達とウィーグレン達以外にはいないようだ。

 僕達は散り散りになって、部屋の中を物色する。


 リーチェとリューネは、壁に描かれている絵を見ながら話していた。

 リュークは、部屋の四隅にあるドラゴンの像を見上げている。

 ウィーグレン達は、台座の周りに集まっているようだ。


 そんな中、僕は台座の前へと足を運ぶ。


 このいかにも重要ですって感じの台座が気になる。

 ゲームだったら、これがセーブポイントだったりするんだけど……

 転移装置のパターンもあるか。


 台座は1人用のテーブルぐらいの大きさで、真ん中には青い宝玉が埋め込まれていた。

 台座をまじまじと見ていると、ウィーグレンが近寄ってくる。


「ルシエル、その台座の宝玉に触れてみろ」


 え? 触っていいの?


「……わかった」


 僕は、恐る恐る宝玉に触れる。


 すると、宝玉がピカッと光る。

 光自体は豆電球ほどの弱々しいものだった。

 だが、静電気が走ったかのように指がパチッとする。


「うわっ!」


 び、びっくりした!

 静電気がくるとは……

 やってくれたなウィーグレン!


 僕はジト目でウィーグレンを見る。

 ウィーグレンは少し笑いながら謝罪する。


「くくっ、すまない。以前、俺もやられたからついな……」


「……しょうがないやつだな」


 しかし、ウィーグレンがからかってくるとは……

 僕とウィーグレンの距離が少し縮まった気がするな。

 でも、やられっぱなしは嫌なので、後で同じことをリュークにやってもらおう。


「それよりも台座の向こう側を見てみろ」


「ん? なんかあるね」


 ウィーグレンの指し示した場所。

 そこには銀色の箱が置かれていた。

 先ほど見渡したときには無かったものだ。


 これは……

 もしや、宝箱では?


「ね、ねえっ。これって、宝箱だよね? 僕が開けてもいいの?」


 僕はウィーグレンへと詰め寄る。


「ああ。ルシエルが宝玉に触って出てきたから、それはルシエルのものだ」


 よっしゃー! 開けるぞ!


 僕は欲望に従って宝箱を開けに行く。


「宝箱? 面白そうね」


 テンションが上がった僕を見ていたのか、リーチェが駆け寄ってきた。

 リーチェに抱かれているアステルは、相変わらず眠っている。

 リュークとリューネも気になるようで、少し離れたところでこちらを見ていた。


「うん。今から開けるよ」


 宝箱は縦20cm、横40cm、奥行き30cmほど。

 一般的なダンボールぐらいの大きさだ。

 銀色の宝箱なので、レアなものが入っているのかもしれない。


 僕はワクワクしながら宝箱を開けた。


「おおっ!」


 宝箱の中には腕輪が1つ入っていた。


「腕輪かしら?」


 リーチェも僕と同じように中を覗き込む。

 ほのかにリーチェのいい匂いが漂ってくる。


「う、うん。そうみたいだね。出してみるよ」


 僕は宝箱から腕輪を取り出す。

 すると、宝箱は空気に溶けるように消えた。

 どうやら、中のものを取ったら宝箱は自動で消滅するようだ。


「綺麗ね。竜の翼がモチーフとなっているのかしら?」


「そうだね。竜の翼っぽい」


 腕輪は銀っぽい素材でできているようだ。

 竜の翼が閉じたような形で、翼の膜の部分が少し青白くなっている。

 かなりカッコいい出来栄えだ。


 僕とリーチェが腕輪を見ていると、後ろからウィーグレンの声が聞こえてくる。


「ふむ、腕輪か。それは第1階層の踏破報酬だ」


 僕はウィーグレンへと振り向く。


「踏破報酬?」


 踏破報酬ってあれだよな。

 決められた階層を踏破するたびに貰えるやつ。

 『スカイ・アース・ファンタジア』のダンジョンでもあった仕様だ。

 この世界のダンジョンでもあるのか。


「ウィーグレン、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」


「知らないのか? 各階層の最奥の部屋にたどり着くと踏破報酬が貰えるんだ」


「各階層?! 各階層で貰えるの?」


「ああ。階層毎に1人1回しか貰えないがな」


 マジか!

