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仲間と同棲

「「すごい……」」


 リュークとリューネは、感嘆の声を漏らした。

 魔導船を見たことがないのか、2人は魔導船を見あげたまま立ち尽くしている。


「2人は魔導船を見たことないんだっけ?」


 僕はリュークとリューネに尋ねる。


「い、いえ。遠目で何度かは見たことあるのですが、こんなに近くで見たことはありませんでした」


「こ、こんなに大きかったんですね……」


「ははっ。外見だけじゃなくて中も結構すごいんだよ。さあ、入ろうか」


 新しい仲間の2人を引き連れて、僕達は魔導船へ帰還を果たした。


▽▽▽


「ただいま!」


「ただいま帰りました」


 僕とリーチェの声が、食堂に響く。

 駄弁っていたアレスおじさんと母様は、こちらに振り向いた。


「おう。帰ったか!」


「おかえりなさい。……あら? そちらの2人は?」


 アレスおじさんと母様の視線が、リュークとリューネへと向けられる。

 その視線を受けた2人は、たじろぐも前に出てきた。


「じ、自分はリューク・サウスレクスです」


「……リュ、リューネ・サウスレクスです」


 2人がそう言った後、僕が補足する。


「2人は僕のパーティに入ってくれたんだよ」


 そのことを聞いたアレスおじさんは驚愕した。


「嘘だろ……俺のときはメンバーを1人加えるのに1ヶ月もかかったんだぞ。しかも、2人とは……」


「2人ともサウスレクスということは……」


 母様がそうつぶやくと、リュークとリューネは肩を震わせる。


「兄妹なのかしら? 年齢も近そうだし双子だったりする?」


 そう聞かれた2人は、少しほっとした表情になった。


 ……僕達を襲ったティーガーの血族ってことも、先に話しておいた方がいいかもしれない。

 アレスおじさんと母様なら気にしないと思うしね。

 そのほうが、リュークとリューネの気も楽になるはずだ。


 僕がそう思案していると、リュークが口を開いた。


「はい。自分が兄でリューネが妹になります。年齢は、自分が12歳でリューネがつい先日10歳になりました」


 同い年ぐらいかと思ってたけど、リュークは年上だったのか……

 リューネは僕と同い年なんだな。


「あら、リューネちゃんはルシエルちゃんと同い年なのね」


「えっ……?!」


 そう言われたリュークは、驚いた顔でこちらを見てきた。

 リューネはそんな兄をポカンと見ている。


「ん? どうかした?」


 僕がそう聞くと、リュークが驚いた表情で訳を説明した。


「い、いえ……摸擬戦でキースさんを圧倒していたので、てっきり年上かと思っていました」


「ん? 摸擬戦? ルシエル、詳しいことを教えてもらおうか」


 アレスおじさんが、僕の肩をがっしりと掴んでじっと見てくる。

 母様も心配そうに僕を見ていた。


「わ、わかった」


 そうして、僕は今日の出来事を報告していったのだった。


▽▽▽


「よく2人だけで頑張ったな……」


 アレスおじさんがリュークとリューネの頭を撫でた。


「2人だけでつらかったでしょう……」


 その後、母様が2人を優しく抱きしめた。

 抱きしめたリュークとリューネは、安心したのか涙を流して下を向いていた。


「泊まる宿がないなら、ここで寝泊まりしていいのよ? 空き部屋もまだあることだし」


「で、でも……」


「遠慮しなくてもいいんだ。これからルシエルのパーティメンバーになってくれるんだろ? もし気に病むというのなら、その分だけルシエルを支えてやってほしい……」


「「……はい!」」


 ……結局、僕はリュークとリューネのことも全て話した。

 アレスおじさんと母様は、少し驚いていたがそれだけだった。

 むしろ2人のことを親身になって考えてくれ、途中で2人と詳しく話すこともあった。


「話してよかったわね」


「うん。これで2人も気を張らずに接してくれるはずだよ」


 僕とリーチェはその光景を見ながら、こっそりと話し合う。

 その時、背後から声が聞こえてきた。


「そのようですね。ところで、夕飯ができたのですがどうしましょうか……?」


「うわっ……!」


 後ろを振り返ると、微笑んでいるバロンが立っていた。


「バ、バロン、脅かさないでよ!」


 僕の驚いた声のせいで、皆の視線が僕に集まる。


「あっ……えーと。夕食できたみたいだからそろそろ食べない?」


 その時、僕の横からぐうっと空腹を知らせる音が鳴った。

 音のした方を見ると、アステルがぱっちりとした目でこちらを見ていた。


「もう、ルシエルちゃんったら、お腹の音がここまで聞こえたわよ?」


「えっ?」


「そうだぞ。そんなにお腹が空いてるなら、もう夕食にするか! 2人もお腹が空いているだろう」


「ええっ?!」


 僕じゃないよ!

