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振り返りと対策

 辺りが真っ暗になり始めた頃、僕達は魔導船へと帰還した。

 その後、夕飯を食べてから僕の部屋に集まる。

 僕とリーチェはベットに腰かけて、リュークとリューネは椅子に座っている。


「じゃあ、今日の振り返りをしようか」


 みんながこちらを向いたのを確認して、机の上にジャイアントラットの魔石を並べる。


「まず、ジャイアントラットについてだけど、特に危なげもなく戦えていたね。敵の援軍がきても囮役が引き付けられていたし、先に倒した人も素早く援護できていたと思う。1、2、3……今回だけで24体討伐できたみたいだね」


 その魔石を見たリュークとリューネは、心なしか嬉しそうだ。


「2人とも嬉しそうだね?」


 僕がそう言うと、2人ともニコッとして頷く。


「はい。こんなに倒せるなんて思ってもみませんでした」


「じ、実は、前回は2体しか倒せなかったんです……」


 リュークは満面の笑みで、リューネは照れながらそう言う。

 そんな2人を見ていたリーチェは優しく微笑む。


「ふふっ。喜ぶのはいいけれど、もっと頑張ってもらうわよ? まだ始まったばかりだもの」


「「はい!」」


 一区切りついたのようなので話を戻そう。


「ジャイアントラットは問題なかったけど、あのゴブリン達が曲者だね……」


 ゴブリンの話になると、みんなは真剣な表情になって頷く。


「このパーティについて私が感じたことを言ってもいいかしら?」


「いいよ」


「まず、敵が1体や2体なら問題ないのだけれど、3体以上になると対応するのが遅くなっているわ。今回遭遇した敵も3体以上で出ることが多かったから、少しは気にした方がいいかもしれないわ」


 リーチェのその指摘に僕達は頷く。


 確かに……

 3体目を僕が引き付けている間は大丈夫だけど、もう1、2体と増えてきたら、手が回らなくなってくるだろう。

 僕が積極的に攻撃するとか、リュークとリューネが敵を速く倒すとかっていう話でもない気がするな。

 周囲への警戒にもおろそかにできないし、もう1人ぐらい手が欲しいところだね。


「そうだね。そこは気にした方がいいと思う。可能ならもう1人ぐらい仲間を増やしたいね……」


「援護に入るときに悩んでしまうこともあったので、もう1人ぐらいいると気が楽になりそうですね。自分もそう思うんですが……」


 リュークの表情が暗くなる。

 リューネも少しばかり不安そうだ。


 あっ、そういうことか……

 リューク達はダンジョン街での評判があまり良くない。

 僕がパーティに誘う前も、入れてくれるパーティがないって言ってたもんな。

 他のメンバーが入ったことで、雰囲気が悪くなることを心配してるのかもしれない。


「大丈夫だよ。もし他の人をパーティに入れるとしても、君達と上手くやっていける人しか選ばないよ。……それに君達が悪いわけじゃない。僕達と同じようにそう思ってくれる人もいるはずだよ」


 僕の後にリーチェも続く。


「そうね。……あと、今のあなた達は私達の使用人よ? あなた達を認めてくれた人のためにも胸を張ってなさい」


 リュークとリューネは力強く頷く。


「……僕達、もっと強くなります!」


「皆さんのためにも、きっと役に立って見せます……」


 2人は真剣な顔つきで、僕達を真っすぐと見る。

 でも、それはどこか危なげな感じにも見えた。


「無理しないようにね。僕達はパーティなんだから持ちつ持たれつだよ。パーティメンバーについては冒険者ギルドに行ったときにマリーダさんに聞いておくよ」


 僕は2人が背負い込まないように釘を刺しておく。


「リーチェ、他に何か感じたことはあるかな?」


「ええ、あともう1点だけあるわ。遠距離攻撃を防ぎきれないことが問題ね」


 ごもっともだ。

 ゴブリン達が不意打ちに対して、僕達は対抗手段がなかった。

 今思いかえしても、あそこで盾を出せたのはよくやったと思う。


「そ、そうですね。あそこでルシエル君が指示を出してくれていなかったら、私達は無事では済まなかったと思います。ル、ルシエル君! 改めて、ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 リューネに続いてリュークもお礼を言った。


 なんだか、ちょっと照れるな。

 別に気にしなくてもいいのに……


「2人が無事でよかったよ。でも遠距離攻撃か……どうやって防いだらいいんだろ?」


 聖騎士のカイトシールドは重すぎて、今の僕には扱いきれない。

 もし、盾を使うなら新しいのを買ったほうがいいな。

 正直、ダンジョンの1階層でこんなに苦戦することになるなんて、思ってもみなかったよ。


 理想を言えば、誰かが盾役になって引き付けている間に他のメンバーで倒す。

 これがいいと思うんだけど、盾を使える人がいないしなぁ……

 いっそのこと、リュークかリューネのどちらかに盾を持ってもらおうか。


「前衛であるリュークかリューネのどちらか……いえ、両方が盾を持つというのもいいかもしれないわね」


 僕の思考が通じたのか、リーチェがそういう意見を出す。


「なら自分が……」


「私がやります!」


 リュークの声を遮るかのようにリューネが大きな声を出す。


「もう守られるだけじゃだめなんです! ……みんなが傷付いていくのを見ているのはつらいんです」


「リューネ……でも!」


 バタンッ!