 10階層毎とかではなくて、1階層毎に貰えるのか!

 1人1回ってことは、初回踏破報酬みたいな感じなのか。


「あと、第1階層はダンジョン転移の装飾品と決まっている。人によってどの装飾品かわからないが、効力はみな同じだ。その腕輪もダンジョン転移の腕輪というアイテムだ」


 ほう。

 この腕輪はダンジョン転移の腕輪というのか。

 名前からして、ダンジョンを行き来できるアイテムっぽいな。

 最初の踏破報酬だから、みんな同じものが貰えるってことか。


「第2階層からは何が出るかはわからない。魔剣が出たやつもいれば、薬草が出たやつもいる」


「そうなんだ……」


 第2階層からは中身がランダムか。

 魔剣はすごいけど、薬草はドンマイって感じがするな……

 1人1回でランダムだと、人によって差が出るのもしょうがないけどね。

 オンラインゲームだとかなり荒れそうだ。


「私も出してみるわ」


 リーチェはそう言って台座へと向かう。

 その後をリュークとリューネもついて行った。

 僕はその他で気になっていたことをウィーグレンに聞いてみる。


「ウィーグレン、ダンジョン転移の装飾品ってどんな効果なのかな?」


 ウィーグレンは呆れた表情で僕を見る。


「……ダンジョンの各階層やダンジョン外へと転移できる重要な装飾品だ」


「まじか! かなり重要なアイテムじゃないか!」


 このダンジョン優良過ぎるだろ!

 僕の中でのダンジョンの株が上がりっぱなしだ。

 ただ、こんなに冒険者を優遇してて大丈夫なのかと不安にもなる。


「基本的にダンジョンに挑戦する冒険者はみな着けているぞ。俺のときは耳飾りだった。……これだ」


 ウィーグレンは自身の耳に着けたピアスを指さした。

 ピアスも竜をモチーフにしているようで、竜の片翼の形をしていた。

 ダンジョン転移のシリーズは、竜を翼で統一されているのかもしれないな。


「まあ使い方に関しては後で教えてやろう。お前らも今日の探索は終わりだろう?」


「そうだね。第1階層も踏破できたし、今日はもう帰るよ」


 ウィーグレンは腰のポーチの中から、懐中時計のようなものを取り出した。


「それは?」


「これはダンジョン内で昼夜を確認する魔道具だ」


 ウィーグレンが懐中時計っぽい魔道具を僕に見せてくれる。

 その魔道具は、時計から目盛りを取っ払って簡略化したような感じだった。


 円形の台の中心で、針が1本だけ回転するようになっている。

 円形の台は、上半分が昼を表す白で、下半分が夜を表す黒で塗られていた。

 時計で例えると0時の部分に太陽、6時の部分に月が彫られている。


 針は現在、夜を表す黒い部分に入ったところを指し示していた。


「そんなのがあるのか……見た感じだと、今は夕方から夜になったところかな?」


「ああ。そんなところだな。ダンジョンに長時間入るなら、この魔道具を用意しておいた方がいいぞ。時間の感覚が狂うからな」


「確かに……用意しておくことにするよ」


「ああ。……ところで、色々と話したいことがあるんだが、明日時間は取れるか?」


 ウィーグレンが伏し目がちにそんなことを言ってくる。


「話? 僕と? 今じゃダメなの?」


 僕がそう言うと、ウィーグレンは苦い顔をしてリュークとリューネをチラッと見る。


「ああ、なるほど……」


 リュークとリューネについての話かな?