 アステルのお腹が鳴ったんだよ!


「違うって、今のは僕じゃ……」


 僕が抗議しようとすると、リーチェがそれを止める。

 そして、こうつぶやいた。


「ここはパーティリーダーとしての場の盛り上げ方を試されているのではないかしら……?」


 ……なるほどね。

 言われてみれば、アレスおじさんも母様もそんな目で見てるような気がする……

 ここは場の空気に乗って、リュークとリューネの緊張をほぐせということだね?


 僕はリーチェに頷く。


「いやあ、実は今日ずっとお腹空いてたんだ! グラスリザードの串焼きの一口しか食べられなかったし、お菓子をつまんで空腹を我慢してたんだよ……」


 そう言って、僕はインベントリから、お菓子の入っていた箱を取り出す。

 これは、ドラグヘイムに着く前の頃、僕の部屋の机の上に置かれていたので、貰っておいたお菓子だ。


「「あっ」」


 その箱を見て、母様とバロンが声をこぼした。


 ん? どうしたんだろう……


 僕がそう怪訝そうにしていると、横からひんやりとした空気が漂ってきた。


「それ、お母様とバロンに作ってもらった私のお菓子なんだけど?」


「えっ?」


「まさかとは思うけど、全部食べていたりしないわよね?」


 リーチェは、にっこりとした顔で僕の持つ箱を持ち上げる。

 お菓子の箱は、まるで中身が無いかのように軽やかに持ち上がった。


 その瞬間、僕は逃亡を図る。


 こんなときは、逃げるんだよぉぉぉ!


 リュークとリューネの2人を抜くことができた。

 しかし、最後の砦である母様に抱き止められてしまう。


「逃げちゃだめよ? ルシエルちゃん、さすがに今回はちゃんと謝りましょうね?」


 カツ……カツ……


「お菓子は美味しかったかしら?」


 背後からリーチェの声とゆっくりとした足音が聞こえてくる。


 ああ……あああ……


「……サ、サクッとしたクッキーの生地と爽やかで甘酸っぱいイエローベリーのジャムが……た、大変美味しゅうございました。……わー! ごめんなさい!!」


 僕は震えた声でそう謝るも、リーチェは僕の腕を掴んで引きずる。

 これは、甲板へ連れていかれる流れだ……


「あっ、えっ?」


 そして、なぜかリュークも引きずられていた。

 僕もリュークも、何がなんだかわかっていない。


「な、なんでリュークも……?」


 僕がリーチェに問いかけると、リーチェはにこりと微笑んでこう言った。


「連帯責任って言葉を知ってるかしら?」


「……ごめん。リューク、僕と一緒にボコボコにされてくれ」


「ええっ!」


 リュークはまだ混乱しているようだったが、しぶしぶと頷いてくれた。


 そして、数十分の後には、ボロボロになった僕とリュークが甲板に転がっていた。

 心配してずっと見てくれていたリューネに介抱されながら、僕とリュークは笑う。


「最後、惜しかったね……あそこで僕が転ばなかったら、一撃与えられてたかもしれなかったのに」


「ははは、氷の床なんてずるいですよ……自分も何度も転びましたし……」


「最後は惜しかったですね……あっ、お水です」


「ありがとう、リューネちゃん」


「ありがとう」


 僕とリュークは、リューネから受け取った水を飲みながら、さっきの特訓でのことを話し合う。

 リューネも外から見ていて思ったことを話してくれる。

 その話し合いは、次第にワイワイと盛り上がっていき、バロンが呼びに来るまで続いた。


 リーチェにはボロボロにされたけど、そのおかげで僕達3人の距離は一気に縮まったように感じられたのだった。


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