 またもや、リュークの声を遮るかのように廊下の方からドアが開く音が鳴る。


「その心意気やよし! 盾の使い方なら俺が教えよう!」


「アレスおじさん!? どうしたの?」


 どうやら、リュークの声をかき消したのは、アレスおじさんだったようだ。

 リュークは少ししょんぼりしている。


 2度も遮られたリュークが不憫だ……


「廊下を歩いてたら急に大きな声が聞こえたから、何事かと思ってきて走ってきたんだ」


 廊下まで聞こえてきたと言われて、リューネは恥ずかしそうに下を向く。

 そこでリュークが口を開いた。


「でも、盾役なら自分でもいいと思うんです。さすがに妹にやらせるのは気が引けます……」


 確かにね。

 女の子に盾役を任せるのは、申し訳ない気持ちになる。

 僕もそれに賛成しようとすると、先にリーチェが意見を言った。


「リューネの方がいいんじゃないかしら? ちょうどおじさまに教わっているところだし、槍と盾を使うリューネの方が習得速度も速い気がするわ。……それに、いざという時にリューネ自身で身を守ることができるようになるわよ?」


 なるほど。

 そう言われてみると、リューネの方が良さそうな気がする。

 特に自分の身を守れるようになるというのは大きいな。

 リュークも悩んでいるようだ。


「……わかりました。それなら自分はリューネの負担が少なくなるよう、早く敵を倒せるように剣の腕を磨きます!」


 そこで、アレスおじさんが口を開く。


「そういえば、リュークとリューネのジョブはなんなんだ? ジョブを意識した立ち回りの方がいい気もするぞ」


 あっ……

 言われてから気付いたけど、共有していないや。

 うっかりしていた。


「自分のジョブは、ファイターです。今日の戦闘でレベル4から8になりました」


「わ、私もファイターです。私はレベル2から6になりました」


 どうやらリュークとリューネはどちらも同じファイターのようだ。

 レベルは1桁ということは、まだ最初のスキルを持っていないということになる。


 いい動きしていると思ってたけど、スキル無しの素の状態だったのか。

 竜人だということもあるかもしれないが、潜在能力がかなり高いのではないだろうか?


「おお! 2人ともまだレベル10になっていなかったのか! それはいいことだな!」


 アレスおじさんは盛り上がっているが、リュークとリューネは首をかしげている。

 それを感じ取ったアレスおじさんは補足する。


「レベル10になったらスキルを得られるだろ? ファイターなら、最初に獲得できるスキルは武器を扱うスキルとなるんだが、何の武器のスキルにするかは、ある程度狙うことができるんだ。……もし、剣じゃなくて細剣や大剣、双剣なんかを使いたいなら、武器を変えることをお勧めするぞ」


 そんな仕様があったのか……

 知らなかった。

 まあ、僕の場合はテイム一択だっただろうけどね。

 でも、細剣や大剣なんかもいいかもしれないな。


「本当ですか?! ……武器についてはちゃんと考えてみます」


「そうしたほうがいいぞ。これから一生お世話になるスキルになるからな……なんなら、バロンにも相談してみるといい。きっと力になってくれるはずだ」


「はい!」


 リュークは武器を変えそうだが、リューネはどうするんだろう?

 リューネの方を見てみると、目が合った。

 リューネは僕を見て、にこりと笑う。


「私はさっき言った通りで変わりません。守られるだけでなく、守ることができるようになりたいですから……」


「わかった。……じゃあ、次は僕のジョブとレベルについてだね。僕のジョブはドラゴンテイマーでレベルは28だよ」


 僕がそう言うと、リュークとリューネは目を見開いた。


「ド、ドラゴンテイマー……? それよりもレベル28なんですか……?! ど、どうやったらそこまで上がるんですか?」


「す、すごいです……! 私と同い年なのに……」


 ウロボロスとの闘いでレベルが上がったとは言えないので、アレスおじさんやバロン、リーチェ達と地獄の修行したということで誤魔化す。

 リュークとリューネは知らないけど、僕達はティーガーと戦ったことがあるんだよ……

 もっと2人と打ち解けてから話すことにしよう。


「そろそろ話を戻すけど、今回の探索で何か感じた人はいるかな?」


「私からはもう特にないわ」


「自分も気になることは言いました」


「わ、私もです」


「じゃあ、振り返りはここまでにしようか。明日また頑張ろう!」


 そうして、今回の振り返りはこれで終わった。

 今日はゆっくり休んで、明日もダンジョンに挑戦だ!

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