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新たな仲間

 僕の目の前で、唇を噛みしめてうつむいている男の子。

 身長は僕と同じぐらいで、年齢もそう変わらないと思う。

 彼は、リューク・サウスレクスという名前で、僕達の魔導船へと襲撃してきたティーガーの血族らしい。


 リュークは、ティーガーのなんなんだろう……?


 僕だけでなく、バロンやリーチェも少し驚いているようだった。

 バロンにいたっては、察知眼を発動させて警戒している。

 まあ、ティーガーとの戦いは苦しいものだったし仕方ないね……


 僕達が黙っていると、リュークは不意に顔をあげた。


「お願いします! 自分にできることなら何でもやりますからパーティを組んでください! 僕達にはもう後がないんです! せめて妹だけでも……! どうか……!」


 そう言って、リュークは平伏した。

 その姿を見て、キースはたじろいでしまうが、首を横に振る。


「君達の噂は聞いている。……気の毒だとは思うが、僕は君の力になることはできない。……君も私の力にはなることはできないだろう? 頭を上げてくれ」


 キースが頭をあげることを促しても、リュークは地面に頭をつけたままだ。

 しばらくその様子を見ていたキースは溜息をつく。


「……君達がティーガーの血族ということは、一旦置いておこう。 それを除いたとしても、君達はまともに戦えないだろう? ……君達に合わせるために低階層に行き、君達を守りながら、君達が戦えるようになるまで面倒を見る。……君はそういうことを強要しているんだ」


 キースに諭すようにそう言われ、リュークは肩を震わせる。


「ご、ごめんなさい……そんなつもりはなかったんです……」


 涙声でそう謝るリュークを見て、僕達は何とも言えない感じになる。


 なんだこれ? こんなの見てられないよ。

 僕も人のことを言えないけど、リュークはまだ子供じゃないか……

 見てるこっちがつらくなってくる。


「かまわないさ。君はただ必死なだけで、悪気はないとわかっている。だが、他のパーティに行くなら気を付けた方がいい。……さあ、もう頭を上げてくれ」


 キースにそう促され、リュークは顔をあげた。

 その顔は、涙でぐしゃぐしゃになった顔だった。


 もう見てられないよ……!