 だったらこっちとしても願ったり叶ったりだ。


「いいよ。僕だけでいいんだよね?」


「ああ! 待ち合わせ場所は冒険者ギルドの喫茶店で、時間は明日の午後ちょうどでどうだ?」


「問題ないよ」


 僕が承諾すると、ウィーグレンは安堵(あんど)の表情を浮かべる。


「助かる……」


 そうして僕とウィーグレンの約束を取り付けた後、僕達の前に宝箱が出現した。

 僕のときの同じで銀色の宝箱だ。


「私のも出たようね」


 リーチェが僕達のもとへやってきた。

 どうやらリーチェが台座の宝玉に触れたようだ。

 僕の横に来たリーチェはぼそっとつぶやく。


「……静電気がくるなら教えて欲しかったわ」


 あっ、忘れてた。

 リュークにやってもらおうと思ってたのに……


「ご、ごめん! リュークをびっくりさせようと思って黙ってました!」


 そんな僕の声が聞こえていたのか、台座の方からリュークの声が聞こえてくる。


「えっ……ひ、ひどいですよリーダー!」


「やべっ、聞こえてたか」


 リーチェはリュークを見てクスリと笑う。


「ふふ。それなら先にリュークにやってもらえばよかったわね……」


「リーチェさんも勘弁してくださいよ……」


 そんなこんなで、僕達は第1階層の踏破報酬であるダンジョン転移の装飾品をゲットした。

 僕が腕輪、リーチェが指輪、リュークが耳飾り、リューネが首飾りというようになった。

 やはり、それぞれ竜の翼がモチーフとなっているようだった。

 このダンジョンと何か関係があるのかもしれないな……


▽▽▽


 僕達はウィーグレン達ともに第2階層に上がってすぐの広間にいた。

 広間の床には大きな魔法陣が描かれている。

 魔法陣は10人程度なら問題なく入れるくらいの大きさだ。


 ウィーグレンは、魔法陣の上に立って僕達の方を見る。


「ここが第2階層の転移部屋で、各階層こんな感じになっている。安全地帯だから休んだり、露店を出している冒険者がいることもある」


「ここから転移できるんだね」


「ああ。やり方は簡単だ。ダンジョン転移の装飾品を身に着けた状態で魔法陣の上に立ち、転移したい場所を言う。これだけでいい」


「わかった。ありがとう」


 僕がお礼を言うと、ウィーグレンはそっぽを向く。


「気にするな。今日の借りはこの程度では返せるものではない。……俺達は先に行くぞ」


「わかった。じゃあまたね」


「ああ。……ダンジョンの外へ」


 ウィーグレンはそう言って、この場から姿を消した。

 ウィーグレンの奴隷達も次々と消えていく。

 やがて、転移部屋に残ったのは僕達のパーティだけとなった。


「僕達もここから出ようか」


「ええ。みんな装飾品を着けてるわよ」


「わかった。じゃあ僕から行くね。ダンジョンの外へ!」


 そう言った瞬間、僕の視界は真っ白になった。


▽▽▽


 視界が晴れると、辺りは真っ暗で松明(たいまつ)の炎が周囲を照らしていた。

 目の前には、ダンジョンの塔が立っている。

 地面には、転移の部屋と同様の魔法陣が描かれていた。


 どうやらダンジョンの外へと出られたようだ。

 僕がいるところは、入り口の反対側なのかもしれない。


 そう思っていると、リーチェ達が現れた。


「ダンジョンの外に出られたようね」


「そうだね。たぶん、入り口の反対側だと思う」


 リュークはテンションが高くなっているが、リューネは少しテンションが低い。


「転移ってすごいですね! 一瞬でここまで飛んでこれるなんて!」


「私はちょっと怖かったです……私だけ違うところに飛んだりしないか不安です……」


 わかるよリューネ。

 いしのなかにいる。

 ってなったら怖いもんね。

 トラップには気を付けよう……


 僕がうんうんと頷いていると、空を見上げていたリーチェが口を開く。


「そろそろ帰りましょうか。お母様も待っていると思うわ」


「そうだね。ウィーグレンも帰ったみたいだし、僕達も帰ろう」


 僕の声にみんなが頷く。

 そうして、僕達はダンジョンを後にした。


 僕達は今日の出来事について話しながら、魔導船へと帰宅する。

 ゴブリン達との戦闘、ウィーグレンとの出会い、不穏なゴブリンの群れ、最奥の部屋、踏破報酬……

 色々なことがあったけど、第1階層を無事踏破することができてよかった。


 こうして、長いダンジョン攻略が終わったのであった。


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