「ねえ。……君のことを教えてくれないかな? 僕は……君の力になってあげたいと思っている」


 みんなの視線が僕に集まるのを感じた。

 キースは僕に何か言いたそうにしていたが、口を閉ざしたままでいてくれた。

 リュークは、信じられないというような顔でこちらを見た。


「ほ、本当ですか……?!」


「うん。でも、僕達は君のことを何もしらない。だから、教えてほしいんだ。君のことを……」


 僕がそう言うと、リュークはゆっくりと頷いた。


「自分は……」


 リュークは僕達に教えてくれた。

 ティーガーのことと自分と妹のことを……


▽▽▽


 ティーガーの家には、多大の借金があった。

 この借金は、ティーガーの両親がいつの間にか作っていたものだ。

 ティーガーが気付いた頃には、両親は姿をくらましていた。


 ここから、ティーガーは親戚の家へと引き取られることとなる。

 そこで引き取った親戚というのが、リュークの両親だ。

 リュークとリュークの妹は、ティーガーを兄のように慕った。

 また、ティーガーも2人のことを兄弟のように接していた。


 やがて、ティーガーは冒険者となり、ダンジョンの攻略に勤しむことになる。

 膨らんだ借金の返済と引き取ってくれた親戚に恩を返すためだ。


 ……だが、そんなティーガーの日々は長くは続かなかった。

 ティーガーは、奴隷として売られたのだ。

 リュークの両親に……


 この頃のティーガーは、冒険者として名が知れてきていたので、奴隷の剣闘士として高値で売却された。

 ティーガーは、絶望し、嘆き、恨んだ。

 実の家族だけでなく、心を許していた新しい家族にさえも裏切られたのだから……


 それから数年間、ティーガーは恨みに身を任せて敵を殺し続け、奴隷の剣闘王と言われるようになる。

 そこで、ウロボロスがティーガーのもとに現れた。

 ウロボロスの仲間に入れるなら、奴隷から解放して復讐させてやる。

 そう言われたティーガーは、ウロボロスに加わり、自らの一族を皆殺しにしたのだった。


「……というのが、ティーガーの生い立ちです。自分と妹はそのことを教えられて、見逃されました」


 リュークはそう言って僕を見た。


「その後、家の物は差し押さえられ、住む場所もなくなった自分達は、生きるために冒険者となったのです。犯罪者の血族を雇ってくれるところはありませんでしたし……」


「そうだったんだね……」


 僕が思っていた以上に重い境遇だった。

 そこで、キースが口を開く。


「それで、君達は子供2人だけでダンジョンに入って、壊滅しかけたんだね……」


「はい。……今まで戦ったことがない自分達がどうにかできるほど、ダンジョンは甘くありませんでした」


 そこで、リーチェも会話に入ってくる。


「もう後がないと言ってたけど、それはどういうことなのかしら?」


「冒険者登録の料金、壊滅時の治療費、ティーガーが暴れたことによる損害賠償……それらの借金の支払い期限が近いのです。もし払えないと自分達は奴隷に落とされてしまいます」


 オーケー。

 その話を聞いて、なおさら放っておけなくなった。


「なるほどね。それで、その借金はいくらなの?」


「……53万ゴールドです。一応、温情によって利子が発生することはないのですが、毎月1万ゴールド払えなかった場合は、奴隷落ちしてしまうのです」


 53万ゴールド!?

 日本円にすると530万円。

 それは……とてつもないな……

 でも利子無しで、1月10万円返済なのは幸いだ。


「あの。こんな自分ですが、本当に力を貸してもらえるのでしょうか……?」


 リュークは僕達の顔色をうかがうようにそう言った。


「うん。僕達も1層目から攻略することになるからね。……でも、その分ちゃんと強くなってもらうよ? あっ、妹が一緒でも大丈夫だよ」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 半分は同情、半分は僕のため。

 ちょうどパーティメンバーが欲しかったところだし、こうやって恩義を感じてくれるなら、一生懸命頑張ってくれるだろう。


「……やはりこうなりましたか。坊ちゃんなら、パーティに迎えるだろうと思っていましたよ」


 バロンが近付いてきて、小声でそう言ってきた。


「だって……ねえ?」


 さすがに無視できなかった。


「まあ、いいんじゃないかしら? あなた育てるの好きでしょう?」


 リーチェも同様に小声で話す。


「確かにね……リュークには、僕と一緒に育っていってもらおう」


 地獄の訓練のお供ができたね。

 あの訓練なら、リュークも強くなれるはずだよ……


「さてと、話もついたようだし、私はもう行くよ。……君の判断に対して、何も言わないよ。お互いにダンジョン攻略を頑張ろう」


 キースが手を差し出す。

 僕はその手を握り返して握手をする。


「はい! キースさん、お互いに頑張りましょう!」


「砕けた話し方で、名前もキースでいいよ。あ、そう言えば君の名前を聞いていなかったね? 教えてもらってもいいかい?」


 そう言えば、まだ自己紹介してなかった。


「わかりました。僕の名前はルシエル。ルシエル・クリステーレです」


「クリステーレ……? どこかで聞いたような気が……まあ、今はいいか。ルシエル君だね。ありがとう! じゃあ、また会おう」


「はい。また会いましょう」


 そうして、キースは去っていく。

 ここに残ったのは、僕、リーチェ、バロンと新しい仲間のリュークだ。


「じゃあ、改めて自己紹介しようか……と思ったけど、妹さんがいるときのほうがいいかな?」


「あっ。今すぐ連れてくるので、少し待っていてくださいね……!」


 リュークは走って、冒険者ギルドの方へと走っていった。

 リュークの妹か……どんな子なんだろう?


 僕は期待に胸を膨らませながら、リュークが戻ってくるのを待つのだった。

 なお、こんなことがあっても、アステルはリーチェの腕の中でずっと寝ているのであった……


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